生化学

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アミノ酸の構造的・化学的性質;pH・温度依存的性質

Structural and chemical characteristics of amino acids; pH- and temperature-dependent properties — S I

🧠 アミノ酸は「複数のの集まり」として、pKₐと電荷で読む。 各(・・側鎖)はそれぞれ固有のpKₐをもち、pHによって状態=電荷が変わる。で電荷を予測し、正味電荷ゼロになるpH( pI)と、を理解するのがこの回のゴール。

アミノ酸の酸塩基平衡

水溶液中で、アミノ酸の(−COOH)と(−NH₃⁺)は、水との間で動的なプロトン平衡にある。プロトンを部分的に放出するため、これらはとしてふるまう。

記号 典型的pKₐ
α- pK₁ 約2
α- pK₂ 約10
Asp/Glu 側鎖 pK_R pK₁より高い(約4)
Lys/Arg 側鎖・グアニジノ基 pK_R pK₂より高い(約10〜12)
His 側鎖基 pK_R 約6〜6.5(タンパク質中ではで変動)1

💡 α基のpKₐが側鎖のの基より「強酸的(低い)」なのはなぜ? αとαは同じα炭素に隣り合い、互いにを及ぼし合うため、側鎖の基よりプロトンを放しやすい(pKₐが低い)。His側鎖の基はとは別種ので、もともとpKₐが約6と低いので、この比較には当てはまらない。

側鎖による分類

側鎖に追加の基があるかで、アミノ酸を3群に分ける。

分類 側鎖の追加基 例
「中性」アミノ酸 なし 大多数のアミノ酸
追加の Asp, Glu
/グアニジノ基/基 Lys, Arg, His

Henderson–Hasselbalch式と緩衝作用

各について、pHと「脱プロトン型/プロトン型」の比は Henderson–Hasselbalch 式で表せる。

pH=pKa+log⁡10[脱プロトン型][プロトン型]\mathrm{pH} = \mathrm{p}K_a + \log_{10}\frac{[\text{脱プロトン型}]}{[\text{プロトン型}]}
  • [脱プロトン型] = [プロトン型] のとき比は1、log(1)=0 なので pH = pKₐ。
  • pHが pKₐ より1高ければ比は10:1(約91%が脱プロトン型)、1低ければ1:10。pHが pKₐ から2離れると約99%がどちらか一方の型になる。
  • すなわち pKₐ は、そのが 50%脱プロトン・50%プロトンの状態になるpH。
  • アミノ酸は pKₐ ± 1 の範囲で最大のを示す。

⭐ は生理的緩衝に寄与する。 His側鎖のpKₐが中性付近にあり、で変動するため、で緩衝に働きうる。ただしタンパク質のはHisだけで決まらず、ほかの残基や細胞内pHも関与する。2

等電点

非常に低いpHではすべての基がされて正味電荷は正、非常に高いpH(13以上)ではすべて脱プロトンされて負になる。その中間に、正味電荷がゼロになるpH=が必ず存在する。この状態の分子を とよぶ。

アミノ酸の型 pIの求め方 例(代表的な教科書値)
中性アミノ酸 pK₁ と pK₂ の算術平均 グリシン:(2.34 + 9.60) / 2 ≈ 5.97
2つのカルボキシル pKₐ(pK₁ と pK_R)の平均(酸性域) :pI 約2.8
2つの塩基性 pKₐ(pK₂ と pK_R)の平均(塩基性域) リジン:pI 約9.7

💡 なぜ「正味電荷0の型をはさむ2つのpKₐ」を平均するのか。 pIは、正味電荷 +1 の型と −1 の型がちょうど同量ずつ存在して打ち消し合うpHである。電荷0の型を作る脱プロトンと、それを壊す脱プロトンの2段だけがpIを決めるので、その2つのpKₐの平均になる。

中性アミノ酸(グリシンなど)の解離は、によるなプロトンの授受で、次の3つの型を行き来する。

flowchart TD
  CAT["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cation'>陽イオン</span>型<br>H₃N⁺−CH(R)−COOH<br>正味電荷 +1(低pH)"] -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-enzymatic'>非酵素的</span>な解離(pK₁ ≈ 2)<br>−COOH → −COO⁻ + H⁺"| ZW["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zwitterion'>両性イオン</span><br>H₃N⁺−CH(R)−COO⁻<br>正味電荷 0(pI で最多)"]
  ZW -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-enzymatic'>非酵素的</span>な解離(pK₂ ≈ 9〜10)<br>−NH₃⁺ → −NH₂ + H⁺"| AN["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anion'>陰イオン</span>型<br>H₂N−CH(R)−COO⁻<br>正味電荷 −1(高pH)"]

滴定曲線

完全にしたアミノ酸を(NaOHなど)ですると、各解離基のpKₐが低い順にプロトンが引き抜かれる。したがって側鎖を含む実際の順序はアミノ酸ごとに異なる。3

アミノ酸 プロトン供与基の数 段階 明らかになるpKₐ
中性() 2 2段階 pK₁, pK₂
酸性・塩基性() 3 3段階 pK₁, pK₂, pK_R

では、pKₐに当たる点で曲線が最も平らになり(加えた塩基に対してpHが動きにくい=が最大)、2つのpKₐの中間点(中性アミノ酸ではpI)で曲線が最も急になる。

pKₐの局所環境依存性

タンパク質中では、周囲の環境(極性相互作用・近くの電荷・疎水的な埋没など)が側鎖のpKₐを大きくずらしうる。特に酵素のでは、極性相互作用によりpKₐがされ、触媒に必要な特殊な状態が実現する。

まとめ

  • アミノ酸の各は固有のpKₐをもつで、pHで電荷が変わる。
  • α基のpKₐが側鎖より低いのは相互のによる。
  • pH = pKₐ でが最大。His側鎖は中性付近のpKₐをもち、生理的緩衝に寄与する。
  • pIは正味電荷ゼロのpH。中性=pK₁とpK₂の平均、酸性・塩基性はそれぞれ酸性域・塩基性域。
  • でpKₐを決定でき、中性は2段階、酸性・塩基性は3段階。
  • ではがpKₐをし、触媒に関わる。

出典

  1. 1.Improved Structure-Based Histidine pKa Prediction for pH-Responsive Protein Design(Journal of Chemical Information and Modeling・2025)ヒスチジン側鎖は中性付近のpKaをもち、タンパク質内の局所環境で大きく変動する閲覧 2026-08-20
  2. 2.Evidence for the adaptation of protein pH-dependence to subcellular pH(BMC Biology・2009)タンパク質のpH依存性と緩衝特性はヒスチジンだけでなく多数のイオン化残基と細胞内環境に依存する閲覧 2026-08-20
  3. 3.Determination of Amino Acids' pKa: Importance of Cavity Scaling within Implicit Solvation Models and Choice of DFT Functionals(The Journal of Physical Chemistry B・2024)アミノ酸の各解離基は異なるpKaをもち、脱プロトン化の順序はその実値で決まる閲覧 2026-08-20