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Disease Atlas · 眼科 · 症候群

眼虚血症候群

Ocular ischemic syndrome

別名
静脈うっ滞性網膜症虚血性眼症
臓器系
眼科循環器
科目
NeurologyMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
神経内科 G1-14:内頸動脈循環障害の臨床症候群神経内科 G2-01:視力低下の神経学的原因と視野欠損解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
鑑別疾患
糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症
合併症
緑内障
治療薬
ベバシズマブ
症状
視力低下眼痛一過性黒内障霧視
画像所見
Hollenhorst斑
原因となる疾患
頸動脈狭窄症

🧠 全体像:は、の下流で起きる慢性の低灌流である。が「一度だけ塞栓が飛んで戻る」急性の出来事であるのに対し、こちらは眼球そのものがに酸素不足に置かれ続ける状態で、症状は数週から数か月かけてじわじわ進む片眼のと、鈍い眼の痛みとして現れる。この出方が最大の罠になる——痛みを伴う緩徐な片眼のは「加齢」「」として流されやすく、その裏に高度のがあるという事実にたどり着けない。しかも患者の5年死亡率は40〜50%に達し、死因は眼ではなく心筋梗塞と脳卒中である。眼科で見つかる所見が、心血管の予後を告げている。

位置づけ——一過性黒内障との違い

同じ頸動脈病変から出る候でも、機序とが違う。の機序分類でいう②の極型が、このである。

機序 多くは塞栓性(分岐部からの) 慢性の低灌流。のそのものが落ちている
経過 数分で完全に回復する発作 数週〜数か月かけて進む持続性の
痛み 伴わない 眼周囲の鈍い痛みが約40%に伴う1
眼底 は正常のことが多い の・拡張した静脈など持続する所見

⭐ の患者にもは10%に見られる1。両者は排他的ではなく、同じ病変の急性の顔と慢性の顔である。

病態と背景

はの枝なので、頸動脈の狭窄がそのまま眼球の低下になる。典型例ではまたはの90%以上の狭窄があり、約半数はしている1。StatPearlsの記載も「大半は同側の70〜90%を超える狭窄」で一致する2。ただしが乏しければ50%未満の狭窄でも症候性になりうる1——だけで否定できない。

平均発症年齢は約65歳で50歳未満はまれ、男性が女性の約2倍である1。

臨床像

症状

は90%超に見られ、経過は67%が数週から数か月の緩徐発症、12%が数日、12%が数秒から数分の急性発症である1。眼周囲の鈍い痛みが約40%に伴い、これが「眼の狭心症」と呼ばれる所以である1。明るい光を浴びた後、の色素再生に必要な代謝需要を灌流が支えきれず、回復が異常に遅れる(光誘発性の)ことも特徴的である。

前眼部——ここが見落とされる

  • ()。 突然のを来した患者のほぼ66%に生じる1(⚠️ 別の総説は母集団を限定せず所見の一つとして67%と記載しており、どの集団の値かで意味が変わる2)。
  • 軽微な。 フレアが50%、1+程度の細胞が18%に見られる2。のは約20%1。⚠️ これをぶどう膜炎と読んでステロイド点眼で終わらせない。
  • 、の鈍い中等度(の虚血による)2。

⚠️ が正常あるいは低いことは、の否定にならない。 病初期はまで虚血に陥っているためが減り、隅角にがあってもは正常か、むしろ低く出る2。を来した患者のうちを伴うのは50%にとどまる1。ではなく隅角とを見る——これがこの疾患で最も実務的な教訓である。

後眼部

のが80%に見られ、点状・斑状で融合しない1。は細く、静脈は拡張するがしない2。桜実紅斑が12%1、が見えることもある。

⚠️ 網膜中心静脈閉塞症との鑑別

出血・・という三点が重なるため、この2つを取り違えることが最も多い。

発症 数週〜数か月の緩徐進行が主 突然
眼痛 鈍い眼周囲痛が約40%1 通常は伴わない
拡張するがしない2 著明にする
数が少なく中心。点状・斑状2 多数。を含む全4の
細い。軽い圧迫で拍動する 通常は保たれる
軽微な、を伴う は目立たない
(60%、最も特異的)、11秒超(95%、最も感度が高い)1 静脈の。は保たれる

💡 決め手は「が遅れているかどうか」である。 は網膜側の還流の問題なのでは正常だが、はの入口で詰まっているため、網膜循環とがそろって遅れる。との鑑別では、片眼性であること・出血がに偏ること・眼痛を伴うことが手掛かりになる。

診断

が第一選択で、60〜99%狭窄の診断で感度94%・特異度92%である1。を疑った時点で、眼科の検査ではなく頸動脈の評価に進むのが正しい順序で、以後の全身評価はの項に従う。

治療

flowchart TD
    A["片眼の緩徐な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>+鈍い眼痛"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp'>細隙灯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonioscopy'>隅角検査</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='rubeosis iridis'>虹彩ルベオーシス</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber inflammation'>前房内炎症</span>を探す"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilated fundus examination'>散瞳下眼底検査</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='midperiphery'>中間周辺部</span>出血・拡張した非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tortuosity'>蛇行</span>性静脈"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescein angiography'>蛍光眼底造影</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed choroidal filling'>脈絡膜充盈遅延</span>・動静脈<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Transit time'>通過時間</span>延長"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carotid duplex ultrasonography'>頸動脈デュプレックス超音波</span>"]
    E --> F["同側の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade stenosis'>高度狭窄</span>・閉塞を確認"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='revascularization'>血行再建</span>の適格性評価<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carotid artery stenosis'>頸動脈狭窄症</span>の項に従う)"]
    F --> H["眼局所:網膜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neovascularization (new vessels)'>新生血管</span>があれば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='panretinal photocoagulation'>汎網膜光凝固</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-VEGF therapy'>抗VEGF療法</span>"]
    G --> I["全身:心筋梗塞・脳卒中の危険因子管理"]
    H --> I
  • 根本は頸動脈のである。 慢性のでは、後に60%の患者で視機能の改善が得られる1。・が確立してからでは、すでに不可逆的な変化が起きている。
  • ⚠️ の後にが上がりうる。 の灌流が戻ればが回復するのに、隅角が膜で塞がっていれば、そのぶんが上がる1。術後の管理を前提に計画する。
  • 眼局所ではがを減らして血管新生緑内障のリスクを下げ、(など)が血管新生とを抑える1。
  • はとを避け(炎症を惹起しうる)、を減らすβ遮断薬・を用いる1。
  • ⚠️ 眼の予後より生命予後のほうが悪い。 5年死亡率は40〜50%に達し、主因は心筋梗塞・脳卒中である2。眼科で診断がついた時点で、循環器・脳神経の評価へ確実につなぐ。

まとめ

  • はの下流で起きる慢性の眼低灌流で、数週〜数か月かけて進む片眼のと鈍い眼周囲痛が主症状である。加齢やとして流されやすい。
  • 典型例は同側頸動脈の90%以上の狭窄を伴い約半数はだが、が乏しければ50%未満でも起こる。
  • ではと軽微なが鍵で、⚠️ 虚血でが落ちるためは正常か低くてもが進行しうる。ではなく隅角とを見る。
  • はの点状・と、拡張するがしない静脈。は静脈が著明にし、出血がを含めて多数である点で分かれる。
  • の(60%、最も特異的)と動静脈11秒超の延長(95%、最も感度が高い)が決め手になる。
  • 治療の根本は頸動脈ので、慢性例の60%で視機能が改善する。⚠️ 術後はの回復によりが上がりうる。
  • 5年死亡率は40〜50%で死因は心筋梗塞・脳卒中。眼の所見が心血管の予後を告げている。

出典

  1. 1.Ocular ischemic syndrome secondary to carotid artery disease: a comprehensive review addressing critical early detection, management, and education(Frontiers in Ophthalmology・2026)平均発症年齢が約65歳で50歳未満の発症はまれであること、男性が女性の約2倍であること、典型例が総頸動脈または内頸動脈の90%以上の狭窄を伴い約半数は完全閉塞であること・側副血行に乏しければ50%未満の狭窄でも症候性の眼虚血症候群が起こりうること、視力低下が90%超に見られ経過は67%が数週から数か月の緩徐発症・12%が数日・12%が数秒から数分の急性発症であること、一過性黒内障が10%・眼周囲の鈍い痛みが40%に見られること、突然の視力低下を来した患者のほぼ66%に虹彩新生血管が生じ、そのうち50%で眼圧上昇を伴うこと、房水の混濁が約20%に見られること、網膜出血が80%に見られ中間周辺部の点状・斑状で融合しないこと、桜実紅斑が12%に見られること、フルオレセイン蛍光眼底造影で脈絡膜充盈遅延が60%に見られ最も特異的な所見であること・網膜動静脈通過時間11秒超の延長が95%に見られ最も感度の高い所見であること・後期の動脈壁染が85%・黄斑浮腫が17%に見られること、頸動脈デュプレックス超音波が60〜99%狭窄の診断で感度94%・特異度92%であり低費用と利用しやすさから第一選択の画像検査であること、慢性の眼虚血症候群患者の60%で内膜剥離術後に視機能の改善が得られること、同側内膜剥離術の後に眼圧が上昇しうることを考慮すべきであること、汎網膜光凝固が酸素需要を減らし血管新生緑内障のリスクを下げること、抗VEGF療法が血管新生と黄斑浮腫を制御すること、プロスタグランジン関連薬とピロカルピンは炎症を惹起しうるため避け房水産生を減らすβ遮断薬・α作動薬を用いること、眼虚血症候群が加齢による視力低下と誤られて発見が遅れやすいことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Ocular Ischemic Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)大半の患者が同側内頸動脈の70〜90%を超える高度狭窄を持つこと、網膜静脈の拡張が90%に見られる一方で網膜中心静脈閉塞症の静脈が著明に蛇行するのに対し眼虚血症候群の静脈拡張は蛇行に乏しく程度も軽いこと、眼虚血症候群の網膜出血が数に乏しく主として中間周辺部に分布すること、病初期には毛様体の虚血により房水産生が減って眼圧が正常あるいはむしろ低くなりうる一方で血管新生が進めば続発性血管新生緑内障として著明な眼圧上昇を来すこと、前房の軽度の炎症所見(フレア50%・1+の細胞18%)・虹彩ルベオーシス・虹彩萎縮・対光反応の鈍い中等度散瞳が見られること、長期追跡研究で5年死亡率が40〜50%に達し主因が心筋梗塞・脳卒中などの心血管イベントであること、治療に頸動脈内膜剥離術・汎網膜光凝固・硝子体内抗VEGF療法が含まれることを確認した。閲覧 2026-09-03