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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

水疱性角膜症

Bullous keratopathy

別名
偽水晶体性水疱性角膜症PBK
臓器系
眼科
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
組織学 17.1:感覚器:眼発生学 19.3:眼:水晶体・角膜・脈絡膜・強膜・硝子体
鑑別疾患
円錐角膜角膜炎再発性角膜びらん緑内障
関連疾患
白内障輪部幹細胞疲弊症
症状
角膜浮腫眼痛視力低下羞明流涙角膜潰瘍
検査値
眼圧
元疾患
UGH症候群虹彩角膜内皮症候群
原因となる疾患
Fuchs角膜内皮ジストロフィ

🧠 全体像:は原因の名前ではなく、行き着いた状態の名前である。もも外傷もヘルペスも、経路は違ってもの細胞密度が一定を下回れば同じ場所へ着く——実質の浮腫が上皮まで及び、上皮下に水疱ができる。ここまで来ると問題は視力だけでなく、水疱が破れたときの激痛と感染に移る。したがって診療の問いは「何が原因か」と「まだ内皮を守れる段階か、もう置き換える段階か」の2つになる。

「原因」ではなく「終着点」である

が分裂せず、バリアとポンプで実質を脱水状態に保っていることはの項で述べたとおりである。は、その内皮が臨界を下回った結果として、

  1. 実質に水が貯留してが生じ、
  2. 水が上皮下・上皮内へ押し上げられてとなり、
  3. それが融合して肉眼的な水疱を作る

という一本道のである。病名の「水疱性」はこの3段目に由来する1。のStage 3はそのままこの状態であり、別の病気に変わったわけではなく同じに達しただけである2。

経路 内皮が失われる仕方
(最多) のエネルギー・灌流と吸引・核の接触・内での。通常のでも約10%の内皮細胞が失われる
内皮ジストロフィ 、、
異常内皮が隅角・へ増殖する。片眼性
炎症・感染 、、ぶどう膜炎
・ 、糖尿病、
外傷・異物 、内の、型の間欠的な接触1

は出生時の約7,500個/mm²から成人で2,500〜2,700個/mm²まで減り、20歳以降は年におよそ0.5〜1%ずつ自然に減っていく。なでは1回でおよそ10%が失われる1。💡 年0.5〜1%の自然減に対し、1回の手術が10%をするという比が、術前のを測る理由になる。

偽水晶体性水疱性角膜症(PBK)

後にを入れた眼()に生じたものを(PBK)と呼ぶ。の代表的な適応の一つであり、という「ありふれた安全な手術」の最も重い角膜合併症である。⚠️ 世界のの適応で最も多いのは(39%)で、次いで27%・の20%である3。

  • 米国での報告頻度は0.1%とされる1。
  • の型でリスクが違う。型>開放ループ型>>の順で、現在主流のが最も低い1。
  • 術前から内皮のが乏しい眼——とくに無症候のを持つ眼——が最も危ない。術前のの評価は、この合併症を予測できる唯一の機会である。

💡 発症までに数か月かかることが、この合併症を分かりにくくしている。手術直後は透明だったのに、術後半年で「だんだん見えなくなってきた」と戻ってくる。術翌日の角膜の状態は安心の根拠にならない。

⚠️ 水疱が破れたときが本番

⚠️ 上皮の水疱が破れると、露出したにより突然の強い眼痛が起こる。 同時に上皮欠損は感染の門戸になり、角膜潰瘍・へ進みうる。は緩徐でも、この一点で救急疾患になる。

⚠️ を開始する前に、で上皮欠損とを除外する1。破れた水疱とは、どちらも痛みと充血と上皮欠損を示す。

⚠️ の選択にがある。 β遮断薬・は使えるが、とは炎症を悪化させるため避け、はのため避ける1。

評価

  • :と形態。1,000個/mm²未満は臨界細胞密度と呼ばれ、のリスクが最も高い1。⚠️ 章によって数値が動く——同じ資料は透明性維持に必要な密度を約700個/mm²、危機的低値を300〜500個/mm²とも書く。の浮腫の閾値も0.60 mmと640 µmで文献差がある。
  • :正常なは約0.55mm。0.60mm超でを示す1。
  • ⭐ 対側眼を必ず診る。 対側眼にがあれば、手術は引き金にすぎず背景にがあったことが分かる。これは対側眼の手術計画を変える所見である1。

治療の順序

治療は「症状を抑える」段階と「内皮を置き換える」段階に分かれ、視機能の見込みがどれだけ残っているかで進み方が変わる。

段階 内容
2%点眼を1日4回、5%を就寝前。を高張にして角膜から水を引き出し、とくに早朝の浮腫を減らす
ソフトコンタクトレンズの連続装用。水疱破裂時の疼痛を和らげ、露出した実質を覆って感染を防ぎ、新たな水疱の形成も抑える
疼痛緩和の術式 視機能の回復が見込めない眼で選ぶ。、、、
内皮が不可逆的に失われた例の。DSEK/DSAEK・DMEKはより視力回復が早く拒絶リスクも低い。実質の瘢痕が深い例では1

⚠️ とは対症療法であり、内皮細胞は戻らない。 これらだけで長く引っ張ることは、に適した時期を過ぎさせる。上皮下・実質の瘢痕が固まってしまうと、内皮だけを置き換えても視力は戻らない。

は資源のを受ける治療でもある。世界人口のおよそ53%がを受けられない状況にあり、必要とされる70眼に対して供給される角膜は1眼にとどまる3。予防(術前の内皮評価と術式の工夫)が治療より重い理由がここにある。

鑑別

浮腫と痛みと充血が揃うため、経過とが切り分けの軸になる。

疾患 決め手
が。数時間単位の発症で頭痛・を伴う
浸潤・を伴う。に合併しうるので二者択一にしない
進行性の角膜突出と不規則が主体。は急性角膜水腫でが急性に破裂したときに限られ、なの低下は伴わない
上皮欠損はあるがとの低下を伴わない
(後) に限局した浮腫と。ステロイド強化が必要で対応が逆になる

💡 「かか」ではなく「に感染が乗っていないか」と問う。破れた水疱がある眼では両者は排他的でない。

まとめ

  • は原因ではなく終着点である。内皮の減り方が何であれ、臨界を下回ればが上皮へ及び水疱を形成する。
  • 最多の経路はで、後に生じたものを(PBK)と呼び、の主要な適応の一つである。
  • の型では型が最もリスクが高く、が最も低い。通常のでも約10%の内皮細胞が失われる。
  • ⚠️ の破裂は強い眼痛と感染の門戸になる。ステロイド点眼を始める前にでを除外する。
  • ⚠️ 下降には β遮断薬・を用い、・・は避ける。
  • 対側眼のを確認すると、背景のが見つかり対側眼の手術計画が変わる。
  • 対応は・・疼痛緩和術式・の順で、対症療法で引っ張りすぎるとが固定して移植の効果も落ちる。

出典

  1. 1.Pseudophakic Bullous Keratopathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)水疱性角膜症では最初の傷害が角膜内皮に起こり、実質浮腫が上皮下・上皮へ及んで水疱を形成することが病名の由来であること、内皮傷害はあらゆる内眼手術で起こりうるが報告は超音波乳化吸引術後が最多であること、原因としてFuchs角膜内皮ジストロフィ・後部多形性角膜ジストロフィ・先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ・虹彩角膜内皮症候群・ヘルペス円板状角膜炎・糖尿病・落屑症候群・狭隅角緑内障・鈍的外傷・前房内シリコーンオイルなどが挙がること、眼内レンズの型では閉鎖ループ前房型>開放ループ前房型>虹彩支持型>後房型の順にリスクが高いこと、通常の白内障手術でも約10%の内皮細胞が失われ加齢に伴う自然減が年約1%であること、米国での報告頻度が0.1%であること、出生時に約7,500個/mm2の内皮細胞密度が成人で2,500〜2,700個/mm2まで減ること、スペキュラーマイクロスコピーで1,000個/mm2未満を臨界細胞密度と呼び角膜非代償のリスクが最も高いこと、正常中心角膜厚が0.55mmで0.60mm超は角膜浮腫を示すこと、夜間の蒸発低下と高張な環境により早朝に浮腫が強いこと、治療が2%塩化ナトリウム点眼(1日4回)と5%眼軟膏(就寝前)、治療用ソフトコンタクトレンズの連続装用(水疱破裂時の疼痛緩和・感染性角膜炎の予防・新たな水疱形成の抑制)、Gundersen結膜弁・羊膜移植・前房ストローマ穿刺・光治療的角膜切除術などの疼痛緩和術式、そして全層角膜移植またはDSEK/DSAEK・DMEKによる角膜移植と段階を踏むこと、眼圧下降にはβ遮断薬とα作動薬を用い縮瞳薬とプロスタグランジン製剤は炎症を悪化させるため避け炭酸脱水酵素阻害薬は上皮毒性のため避けること、ステロイド開始前にはフルオレセイン染色で上皮欠損と感染性角膜炎を除外すべきことを確認した。なお同章は透明性維持に必要な内皮細胞密度を「約700個/mm2」と記す一方、臨界細胞密度を別の節で「300〜500個/mm2」「1,000個/mm2未満」とも記しており数値が一致しないため、本ノートでは幅を持たせて記述した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.IC3D Classification of Corneal Dystrophies-Edition 3(Cornea (International Committee for Classification of Corneal Dystrophies)・2024)Fuchs角膜内皮ジストロフィのStage 3が実質浮腫の上皮への波及による上皮内・上皮間浮腫(上皮水疱)すなわち水疱性角膜症であること、Stage 4では長期の浮腫により上皮下線維化(パンヌス)・実質瘢痕・周辺部の表層および深層の血管侵入が生じること、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィでは実質の肥厚が正常の2〜3倍に達する一方で上皮浮腫は最小限にとどまることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Global Survey of Corneal Transplantation and Eye Banking(JAMA Ophthalmology・2016)2012年に116か国で施行された184,576件の角膜移植の適応の首位がFuchsジストロフィ(全体の39%)で、円錐角膜27%、感染性角膜炎の後遺症20%が続くこと、世界人口の約53%が角膜移植を受けられない状況にあり、必要とされる70眼に対し供給される角膜が1眼にとどまることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03