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Disease Atlas · 眼科 · 症候群

虹彩角膜内皮症候群

Iridocorneal endothelial syndrome

別名
ICE症候群ICE syndrome本態性虹彩萎縮Chandler症候群Cogan-Reese症候群
臓器系
眼科
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)
トピック
組織学 17.1:感覚器:眼
鑑別疾患
Fuchs角膜内皮ジストロフィ緑内障
合併症
水疱性角膜症
治療薬
チモロールブリモニジンアセタゾラミド
症状
視力低下眼痛角膜浮腫
検査値
眼圧

🧠 全体像:ICE症候群は、片方の眼のだけが「越境」する病気である。本来は角膜の裏側だけを覆うはずの内皮細胞が異常に増殖・遊走し、を越えて・の表面まで這い出し、そこに膜を張って収縮する。この膜がを作ればの出口が塞がれてになり、内皮そのものの機能不全が進めば角膜が浮腫んでに至る——同じ異常膜が、行く先によって緑内障にもにもなるという一本の機序で3亜型すべてを説明できる。

3亜型

後天性・通常片側性の疾患で、20〜50歳の女性に多い(人種により男性の割合が異なり、インド系患者では62%、北米・欧州では17%と報告される)1。臨床的に3つの亜型に分けるが、いずれも同じ異常内皮膜が主体で、への影響の出方が違うだけである2。

亜型 の変化 頻度
本態性 全層の孔形成、瞳孔の偏位・多瞳孔化 比較的軽度 —
Chandler症候群 限局的な(孔は目立たない) 最も著明・早期から出現 3亜型で最多1
Cogan-Reese症候群 表面の結節(収縮する膜に挟み込まれた組織) 軽度〜中等度 —

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal endothelium'>角膜内皮</span>細胞の異常な増殖・遊走<br>(上皮様形質へ変化)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Schwalbe line'>Schwalbe線</span>を越えて<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber angle'>前房隅角</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>表面へ進展"]
    B --> C["異常な基底膜(ICE membrane)を形成"]
    C --> D["膜の収縮"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral anterior synechiae'>周辺虹彩前癒着</span>の進行"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris stroma'>虹彩実質</span>の牽引<br>(萎縮・孔形成・結節)"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous outflow pathway'>房水流出路</span>の閉塞"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary glaucoma'>続発緑内障</span>"]
    A --> I["内皮の透過性亢進・液体輸送障害"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal edema'>角膜浮腫</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bullous keratopathy'>水疱性角膜症</span>)"]

異常内皮細胞は上皮様の形質を獲得した円形・の大型細胞で、・細胞内フィラメント・を発現する。この細胞がを越えて後方へ遊走しながら異常な基底膜(ICE membrane)を作り、収縮することでとの牽引が同時に進む2。

💡 の主因は「内皮が減ること」ではなく「内皮が働かなくなること」である。 内皮細胞数そのものの減少よりも、透過性の亢進とを汲み出す輸送機能の障害がを引き起こす2。

⚠️ 病因はまだ確定していない。 ヘルペス単純ウイルス()関連説(ICE検体の60%超から が検出され正常角膜対照群では陰性だった)、関連説、の異常増殖説などが提唱されている1。

合併症・鑑別

  • ⭐ はICE症候群患者の46〜82%に発症する2。がで塞がれることによる。
  • が進行するとに至る。同疾患のノートで挙げた原因の一つがこのICE症候群である。
  • 緑内障の他の病型(・)、と鑑別する。片側性・非対称なや結節はICE症候群を示唆する所見であり、両側対称性が典型のとの相違点になる。

診断

  • :光-暗が反転した特徴的なICE細胞像(暗い細胞表面に中心の明るい点、細胞境界が明るい)を呈する2。
  • :のが段階的に進行し、最終的に隅角が全周閉塞しうる2。
  • ・(UBM)で内皮像・隅角構造を補助的に確認する。

治療

⚠️ 緑内障点眼薬はを避ける。 を低下させる薬剤(β遮断薬・・)を促進薬より優先する。はの眼内再活性化に関連するとされ避けるべきとされる1。

治療 内容
緑内障の薬物療法 などのβ遮断薬・・を第一選択
緑内障の手術 低侵襲な隅角切開術から開始し早期施行ほど成功率が高い。トラベクレクトミー単独のは1年約60%・2年40%にとどまるが、併用で1年73%へ改善する。緑内障ドレーン植入術は早期導入で1年約70%2
への DMEK()がDSAEKより優先され、1年85.7%と報告される1。ただし異常内皮膜の増殖自体は継続するため根治療法ではない2

まとめ

  • ICE症候群は細胞が異常増殖・遊走し・表面へ進展する後天性・片側性疾患。本態性・Chandler症候群(最多)・Cogan-Reese症候群の3亜型に分かれる。
  • 異常内皮膜の収縮が(→、46〜82%)との牽引(萎縮・孔・結節)を同時に起こす。
  • は内皮細胞数の減少よりも透過性亢進・輸送障害が主因で、進行するとに至る。
  • 診断はの特徴的なICE細胞像と。
  • ⚠️ 緑内障点眼薬はを避ける(再活性化との関連)。単独より緑内障ドレーン植入術・併用が有効。にはDMEKが有効だが根治療法ではない。

出典

  1. 1.Iridocorneal Endothelial Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf), National Library of Medicine・2023)ICE症候群が後天性・通常片側性の疾患で、20〜50歳の女性に多いが人種により男性の割合が異なること(インド系患者では男性62%、北米・欧州では17%)。病因として、1994年のAlvaradoらの研究で60%超のICE検体からヘルペス単純ウイルス(HSV)DNAが検出され正常角膜対照群では陰性であったことからHSV関連説が提唱されていること、EBVとの関連も報告されていること、神経堤細胞の異常な増殖に関連するという説もあること。3亜型のうちChandler症候群が最も頻度が高く、虹彩への影響は乏しいが角膜浮腫・水疱・内皮異栄養症が著明であること。緑内障治療では房水産生を低下させる点眼薬(β遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬・α作動薬)を房水流出促進薬より優先すること、プロスタグランジン関連薬はHSVの眼内再活性化に関連するため避けるべきとされること。角膜内皮移植ではDMEK(Descemet膜内皮移植)がDSAEKより優先され、DMEKは1年後の累積生着率85.7%を示したこと、緑内障手術は低侵襲な隅角切開術から始め早期施行ほど成功率が高く、トラベクレクトミーの成功率は1年約60%・2年40%であること、濾過胞閉塞時にはNd:YAGレーザーによる再開口も有効であること。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Diagnosis and Management of Iridocorneal Endothelial Syndrome(BioMed Research International・2015)虹彩角膜内皮(ICE)症候群が角膜内皮・前房隅角・虹彩の構造的・増殖性異常を特徴とする稀な疾患で、本態性虹彩萎縮(全層の虹彩孔形成・多瞳孔)・Chandler症候群(限局的な虹彩実質萎縮と早期からの著明な角膜浮腫)・Cogan-Reese症候群(contracting ICE membraneに挟み込まれた虹彩組織による色素性結節)の3亜型からなること。異常内皮細胞は上皮様表現型を示す円形・多形性の大型細胞で、デスモソーム・細胞内フィラメント・微絨毛を発現し、Schwalbe線を越えて後方へ遊走しながら異常な基底膜(ICE membrane)を形成して周辺虹彩前癒着を進行させること。角膜浮腫の主因は内皮細胞数の減少そのものよりも透過性亢進と液体輸送機能の障害であること。スペキュラーマイクロスコピーでは光-暗が反転した特徴的なICE細胞像(暗い細胞表面に中心の明るい点と明るい細胞境界)を呈すること。続発緑内障はICE症候群患者の46〜82%に発症すること。緑内障治療は房水産生抑制薬を第一選択とし、濾過手術(トラベクレクトミー)の生存率は1年約60%・2年40%にとどまるが、マイトマイシンC併用で1年生存率が73%へ改善し、緑内障ドレーン植入術は早期導入で1年生存率約70%が得られること。角膜浮腫に対する内皮移植(DSEK等)は視力回復が早く屈折変化も最小限だが、異常内皮膜の増殖自体は継続するため根治療法ではないこと。閲覧 2026-09-07