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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

糖尿病網膜症

Diabetic retinopathy

別名
Diabetic macular edema糖尿病黄斑浮腫DR
臓器系
眼科内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePathology
トピック
内科学 L-23:糖尿病の細小血管・大血管合併症内科学 E-11:糖尿病とその合併症の管理病理学 C/54:糖尿病
鑑別疾患
網膜静脈閉塞症
合併症
黄斑浮腫網膜剥離緑内障硝子体出血
治療薬
ベバシズマブ
症状
飛蚊症
元疾患
糖尿病

🧠 全体像は2つの軸で理解すると整理しやすい。第一の軸は病期の進行——単純(非増殖)から増殖前を経て増殖へという、血管障害が悪化していく縦の流れ。第二の軸は——これは病期のどの段階でも起こりうる横の合併症で、の原因として最も頻度が高い。「病期は進行するほど重いが、視力を奪うのは病期そのものよりを合併するかどうかで決まることが多い」という二軸構造が診療の骨格になる。

病態

慢性高血糖による網膜毛細血管の細胞・内皮が出発点で、が破綻し、・網膜内出血・(虚血によるの梗塞)が生じる。虚血が進むとが増加し、(血管新生)が生えてくる——これが単純から増殖への質的な転換点である。

flowchart TD
    A["慢性高血糖"] --> B["毛細<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericyte'>血管周皮細胞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮障害</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood-retina barrier'>血液網膜関門</span>破綻"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microaneurysm'>微小動脈瘤</span>・網膜内出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hard exudates'>硬性白斑</span>"]
    D --> E{"虚血の進行"}
    E -->|"軽度〜中等度"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonproliferative diabetic retinopathy, NPDR'>非増殖網膜症</span>(単純〜増殖前)"]
    E -->|"高度:VEGF増加"| G["増殖<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinopathy'>網膜症</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiogenesis'>新生血管</span>・線維血管増殖"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous hemorrhage'>硝子体出血</span>"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tractional retinal detachment'>牽引性網膜剥離</span>"]
    G --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neovascular glaucoma'>血管新生緑内障</span>"]
    C -.->|"病期を問わずどの段階でも起こりうる"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='DME'>糖尿病黄斑浮腫</span><br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>の最大原因"]

💡 DMEは「病期のどこか」ではなく「病期と直交する軸」。 軽症のでも黄斑部に浮腫が及べば視力は大きく低下しうる一方、周辺部だけの増殖でも黄斑が保たれていれば症状に乏しいことがある。病期の重症度と症状の重さは必ずしも一致しない。

病期分類

現在は国際(ICDR分類)が広く用いられる5段階の枠組みである1

病期 主な所見
なし 所見なし
軽症 のみ
中等症 に加え点状出血・
重症 4の広範な網膜内出血、2以上の静脈拡張、1以上の
増殖 ・網膜前出血

静脈拡張とIRMAは、増殖への進行を最も予測する所見である1。この2所見が目立てば「重症非増殖」の段階でも近い将来の増殖への移行を警戒する。

はこのとは独立した別軸のを持つ1。日本の臨床では病期をDavis分類・福田分類(新福田分類)で記載する慣行も残るが、国際的な現行の枠組みは上記の国際である。

リスク因子

が最も強い危険因子で、血糖・血圧の管理不良、、妊娠、腎症の合併が進行を早める。上・乳頭近傍(NVD)と網膜のその他のに分けて記載され、NVDは・失明のリスクがより高いとされる。

臨床像

  • 単純・増殖前無症候のことが多くで気づいたときにはすでに進行していることがある。
  • 増殖ではからの出血により急激なを来す()。
  • は中心視力の緩徐な低下・歪視としてされる。
  • 進行した増殖)、緑内障)に至り、いずれも放置すれば失明する。

診断・スクリーニング

(近年は無によるスクリーニングも普及)で・出血・を評価する。

初回検査のタイミングは1型と2型で異なる——2型糖尿病は診断がついた時点で開始し、1型糖尿病は診断後5年以内に開始する2。これは2型糖尿病が診断前から数年間高血糖に曝露されていることが多いのに対し、1型は発症時期が比較的明確なためである。

その後の間隔は、の所見が無い場合に限り1〜2年ごとでよく、軽症であっても何らかの程度のがあれば少なくとも年1回の検査を要する2がなく血糖・血圧が良好な低リスクの2型糖尿病では、選択例で3〜5年まで延長できる可能性が示されている3

⚠️ 妊娠はを加速させる。 既存のを持つ妊婦では、妊娠前および第1三半期に眼科検査を行い、その後はの程度に応じて各三半期ごと、さらに産後1年まで経過観察を要する2

治療

病期・病態 治療
血糖・全般 全病期の基盤。ただし急速な是正には注意(後述)
増殖 (周辺網膜をしVEGF産生を減らす)、抗VEGF注射
抗VEGF注射(等)が中心、病期を問わず適応となる
進行増殖

⚠️ 急速な血糖是正でが一過性に悪化することがある。 長期の高血糖からの急激な改善はとして正しいが、のモニタリングを緩めてよい理由にはならない2

まとめ

  • 病期(単純→増殖前→増殖)という縦軸と、という病期を問わず起こる横軸の二軸構造で理解する。DMEがの最大原因である。
  • 現行の分類は国際の5段階で、静脈拡張とIRMAが増殖への進行を最も予測する。
  • 初回スクリーニングは2型糖尿病が診断時、1型糖尿病が発症後5年以内で、以後はの所見が無ければ1〜2年ごと(低リスク例では3〜5年まで延長できる)、何らかの程度のがあれば少なくとも年1回とする。
  • 増殖・抗VEGF、DMEは抗VEGFが中心、進行例は
  • ⚠️ 急速な血糖是正による一過性悪化と、妊娠による進行加速に注意し、モニタリングを緩めない。

出典

  1. 1.12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)初回散瞳眼底検査を2型糖尿病は診断時、1型糖尿病は診断後5年以内に開始すること、網膜症の所見が無ければ1〜2年ごとの検査でよいが何らかの程度の網膜症があれば少なくとも年1回の検査を要すること、急速な血糖コントロール改善が一過性に網膜症を悪化させうること(early worsening)、既存網膜症を持つ妊婦は妊娠前および第1三半期に検査し網膜症の程度に応じて各三半期・産後1年まで経過観察を要すること、汎網膜光凝固は増殖網膜症に、抗VEGF硝子体内注射は増殖網膜症・糖尿病黄斑浮腫の両方に用いることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.International Clinical Classification System for Diabetic Retinopathy and Diabetic Macular Edema(American Academy of Ophthalmology(Global Diabetic Retinopathy Project Task Force)・2012)国際重症度分類が網膜症なし・軽症/中等症/重症非増殖網膜症・増殖網膜症の5段階で構成されること、静脈異常(数珠状拡張)と網膜内細小血管異常(IRMA)が増殖網膜症への進行を最も予測する所見であること、糖尿病黄斑浮腫の重症度分類は網膜症病期とは独立した別軸の尺度として設計されていることを確認した。閲覧 2026-08-11
  3. 3.A systematic review of diabetic retinopathy screening intervals(Acta Ophthalmologica・2024)網膜症のない低リスク2型糖尿病では、選択例で検査間隔を3〜5年へ延長できる可能性を示した。閲覧 2026-08-11