脳神経内科学

脳神経内科学 · G1-21

てんかん重積状態

G1-21: Status epilepticus

前提:病態
A21: 抗てんかん薬・鎮痛補助薬A16: ベンゾジアゼピン
前提:正常
脳波(EEG);睡眠現象。学習と記憶。
疾患
てんかん
症状
発作

🧠 全体像:は、発作が持続する、または意識が回復しないまま反復する神経救急である。けいれん性発作が5分を超えたら治療を開始し、ABC、ベンゾジアゼピン、長時間作用型、難治例のを時間軸で進める。

時間依存の対応

flowchart TD
    A["発作が5分以上、または意識回復なく反復"] --> B["ABC・血糖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV access'>静脈路</span>・原因検索"]
    B --> C["第一選択:ベンゾジアゼピン"]
    C --> D["持続:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='levetiracetam'>レベチラセタム</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fosphenytoin'>ホスフェニトイン</span>/バルプロ酸など"]
    D --> E["持続:難治性SEとして挿管・麻酔薬・連続EEG"]
    E --> F["原因治療と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>"]

定義と病型

病型 特徴
けいれん性SE(convulsive SE) 持続する、または発作間に意識が回復しない反復発作。5分を治療開始の実用的閾値とする1。
非けいれん性SE(non-convulsive SE) 、、昏睡、微細な眼瞼・などで発症し、EEGで確認する。けいれん停止後の意識回復不良でも疑う。
焦点性SE 反復する片側運動・感覚・自律神経症状、など。意識障害の有無はさまざま。
難治性SE(refractory SE) ベンゾジアゼピンと適切なに反応しない状態。
超難治性SE(super-refractory SE) 麻酔薬治療開始後24時間以上持続またはする状態。

💡 「5分」は唯一の基準ではなく、治療開始の閾値(t1)にすぎない。 ILAEの2015年定義は、発作がいつ「治療すべき持続」とみなされるかの時点をt1、神経細胞死などの長期的のリスクが生じる時点をt2として二段構えで示した。痙攣性ではt1が5分・t2が30分とされているが、これはと臨床研究に基づく現時点での推定値であり、非痙攣性など他の病型ではt1・t2を確定するデータがまだ不十分である1。

原因検索

  • の中断、急性脳卒中、、、髄膜炎・脳炎を確認する。
  • 血糖、Na、Ca、Mg、腎・肝機能、血算、血液ガス、薬物/アルコール関連、妊娠可能性を評価する。
  • 発熱、、局在徴候、外傷、持続する意識障害があれば/、感染症検査、適応を選んだを追加する。
  • EEGは非けいれん性SEの診断、難治例の発作抑制確認、鎮静下の管理に不可欠である。

治療の骨格

段階 実施内容
直ちに 気道・呼吸・循環を安定化し、酸素化、血糖補正、静脈/、体温管理を行う。けいれん中に口へ物を入れない。
第一選択 IV、IV、またはが無い場合の筋注/などのベンゾジアゼピンを十分量投与する。⚠️ 筋注は静注に対してかつ優越が示されている(73.4%対63.4%)が、差の出どころは薬効ではなく投与開始までの時間(中央値1.2分対4.8分)である2。静注と静注の比較は別の試験による3。
第二選択 、/フェニトイン、バルプロ酸を代表として、禁忌・・薬物相互作用を考慮して選ぶ(無作為化試験でこの3剤の有効性に差は示されていない4)。
難治例 で気道管理、持続麻酔薬、連続EEGを行い、、感染、代謝・毒性、構造疾患を再評価する。

⚠️ 第一選択のベンゾジアゼピンは、実臨床では推奨量より少なく投与されがちである。 ベンゾジアゼピンに反応しなかった米国207例の解析では、最初に投与されたベンゾジアゼピンの初回量がガイドライン推奨の最低量を満たしていたのは29.8%にとどまり、少量を複数回に分けて投与するパターンがEMS・救急外来を通じて共通していた。約12%はを経ても必要な量に到達していなかった5。

合併症と安全性

  • 低酸素、誤嚥、低血圧、不整脈、、、、を監視する。
  • 発作が止まっても意識が戻らなければ、非けいれん性SE、鎮静薬作用、脳損傷、低血糖・電解質異常を区別する。
  • 薬剤の用量・投与順は年齢、体重、妊娠、肝腎機能、施設プロトコルで異なるため、救急/神経専門チームの指示で管理する。

まとめ

  • けいれんが5分以上続く、または意識回復なく反復すればSEとして直ちに治療する。
  • ベンゾジアゼピン後にを遅らせず、難治例では挿管と連続EEGを含むへ進む。
  • 原因の是正が再発予防と予後改善の中心である。

出典

  1. 1.A definition and classification of status epilepticus--Report of the ILAE Task Force on Classification of Status Epilepticus(Epilepsia (International League Against Epilepsy)・2015)てんかん重積状態の定義を「発作終息機序の破綻または過剰な発作持続機序の始動により異常に発作が遷延する状態(t1を超えた時点)」とし、神経細胞死・神経障害・神経回路変化などの長期的帰結が生じうる時点をt2としたこと。痙攣性(強直間代)てんかん重積状態ではt1が5分、t2が30分と設定され、これは動物実験と臨床研究に基づく現時点での最良推定値であること。他の病型(非痙攣性など)についてはt1・t2を定める十分なデータがまだない閲覧 2026-08-27
  2. 2.Intramuscular versus Intravenous Therapy for Prehospital Status Epilepticus(The New England Journal of Medicine・2012)抄録(PMID 22335736)で確認した。病院前のてんかん重積に対し筋注ミダゾラムと静注ロラゼパムを比較した二重盲検の非劣性試験。主要評価項目は逐語で「seizures were absent without rescue therapy in 329 of 448 subjects (73.4%) in the intramuscular-midazolam group and in 282 of 445 (63.4%) in the intravenous-lorazepam group (absolute difference, 10 percentage points; 95% confidence interval, 4.0 to 16.1; P<0.001 for both noninferiority and superiority)」。⚠️ 差の出どころは薬効ではなく投与開始までの時間で、逐語「the median times to active treatment were 1.2 minutes in the intramuscular-midazolam group and 4.8 minutes in the intravenous-lorazepam group」。逆に投与開始から痙攣停止までは筋注群3.3分と静注群より長い。つまり静脈路確保に要する時間を省けることが筋注の利点である。閲覧 2026-09-22
  3. 3.A comparison of lorazepam, diazepam, and placebo for the treatment of out-of-hospital status epilepticus(New England Journal of Medicine・2001)病院外の成人てんかん重積患者205例(ロラゼパム66例・ジアゼパム68例・プラセボ71例)を対象とした二重盲検RCTで、救急外来到着時点での重積終息率がロラゼパム群59.1%・ジアゼパム群42.6%・プラセボ群21.1%(プラセボに対するロラゼパムのオッズ比4.8、95%CI 1.9-13.0)と、ロラゼパムが最も高かったことを確認した。⚠️ この試験は**静注の2剤とプラセボ**の比較であり、全文に midazolam と intramuscular は**1回も現れない**(陽性対照 lorazepam 8件・diazepam 8件)。筋注ミダゾラムの根拠としては使えない。原著の結論自体も逐語で「Lorazepam is likely to be a better therapy than diazepam.」と控えめである閲覧 2026-08-27
  4. 4.Randomized Trial of Three Anticonvulsant Medications for Status Epilepticus(The New England Journal of Medicine・2019)ベンゾジアゼピン抵抗性のけいれん性てんかん重積状態の小児・成人384例(再登録16例含む)を対象にしたESETT試験(無作為化・適応的デザイン)で、レベチラセタム・フォスフェニトイン・バルプロ酸のいずれも60分後の発作消失・意識レベル改善達成率が45-47%と同等であり、事前規定の無効性中止基準により早期に試験が打ち切られたこと(3群間で重篤な有害事象の発生率に有意差はなかったこと)閲覧 2026-08-27
  5. 5.Underdosing of Benzodiazepines in Patients with Status Epilepticus Enrolled in Established Status Epilepticus Treatment Trial(Academic Emergency Medicine・2019)ESETT試験に登録された(=ベンゾジアゼピンに反応しなかった)米国41施設の207例の解析で、最初に投与されたベンゾジアゼピンの初回投与量がガイドライン推奨の最低量を満たしていたのは全体の29.8%にとどまり(直腸ジアゼパムを除くとロラゼパム・ミダゾラムでは満たしていたのは約20%)、約12%は反復投与を含めてもESETT登録要件となる累積必要量に一度も到達しなかったこと。少量を複数回投与するパターンが、EMS・救急外来のいずれの現場でも共通してみられたこと閲覧 2026-08-27