Medical Microbiology

Medical Microbiology · 3/37

ウイルス性疾患診断における血清反応

Serological reactions in the diagnosis of viral diseases

🧠 ウイルス血清診断の全手法は、「何を未知数として解くか」で2系統に分かれる。 一方は既知量のウイルスを使って患者血清中の抗体を未知数として解く系統(HAI・・ELISA・)、もう一方はウイルスそのものの増殖・感染性を可視化する系統(HA・中和試験)である。この軸に、IgM(急性)vs IgG(既往)という時間軸と、での4倍上昇という確定基準を重ねれば、血清診断のロジックは1枚の地図に収まる。

抗体検出の基本原則

ウイルスに対して産生された抗体を検出する(viral serology)。

  • IgM——現在進行中の感染を示唆する

  • IgG——過去の感染・獲得免疫を示唆する

  • :急性期・の2検体でを比較し、4倍以上の上昇があれば現在の感染を確定的に示す。評価の原則の詳細は5/36を参照

血球凝集反応と血球凝集抑制反応

検査 原理 判定
HA(反応, hemagglutination) ウイルス(または細菌)の定量法。ウイルス表面タンパクが赤血球を凝集させる性質を利用する(例:がRBC表面の受容体に結合) ウイルス+RBC=凝集 → 力価を決定。表面タンパクに結合しないRBCは底に沈む
HAI(抑制反応, hemagglutination inhibition) 患者血清中の抗ウイルス抗体がウイルスのRBCへの結合を妨げる(中和する)性質を利用する ウイルス+抗体→抗体で覆われたウイルス+RBC=凝集が抑制される → 力価を決定し、患者血清中に抗ウイルス抗体が存在することを示す

💡 HAとHAIは「何が既知で何が未知か」が逆転している。 HAは既知量の抗原(ウイルス)を使ってウイルス自体の量を測る検査であり、抗体は登場しない。HAIは既知量のウイルスに患者血清を加え、RBC凝集が妨げられるかどうかで血清中の抗体量を測る——同じ「RBC凝集」という現象を、ウイルスの定量(HA)と抗体のという正反対の目的に使い分ける。

ウイルス中和試験

  • 多くのウイルスは細胞を破壊する()性質を持ち、これを可視化することで診断に用いる

  • 96ウェルプレートに細胞を培養し、一部はウイルス+患者血清、一部は対照として感染させる

  • 培養後に染色を行う——生存している細胞のみが染色される

    → 患者血清にが存在すれば、ウイルスによるが防がれ染色が保たれる。がなければ細胞は破壊され染色されない

補体結合試験

患者血清中の特異抗体の有無を判定する検査。抗原と補体を、抗体を含む患者血清に加える。

  • Ag-Ab結合が起こる場合(抗体陽性):抗原抗体複合体が補体を消費・結合する(補体結合, complement fixation)→ 指標系(RBCと抗RBC抗体)を加えても遊離補体が残っていないため溶血が起こらない陽性

  • Ag-Ab結合が起こらない場合(抗体陰性):補体は遊離のまま残る → 指標系を加えると遊離補体が溶血を引き起こす → 陰性

ELISA

HIV肝炎ウイルスの診断など(特に競合ELISA)で重要な検査法。

方式 手順 発色と抗体量の関係
競合ELISA(competitive ELISA) 抗原コート済みウェルに患者血清を加え抗原抗体結合を起こす。その後、抗体を加え、患者血清中の抗体と結合部位を競合させる 発色は患者血清中の抗体量に反比例する(患者抗体が多いほど抗体が結合できず発色が弱い)
間接ELISA(indirect ELISA) 抗原コート済みウェルに(患者血清)を結合させ、続いて二次抗体に結合させる 発色は患者血清中の抗体量に比例する

ウェスタンブロット

  • 例えばHIV感染のに用いられる——初期のELISA検査は偽陰性になりうるため(感染後早期に検査するとがまだ検出域に達していない)。詳細は3/325/27を参照

  • 検体中の(ウイルス蛋白)をバンドパターンとして検出する

flowchart TD
  A["ウイルス血清診断"] --> B["ウイルス自体を検出<br>HA・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Virus neutralization'>ウイルス中和試験</span>"]
  A --> C["抗体を検出<br>HAI・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Complement fixation test, CFT'>補体結合試験</span>・ELISA・Western blot"]
  C --> D{"IgM or IgG?"}
  D -->|"IgM"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary infection'>一次感染</span>(急性)"]
  D -->|"IgG"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='past infection'>既往感染</span>"]
  C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paired sera'>ペア血清</span>で4倍上昇<br>→現在の感染を確定"]

まとめ

  • ウイルス血清診断はIgM(急性感染)・IgG()の鑑別と、での4倍以上の上昇が基本原則になる。

  • HAはウイルス自体の定量(表面タンパクによるRBC凝集)、HAIは患者血清中の抗ウイルス抗体による凝集抑制を利用した抗体の定量——同じ現象を逆向きに使う。

  • 染色で可視化し、の有無を判定する。

  • は抗原抗体複合体による補体消費(陽性=溶血なし)を利用し、ELISAは(発色と抗体量が反比例)と間接法(発色と抗体量が比例)に分かれる。

  • はHIV感染のなど、ELISAの偽陰性を補う検出法として用いられる。