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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

角膜炎

Keratitis

臓器系
眼科感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 5/3:眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断微生物学 5/37:眼感染を起こす原虫と蠕虫(一覧)とその診断微生物学 4/14:Acanthamoeba属とNaegleria属微生物学 3/12:ヘルペスウイルス:単純ヘルペスウイルス1・2型
鑑別疾患
眼内炎結膜炎
治療薬
モキシフロキサシン(バル)アシクロビルボリコナゾールクロルヘキシジンナタマイシンポリヘキサメチレンビグアニド
原因薬剤
デキサメタゾン
原因微生物
緑膿菌肺炎球菌Herpes simplex virus 1Fusarium属Acanthamoeba castellanii
症状
眼痛羞明前房蓄膿視力低下角膜潰瘍点状表層角膜症周辺部潰瘍性角膜炎紫外線角膜炎
元疾患
カポジ水痘様発疹症
適応薬
ナタマイシンポリヘキサメチレンビグアニド

🧠 全体像:角膜炎は視力を脅かす眼科救急であり、「赤い眼」のうち炎とは治療のがまったく異なる。診療の骨格は、①コンタクトレンズ装用歴の有無で緑膿菌を、②樹枝状の上皮欠損でを、③植物・土壌による外傷や免疫抑制で真菌を、④水道水でのレンズ洗浄でアカントアメーバする、という病歴主導の鑑別にある。そして全病型に共通する最大の禁忌が一つある——診断が確定する前に副腎皮質ステロイド点眼を単独で使わないことである。ステロイドは炎症を鎮めるどころか、ヘルペス性・真菌性・アカントアメーバ性の病変をかえって増悪させる。

病態

角膜炎は、のバリアが破綻し病原体が実質へ侵入して炎症を起こす病態で、角膜潰瘍(上皮欠損+実質の浸潤・融解)へ進行しうる一連のスペクトラムの入口にあたる。バリアが破れる背景は原因ごとに異なる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal epithelium'>角膜上皮</span>バリアの破綻"] --> B{"原因は何か"}
    B -->|"コンタクトレンズ装用<br>(低酸素・微小外傷)"| C["緑膿菌などの<br>細菌の定着"]
    B -->|"神経節に潜伏する<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex virus, HSV'>単純ヘルペスウイルス</span>の再活性化"| D["上皮での<br>ウイルス増殖"]
    B -->|"植物・土壌による外傷、<br>免疫抑制"| E["真菌の定着"]
    B -->|"水道水でのレンズ洗浄・保存"| F["アカントアメーバの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroma'>角膜実質</span>への侵入"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil infiltration'>好中球浸潤</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='collagenase'>コラゲナーゼ</span>による実質融解"]
    D --> G
    E --> G
    F --> H["栄養型による<br>実質の直接破壊<br>(強い眼痛が特徴)"]
    G --> I["角膜潰瘍・穿孔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endophthalmitis'>眼内炎</span>"]
    H --> I

分類と臨床像

細菌性角膜炎

コンタクトレンズ装用(とくに終日装用・などの一晩装用)がの最大の危険因子であり、世界の他地域では外傷が主要な危険因子になる1。徴候は・限局性の2、原因菌としては緑膿菌が代表的で、数日以内に・穿孔へ至るほど進行が速い。

⚠️ コンタクトレンズ装用者の眼痛・充血は、その日のうちに眼科評価につなげる。 緑膿菌感染の進行速度を考えれば、様子をみている時間的はない。

単純ヘルペス角膜炎

初感染後にへ潜伏したが再活性化して起こる。上皮型の角膜炎が代表的で、を伴うことが多い3

⚠️ へのステロイド単独投与は禁忌である。 Moorfields眼科病院の試験では、に副腎皮質ステロイド点眼を投与した患者のうち抗ウイルス薬を併用しなかった群の42%を発症したのに対し、抗ウイルス薬を併用した群では15%にとどまった3。ステロイドを使うなら必ず抗ウイルス薬の被覆下で行う。

真菌性角膜炎

植物・土壌による外傷が典型的な契機で、Aspergillus属や*Fusarium*属が代表的な原因菌となる。境界が羽毛状に不整な浸潤やを伴うことがある。診断・治療の反応が細菌性より遅く、経過が遷延しやすい。

アカントアメーバ角膜炎

の80%超はコンタクトレンズ装用者に生じ4、水道水でのレンズ洗浄・保存が典型的な契機になる。所見に不釣り合いな強い眼痛が特徴で、古典的には輪状の実質浸潤、放射状角膜、遷延する上皮欠損、前部ぶどう膜炎を伴う4

⚠️ と紛らわしく、診断が遅れやすい。 臨床像が非特異的なため見誤られやすく4、コンタクトレンズ装用歴と所見に見合わない激しい眼痛の組み合わせがあれば、診断確定前からこの可能性を念頭に置く。

非感染性の角膜炎(参考)

自己免疫性の(関節リウマチ・などに合併)、に伴う、紫外線曝露によるなど、感染を介さない角膜炎も存在する。これらは背景疾患の治療や誘因の除去が主軸になり、本ノートが主眼とするとは対応が異なる。

診断

flowchart TD
    A["角膜の充血・浸潤・眼痛に気づく"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Anamnesis'>病歴聴取</span><br>コンタクトレンズ・外傷・水曝露・<br>植物外傷・ヘルペス既往・免疫抑制"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp examination'>細隙灯検査</span>で浸潤の形・境界・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypopyon'>前房蓄膿</span>の有無を確認"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescein staining'>フルオレセイン染色</span>で<br>上皮欠損の範囲・樹枝状パターンを確認"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal scraping'>角膜擦過検体</span>を採取し<br>塗抹・培養(抗菌薬開始前)"]
    E --> F["結果と臨床像に応じて<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='subtype-specific treatment'>病型別治療</span>を選択"]

のグラム染色・・培養が基本で2、アカントアメーバが疑われる場合はさらに・PCR、培養陰性例では角膜生検を追加する4の臨床像は非特異的で・再発性と紛らわしく、複数の病原体のも珍しくないため、抗菌薬・抗ウイルス薬への反応が乏しい遷延例では診断を見直す契機にする4

視力予後は病変の大きさ・位置・深さ・原因菌によって左右される2。瞳孔領にかかる中心性病変は、治癒しても瘢痕による不可逆的なを残しうるため、早期の原因診断と治療開始が視機能の予後を大きく左右する。

治療

  • 診断確定前の副腎皮質ステロイド点眼単独投与は避ける。 抗菌薬投与開始後48時間が経過し起因菌が同定または治療反応が確認されるまで、ステロイドは検討しない1。とくにアカントアメーバ・真菌感染が疑われる場合はステロイドを避けるべきである1
  • 細菌性:コンタクトレンズ関連や緑膿菌を想定する例にはなどの点眼を用いる。
  • (バル)アシクロビルなどの抗ウイルス薬を用い、ステロイドを使う場合は必ず抗ウイルス薬を併用する3
  • 真菌性ナタマイシン点眼など)を用いる。重症・深部病変には全身投与を要することがあり、などのが選択肢になる。
  • アカントアメーバ性(PHMB・など、しばしばジアミジン系と併用)が第一選択治療である4
  • いずれの病型でも、穿孔・への進展があれば眼科緊急として扱う。

まとめ

  • 角膜炎は視力を脅かす眼科救急で、病歴(コンタクトレンズ・外傷・水曝露・ヘルペス既往)が原因の見当をつける最大の手がかりになる。
  • コンタクトレンズ装用者は緑膿菌によるを、樹枝状角膜病変はを、植物・土壌外傷は真菌性を、水道水でのレンズ洗浄と所見に不釣り合いな激痛はする。
  • 全病型に共通する最大の禁忌は、診断確定前の副腎皮質ステロイド点眼単独投与である。では抗ウイルス薬を併用しない場合、の発症率が約3倍に上がる。
  • と紛らわしく診断が遅れやすいため、コンタクトレンズ装用歴と不釣り合いな激痛の組み合わせを見逃さない。
  • 治療は病型別(、抗ウイルス薬、抗真菌薬、)に選択し、いずれも穿孔・への進展を眼科緊急として扱う。

出典

  1. 1.Bacterial Keratitis Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2023)米国ではコンタクトレンズ装用(とくに終日装用・オルソケラトロジーを含む一晩装用)が細菌性角膜炎の最大の危険因子であり世界の他地域では外傷が主要な危険因子であること、副腎皮質ステロイド点眼は抗菌薬投与開始後48時間が経過し起因菌が同定または治療反応が確認されてから検討すべきであること、Acanthamoeba・Nocardia・真菌感染が疑われる場合はステロイドを避けるべきこと、市中発症の小さな非中心性潰瘍の多くは経験的局所治療で軽快する一方それ以外では角膜擦過による塗抹・培養が特に適応となることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Herpes Simplex Virus Keratitis: A Treatment Guideline(American Academy of Ophthalmology (Ocular Microbiology and Immunology Group)・2014)Moorfields眼科病院での二重盲検プラセボ対照試験で単純ヘルペス角膜実質炎に副腎皮質ステロイド点眼を投与された患者のうち抗ウイルス薬を併用しなかった群の42%が上皮型単純ヘルペス角膜炎を発症したのに対し抗ウイルス薬を併用した群では15%にとどまったこと、樹枝状角膜炎と地図状角膜炎はいずれも上皮型単純ヘルペス角膜炎に分類されることを確認した。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Bacterial Keratitis(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)細菌性角膜炎の徴候として結膜充血・限局性の角膜浸潤・前房蓄膿を認めること、合併症として角膜穿孔があり2mm未満の小さな穿孔は角膜用接着剤での閉鎖が選択肢になること、視力予後は病変の大きさ・位置・深さ・原因菌によって左右されること、角膜擦過検体のグラム染色・ギムザ染色・培養が行われることを確認した。閲覧 2026-08-11
  4. 4.Acanthamoeba Keratitis(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)アカントアメーバ角膜炎の80%超がコンタクトレンズ装用者に生じること、所見に不釣り合いな強い眼痛が特徴で古典的な輪状の実質浸潤・放射状角膜神経炎・遷延する上皮欠損・前部ぶどう膜炎を伴うこと、臨床像が非特異的で単純ヘルペス角膜炎・再発性角膜びらん・細菌性角膜炎と紛らわしく診断が遅れやすいこと、培養(角膜擦過検体を大腸菌塗布培地に接種)に加え共焦点顕微鏡・PCR・培養陰性例では角膜生検が診断に用いられること、第一選択治療がビグアナイド系(PHMB・クロルヘキシジンなど、しばしばジアミジン系と併用)であることを確認した。閲覧 2026-08-11