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Symptoms · Published

角膜潰瘍

Corneal ulcer

別名
角膜浸潤感染性角膜炎
臓器系
眼科感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 5/3:眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断
関連疾患
アレルギー性結膜炎角膜炎単純ヘルペスウイルス感染症

🧠 全体像:角膜潰瘍は、の欠損の下に実質の炎症性浸潤や融解を伴う状態であり、単なるとは上皮の下で何が起きているかという一点で区別される。原因は細菌・ウイルス・真菌・Acanthamoebaといった感染性のものから、睫毛乱生のようなのものまで多岐にわたるが、どの原因であっても好中球由来のが実質を融解させ、放置すれば穿孔・に至るという終末像は共通する。臨床上の最大の落とし穴は、診断が確定する前に副腎皮質ステロイド点眼を安易に使い、ヘルペス性・真菌性・アカントアメーバ性の病変をかえって増悪させることである。

定義と用語の整理

「目が白く濁った」「目がしみる」という訴えは、上皮と実質のどちらが、どの程度侵されているかで整理すると混同を避けられる。

用語 上皮 実質 角膜潰瘍との関係
微小な点状欠損が多発 変化なし 機械的・化学的刺激の初期像。融合すればへ進展しうる
欠損( 変化なし 感染を伴わなければ数日で上皮化し瘢痕を残さない。角膜潰瘍の前段階
保たれていることがある 浸潤(炎症細胞・ 上皮欠損を伴わない実質の反応。上皮欠損が加わると角膜潰瘍と呼ばれる
角膜潰瘍(本ノートの主題) 欠損 浸潤・壊死(融解) 上皮欠損の下に実質の破壊的な炎症を伴う段階。穿孔へ進みうる

「角膜潰瘍」という語自体が感染性を意味するわけではない。 神経麻痺性・露出性などの原因でも、上皮欠損と実質融解が揃えば角膜潰瘍と呼ぶ。ただし臨床上遭遇する大半は感染性であり、初診時は感染性として扱うのが安全である。

病態生理

角膜潰瘍はすべて、の破綻 → 病原体の侵入・定着(または無菌性の)→ による実質融解という同じ経路をたどる。何がを壊すかで4系統に整理できる。

💡 上皮が破れただけでは角膜潰瘍にならない。 バリアが壊れた後に病原体が定着し、好中球が動員されてを放出して初めて実質の融解が始まる。この「侵入させない」段階を押さえることが予防の要になる。

原因の群分け

代表 特徴
細菌性 緑膿菌 コンタクトレンズ関連で数日以内に・穿孔に至るほど進行が速い
細菌性 肺炎球菌 辺縁が這うように広がるを起こす
ウイルス性 (上皮型)がへ拡大しうる
真菌性 Aspergillus属、Fusarium属など 植物・土壌による外傷が契機。境界が羽毛状に不整でを伴うことがある
アカントアメーバ性 Acanthamoeba 水道水でのレンズ洗浄・保存が契機。所見に不釣り合いな強い眼痛、輪状の浸潤
・麻痺性/露出性 による 感染を伴わなくても知覚低下・乾燥・露出だけで融解しうる
・自己免疫性 ——関節リウマチ に沿うの潰瘍。炎を伴うことが多い

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ 診断確定前の副腎皮質ステロイド点眼。 起因菌が同定される、または治療への反応が確認されるまでステロイド点眼は使わない1。とくにAcanthamoeba・Nocardia・真菌感染が疑われる場合は避けるべきであり1に抗ウイルス薬を併用せずステロイド点眼だけを使うとの発症率が約3倍に上がる2「赤いから」「腫れているから」で反射的にステロイドを出さない——本ノートの中で最大の禁忌ポイントである。
  • ⚠️ コンタクトレンズ装用者の眼痛は緑膿菌を想定する。 コンタクトレンズ装用、とくに終日装用・の最大の危険因子であり1、緑膿菌感染は数日以内にへ至るほど進行が速い。装用者の眼痛・充血はその日のうちに眼科評価につなげる。
  • ⚠️ 穿孔・ は角膜潰瘍が重症であることを示す所見で、進行すれば穿孔に至る3。2mm未満の小さな穿孔はでの閉鎖が選択肢になるが3、いずれも眼科緊急である。
  • ⚠️ 中心部病変の視力予後。 視力予後は病変の大きさ・位置・深さ・原因菌によって左右され3、瞳孔領にかかる中心性病変は治癒後も瘢痕による不可逆的なを残しうる。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["角膜の上皮欠損・浸潤に気づく"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Anamnesis'>病歴聴取</span><br>コンタクトレンズ・外傷・水曝露・<br>植物外傷・ヘルペス既往・免疫抑制"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp examination'>細隙灯検査</span><br>浸潤の形・境界・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypopyon'>前房蓄膿</span>の有無"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescein staining'>フルオレセイン染色</span>で<br>上皮欠損の範囲を確認"]
    D --> E{"感染性を疑うか"}
    E -->|"疑う"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal scraping'>角膜擦過検体</span>を採取し<br>塗抹・培養へ<br>(抗菌薬開始前に行う)"]
    E -->|"機械的・麻痺性・自己免疫性を疑う"| G["原因を検索<br>睫毛乱生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incomplete eyelid closure'>閉瞼不全</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='connective tissue disease (collagen vascular disease)'>膠原病</span>など"]
    F --> H["結果に応じて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]
    G --> H

対応の考え方

感染性かかで、対応の組み立てが根本的に変わる。

  • 感染性は原因治療が前提。 を採取してから点眼を頻回投与で開始し、結果に応じて絞り込む。培養前のに頼ってを省略すると、起因菌が同定できないまま治療が難航する。
  • 機械的原因は原因を取り除かない限り治らない。 睫毛乱生が背景にあれば、点眼治療だけを続けてもを繰り返す。
  • 麻痺性・露出性の原因も同様に、防御機構そのものを補う必要がある。 があればによる保護を原因診断の確定前から始める。
  • 自己免疫性のは、点眼治療だけでは進行を止められず、背景疾患への全身治療を要することが多い。

まとめ

  • 角膜潰瘍は上皮欠損の下に実質の浸潤・融解を伴う状態で、上皮欠損のみのとは重症度の段階が異なる。
  • 病態はの破綻(機械的・乾燥・麻痺性・コンタクトレンズ関連の低酸素と微小外傷)に始まり、病原体の定着後、好中球とによる実質融解へ進む。
  • 原因は細菌性(緑膿菌、肺炎球菌)、ウイルス性()、真菌性、アカントアメーバ性の感染性群と、麻痺性・自己免疫性()の群に分けられる。
  • 最大の禁忌は診断確定前の副腎皮質ステロイド点眼で、ヘルペス性・真菌性・アカントアメーバ性を増悪させる。コンタクトレンズ装用者の眼痛は緑膿菌を想定して即日評価し、穿孔・は眼科緊急として扱う。
  • 感染性はによるに応じた原因治療、機械的・麻痺性の原因は原因の除去なしに治らない。

出典

  1. 1.Bacterial Keratitis Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2023)米国ではコンタクトレンズ装用(とくに終日装用・オルソケラトロジーを含む一晩装用)が細菌性角膜炎の最大の危険因子であり、世界の他地域では外傷が主要な危険因子であること、副腎皮質ステロイド点眼は抗菌薬投与開始後48時間が経過し起因菌が同定または治療反応が確認されてから検討すべきであり、Acanthamoeba・Nocardia・真菌感染が疑われる場合はステロイドを避けるべきこと、市中発症の小さな非中心性潰瘍の多くは経験的局所治療で軽快する一方、それ以外では角膜擦過による塗抹・培養が特に適応となることを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Herpes Simplex Virus Keratitis: A Treatment Guideline(American Academy of Ophthalmology (Ocular Microbiology and Immunology Group)・2014)Moorfields眼科病院での二重盲検プラセボ対照試験で、単純ヘルペス角膜実質炎に副腎皮質ステロイド点眼を投与された患者のうち抗ウイルス薬を併用しなかった群の42%が上皮型単純ヘルペス角膜炎を発症したのに対し抗ウイルス薬を併用した群では15%にとどまったこと、樹枝状角膜炎と地図状角膜炎はいずれも上皮型単純ヘルペス角膜炎に分類されることを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Bacterial Keratitis(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)細菌性角膜炎の徴候として結膜充血・限局性の角膜浸潤・前房蓄膿を認めること、合併症として角膜穿孔があり2mm未満の小さな穿孔は角膜用接着剤での閉鎖が選択肢になること、視力予後は病変の大きさ・位置・深さ・原因菌によって左右されること、角膜擦過検体のグラム染色・ギムザ染色・培養が行われることを確認した閲覧 2026-08-03