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Disease Atlas · 神経 · 疾患

内頸動脈解離

Internal carotid artery dissection

別名
頸動脈解離内頸動脈解離症
臓器系
神経循環器
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-14:内頸動脈循環障害の臨床症候群神経内科 G2-27:若年成人の脳血管障害神経内科 G1-01:瞳孔支配の障害
上位概念
頸部動脈解離
鑑別疾患
くも膜下出血巨細胞性動脈炎大動脈解離頸動脈狭窄症
続発疾患
脳梗塞一過性脳虚血発作
関連疾患
自然冠動脈解離
治療薬
アセチルサリチル酸クロピドグレルワルファリンアルテプラーゼ
症状
頸部痛頭痛Horner症候群眼瞼下垂縮瞳耳鳴一過性黒内障

🧠 全体像:は「動脈壁の中に血腫ができる病気」であって、のように内腔が縦に裂けて破裂する病気ではない。が内腔を押しつぶせば狭窄・閉塞となり、外側へ膨らめば周囲のと脳神経を圧迫する。だから最初に出るのは片側の・と、を伴わない不完全という「局所の症候」で、脳虚血はそこから数時間〜数日遅れてやってくる。この時間差こそが介入の窓であり、痛みとの段階で気づけばを防げる。若年成人の脳卒中で必ず思い出す疾患である。

定義と疫学

は、内膜と中膜(あるいは外膜)のあいだに血液が入り込んでを形成し、内腔の狭窄・閉塞またはを来す病態である1。としてと一括して扱われることが多く、その発症率は人口10万人あたり年間2.6〜3.0と低いが、平均発症年齢は44歳と若く、動脈硬化に次ぐ若年・中年成人の脳卒中原因である21。15〜20%では複数の頸部動脈が同時に侵される2。

危険因子として高血圧と片頭痛が報告され、PHACTR1遺伝子の一般的な多型との関連も知られる。誘因には頸部の大小の外傷(頸部の急な回旋・伸展、スポーツ、のなど)やがある2。まれに・などのやの部分症状として起こる。同じ非動脈硬化性の動脈症という枠でと並べて理解しておくとよい。

⚠️ と同じ言葉を使うが、別の病気である。 は高血圧・を背景に内腔がへ裂け、破裂・分枝虚血・が問題になり、と外科・が治療の柱になる。では破裂はまず問題にならず、血栓塞栓による脳虚血が唯一と言ってよいで、治療はである。に走らない。

病態生理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intimal tear'>内膜裂傷</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasa vasorum'>栄養血管</span>の破綻"] --> B["動脈<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramural'>壁内</span>へ血液が入り<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramural hematoma (IMH)'>壁内血腫</span>を形成"]
    B --> C["内腔側へ張り出す<br>狭窄・閉塞"]
    B --> D["外膜側へ張り出す<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dissecting aneurysm'>解離性動脈瘤</span>・周囲組織の圧迫"]
    C --> E["露出した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subintimal tissue'>内膜下組織</span>に血栓が形成される"]
    E --> F["血栓が遠位へ飛ぶ<br>塞栓性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral infarction'>脳梗塞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal ischemia'>網膜虚血</span>"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade stenosis'>高度狭窄</span>・閉塞で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collateral circulation'>側副血行</span>が不十分なら<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemodynamic'>血行力学性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='watershed infarct'>境界域梗塞</span>"]
    D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sympathetic plexus'>交感神経叢</span>の圧迫<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='postganglionic Horner syndrome'>節後性Horner症候群</span>"]
    D --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower cranial nerves'>下位脳神経</span>の圧迫<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoglossal nerve palsy'>舌下神経麻痺</span>など"]

機序は(内腔の血流が内膜の破綻部からへ流入する)と(動脈壁のが破れてに出血する)に分けられる1。

💡 の主体は「詰まったから」ではなく「飛んだから」である。 によるの多くは、解離部に生じた血栓が遠位へ飛ぶによる。だから狭窄の程度が軽くてもは起こるし、逆にが治療の中心になる。のは、・閉塞に不全が重なったときに加わる。

三徴と臨床像

古典的な三徴は①同側の頭頸部痛、②不完全、③遅れて起こる脳虚血である。ただし三徴が揃うのは一部で、揃うのを待ってはならない。

症候 内容 成り立ち
頭頸部痛 片側の・やの頭痛。急性発症で、多くは解離側 動脈壁の伸展と外膜のの刺激
不完全 とはあるが顔面のを伴わない 周囲の(・3次ニューロン)の圧迫。はに沿うため保たれる
脳虚血 ・、や 解離部血栓の塞栓、または
解離部のをする 狭窄部の血流異常
による舌の偏位、、嗄声など 内で走行する脳神経の圧迫

⚠️ 公表された症例集積では、の3分の2〜4分の3で脳虚血を合併し、その多くは局所症状の数時間〜数日後に起こる2。痛みとだけの段階は「軽症」ではなく、の前段階である。この時間差の存在が、局在診断でを拾う臨床的な価値そのものになっている(局在の詳細はの項に譲る)。

⚠️ 頭蓋外解離では通常は起こらないが、解離がへ伸展した例外的な場合には起こりうる2。を始める前に、頭痛の性状と画像で解離の頭蓋内伸展を確認する理由がここにある。

椎骨動脈解離・頭蓋内動脈解離との異同

痛みの部位 前頸部・・ 後頸部・後頭部 前駆頭痛が約80%2
虚血の領域 (が中心) (など) 30〜78%で脳虚血2
主な合併症 脳虚血。は例外的 脳虚血。頭蓋内伸展例で が50〜60%2
急性期の ・抗凝固薬のどちらでもよい と同様に扱う 出血リスクからが優先される

💡 頭蓋内動脈は中膜の弾性線維が乏しくを欠くため、解離が外膜側へ抜けやすい。 これが「頭蓋内解離ではが主役、頭蓋外解離では脳虚血が主役」という臨床像の差を作る。頭蓋内解離ではを除外せずに抗凝固を始めない2。

診断

第一選択はAまたはMRAで、狭窄・閉塞・・を評価する。内腔だけを見る検査(超音波・・MRA・)は壁の変化を内腔形態から間接的に推定するため早期の質的診断が難しく、内腔が正常に見える壁病変を見落としうる1。

  • ので、狭小化した内腔をに取り囲む高信号(のメトヘモグロビン)を探す。頸部の脂肪の高信号を消さないと血腫と区別できないので、が必須である。
  • 3次元でのの検出率は全体で50%を超え、発症1〜2週にピークとなる1。血腫の信号強度はに変化するので、その強度から発症時期を推定することもできる1。
  • では内腔の先細り(先細り状の狭窄)やの壁肥厚として写る。は非侵襲画像で判断がつかないときや治療計画時に限る。

⚠️ 発症ごく早期はが出にくい。 検出率が1〜2週でピークになるということは、発症直後のが陰性でも解離を否定できないということである。臨床的な疑いが強ければ、画像を繰り返すか、まず治療を始めて再評価する。

治療

急性期の柱はの適応判断とである。

場面 方針 根拠の強さ
解離に伴う急性 標準的な適応基準を満たせば発症4.5時間以内の静注を行う 推奨2
の を行う 弱い提案(エビデンスの質は非常に低い)2
急性期の 抗凝固薬・のどちらを選んでもよい 強い推奨(エビデンスの質は中等度)2
亜急性期の残存狭窄・ ルーチンには・を行わない の合意2

⭐ 「か抗凝固か」は決着していないのではなく、「どちらでもよい」が現在のである。 根拠となる無作為化試験(CADISS)との数値はの項に譲る3。ESOガイドラインがCADISSとTREAT-CADのプロトコル適合解析を統合したでも、抗凝固群ののは0.35(95%信頼区間0.08〜1.63)、は0.18(0.03〜1.10)、大出血は3.28(0.34〜31.80)で、いずれも有意差が無かった2。

💡 ただし「差が無い」は「同等が証明された」ではない。 同ガイドラインが引用するTREAT-CADでは、プロトコル適合173例でがアスピリン群23%・群15%(絶対差8%、95%信頼区間 −4〜21、のp値0.55)となり、アスピリンのは示されなかった。7件のは全てアスピリン群に生じている。いずれも第2相試験で検出力が不足しており、小さいが重要な差を否定できない2。

⚠️ TREAT-CADの7件のうち5件は治療開始の翌日に起きた2。どちらの薬を選ぶかより、選んだ薬をすぐ始めることのほうが結果を左右する。

投与期間を決める良質なエビデンスは無い。先行するESO-Karolinskaガイドラインはgrade Cで6〜12か月のを推奨し、完全にして再発症状が無ければ中止を考慮、残存するや狭窄があれば長期のを推奨していた。2つの無作為化試験の介入期間はいずれも3か月である2。の合意としては、抗凝固を選ぶならをワルファリンの代わりに使ってよく、・軽症の急性期にはとの2剤併用を数週間に限って用いるのが妥当とされた2。

経過と予後

頭蓋外解離の血管病変は動的で、6か月以内に33〜90%で狭窄の消失またはが起こる。は40〜50%で消失・縮小するが、増大したり新たに生じたりもする——CADISSでは登録時264例中24例にがあり、3か月時点で追跡できた248例中36例に認められた(登録時の12例が残存し、24例が新たに生じた)2。この「は残っても新しくできても、再発虚血にはほとんどつながらない」という観察が、亜急性期にを行わない根拠になっている。

鑑別

  • :突発する激烈な頭痛という点で重なる。解離が頭蓋内へ伸展した例では両者が同時に成立するため、「どちらか」ではなく「があるか」を先に決める。
  • :高齢者の痛・視力障害。炎症反応の上昇との圧痛で分かれる。
  • :と同側のという組み合わせがとそっくりになる。初発のエピソードで既往の反復が無いときは、と決める前に血管画像を撮る。
  • ・:だけで受診した例を整形外科的に処理しないための最後の関門が、瞳孔と眼瞼の診察である。

まとめ

  • はによる狭窄・閉塞・であり、とは機序も治療も別である。
  • 三徴は同側の頭頸部痛・不完全(を伴わない)・遅れて起こる脳虚血で、揃わないことのほうが多い。
  • 発症率は10万人年あたり2.6〜3.0と低いが平均44歳と若く、若年成人の脳卒中の主要原因である。
  • 頭蓋外解離の3分の2〜4分の3で脳虚血を合併し、多くは局所症状の数時間〜数日後に生じる。この時間差が介入の窓になる。
  • 診断はA・MRAとのの。の検出は発症1〜2週にピークとなるため、早期の陰性で否定しない。
  • 急性期は適応があれば静注・を行い、は・抗凝固薬のどちらでもよい。ただし開始を遅らせない。
  • 期間は6〜12か月が目安で、すれば中止を考慮する。亜急性期の残存狭窄・にをルーチンに置かない。
  • は後と症状で、頭蓋内解離はが主役という違いを押さえる。

出典

  1. 1.High-resolution magnetic resonance vessel wall imaging in extracranial cervical artery dissection(Frontiers in Neurology・2025)頭蓋外頸部動脈解離が内膜と中膜あるいは外膜のあいだで動脈壁が離開する病態で、損傷した内膜から血液が壁内へ流入するか、動脈壁の栄養血管が破綻することで壁内血腫が生じ、内腔の狭窄・閉塞または解離性動脈瘤を来すこと。病理学的には内膜裂傷型と栄養血管破綻型の2つの機序が区別されること。頭蓋外頸部動脈解離が動脈硬化に次ぐ若年・中年成人の脳卒中原因の第2位であること。従来の内腔描出法(頸動脈超音波・CTA・MRA・血管造影)は壁の変化を内腔の形態異常から間接的に推定するため早期の質的診断が難しく、内腔が正常に見える壁病変を見落としうること。高分解能MR血管壁撮像は壁内血腫・内膜フラップ・二重腔・仮性動脈瘤・壁在血栓を直接描出できること。3次元T1強調黒血法での壁内血腫の検出率は全体で50%超で、発症1〜2週にピークとなること。壁内血腫の信号強度が経時的に変化するため、その強度から発症時期を推定しうること。なお脳虚血の約半数が解離形成から2週以内に起こるという記述、および抗血栓療法の至適期間になお議論があるという記述は、いずれも本総説が他文献を引用したものであること閲覧 2026-09-02
  2. 2.ESO guideline for the management of extracranial and intracranial artery dissection(European Stroke Organisation・2021)頭蓋外頸部動脈解離の発症率が人口10万人あたり年間2.6〜3.0と推定され、平均発症年齢は頭蓋外解離44歳・頭蓋内解離50歳であること。頭蓋外解離は頭痛・頸部痛・Horner症候群・脳神経麻痺という局所症候で発症し、公表された症例集積では3分の2〜4分の3で局所症状の数時間〜数日後に脳虚血(脳梗塞または一過性脳虚血発作)を合併すること。頭蓋外解離の15〜20%で複数の頸部動脈が侵されること。頭蓋内解離ではくも膜下出血が50〜60%、脳虚血が30〜78%、前駆頭痛が約80%であること。頭蓋外解離が硬膜内へ伸展したときに例外的にくも膜下出血を起こすこと。高血圧・片頭痛が危険因子で、PHACTR1遺伝子の一般的な多型が関連し、頸部外傷や先行感染が誘因として報告されること。急性期治療として、標準的な適応基準を満たせば発症4.5時間以内のアルテプラーゼ静注を推奨(強い推奨)、前方循環主幹動脈閉塞には機械的血栓回収を提案(弱い提案)すること。急性期の抗血栓療法は抗凝固薬・抗血小板薬のどちらを処方してもよい(エビデンスの質は中等度、強い推奨)こと。本ガイドライン自身がCADISSとTREAT-CADの各プロトコル解析を統合したメタ解析で、抗凝固群の複合エンドポイントのオッズ比0.35(95%信頼区間0.08〜1.63)、脳梗塞0.18(0.03〜1.10)、大出血3.28(0.34〜31.80)といずれも有意差が無く、3か月時点で両試験とも死亡が無かったこと。本ガイドラインが引用するTREAT-CADの結果として、プロトコル適合173例(アスピリン91例・ビタミンK拮抗薬82例)で複合エンドポイントがアスピリン群23%・拮抗薬群15%、絶対差8%(95%信頼区間 −4〜21)、非劣性のp値0.55でアスピリンの非劣性は示されず、7件の脳梗塞は全てアスピリン群に生じ、うち5件は治療開始翌日に起きたこと。抗血栓療法の期間について良質な情報は無く、先行するESO-Karolinskaガイドラインがgrade Cで6〜12か月を推奨し、完全再開通し再発症状が無ければ中止を考慮、残存する解離性動脈瘤・狭窄があれば長期の抗血小板薬を推奨していたこと。2つの無作為化試験の介入期間はいずれも3か月だったこと。専門家11名のうち3名を除く全員が抗凝固薬として直接経口抗凝固薬をビタミンK拮抗薬の代わりに使用しうるとし、1名を除く全員が一過性脳虚血発作・軽症脳梗塞の急性期に数週間に限ってアスピリンとクロピドグレルの2剤併用が妥当としたこと。亜急性期に残存狭窄・解離性動脈瘤がある頭蓋外解離患者への血管内治療・外科治療は、1名を除く全員がルーチンには行わないよう提案したこと。頭蓋外解離では6か月以内に33〜90%で狭窄の消失または再開通が起こり、解離性動脈瘤は40〜50%で消失または縮小する一方で増大や新生もありうること。CADISSでは登録時264例中24例に解離性動脈瘤があり、3か月時点で追跡できた248例中36例に認められ、登録時の12例が残存し24例が新たに生じたこと。頭蓋内解離と脳虚血を合併した例では、1名を除く全員が抗凝固薬より抗血小板薬のほうが有益性と危険性の比が優れるとしたこと閲覧 2026-09-02
  3. 3.Antiplatelet treatment compared with anticoagulation treatment for cervical artery dissection (CADISS): a randomised trial(The Lancet Neurology・2015)発症7日以内の頸部動脈解離(頸動脈・椎骨動脈)250例を抗血小板薬群と抗凝固薬群に無作為割付した英国・豪州の多施設試験(CADISS)で、3か月以内の同側脳卒中・死亡は抗血小板薬群2%・抗凝固薬群1%と両群間に有意差はなく(オッズ比0.335、95%信頼区間0.006-4.233)、観察研究で報告されていたほど脳卒中再発は多くなかったこと閲覧 2026-08-27