神経解剖学

神経解剖学 · 25

補足知識(神経系の総論的組織学)

Extra info (general histology of the nervous system)

🧠 このノートは1つのテーマではなく、これまでの各論を支える「的パーツ表」——ニューロンの型・・の構成・被覆組織など、試験に出やすい基礎知識の寄せ集め(miscellany)である。 ただし通底する視点が1つある:CNSとPNSは同じ設計原則を持つ「双子」として対応づけられる。細胞体を包む鞘はCNSで/PNSで、線維の束はCNSで/PNSで神経、そして被覆する結合組織はCNSで髄膜(硬膜・くも膜・)/PNSで外膜・周膜・内膜、という具合に、多くの項目がCNS版・PNS版のペアとして対応する。バラな暗記事項も、この対応表として読むと一枚の地図になる。

ニューロンの基本構造

中枢神経系は脳と脊髄からなり、は脳神経・脊髄神経・末梢神経(CNSと神経節へ・から興奮を伝える)からなる。CNS・PNSいずれにおいても機能単位はニューロンであり、3部構成をとる。

  • 細胞体(cell body、perikaryon):核と大部分のを含む。核は大きく、で淡染し、核小体が明瞭。が密集する領域は好塩基性の塊として見え、Nissl小体(Nissl bodies、chromatophilic substance)と呼ばれる。は細胞体にのみ存在する
  • :細胞体から伸びる多数の細長い突起で、シナプスという特殊部位で他のニューロンからの刺激を受け取る
  • 軸索:シナプスで終わる単一の長い突起で、他の細胞(神経・筋・腺細胞)へ興奮を発生・伝導する。細胞体のピラミッド状の部分であるから起始する。軸索の細胞膜は、内容物はと呼ばれる

ニューロンの分類

突起の数によって以下のように分類される。

型 突起の構成 代表部位
細胞体近くで単一の枝に分かれる —
1本+軸索1本 網膜、
軸索1本+2本以上(樹 dendritic tree) 大脳皮質・、脊髄、
細胞体近くで分岐する単一突起
  • は求心性で、全身の受容器からの刺激を受け取る。運動ニューロンは遠心性で、へ興奮を送る
  • はに制御されるのに対し、は心筋などのを制御する

⭐ =典型的な、=。 この対応は組織像の判定でそのまま使える高頻度ポイントである。

グリア細胞

💡 「はニューロンの10倍」という通説は、直接では支持されない。 ヒト成人の脳を分画法で直接した研究では、ニューロンと非ニューロン細胞(を含む)はおよそ861億対846億とほぼ1対1の比率であり、しばしば引用される「10倍」という値は過大評価だったことが示されている1。

は起源により2系統に分かれる。

起源 細胞 特徴・機能
最も数の多い
CNSの髄鞘を形成する
末梢神経節でニューロン細胞体を取り囲む
PNSの髄鞘を形成する
を裏打ちし、の上皮を構成する(産生に関与)
中胚葉 神経系のマクロファージ

神経線維と神経線維束の用語

=軸索+グリア鞘であり、CNS/PNSで鞘を作る細胞が異なる。

対象 CNS PNS
軸索を包む鞘の細胞
の束の呼び名 神経

💡 鞘を作る細胞の「担当数」がCNSとPNSで違う。 は1個で複数の軸索を担当し、成熟マウス視神経の元では1個あたり平均19本(幅12〜35本)の軸索へ1つずつ髄鞘分節を供給していた2。対しては1個が1本の軸索の1節間だけを担当する。この違いが、CNSでは1個の細胞の障害が複数の線維に及びうるという臨床像の下地になる(引用した実測はマウス視神経であり、ヒトでの直接ではない)。

中枢神経系の組織像

CNSの主要な領域は大脳・小脳・脊髄であり、いずれも灰白質・白質の領域を示す。

  • 灰白質:ニューロンの細胞体に富み、を含む

  • 白質:軸索と、髄鞘を作るからなる。・は少数のみ含まれる

  • 大脳皮質はからなる

  • は外側の、中央の大型ニューロン層である層、内側のの3層からなる

脊髄については以下の点が挙げられている(詳細な層構築・核は脊髄の微細構造(顕微鏡解剖)を参照)。

  • 白質は末梢側、灰白質は中心側にあり、H字形をなす
  • 中心にがあり、に裏打ちされる(を含む)
  • 灰白質は前角を形成し、運動ニューロンを含む
  • 後角はを受け取る
  • 脊髄のニューロンは大型・であり、特に前角の運動ニューロンで顕著

髄膜

CNSは3層の結合組織により完全に包まれる。

  1. 外側の丈夫な硬膜
  2. 中間のくも膜(arachnoid layer)
  3. 神経組織に直接接する薄い
  • くも膜層には多量のが含まれ、CNSのクッションとなる
  • は、脳室壁から突出する、で覆われた血管に富むの複雑な襞からなる

末梢神経の結合組織層

末梢神経は、運動ニューロン(脊髄内)・・自律神経ニューロン(神経節内)由来の軸索からなる。すべての軸索はの連なりに包まれるが、大型()軸索のみが髄鞘とRanvierを持つ。

層 位置・範囲 特徴
をすぐ取り囲む薄い結合組織層 —
周膜 軸索群(、fascicle)を取り囲む 扁平な線維芽細胞様細胞がで結合し、を形成する
外膜 周膜の外側、最 厚い、密性不規則結合組織
  • 大型の末梢神経では、軸索群はに細分され、それぞれが周膜に包まれる
  • 神経節(・のいずれも)はニューロン細胞体とそのを含み、神経と連続する結合組織に包まれる

💡 髄膜と末梢神経の結合組織は同じ「入れ子構造」の看板を掛け替えたものと考えると覚えやすい。 中枢を包む3層(硬膜→くも膜→)と、末梢神経を包む3層(外膜→周膜→内膜)は、外側が最も丈夫な線維性の膜、内側が神経組織(細胞体・軸索)に直接接する薄い膜という並びまで対応している。

まとめ

  • ニューロンは細胞体(核小体明瞭・Nissl小体・)・・軸索(・・)の3部構成で、突起数により・・・に分類される(=、=が典型)。
  • は(・・・・)と中胚葉由来(=マクロファージ)に分かれる。
  • (軸索+グリア鞘)と束の呼び名はCNS/PNSで異なる:鞘は/、束は/神経。
  • CNSは灰白質(神経細胞体・に富む)と白質(軸索・)に分かれ、脊髄は白質が外側・灰白質がH字形に内側という配置をとる。
  • 髄膜(硬膜・くも膜・)はCNSを、内膜・周膜・外膜は末梢神経を、それぞれ外側ほど丈夫な線維性、内側ほど神経組織に近い薄い膜という並行構造で包む。

出典

  1. 1.Equal numbers of neuronal and nonneuronal cells make the human brain an isometrically scaled-up primate brain(The Journal of Comparative Neurology・2009)等方性分画法(isotropic fractionator)でヒト男性成人の脳を直接計数した研究で、ヒト脳はニューロン(NeuN陽性細胞)約861億個、非ニューロン細胞(グリア細胞など、NeuN陰性細胞)約846億個からなり、両者はほぼ1対1の比率であることを確認した。「グリア細胞はニューロンの10倍」という広く流布した通説はこの直接計数と一致しないことを示した(ヒトの直接計数データ)閲覧 2026-08-26
  2. 2.Three-dimensional morphology of astrocytes and oligodendrocytes in the intact mouse optic nerve(Journal of Neurocytology・1994)成熟マウス視神経で単一細胞に色素を注入して三次元再構築すると、1個のオリゴデンドロサイトが近傍の平均19本(幅12〜35本)の軸索へそれぞれ1つずつ髄鞘分節を供給していた。CNSでは1個のグリア細胞が複数の軸索を担当するという点で、1個のSchwann細胞が1本の軸索の1節間だけを担当するPNSとは対照的であることを示す(マウス視神経の実測データであり、ヒトでの直接計数ではない)閲覧 2026-08-27