疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 症候群

乳児てんかん性スパズム症候群

Infantile epileptic spasms syndrome

別名
IESS
臓器系
神経小児
科目
NeurologyPharmacology
トピック
神経内科 G2-29:てんかん発作とてんかん(鑑別診断・分類・原因)薬理学 A21:抗てんかん薬・鎮痛補助薬
上位概念
てんかん
続発疾患
Lennox-Gastaut症候群全般的発達遅滞
治療薬
ビガバトリンプレドニゾロン
症状
発作退行
原因となる疾患
結節性硬化症

🧠 全体像(IESS)は、生後1〜24か月(ピーク3〜12か月、平均発症年齢3〜7か月)に発症するてんかん性スパズムを核とするてんかん性脳症の代表例である。かつて「」と呼ばれてきた病態は、ILAEの現行用語ではIESSという広い概念に統合された歴史的な名称であり、点頭発作・ヒプスアリスミア・発達停滞/退行という三徴をすべて満たす例を指す集団として位置づけられる——三徴が揃わない例もIESSに含まれる点が、旧来の「」との最大の違いである。この症候群を理解する核心は時間との勝負にあり、発症から治療開始までの遅れが短いほど発達転帰が良いことが知られている。治療は病因で分岐し、に伴う例では単剤が第一選択、それ以外では療法または高用量副腎皮質ステロイドが軸になる。

病態

IESSの病因は3群に分類される。症候性(既知の病因があり発達遅滞を伴う)が最多で、出生前(などの神経候群、)・周産期()・出生後(髄膜炎・脳炎、)に細分される。原因が同定されないが10〜40%を占め、発症前の発達が正常で画像・診察に異常を認めない特発性はまれである1は症候性IESSの中でも代表的かつを左右する原因であり、の項に譲る。

flowchart TD
    A["生後1〜24か月に発症するてんかん性スパズム"] --> B{"病因を検索"}
    B -->|"症候性(最多)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cortical dysplasia'>皮質形成異常</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Tuberous sclerosis'>結節性硬化症</span>など神経<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dermopathy'>皮膚症</span>候群・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxic-ischemic encephalopathy (HIE)'>低酸素性虚血性脳症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrauterine (congenital) infection'>胎内感染</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inborn error of metabolism'>先天代謝異常</span>など"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cryptogenic'>潜因性</span>(10〜40%)"| D["原因不明"]
    B -->|"特発性(まれ)"| E["発症前の発達・画像・診察が正常"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroencephalography, EEG'>脳波</span>でヒプスアリスミアを確認"]
    D --> F
    E --> F
    F --> G["IESSと診断し治療を急ぐ"]

発症率は出生10,000人あたり1.6〜4.5人で、米国では年間約2,000〜2,500例が新規発症するまれだができない症候群である1

West症候群

」はIESSに統合された歴史的な名称であり、別の疾患として扱わない。 ILAEの現行用語ではIESSがより広い概念で、次の三徴をすべて満たす例だけがと呼ばれる、という関係にある2

徴候 内容
点頭発作(てんかん性スパズム) 体幹・四肢の急激な屈曲または伸展が(群発)で出現する発作。覚醒直後に多い
ヒプスアリスミア 上の無秩序で高振幅の・棘波が持続するパターン
発達の停滞または退行 それまで獲得していた発達の里程標が止まる、または失われる

⚠️ IESSはこの三徴すべてを診断の必須条件としない点がとの違いである。 点頭発作とヒプスアリスミアはあっても、評価時点では発達の停滞・退行がまだ明らかでない例もIESSに含まれる2。「」というの通称も、歴史的にはこの古典像()を指して使われてきた語であり、現行の診断・分類上はIESSという語を用いる。

臨床像

点頭発作は体幹の急激な(屈曲型)、伸展(伸展型)、またはその混合(混合型)としてで出現し、1回のに数十回の発作が含まれることがある。覚醒直後や入眠前に多く、を伴うことがあるため、当初は疝痛・と誤認されやすい。保護者が「びくっと縮こまる動作を繰り返す」と表現する動画記録は診断の重要な手がかりになる。

⚠️ 発達の停滞・退行は発症時には目立たないこともあり、点頭発作を「単なる反射」として見過ごすと発見が遅れる。 発作様式そのものの認識が受診・治療開始の起点になる。

診断

検査(可能なら睡眠時を含む)でヒプスアリスミアを確認する。覚醒時には像にとどまることがあり、睡眠時の評価が診断感度を高める。診断確定後は、病因検索としての脳病変などのを検索)、代謝・遺伝学的評価を行う。

治療

治療開始までの遅れは発達転帰を悪化させるため、診断がついたら速やかに治療を開始する1

flowchart TD
    A["IESSと診断"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Tuberous sclerosis'>結節性硬化症</span>に伴うか"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vigabatrine'>ビガバトリン</span>単剤が第一選択"]
    B -->|"いいえ"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ACTH'>副腎皮質刺激ホルモン</span>療法<br>または高用量副腎皮質ステロイドが第一選択"]
    C --> E["視野検査を定期的に実施(不可逆的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual field defect'>視野障害</span>の監視)"]
    D --> F["専門医管理下で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vigabatrine'>ビガバトリン</span>併用を検討することもある"]

合併症・移行

IESS(を含む)は、Lennox-Gastaut症候群(LGS)症例のおよそ10〜30%で先行する症候群の一つであり、経過とともにLGSへ移行しうる4。発達の停滞・退行は治療反応が乏しいほど遷延しやすく、に至る例が少なくない。

まとめ

  • IESSは生後1〜24か月に発症するてんかん性スパズムを特徴とする広い概念で、点頭発作・ヒプスアリスミア・発達停滞/退行の三徴をすべて満たす例が、歴史的名称である「」としてその中に含まれる。
  • 病因は症候性(最多、などを含む)・・特発性に分かれ、発症率は出生10,000人あたり1.6〜4.5人とまれである。
  • 診断はでのヒプスアリスミア確認とMRIによる病因検索で行う。治療開始までの遅れは発達転帰を悪化させるため、速やかな治療開始が重要である。
  • に伴う例は単剤が第一選択、それ以外はACTH療法または高用量副腎皮質ステロイドが第一選択である。
  • IESSはLGS症例の10〜30%で先行症候群となり、発達の停滞・退行はへ移行しうる。

出典

  1. 1.Infantile Epileptic Spasms Syndrome (West Syndrome)(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)IESSがWest症候群(点頭発作・ヒプスアリスミア・発達停滞/退行の三徴)を満たさない例も含むよう再分類された広い上位概念であること(Introduction節)、典型例の治療の第一選択が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によるホルモン療法であること、結節性硬化症を伴う例ではビガバトリンがより有効であること(Treatment/Management節)、発症から治療開始までの遅れが短いほど転帰が良いこと(Prognosis節)、発症率が出生10,000人あたり1.6〜4.5人・米国で年間約2,000〜2,500例の新規発症であること、平均発症年齢が3〜7か月であること(Epidemiology節)、病因分類が症候性(既知の病因+発達遅滞を伴う)・潜因性(原因不明、10〜40%)・特発性(発症前の発達正常、画像・診察正常)の3群であり症候性はさらに出生前・周産期・出生後に細分されること(Etiology節)を確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Infantile Epileptic Spasms Syndrome (IESS)(epilepsydiagnosis.org(International League Against Epilepsy)・2024)IESSが生後1〜24か月(ピーク3〜12か月)に発症するてんかん性スパズムで定義される広い上位概念であり、点頭発作・ヒプスアリスミア・発達の停滞または退行という三徴を満たす例がWest症候群としてこの中に含まれるという関係にあることを確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.Tuberous Sclerosis Complex(GeneReviews(NCBI Bookshelf)・2024)結節性硬化症に伴う乳児てんかん性スパズムの治療でビガバトリンが第一選択として推奨されること、臨床発作の発症前に開始する先制的ビガバトリン投与はスパズムの発症を予防または遅らせうるが、発達・神経学的転帰を早期発見・早期発作コントロールのみで得られる水準以上に改善するとは示されていないこと(Seizures節)を確認した閲覧 2026-08-11
  4. 4.Lennox-Gastaut Syndrome (LGS)(epilepsydiagnosis.org(International League Against Epilepsy)・2024)LGS症例の約10〜30%が乳児てんかん性スパズム症候群(IESS)や早期乳児発達性てんかん性脳症(EIDEE)など先行するてんかん症候群から移行することを確認した閲覧 2026-08-11