脳神経内科学

脳神経内科学 · G1-23

多発性硬化症の症候と診断

G1-23: Symptoms and diagnosis of multiple sclerosis

前提:病態
髄鞘疾患(脱髄性疾患)
前提:正常
神経組織:神経線維
疾患
MOG抗体関連疾患視神経脊髄炎スペクトラム障害多発性硬化症
症状
核間性眼筋麻痺視神経炎視力低下
検査値
限界フリッカ値

🧠 全体像:は中枢神経系ので、視神経、脳、脊髄に時間・場所を変えて病変を生じる。診断は典型的な臨床症候、、髄液、鑑別除外を統合し、単一の症状や検査だけで確定しない。

病変と症候の関係

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune-mediated'>免疫介在性</span>の炎症・脱髄"] --> B["視神経・脳幹・脊髄・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral white matter'>大脳白質</span>の病変"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic neuritis'>視神経炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>・感覚障害・筋力低下・失調"]
    C --> D["再発と寛解、または緩徐な進行"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・髄液・鑑別除外を統合して診断"]

代表的な臨床症候

領域 例
視覚 による片眼、、、、眼振。
感覚・脊髄 、、、、、膀胱直腸障害。
脳幹・小脳 、、失調、振戦、。
全身・認知 疲労、注意/低下、。これらだけではMSに特異的ではない。
  • (体温上昇で既存症状が一時的に悪化する現象)は、再発そのものではない。
  • 典型的再発は24時間以上続く新たな神経症候で、発熱や感染による一過性悪化を区別する。
  • 感染がMSの主な原因である可能性を、コホートが支持している1。

病型

病型 概要
MS(relapsing-remitting MS: RRMS) 再発と回復を繰り返す。活動性の評価がに重要。
(secondary progressive MS: SPMS) の後に、障害が徐々に進行する経過。活動性の有無を併記する。
(primary progressive MS: PPMS) 発症から緩徐な進行が主で、再発が目立たないことが多い。

「(PRMS)」は古い分類であり、現在は活動性・進行性を病型に付記して表現する。

診断への組み立て

要素 役割
病歴・診察 典型的な中枢神経脱髄症候か、再発/進行のかを確認する。
脳・脊髄の病変分布、造影性、な新規病変を評価する。視神経も重要な評価部位である。
髄液 特異的は診断を支持するが、MSに特異的ではない。
などの無症候性障害の補助評価に用いることがある。
血清 血清軽鎖は変性を反映する指標で、の項目ではない。米軍コホートでは、後にMSと診断された人での後にのみ上昇していた1。
NMOSD2、3、感染、血管炎、、B12欠乏、構造疾患などを臨床像に応じて除外する。かつてはNMOSD・もMSの一亜型(視神経MSなど)とみなされていたが、抗体検査の確立によりMSとは別個の疾患単位として分離された。
  • では、典型的臨床症候を前提に、と、およびより良いがないことを評価する。McDonald基準は繰り返し改訂されており、2017年改訂では、典型的な臨床孤立症候群でが示されている患者に限り、髄液特異的の存在をの証明の代替として認めるようになった(旧来は画像上ののみでを証明していた)4。
  • のは片頭痛、加齢性変化、血管危険因子でも見られ得るため、非典型症例で病変数のみから診断しない。

診断が確定した後に問われること

  • ⭐️ 診断が早いほど長期の転帰が良いという観察がある。 チェコの単施設コホート(RRMS患者146例)では、症状出現から診断確定までの遅延が長いほど、診断時点のEDSSスコアと血清軽鎖のzスコアが高い傾向が示された5。ただしこれは観察研究であり、重症度や非典型性の高い症例ほど精査・診断の経過自体が変わりうる(適応による)を排除できないため、遅延そのものが転帰を悪化させると断定はできない。
  • ⭐️ 「段階的に強い薬へ上げる」か「診断確定の時点から高有効性の治療を選ぶ」かという問いが、診断が確定した瞬間に立つ。 イタリアMSレジストリの後908組(早期高有効性治療群 対 エスカレーション治療群)の10年観察研究では、早期高有効性治療群のほうが10年後のEDSS変化量が有意に小さく、確定した障害進行のリスクも低かった6。ただしこれもではないであり、予後不良と判断された患者ほど早期に高有効性治療が選ばれるというは残る。この問いに直接答えるが別に計画・実施されているが、本ノート作成時点での結果は確認できなかった。薬剤そのものの一覧・使い分けはこのノートの範囲外である。
  • ⭐️ 画像だけで見つかる「radiologically isolated syndrome(RIS)」という段階があり、これはMSの診断ではない。 臨床症候を伴わずでMS様のが見つかった状態で、の10年追跡では、RIS例の51.2%が10年以内に最初の臨床イベントを経験した7。この無症候の段階で治療を始めるべきかを検証した無作為化試験では、投与群がプラセボ群に比べ最初の臨床イベントまでの期間を有意に延長し、補正後72%のリスク減少が示された8。
  • 💡 診断の取り違えが実際に起きている。 2つの大学MSセンターへ「確立したMS」として紹介された241例のうち、17〜19%が精査の結果を満たさずと判定され、群は合計約110にわたり不要なの投与を受けていた9。これは「ののみから診断しない」という上記の記述の裏づけになる。
  • 💡 McDonald基準は2017年改訂よりさらに新しい版がある。 2024年改訂版が2025年に公表され、視神経がを示す5番目の解剖学的部位として追加され、徴候・常磁性リム病変・髄液kappa濃度が、利用できる場合に特定の状況で診断を支持し特異性を高める所見として位置づけられ、一定の条件下ではRISや明確な再発・進行に至らない神経症状でもMSを満たし得るとされた10。2017年版の枠組みは以下の本文に残すが、これは最新版ではない。

まとめ

  • MSは視神経、脳幹、脊髄、に散在する中枢神経脱髄症候として考える。
  • と髄液は重要だが、典型的臨床像と鑑別除外なしに確定診断はできない。
  • 再発、偽再発、進行を分け、現在の病型表記では活動性・進行性も評価する。

出典

  1. 1.Longitudinal analysis reveals high prevalence of Epstein-Barr virus associated with multiple sclerosis(Science・2022)米軍現役軍人1000万人超のコホート(追跡中にMSと診断された955例を含む)で、EBV感染後にMSリスクが32倍に上昇した一方、同様の伝播様式を持つサイトメガロウイルスを含む他のウイルス感染後にはリスク上昇がみられなかったこと。神経軸索変性のバイオマーカーである血清ニューロフィラメント軽鎖はEBV血清転換後にのみ上昇したこと。これらの所見は既知のMS危険因子では説明できず、EBVがMSの主要な原因である可能性を示唆すると結論した閲覧 2026-08-27
  2. 2.International consensus diagnostic criteria for neuromyelitis optica spectrum disorders(International Panel for NMO Diagnosis (IPND) / Neurology・2015)6つの中核的臨床的特徴(視神経炎・急性脊髄炎・最後野症候群・急性脳幹症候群・症候性ナルコレプシーまたは間脳症候群・症候性大脳症候群)を定義し、抗AQP4抗体陽性例は中核的特徴1つ以上で診断できる一方、陰性・不明例は異なる部位にまたがる2つ以上の中核的特徴と追加のMRI要件を満たす必要があること、いずれの場合も他疾患(MSを含む)の除外を要することを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Diagnosis of myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease: International MOGAD Panel proposed criteria(Lancet Neurology(International MOGAD Panel)・2023)抗MOG抗体は多発性硬化症・抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎スペクトラム障害とは異なる後天性中枢脱髄症候群の患者に見られること、国際パネルがMOG-IgG陽性を中核基準の一つとする診断基準を提唱したこと、典型的な臨床像は急性散在性脳脊髄炎・視神経炎・横断性脊髄炎で単相性または再発性の経過をとることを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Diagnosis of multiple sclerosis: 2017 revisions of the McDonald criteria(The Lancet Neurology (International Panel on Diagnosis of Multiple Sclerosis)・2018)2010年McDonald基準の改訂として、典型的な単一の臨床孤立症候群を呈し臨床像またはMRIで空間的多発性が示されている患者では、髄液特異的オリゴクローナルバンドの存在をもって時間的多発性の証明に代え、多発性硬化症の診断を許容するよう変更されたこと。また症候性病変も空間的・時間的多発性の証明に用いてよいこと、皮質病変も空間的多発性の証明に使えるようになったことを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.Diagnostic delay of multiple sclerosis: prevalence, determinants and consequences(Multiple Sclerosis Journal・2023)チェコの単施設のRRMS患者146例を対象にした観察研究で、診断遅延は77例(52.7%)に認められ、診断遅延が長いほど診断時点のEDSSスコア(B=0.03, p=0.034)と血清ニューロフィラメント軽鎖のzスコア(B=0.35, p=0.031)が高い傾向にあったこと。ただし観察研究であり、遅延の長さと疾患の重症度・非典型性そのものが相互に影響しうる交絡が残ることを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.Early Intensive Versus Escalation Approach: Ten-Year Impact on Disability in Relapsing Multiple Sclerosis(Annals of Clinical and Translational Neurology (Italian MS Register)・2025)イタリアMSレジストリの4878例から傾向スコアマッチングで抽出した908組(早期高有効性治療群 対 エスカレーション治療群)の10年観察研究で、早期高有効性治療群は10年時点のEDSS変化量差が-0.63(95%CI -0.83〜-0.43, p<0.0001)と有意に小さく、確定した障害進行のハザード比が1.36(95%CI 1.20-1.54)エスカレーション群で高かったこと。無作為化ではない登録研究であるため、予後不良と判断された患者ほど早期に高有効性治療が選ばれるという交絡は排除できないことを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Radiologically Isolated Syndrome: 10-Year Risk Estimate of a Clinical Event(Annals of Neurology (Radiologically Isolated Syndrome Consortium)・2020)5か国21データベースから集めたRIS(画像上のみでMS様病変を認めるが臨床症候の無い状態)451例のうち追跡データが得られた277例の多施設コホートで、最初の臨床イベント(MS発症相当)の10年累積確率が51.2%であったこと。年齢・髄液オリゴクローナルバンド陽性・テント下病変・脊髄病変がその独立予測因子であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  8. 8.Teriflunomide and Time to Clinical Multiple Sclerosis in Patients With Radiologically Isolated Syndrome: The TERIS Randomized Clinical Trial(JAMA Neurology (TERIS Study Group)・2023)RIS(89例、フランス・スイス・トルコの多施設)を対象にテリフルノミド14mg/日とプラセボを1:1に無作為割付した二重盲検第3相試験で、最初の臨床イベントまでの期間がテリフルノミド群で有意に延長し、補正後ハザード比0.28(95%CI 0.11-0.71, p=.007)、補正後72%のリスク減少が示されたこと。RISはMSの診断ではなく、この段階で治療するかどうかを検証した試験であることを確認した閲覧 2026-08-27
  9. 9.Incidence of multiple sclerosis misdiagnosis in referrals to two academic centers(Multiple Sclerosis and Related Disorders・2019)Cedars-SinaiとUCLAの2つのMS専門センターへ「確立したMS」として紹介された241例のうち、17%(Cedars-Sinai)・19%(UCLA)が精査の結果2010年版McDonald基準を満たさず誤診と判定され、誤診群は合計約110患者年にわたり不要な疾患修飾薬の投与を受けていたことを確認した閲覧 2026-08-27
  10. 10.Diagnosis of multiple sclerosis: 2024 revisions of the McDonald criteria(The Lancet Neurology (International Panel on Diagnosis of Multiple Sclerosis)・2025)2017年McDonald基準をさらに改訂した2024年版が2025年に公表され、視神経を空間的多発性を示す5番目の解剖学的部位として追加したこと、中心静脈徴候・常磁性リム病変・髄液kappa遊離軽鎖濃度を、利用できる場合に特定の状況で多発性硬化症の診断を支持し特異性を高める所見として使えるとしたこと、一定の条件下ではRISや明確な再発・進行に至らない神経症状でもMS診断基準を満たし得るとしたことを抄録(Europe PMC、PMID 40975101)で確認した閲覧 2026-08-27