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Symptoms · Published

一過性黒内障

Amaurosis fugax

別名
一過性単眼視力障害黒内障
臓器系
眼科神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-14:内頸動脈循環障害の臨床症候群神経内科 G2-26:一過性脳虚血発作神経内科 G2-01:視力低下の神経学的原因と視野欠損
関連疾患
一過性脳虚血発作巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)

🧠 全体像は「目の症状」として片付けてはいけない——実体は網膜への一過性虚血であり、扱いはのような良性の視覚症状ではなく、脳卒中のそのものである。片眼が突然見えなくなり、数分でカーテンが上がるように元どおり見えるようになる、というこの「治ってしまう」経過こそが罠であり、視力が戻った時点で受診をやめてしまうと、背景にある同側源を放置することになる。だからこの症候の診療は、原因を探すこと自体が緊急対応であり、「見えるようになったから様子を見る」という選択肢は最初から存在しない。

定義と用語の整理

「見えなくなった」という訴えは、由来する部位ももまったく異なる病態を一括りにする。

用語 何を指すか 手掛かり
頸動脈由来の塞栓などによる網膜一過性虚血。痛みを伴わない(視野が欠ける) 片眼性。突然発症し、カーテンが下りて上がるように数分で完全に回復する。本ノートの主題
片頭痛に特有の(輝く要塞状の線) 両眼で同じ側()に現れ、片眼を閉じても消えない。5〜60分かけて緩徐に拡大する
など網膜由来の(一瞬の 片眼性で、片眼を閉じると消える。持続は一瞬

💡 患者の「片眼が見えなかった」を鵜呑みにしない。 を「片方の目がおかしい」と誤って申告する患者は多く、実際には両眼の同じ側の視野が欠けているであることがしばしばある。では「見えにくかったのはどちらの目か」ではなく、片目ずつ手で覆って確認したかを具体的に聞く。片眼を覆っても症状が変わらなければ両眼性()であり、覆った側で症状が消えれば真の片眼性である。この一問で、片眼性・・数分というの型に本当に合致するかが決まる。

は持続する視力障害を扱うノートであり、完全に回復する点で区別される。ただし回復したからといって原因が消えたわけではない。

病態生理

網膜は一本に灌流を依存する終末循環に近く、わずかな血流低下でも症状に直結する。原因は機序で群にまとめると鑑別が整理される。

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ 同側を、視力が戻ったからと様子見にしない。 網膜の一過性虚血はと同格のとして扱う。AHA/ASAはをTIA相当に分類し、NICEガイドラインは診断後24時間以内の緊急頸動脈画像評価(超音波が第一選択)・脳卒中専門医への紹介を求めている1。「見えるようになったから様子を見る」がこの症候における最悪の対応であり、などの抗血栓療法も原因を確認したうえで早期に開始する。
  • ⚠️ を年齢と随伴症状で疑ったら、生検を待たない。 50歳以上、新規の頭痛、・CRPの上昇を伴えばを疑い、確定診断(・画像)の結果を待たずに高用量副腎皮質ステロイドを開始する。治療が遅れれば対側眼も失明しうる。
  • ⚠️ 源の検索を怠らない。 心房細動の疣贅、を介したなど、頸動脈以外のも評価する。が正常だからといって源の検索を省略しない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["見えなくなったという訴え"] --> B{"片目ずつ覆って確認したか"}
    B -->|"未確認"| C["片目ずつ覆って再現性を確認する"]
    C --> B
    B -->|"覆った側で消える<br>=真の片眼性"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive symptoms'>陽性症状</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative symptoms'>陰性症状</span>か"}
    B -->|"覆っても変わらない<br>=両眼・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous'>同名性</span>"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homonymous hemianopia'>同名半盲</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintillating scotoma'>閃輝暗点</span>など<br>中枢性の原因を疑う"]
    D -->|"一瞬の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintillation flash'>閃光</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photopsia'>光視症</span>を疑う"]
    D -->|"カーテン様の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative symptoms'>陰性症状</span><br>数分で完全に回復"| F{"50歳以上で頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jaw claudication'>顎跛行</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythrocyte sedimentation rate, ESR'>赤沈</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated C-reactive protein'>CRP上昇</span>があるか"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='giant cell arteritis, GCA'>巨細胞性動脈炎</span>を疑い<br>生検を待たず高用量ステロイド"]
    F -->|"なし"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amaurosis fugax'>一過性黒内障</span>として<br>TIAに準じ緊急評価"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fundus examination (fundoscopy)'>眼底検査</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carotid ultrasonography'>頸動脈超音波</span>/CTA"]
    I --> K["心電図・心エコーで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardioembolism'>心原性塞栓</span>源を検索"]

対応の考え方

そのものを止める対症療法はなく、数分で自然に回復するのを待つほかない。対応の軸は症状が消えた後の原因検索と再発・にある。

  • 同側頸動脈狭窄が原因なら、を早期に開始し、狭窄度に応じてなど術の適応を評価する。
  • 心房細動など源があれば、ではなく抗凝固薬を選ぶ。
  • が疑われれば、確定診断を待たずに高用量副腎皮質ステロイドを開始する対応そのものが治療であり、遅らせることに利益はない。
  • いずれの原因でも、血圧・脂質・血糖など血管危険因子の包括的な管理を並行する。

まとめ

  • は片眼性・突然発症・で数分のうちに完全回復する網膜一過性虚血であり、脳卒中のとして扱う。
  • (両眼・・緩徐拡大)、(片眼・・一瞬)とは、片眼を覆って確認したかをで確かめることで切り分ける。
  • 機序は塞栓性()、血行力学性(頸動脈狭窄下の低灌流)、血管炎性()、血液学的異常、眼球自体の異常に群分けできる。
  • 同側と同格に扱い、視力が戻っても様子見にせず緊急の頸動脈画像評価と抗血栓療法を開始する。
  • を疑ったら生検の結果を待たずに高用量ステロイドを開始する。遅れは対側眼の失明につながる。
  • 心房細動・などの源の検索も、頸動脈評価と並行して行う。

出典

  1. 1.Amaurosis Fugax(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)一過性黒内障が米国心臓協会・米国脳卒中協会(AHA/ASA)により一過性脳虚血発作と同格に扱われること、英国NICEガイドラインが診断後24時間以内の緊急頸動脈画像評価・専門医紹介を求めていること、頸動脈超音波が第一選択の画像検査であること、高齢での顎跛行や頭皮圧痛・赤沈とCRPの上昇など巨細胞性動脈炎を疑う所見があれば生検の確定を待たず高用量ステロイドを開始すべきこと、塞栓性・心原性・血行力学性・血管炎性・血液学的異常・眼球自体の異常という機序分類を確認した。閲覧 2026-08-03