Histopathology

Histopathology · H1-005

脳梗塞

Cerebral infarction

描出疾患
脳梗塞

🧠 全体像では、他の充実臓器と異なり壊死組織が酵素で融解され、最終的に空洞を残す。標本では「神経実質の淡明化・浮腫」から「マクロファージによる」、さらに病変辺縁の「」へ続く修復の流れを読む。

標本の要点

項目 所見
臓器
標本 HE染色のと動脈
病変 虚血性
壊死形式
血管所見
低倍率の鍵 正常実質との境界、淡明化した壊死域、実質浮腫・血管周囲浮腫
高倍率の鍵 状マクロファージ、神経実質の崩壊、辺縁の反応性

発症機序

脳動脈の血栓、上の、心臓や頸動脈からの塞栓などにより血流が遮断される。神経細胞は酸素とブドウ糖の欠乏に弱く、細胞傷害と脳浮腫が急速に進む。脳には線維性間質が乏しく脂質とが豊富なため、壊死組織は形を保たず、と血液由来マクロファージにより融解・除去される。

flowchart TD
    A["脳動脈の血栓・塞栓"] --> B["局所脳虚血"]
    B --> C["神経細胞・膠細胞の不可逆的傷害"]
    C --> D["実質浮腫・血管周囲浮腫"]
    D --> E["好中球流入"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microglia'>ミクログリア</span>・マクロファージ集積"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liquefactive necrosis'>融解壊死</span>と組織除去"]
    G --> H["辺縁の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reactive gliosis'>反応性グリオーシス</span>"]
    H --> I["嚢胞性空洞"]

観察の順序

低倍率

  1. 脳皮質・白質・血管の位置関係をする。
  2. 正常実質より淡く、構築が疎になった壊死域を探す。
  3. 病変内の実質浮腫と、が広がる血管周囲浮腫を確認する。
  4. 病変辺縁に細胞密度が増すがあるかを見る。
  5. 近傍動脈のを確認し、虚血の背景病変として位置づける。

高倍率

所見 読み方
壊死域 が淡明化・し、正常の神経細胞と膠細胞が失われる
マクロファージ 状の淡い細胞質をもち、髄鞘脂質と壊死物を貪食する
反応性 病変辺縁で細胞体と突起が肥大し、のちにグリア性境界を形成する
実質浮腫 に細かな状間隙が増え、組織が疎になる
血管周囲浮腫 血管の周囲に淡明な間隙が形成される
内膜の線維性肥厚と脂質性病変により内腔が狭くなる

時間経過

おおよその時期 主な所見
12〜24時間 、浮腫
1〜2日 が目立つ
3〜7日 と血液由来マクロファージが壊死域へ集積
1〜2週 マクロファージによる融解・除去、毛細、辺縁の反応
数週〜数か月 嚢胞性空洞と周囲のが完成する

には病変の大きさ、再灌流、感染や全身状態による幅がある。マクロファージとがともに明瞭なこの標本は、急性初期よりも亜急性期以降を示唆する。

貧血性梗塞と出血性梗塞

成立しやすい状況 所見
動脈閉塞が持続し、病変内への再流入が乏しい 淡色・軟化、、マクロファージ集積
出血性 塞栓が移動・溶解した後の再灌流、治療による梗塞 壊死域内への点状〜融合性出血
分水界梗塞 主要動脈終末領域の ACA-MCA間やMCA-間など、遠位に帯状病変

⚠️ が必ず「から出血性へ進む」わけではない。 は再灌流や静脈流出障害などが加わった場合に生じる。また、分水界は主要動脈の遠位であり、そのものを指す用語ではない。

肉眼像との対応

初期には腫脹と境界不明瞭な淡色化が生じ、亜急性期には組織融解により軟らかく黄調となる。を伴えば赤褐色になる。時間がたつと壊死組織が除去され、液体を満たす空洞とグリア性境界を残す。肉眼標本は H1-010:白色脳軟化と赤色脳軟化 で確認する。

鑑別

病変 鑑別点
好中球性膿瘍と液化を示すが、周囲に感染性炎症と被を伴う
マクロファージは多いが、軸索が相対的に保たれ、血管周囲リンパ球を伴う
特定動脈よりも選択的やびまん性分布を示す
腫瘍壊死 周囲に異型腫瘍細胞、、浸潤性増殖を認める
嚢胞性空洞と密な辺縁が主体で、は乏しい

まとめ

  • の壊死形式はであり、最終的に嚢胞性空洞を残す。
  • 標本では壊死域、浮腫、マクロファージ、を時間軸で読む。
  • は虚血の背景病変だが、塞栓など他の原因も考える。
  • は全の必然的な次段階ではなく、再灌流や静脈流出障害が加わった病型である。