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限界フリッカ値
Critical flicker fusion frequency
- 別名
- CFFフリッカー値フリッカ値flicker fusion frequency
- 臓器系
- 神経眼科
- 科目
- Neurology
- トピック
- 神経内科 G1-23:多発性硬化症の症候と診断
🧠 全体像:限界フリッカ値(CFF)は、点滅する光をどこまで速くしても「点滅」と感じ、どこを超えると「連続光」に見えるかという視覚系の時間分解能 temporal resolution時間分解能(temporal resolution) temporal resolution(時間分解能)を1つの周波数(Hz)で表す検査である。空間の解像度 resolution 解像度(resolution) resolution(解像度) (視力)とは別の軸を見ている点が本質で、視神経炎optic neuritis視神経炎(optic neuritis)optic neuritis(視神経炎)では視神経の軸索伝導障害 impaired axonal conduction 軸索伝導障害(impaired axonal conduction) impaired axonal conduction(軸索伝導障害) がCFFの低下として鋭敏に現れ、しかも視力低下decreased visual acuity 視力低下(decreased visual acuity)decreased visual acuity(視力低下) より先に落ち、視力回復より遅れて戻るという時間的なズレを持つため、治療効果判定の指標として使われる1。
何を測っているか
一定の明るさで点滅する光刺激を見せ、点滅の頻度を少しずつ変えながら、被験者study participant / subject 被験者(study participant / subject)study participant / subject(被験者) が「点滅」と「連続光」の切り替わりを報告する周波数を求める。周波数を漸増させて連続光に見え始める点を探す昇順法と、逆に漸減 tapering 漸減(tapering) tapering(漸減) させて点滅が見え始める点を探す降順法があり、CFFはこの境界の周波数(Hz)で表す2。
💡 「見えなくなる」検査ではなく「追従できなくなる」検査である。 視力検査が空間パターン(文字・ランドルト環)をどこまで細かく分解できるかを見るのに対し、CFFは時間的に変化する刺激にどこまで追従できるかを見る。網膜の光受容体 photoreceptor 光受容体(photoreceptor) photoreceptor(光受容体) から双極細胞 bipolar cell双極細胞(bipolar cell) bipolar cell(双極細胞)・網膜神経節細胞retinal ganglion cell網膜神経節細胞(retinal ganglion cell)retinal ganglion cell(網膜神経節細胞)・視神経・視放線optic radiation 視放線(optic radiation)optic radiation(視放線) を経て一次視覚野 primary visual cortex 一次視覚野(primary visual cortex) primary visual cortex(一次視覚野) に至る視覚伝導路visual pathway 視覚伝導路(visual pathway)visual pathway(視覚伝導路) 全体の時間応答を反映するが、臨床的にはとくに視神経の軸索伝導速度 conduction velocity 伝導速度(conduction velocity) conduction velocity(伝導速度) を反映する指標として使われる。
CFFは単一の生理定数ではなく、刺激条件によって大きく変わる。
| 影響する要因 | 変化の向き |
|---|---|
| 刺激の輝度 luminance輝度(luminance) luminance(輝度) | 輝度luminance 輝度(luminance)luminance(輝度) が高いほどCFFは上昇する(Ferry-Porter則)3 |
| 刺激の提示位置 | 中心窩fovea 中心窩(fovea)fovea(中心窩) に当てたときが最も高値3 |
| 刺激の色 | 赤は緑・青より低値になりやすい3 |
| 加齢 | 年齢とともに低下する3 |
⚠️ この輝度 luminance輝度(luminance) luminance(輝度)・色・提示位置への依存性があるため、CFFは「装置とプロトコルが変われば数値も変わる」検査である。 同じ「CFF低下」という所見でも、測定に使った装置・刺激条件が違えば絶対値は比較できない。
基準値と単位
単位はHz(1秒あたりの点滅回数)。一般にヒトはおおむね50〜90Hzで連続光と感じるとされるが2、これは実験条件をそろえた心理物理学的な値であり、臨床の視神経機能検査 functional test 機能検査(functional test) functional test(機能検査) でそのまま基準値 baseline / reference value 基準値(baseline / reference value) baseline / reference value(基準値) として使えるわけではない。
⚠️ 臨床で使う基準値 baseline / reference value 基準値(baseline / reference value) baseline / reference value(基準値) は、測定装置・刺激条件ごとに個別に決まる。 例えば視神経疾患 optic nerve disease 視神経疾患(optic nerve disease) optic nerve disease(視神経疾患) を対象にしたある後ろ向き研究 retrospective study 後ろ向き研究(retrospective study) retrospective study(後ろ向き研究) では、非罹患眼の平均CFFは31.5Hzだった4。一方、肝性脳症の評価に使う専用装置(HEPAtonorm Analyzer)では39Hz以下を脳機能障害ありと判定する2。どちらも「CFF」だが、装置も刺激条件も違うため数値をそのまま比べられない。 臨床的には、同一装置内での
- 健常眼(僚眼fellow eye僚眼(fellow eye)fellow eye(僚眼))との左右差
- 同一患者・同一装置での経時的 serial 経時的(serial) serial(経時的) な推移
を見るのが実用的で、単一の普遍的なカットオフ値 cutoff (value) カットオフ値(cutoff (value)) cutoff (value)(カットオフ値) を覚えるよりも「その装置・その患者でどれだけ変化したか」を追う検査だと理解する。
高値・低値の意味
CFFの臨床的な主眼は低値(低下)にある。高値そのものに確立した病的意義は乏しく、覚醒度arousal覚醒度(arousal)arousal(覚醒度)・注意水準が高い状態や中枢刺激薬 central nervous system stimulant 中枢刺激薬(central nervous system stimulant) central nervous system stimulant(中枢刺激薬) の影響で上昇しうるという報告があるにとどまる。
| 方向 | 主な原因 |
|---|---|
| 低値 | 視神経炎optic neuritis 視神経炎(optic neuritis)optic neuritis(視神経炎) などの脱髄性視神経症 optic neuropathy 視神経症(optic neuropathy) optic neuropathy(視神経症) (とくに強い低下)14、非動脈炎性前部虚血性視神経症nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy (NAION) 非動脈炎性前部虚血性視神経症(nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy (NAION))nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy (NAION)(非動脈炎性前部虚血性視神経症) などその他の視神経障害 optic neuropathy 視神経障害(optic neuropathy) optic neuropathy(視神経障害) (脱髄性ほど強くない傾向)4、加齢3、睡眠不足・不安3、ベンゾジアゼピン3、肝性脳症などの中枢神経機能低下状態2 |
| 高値 | ニコチンnicotine ニコチン(nicotine)nicotine(ニコチン) (閾値上昇として報告)3、中枢刺激薬central nervous system stimulant 中枢刺激薬(central nervous system stimulant)central nervous system stimulant(中枢刺激薬) (アンフェタミンamphetamine アンフェタミン(amphetamine)amphetamine(アンフェタミン) 等)3。診断的に確立した病的意義は乏しい |
⭐ 視神経炎optic neuritis 視神経炎(optic neuritis)optic neuritis(視神経炎) とNAIONはどちらもCFFを下げるが、下がり方に差がある。 ある研究では中等症〜重症に限ると視神経炎 optic neuritis 視神経炎(optic neuritis) optic neuritis(視神経炎) (18.27±9.29Hz)はNAION(23.92±7.02Hz)より有意に低く、CFF 24Hz以下は視神経炎 optic neuritis 視神経炎(optic neuritis) optic neuritis(視神経炎) に対し感度71%・24Hz超は視神経炎 optic neuritis 視神経炎(optic neuritis) optic neuritis(視神経炎) の除外に特異度74%だった4。ただし全体(軽症を含む)では両疾患群 disease group 疾患群(disease group) disease group(疾患群) の差は有意でなく、CFF単独で脱髄性か虚血性かを確定はできない。
⚠️ 測定上の注意
- 輝度luminance輝度(luminance)luminance(輝度)・色・提示位置をそろえないと同一患者内でも値が動く。 Ferry-Porter則により輝度 luminance 輝度(luminance) luminance(輝度) が高いほどCFFは上昇し、色は赤が緑・青より低くなりやすく、中心窩fovea 中心窩(fovea)fovea(中心窩) への提示が最も高値になる3。経時比較をするときは同じ条件で測る。
- 屈折異常refractive error 屈折異常(refractive error)refractive error(屈折異常) の補正、瞳孔径pupil diameter瞳孔径(pupil diameter)pupil diameter(瞳孔径)、光路の混濁 opacity (turbidity) 混濁(opacity (turbidity)) opacity (turbidity)(混濁) (白内障cataract 白内障(cataract)cataract(白内障) など)が刺激強度の実質的な入力を変え、値に影響しうる。 眼疾患の合併がある患者では純粋な視神経機能の指標として読みにくくなる。
- 薬物・生理状態の影響を受ける。 ニコチンnicotine ニコチン(nicotine)nicotine(ニコチン) は閾値を上げ、ベンゾジアゼピンは低下させ、中枢刺激薬central nervous system stimulant 中枢刺激薬(central nervous system stimulant)central nervous system stimulant(中枢刺激薬) は上昇させる。不安や睡眠不足も低下方向に働く3。検査直前の状態を確認する。
- 装置間で絶対値を比較しない。 前述のとおり同じ「CFF」でも装置・プロトコルが違えば基準値 baseline / reference value 基準値(baseline / reference value) baseline / reference value(基準値) が異なる。施設・研究をまたいだ数値の比較は避け、同一装置内の健常眼比較・経時比較を基本にする。
- 個人内変動はおおむね4%程度とされ、これを超える変化でなければ意味のある変化と判断しにくい3。
経時変化とモニタリング
⭐ 視神経炎optic neuritis 視神経炎(optic neuritis)optic neuritis(視神経炎) では、CFFは視力より先に悪化し、視力より遅れて回復する。 増悪期には視力低下 decreased visual acuity 視力低下(decreased visual acuity) decreased visual acuity(視力低下) に先んじてCFFが低下し、治療により視力が回復したあともCFFの回復は遅れるため、視力だけでは分からない機能低下・回復の途中経過をCFFが補う1。この時間的なズレがあるからこそ、単回値よりも治療前後の推移を追うことに意味がある。
💡 視力が「正常範囲に戻った」ように見えても、CFFがまだ低いままなら視神経の機能が完全には回復していない可能性がある。 逆に増悪の早期にはまだ視力低下 decreased visual acuity 視力低下(decreased visual acuity) decreased visual acuity(視力低下) が軽度でも、CFFの低下が先行して検出されることがある。
まとめ
- CFFは点滅光が連続光に見え始める周波数(Hz)で、視力(空間解像度 resolution解像度(resolution) resolution(解像度))とは別に視覚系の時間分解能temporal resolution時間分解能(temporal resolution)temporal resolution(時間分解能)を評価する検査である。
- 視神経炎optic neuritis 視神経炎(optic neuritis)optic neuritis(視神経炎) ではCFFが著明に低下し(多くは35Hz未満、重症例で20Hz未満)、視力低下decreased visual acuity 視力低下(decreased visual acuity)decreased visual acuity(視力低下) に先行して低下し視力回復に遅れて回復するため、治療効果判定に有用である。
- 値は輝度 luminance輝度(luminance) luminance(輝度)・色・提示位置・装置・年齢・薬物・覚醒状態など多くの因子に影響されるため、普遍的な基準値 baseline / reference value 基準値(baseline / reference value) baseline / reference value(基準値) ではなく、同一装置内での左右差・経時変化evolution 経時変化(evolution)evolution(経時変化) として読む。
- 視神経炎optic neuritis 視神経炎(optic neuritis)optic neuritis(視神経炎) とNAIONはいずれもCFFを低下させるが、中等症〜重症では視神経炎 optic neuritis 視神経炎(optic neuritis) optic neuritis(視神経炎) の方がより強く低下する傾向がある(CFF単独での確定診断はできない)。
- ⚠️ 検査直前の薬物・覚醒状態・光路の混濁 opacity (turbidity) 混濁(opacity (turbidity)) opacity (turbidity)(混濁) がCFF値に影響するため、単回値の絶対評価より経時的 serial 経時的(serial) serial(経時的) な推移・左右差の評価を優先する。
出典
- 1.多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023(日本神経学会・2023)Q5-7「中枢神経系炎症性脱髄疾患患者の眼科的検査はどのように行うか?」の解説・エビデンス節(p.222)をPDF全文取得のうえ逐語で確認した。「CFFは,視神経の機能を鋭敏に表現する指標であり,視力障害の鑑別診断や機能障害の評価ができる」「CFFの低下は,視神経炎の場合35 Hz未満で,重症例では20 Hz未満など顕著な低下を示すことが多い」「視神経炎増悪期には,視力低下に先んじてCFFが低下し,視力回復に遅れて上昇するため,治療効果判定に有用である」の3文を確認した(引用文献7・8は中尾雄三の総説2編)。閲覧 2026-09-16
- 2.Critical Flicker Fusion Frequency: A Narrative Review(Medicina (Kaunas, Lithuania)・2021)CFFが「点滅する光を連続光として知覚し始める周波数」であり、皮質覚醒・視覚処理・注意機能を反映する指標として神経学・麻酔・産業衛生・潜水医学など幅広い分野で使われてきたことを確認した。ヒトが一般に50〜90Hzで融合と感じること、周波数を漸増させながら測る昇順法と漸減させながら測る降順法があること、最小肝性脳症のスクリーニングでは専用装置(HEPAtonorm Analyzer)を用い39Hz以下を脳機能障害の指標とすることを確認した。閲覧 2026-09-16
- 3.Assessing Critical Flicker Fusion Frequency: Which Confounders? A Narrative Review(Medicina (Kaunas, Lithuania)・2023)CFF閾値に影響する交絡因子として、加齢による低下、個人内変動が約4%であること、Ferry-Porter則により輝度が高いほどCFFが上昇すること、刺激の色(赤は緑・青より低値)・網膜への提示位置(中心窩が最高値)・刺激サイズが値に影響すること、ニコチンが閾値を上昇させること、中枢刺激薬(アンフェタミン等)がCFFを上昇させベンゾジアゼピンが低下させること、不安・睡眠不足がCFFを低下させることが報告されていることを確認した。閲覧 2026-09-16
- 4.Critical flicker fusion frequency in demyelinating and ischemic optic neuropathies(International Ophthalmology・2018)後ろ向き研究の抄録で、非罹患眼の平均CFFが31.5Hzであったのに対し、視神経炎(ON)罹患眼は20.7±7.36Hz、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)罹患眼は24.3±9.03Hzで、両疾患群間の差は全体では有意でなかった(P=0.06)が中等症〜重症に限るとONがNAIONより有意に低かった(18.27±9.29Hz対23.92±7.02Hz、P=0.02)ことを確認した。CFF≤24HzのROC閾値はONに対し感度71%・24Hz超はON除外に特異度74%で、多変量回帰ではONはNAIONに比べCFFを約8Hz低下させると推定されたことを確認した。閲覧 2026-09-16