薬理学

薬理学 · A21

抗てんかん薬・鎮痛補助薬

A21: Antiepileptics. Adjuvant analgesics

前提:病態
Core18:線形・非線形薬物動態Core23:酵素誘導薬Core54:薬剤性有害反応:スティーブンス・ジョンソン症候群Core60:薬剤性有害反応:骨髄障害Core63:薬剤性有害反応:肝毒性
応用トピック
てんかん重積状態のABCDE評価と抗痙攣薬の臨床薬理てんかんの薬物療法妊娠中の双極性障害とてんかんの薬物療法鎮痛薬の種類と神経障害性疼痛の薬物療法がん性疼痛とオピオイドによる薬物療法てんかん重積状態てんかんの臨床管理痙攣・てんかん重積状態の救急治療
薬剤
エトスクシミドオクスカルバゼピンガバペンチンカプサイシンカルバマゼピンクロナゼパムジアゼパムスチリペントールゾニサミドチアガビントピラマートバルプロ酸ビガバトリンフェニトインフェノバルビタールフェルバマットフェンフルラミンブリバラセタムプリミドンプレガバリンペランパネルミダゾラムラコサミドラモトリギンルフィナミドレベチラセタム
疾患
Lennox-Gastaut症候群てんかん結節性硬化症乳児てんかん性スパズム症候群
症状
求心性視野狭窄歯肉増生電撃痛
画像所見
髄鞘内浮腫

🧠 全体像:は「どこに効くか(標的)」で7系統に整理するのがコツ。 ①Naチャネル遮断/②遮断()/③(鎮痛補助の主役)/④増強(・ベンゾジアゼピン・・阻害)/⑤SV2A結合(ラセタム系)/⑥/⑦広域・複数機序。 実際の処方は作用機序だけで決めず、発作型・、年齢、併存症、妊娠・生殖リスク、相互作用を統合して選ぶ。

💡 もう一つの柱が「鎮痛補助薬」である。 本来はとして作られていない薬で痛みを抑える枠で、このトピックでは(・)と外用のがこれにあたる。

Naチャネル遮断

に有効な薬が多い。カルバマゼピン・・フェニトインなどはやを悪化させうるため、を発作型・症候群の確認なしに同じ枠で扱わない。

  • カルバマゼピン — 適応:・・|⚠️(SJS)/(TEN)(-B*15:021)・低Na血症・
  • — 適応:|⚠️低Na血症
  • フェニトイン — |適応:・の第二選択・一部不整脈|⚠️・・・2
  • — Na遮断+グルタミン酸↓|適応:焦点・全般・のうつ予防|⚠️SJS(緩徐増量)
  • — Na緩徐不活性化を促進|適応:
  • — Na不活性化を延長|適応:

⚠️ -B15:02は「薬」と「祖先」の両方で特異的である。アジア系を一括りにしない。 この対立遺伝子がカルバマゼピン誘発性と強く関連するのは漢民族その他の東南アジア系集団においてであって、欧州系集団では関連が示されていない。保有率も香港・タイ・マレーシア・フィリピンの一部で15%超、台湾で約10%であるのに対し、日本・韓国では1%未満である1。日本人で意味を持つのはむしろ-A31:01のほうで、こちらはやとの関連が強い。⭐ 対立遺伝子・薬剤・祖先の3点セットの詳細はCore54:薬剤性:に置く。

💡 フェニトインのは「治療域そのものが飽和帯にある」という形で現れる。 日本人てんかん患者116例の解析ではMichaelis-Menten定数Kmが約9.19 μg/mLと推定されており、これは一般的な治療域(10〜20 μg/mL)の下限よりさらに低い。つまり日常のがそのまま飽和帯をまたぐため、わずかな増量で血中濃度が跳ね上がる。→ Core18:線形・、フェニトイン

⚠️ の皮疹リスクは「増量の速さ」で決まる。 初期増量が速いほど重篤な皮疹の危険が上がるため、緩徐な漸増が条件になる。とくにバルプロ酸を併用するとが阻害されて血中濃度が上がるので、併用時はさらに低い・さらに緩徐な増量が必要である。逆に(カルバマゼピン・フェニトインなど)の併用では濃度が下がる(→ )。

T型Caチャネル遮断(視床)

α2δリガンド(鎮痛補助薬の主役)

のα2δに結合し、の放出を減らす。に第一選択級。

⚠️ (・)は乱用・依存が問題化しが変わった。 英国では2019年4月、乱用・依存への懸念からとが(1971年法の Class C、2001年規則の Schedule 3)へ再分類された。イングランドの処方データでは、オピオイドに対するの処方比率が2015年から2020年にかけて20%超上昇する一方、再分類のあった2019年には全地域でいったん低下し、ロンドンの委託地域以外では2020年まで持続しなかった3。またへの効果はで否定されている(群とプラセボ群で脚痛強度に有意差なし、有害事象は群で多い)4。

外用の鎮痛補助薬

  • — (1)作動→一次の|適応:局所の|⚠️低濃度の反復塗布用製剤と、医療機関で30〜60分だけ貼る高濃度8%は運用がまったく違う(後者は・防護・血圧監視を要する)

GABA増強

バルビツール酸系

ベンゾジアゼピン(重積の第一選択)

GABA再取り込み阻害

  • — の輸送体GAT-1を選択的に阻害→の↑|適応:の|⚠️・を悪化させる。てんかんのない患者にも新規の発作・を起こしうる

GABAトランスアミナーゼ阻害

  • — 不可逆的阻害→↑|適応:難治性焦点てんかん・|⚠️不可逆的。によるでは単剤第一選択だが、その他では専門医管理下で高用量との併用が第一選択となる

💡 「を増やせば発作が減る」は単純には成り立たない。 は・を悪化させ、てんかんのない人にさえ発作を起こしうる。⭐ 発作型を確かめずに機序だけで選ぶと悪化させるという点は、が・を悪化させるのと同じ構図である。

SV2A結合(シナプス小胞タンパク質)

グルタミン酸拮抗

広域・複数機序

  • バルプロ酸 — ↑・Na遮断・T型Ca|適応:(〜全般)・・|⚠️妊娠中曝露による重大な胎児奇形・、肝毒性(→下記⚠️)
  • — Na遮断・増強・AMPA/拮抗・|適応:てんかん・|⚠️腎結石・体重減少・・・。妊娠可能な女性ではの妊娠予防措置に従う
  • — Na・T型Ca遮断+弱い|適応:(補助)|⚠️腎結石

⚠️ バルプロ酸の生殖リスクは「注意」ではなく上の禁忌であり、しかも適応ごとに書き分けられている。平坦に「妊娠中は避ける」と覚えない。 (EMA)の2018年の審査は、片頭痛とでは妊娠中および妊娠可能な女性に禁忌、てんかんでは他に適切な治療が無い場合を除き妊娠中に開始してはならないとし、妊娠可能な女性ではいずれの適応でも(妊娠の可能性の評価・妊娠検査・確実な避妊についての説明・専門医による年1回以上の見直しとリスク確認書)の条件を満たさない限り禁忌とした5。⭐ 「てんかんでは代替が無い少数の女性がいる」という但し書きまで含めて一組で覚える——適応で線引きが違うことを落とすと、必要な治療を奪う方向にも、危険な投与を許す方向にも倒れる。

⚠️ 2024年からは男性患者にも予防的措置が課されている。 EMAは、3か月にバルプロ酸で治療された男性の児でが増える可能性に対し、①てんかん・・片頭痛に習熟した専門医による開始と監督、②患者本人と女性パートナー双方の確実な避妊を考慮する必要の説明、③挙児計画時を中心とした治療継続の定期的な見直し、を2024年1月に導入した6。⚠️ ただしは確立していない。 PRACは、根拠となった研究に適応や追跡期間の違いという限界があり「増加が示唆されたがバルプロ酸の使用によるものかは判定できなかった」と明記しており6、2026年6月の見直しでも新しいデータでは所見が一貫せずは不確実としたうえで2024年の措置は維持するよう勧告している7。⭐ 「は未確立」と「措置は維持」は両立する——予防的措置は因果の証明を待たずに置かれる。

⚠️ 患者に自己判断で中止させない。 発作の再発そのものが母体・胎児の危険になるため、妊娠が判明した場合も含めて中止・変更は専門医の管理下で行う。

⚠️ バルプロ酸は抗菌薬と併用すると血中濃度が急落する。 台湾の(併用患者52例)で、・/・のいずれも投与開始24時間以内にバルプロ酸血中濃度を急落させ、90%の症例で治療域を下回った。低下率は72±17%・67±19%に対し/は42±22%で、前2剤の影響のほうが有意に大きい(P<0.005)ため、併用は避けるべきとされる8。

⭐ 2つの軸の順位が逆であることが、この相互作用のいちばんの学習点である。 発作そのものを起こしやすいのは(報告された発作率3〜33%に対し、・・は1%未満)だが、バルプロ酸濃度を最も下げるのはとである。「だから危ない」で束ねると剤の選択を誤る。→ Core70:薬剤性:てんかん様発作

ドラベ症候群で使う薬

+バルプロ酸で不十分なときの薬という位置づけで、単剤では使わない。

  • — ヒトでの抗けいれん機序は未確定。添付文書は-A受容体を介したと、・CYP2C19阻害によりの血中濃度を押し上げる間接効果を併記する|⚠️併用薬の減量が必要になる
  • — 促進・5-HT受容体作動|適応:・|⚠️かつてとして用いられ・との関連で1997年に撤退した分子である。再登場にあたり定期的なによる監視がに組み込まれている

⭐ 高頻度ポイント(発作型と症候群で選ぶ):=/を第一選択として検討、単独=、=/バルプロ酸、=//バルプロ酸。バルプロ酸は妊娠可能な女性で適応ごとに禁忌の線引きが違い、男性にも2024年から予防的措置が課されている。=ベンゾジアゼピン→/フェニトイン系/バルプロ酸(ベンゾジアゼピン抵抗例ではこの3剤の有効性は同等だったとするESETT試験の報告がある9)。は原因により、単剤または高用量との併用を専門医が選ぶ。カルバマゼピン・フェニトインは・を、は・を悪化させうる。毒性:フェニトイン=、=、=腎結石/体重減少/、バルプロ酸=妊娠中曝露の重大なリスク・男性への予防的措置・肝毒性、カルバマゼピン/=SJS、=、=(心エコー監視)。

📋 まとめ表

薬剤 系統 適応 注意
カルバマゼピン ①Na遮断 ・ (-B*15:02。東南アジア系に多く欧州系では関連なし)・低Na血症・
①Na遮断 低Na血症
フェニトイン ①Na遮断 ・けいれん性重積の第二選択 ・・(Kmが治療域より下)
①Na遮断+グルタミン酸↓ 焦点・全般・のうつ予防 SJS(緩徐増量。バルプロ酸併用でさらに緩徐に)
①Na緩徐不活性化
①Na不活性化延長
②T型Ca遮断 単独(第一選択) 消化器症状
③ ・・GAD・線維筋痛 鎮痛補助の主役・浮腫・体重増加
③ ・焦点補助・RLS 鎮痛補助・英国では
③外用の鎮痛補助薬 局所の 高濃度8%は医療機関で30〜60分のみ
④() てんかん・重積・ ・鎮静
④(→) てんかん・ 代謝物が活性
④(ベンゾジアゼピン) ・ 重積の第一選択
④(ベンゾジアゼピン) (筋注・鼻腔)
④(ベンゾジアゼピン) ・・重積・パニック
④(GAT-1) (補助) 全般・を悪化。の
④阻害 難治性焦点てんかん・ 原因によりステロイド併用・不可逆的
⑤SV2A結合 焦点・全般・重積 ・攻撃性などの・相互作用少
⑤SV2A() 類似
⑥AMPA拮抗 焦点・(補助) 精神症状
⑥NMDA拮抗+-A 難治 ・肝毒性
バルプロ酸 ⑦広域 広域・・ 適応ごとに異なる+・男性への予防的措置・肝毒性・併用で濃度急落
⑦広域 てんかん・ 腎結石・体重減少・・
⑦広域 (補助) 腎結石・
併用専用() +バルプロ酸への ・CYP2C19阻害で併用薬が上がる
併用(ドラベ・レノックス・ガストー) 難治性発作 ・肺高血圧の既往ゆえ心エコー監視が条件

出典

  1. 1.Carbamazepine Therapy and HLA Genotype(NCBI Medical Genetics Summaries(CPIC/FDA添付文書に基づく)・2025)HLA-B*15:02陽性でカルバマゼピン未使用の患者には使用を避けるようCPIC・FDAが勧告していること。HLA-B*15:02の保有率は東南アジア系集団(特に漢民族系)で高く、この対立遺伝子の頻度は集団によって大きく異なること閲覧 2026-08-27
  2. 2.Physiology, Zero- and First-Order Kinetics(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)代謝酵素が飽和すると一次速度論からゼロ次速度論へ移行するとされ、フェニトインでは小さな用量増加が不釣り合いに高い血中濃度を生む代表例として挙げられていること閲覧 2026-08-27
  3. 3.Opioid and gabapentinoid prescriptions in England from 2015 to 2020(PLoS ONE・2022)英国イングランドの2015年4月〜2020年2月の処方データ(OpenPrescribing)を用いた研究で、オピオイドに対するガバペンチノイドの処方比率が2015年から2020年にかけて20%超上昇したこと、2019年に全地域で同比率の低下が起きたがロンドンの委託地域以外では2020年まで持続しなかったこと(ロンドンは2018年比で-14.4%、95%CI -12.8〜-16.3)。なお本論文は序論で、英国の薬物乱用諮問委員会が2016年にプレガバリンとガバペンチンを1971年薬物乱用法の Class C・2001年薬物乱用規則の Schedule 3 とするよう勧告し、英国が2019年4月に規制物質へ分類したと述べているが、これは他文献の引用であって本論文自身が報告したデータではない閲覧 2026-08-27
  4. 4.Trial of Pregabalin for Acute and Chronic Sciatica(The New England Journal of Medicine・2017)坐骨神経痛患者209例(オーストラリア、無作為化二重盲検プラセボ対照試験)で、プレガバリン(1日最大600mgまで漸増)を8週間投与しても脚痛強度スコアはプラセボ群と有意差がなく(補正後平均差0.5、95%CI -0.2〜1.2)、52週時点でも有意差がなかった一方、有害事象はプレガバリン群で有意に多かったこと閲覧 2026-08-27
  5. 5.Valproate and related substances - referral(European Medicines Agency・2018)妊娠可能性がある人にはバルプロ酸を、妊娠検査・有効な避妊・専門医の定期評価を含む妊娠防止プログラムの条件を満たさない限り使用してはならないという現行規制。片頭痛・双極性障害では妊娠中および妊娠可能な女性で禁忌、てんかんでは他の治療が適さない場合を除き妊娠中に開始してはならないと適応ごとに書き分けられており、妊娠防止プログラムはリスクの評価・妊娠検査・確実な避妊についての説明・専門医による年1回以上の見直しとリスク確認書から成ることを確認した閲覧 2026-09-22
  6. 6.Precautionary measures to address potential risk of neurodevelopmental disorders in children born to men treated with valproate medicines(European Medicines Agency・2024)2024年1月24日にCMDhが承認した男性患者向けの予防的措置——てんかん・双極性障害・片頭痛の管理に習熟した専門医による開始と監督、受胎前3か月が問題になるため患者本人と女性パートナー双方の確実な避妊を考慮する必要の説明、挙児計画時を中心とした治療継続の定期的な見直し——を確認した。あわせてPRACが、研究には適応や追跡期間の違いという限界があり「増加が示唆された神経発達障害がバルプロ酸の使用によるものかは判定できなかった(could therefore not establish)」と述べていることも確認した閲覧 2026-09-22
  7. 7.Meeting highlights from the Pharmacovigilance Risk Assessment Committee (PRAC) 8-11 June 2026(European Medicines Agency・2026)2026年6月のPRACが、男性患者のバルプロ酸曝露と児の神経発達障害との関連について新しいデータでは所見が一貫せず因果関係は不確実であるとしつつ、2024年に導入された予防的措置は維持するよう勧告したことを確認した閲覧 2026-09-22
  8. 8.The Effect of Different Carbapenem Antibiotics (Ertapenem, Imipenem/Cilastatin, and Meropenem) on Serum Valproic Acid Concentrations(Therapeutic Drug Monitoring・2016)台湾の5年間の後方視的研究(バルプロ酸とカルバペネム系を併用した入院患者52例)で、エルタペネム・イミペネム/シラスタチン・メロペネムのいずれの併用でも投与開始24時間以内にバルプロ酸血中濃度が急落し90%の症例で治療域を下回ったこと。低下率はエルタペネム72±17%、メロペネム67±19%、イミペネム/シラスタチン42±22%で、エルタペネムとメロペネムの影響はイミペネム/シラスタチンより有意に大きかった(P<0.005)。この相互作用のため両薬の併用は避けるべきとされていること閲覧 2026-08-27
  9. 9.Randomized Trial of Three Anticonvulsant Medications for Status Epilepticus(The New England Journal of Medicine・2019)ベンゾジアゼピン抵抗性のけいれん性てんかん重積状態の小児・成人384例(再登録16例含む)を対象にしたESETT試験(無作為化・適応的デザイン)で、レベチラセタム・フォスフェニトイン・バルプロ酸のいずれも60分後の発作消失・意識レベル改善達成率が45-47%と同等であり、事前規定の無効性中止基準により早期に試験が打ち切られたこと(3群間で重篤な有害事象の発生率に有意差はなかったこと)閲覧 2026-08-27