脳神経内科学

脳神経内科学 · G1-22

髄膜炎と脳炎

G1-22: Meningitis, encephalitis

前提:病態
中枢神経系感染症(髄膜炎・脳炎)
前提:正常
頭部:頭蓋腔と髄膜
疾患
ウイルス性脳炎細菌性髄膜炎慢性肥厚性硬膜炎無菌性髄膜炎
症状
項部硬直
検査値
髄液検査
画像所見
シャボン玉様病変軟膜増強効果

🧠 全体像:髄膜炎は髄膜の炎症、脳炎はの炎症である。とは治療の遅れが転帰を悪化させるため、血液培養・髄液採取を試みつつも、検査のために抗菌薬やアシクロビルを遅らせない。

症候から初期対応へ

flowchart TD
    A["発熱・頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuchal rigidity (neck stiffness)'>項部硬直</span>・意識変容・けいれん"] --> B["ABC、敗血症評価、血液培養"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial meningitis'>細菌性髄膜炎</span>を疑う:経験的抗菌薬を遅らせない"]
    B --> D["脳炎/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex virus'>HSV</span>を疑う:アシクロビルを速やかに開始"]
    C --> E["安全なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar puncture'>腰椎穿刺</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CSF analysis'>髄液検査</span>"]
    D --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymerase chain reaction'>PCR</span>・培養・画像・EEGで原因を絞る"]

髄膜炎と脳炎の比較

項目 髄膜炎 脳炎
主座 髄膜
目立つ症候 発熱、頭痛、、、嘔吐 意識/行動変化、けいれん、局在神経症状、精神症状
代表的原因 肺炎球菌、髄膜炎菌、Hib、、ウイルス、真菌 、、節足動物媒介ウイルス、など
緊急治療 細菌性を疑えば経験的抗菌薬 を疑えばアシクロビル

髄液と検査

所見 の典型 /脳炎の典型
細胞数 優位のが多い リンパ球優位が多いが初期は例外がある。
糖 低下しやすい 多くは保たれる。
蛋白 上昇しやすい 正常〜上昇。
病原体検査 グラム染色、培養、抗原/核酸検査 (特に)など。
  • 血液培養は抗菌薬前に採取できれば望ましいが、採取困難でも治療開始を遅らせない1。
  • 意識障害、局在徴候、、新規けいれん、、著明な意識低下などでは、前に画像評価が必要となることがある。
  • 画像待ちで抗菌薬を遅らせず、採取可能な血液培養後に開始する。髄液所見は単独で病原体を決めつけない。

💡 前置きが必要なのは一部の患者に限られる。 髄膜炎を疑う成人301例の前向き研究では、を施行した235例のうち異常所見は24%にとどまり、年齢60歳以上・免疫不全・中枢神経疾患の既往・発症前1週間以内のけいれん、および異常や特定の神経のいずれも該当しない患者に限れば、異常のは97%だった。上記のような所見がなければ、を待たずにへ進むという判断も成り立つ2。

治療の原則

細菌性髄膜炎

  • 年齢、免疫状態、地域の耐性状況に合わせた経験的を直ちに開始する。高齢者、妊婦、ではを考慮してアンピシリン等の追加を検討する。
  • は、特に肺炎球菌性が疑われる成人で、最初の抗菌薬の直前または同時に検討する。全例への漫然投与ではなく、に従う。

⚠️ の効果は起因菌と地域で異なる。 Cochraneレビューでは、肺炎球菌性髄膜炎で死亡率を有意に低下させた(RR 0.84)一方、・髄膜炎菌による髄膜炎では死亡率への有意差は示されなかった。小児の髄膜炎ではを有意に減らした(RR 0.34)が、それ以外の起因菌による小児髄膜炎ではその効果は認められず、これらの便益はいずれも高所得国の研究に基づくもので低所得国では有意な便益が示されていない3。

  • 髄膜炎菌が疑われる場合はとへのを、/感染管理と連携して行う。

脳炎

  • 脳炎を臨床的に疑えば、結果を待たずにIVアシクロビルを開始する。発症3日以内に採取した髄液 は陰性でも偽陰性がありうるため、初回陰性のみで除外・中止しない4。
  • は脳炎評価に有用で、では優位の異常を示すことがある。EEGはの検出に役立つ。
  • では、腫瘍検索と抗体検査を並行し、感染症を適切に除外/治療した上で免疫療法を専門科と検討する。

まとめ

  • は髄膜炎、意識・行動変化やけいれんは脳炎を強く示唆するが、両者は重なり得る。
  • ではや画像のために抗菌薬開始を遅らせない。
  • 脳炎が疑わしければアシクロビルを早期に開始し、・・EEGで診断を補強する。

出典

  1. 1.WHO guidelines on meningitis diagnosis, treatment and care(World Health Organization・2025)急性髄膜炎の診療において、腰椎穿刺・穿刺前画像の選択・血液培養の採取・経験的抗菌薬投与を遅らせない、という管理原則を示したこと閲覧 2026-08-27
  2. 2.Computed tomography of the head before lumbar puncture in adults with suspected meningitis(The New England Journal of Medicine・2001)髄膜炎を疑う成人301例の前向き研究で、CTを施行した235例のうち異常所見は24%(マスエフェクトは5%)にとどまり、年齢60歳以上・免疫不全・中枢神経疾患の既往・発症前1週間以内のけいれん、および意識レベル異常や特定の神経巣症状のいずれも認めない96例に限れば、CT異常の陰性的中率は97%だったこと。これらの臨床所見を用いれば腰椎穿刺前のCTが不要な患者を識別できることを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Corticosteroids for acute bacterial meningitis(Cochrane Database of Systematic Reviews・2015)アジュバントの副腎皮質ステロイドは起因菌により有効性が異なる。肺炎球菌性髄膜炎では死亡率を有意に低下させた(RR 0.84、95%CI 0.72-0.98)が、インフルエンザ菌または髄膜炎菌による髄膜炎では死亡率への有意な効果は示されなかった。小児のインフルエンザ菌髄膜炎では重度難聴を有意に減らした(RR 0.34、95%CI 0.20-0.59)が、インフルエンザ菌以外の起因菌による小児髄膜炎ではその効果は示されなかった。この便益は高所得国の研究に限られ、低所得国では有意な便益は認められなかった閲覧 2026-08-27
  4. 4.Herpes Simplex Encephalitis(StatPearls・2024)HSV脳炎は画像・髄液所見・脳波所見から疑った時点で確定診断を待たず静注アシクロビルを開始すべきであり、発症3日以内に採取した髄液HSV PCRは陰性でも偽陰性がありうる閲覧 2026-08-27