疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 眼科 · 疾患

Mooren潰瘍

Mooren ulcer

別名
蚕蝕性角膜潰瘍Mooren角膜潰瘍
臓器系
眼科免疫・膠原病
科目
PathologyMicroscopic Anatomy and Embryology (Embryology)Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
病理学 A/36:Ⅲ型・Ⅳ型過敏反応(免疫複合体型/遅延型)発生学 19.3:眼:水晶体・角膜・脈絡膜・強膜・硝子体解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
鑑別疾患
角膜炎強膜軟化症
治療薬
デキサメタゾンシクロスポリンAプレドニゾロンメトトレキサートシクロホスファミドインフリキシマブアダリムマブリツキシマブ
症状
周辺部潰瘍性角膜炎角膜潰瘍眼痛羞明視力低下

🧠 全体像:を理解する鍵は、症状でも所見でもなく定義そのものにある。この病名は「を伴わない」を指すのであって、特徴的な所見があるから付く名前ではない1。つまり診断とはMoorenを見つける作業ではなく、関節リウマチ・関連血管炎・感染症・悪性腫瘍を一つずつ潰す作業であり、「です」と言い切れるのは全身の検索を終えたあとだけである。逆に言えば、Moorenと決めつけた瞬間に、生命を脅かすを見落とす経路が開く。もう一つの軸は所見で、輪部から中央へに進む「」が、この潰瘍が単に浅く広がるのではなく角膜を掘り進む病変であることを示している。

定義と位置づけ

という枠組みの中で、は背景のが見つからない群を指すである1。

強膜炎の合併 治療の軸
定義上、伴わない1 伴わない。は侵されない1 眼局所から段階的に上げる。全身免疫抑制は進行例に限る
関節リウマチに伴う 関節リウマチ。への移行を示唆する 合併しやすい 全身免疫抑制が主体。生命予後を左右する
長期の関節リウマチ そのものの壊死(無痛) 全身免疫抑制
感染性の角膜炎・角膜潰瘍 伴わない() 稀 抗微生物薬。⚠️ ステロイドは禁忌になりうる

⚠️ 「が無い」は、探していないことと区別できない。 周辺部のを見たら、・・・感染症の検索を行い、それが陰性であることを確認して初めてMoorenと呼ぶ。この順序を飛ばすと、関連血管炎や関節リウマチのを眼だけの病気として扱うことになる。

疫学

北半球ではまれで、南半球・インド亜大陸・中国・中央アフリカに多い1。平均発症年齢は約48歳。男性優位だが程度は地域で大きく違い、中国では男女比1.35対1、ナイジェリアでは1対0.28、インド農村部では90%が男性と報告されている1。中国の139例173眼の報告では男女比1.62対1、両眼性が41例・片眼性が98例であった2。

所見——潜行縁が本質

  • 潰瘍はから始まり、円周方向と中央方向へ進む1。
  • ⭐ 中央側とがに張り出す()。 は薄く血管に富み、輪部から2〜3 mmの範囲で実質の3分の1から3分の2の厚さを侵す1。上皮が単に欠けているのではなく、上皮の下を掘り進んで縁がひさし状に残る——この形が「蚕が食う」という和名の由来になっている。
  • は侵されない1。強膜炎を伴わないことが、関節リウマチなどに伴うとの実務的な分かれ目になる。

病型分類

分類 型 特徴
Wood・Kaufman 1型(良性) 片眼性、症状が軽い、35歳超、治療反応良好1
Wood・Kaufman 2型(進行型) 両眼性、症状が重い、35歳未満、治療抵抗性1
Watson 片眼型 60歳超、急速発症、強い疼痛でが効きにくい1
Watson 両眼進行型 14〜40歳、両眼性、自然穿孔をきたしうる1
Watson 両眼緩徐型 中年、不快感は軽度、自然治癒することがある1

⭐ 「若く、両眼性なら重症」という向きを覚える。 片眼性で中高年に生じる型は治療に反応するが、若年発症の両眼性は従来治療に抵抗し穿孔に至りうる1。

病態と誘因

抗原CO-Agはヒト好中球とをもち、抗CO-Ag自己抗体の血清高値が報告されている1。潰瘍部にはT細胞・B細胞・マクロファージ・好中球・NK細胞・肥満細胞が高密度に浸潤し、ICAM-1/LFA-1やB7/CD28/CTLA-4といった接着・が発現する1。中央角膜がであるのに対し輪部には血管がありが到達できるため、病変は周辺部にとどまる(発生学 19.3)。

誘因として挙げられるものは、いずれも決定的ではない。

  • 。 鉤虫・フィラリアがCO-Agとのを介して関連づけられてきたが、患者の50%超に感染が認められない1。
  • C型肝炎。 報告が一致せず論争的で、抗ウイルス治療で改善した例も悪化した例もある1。
  • 外傷・手術。 先行する外傷・感染・手術は、中国の550例(715眼)では10.7%、24例の小規模報告では41.7%(10/24)と報告される1。⚠️ 桁の違う母集団なので「報告により10〜40%の幅がある」とは読まない。

治療

flowchart TD
    A["輪部に沿う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crescent-shaped'>三日月状</span>の潰瘍<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='undermined edge'>潜行縁</span>を確認"] --> B["感染性角膜潰瘍を除外<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='swab specimen'>擦過検体</span>の培養・鏡検)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic disease'>全身疾患</span>の検索<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='rheumatoid factor, RF'>リウマトイド因子</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-cyclic citrullinated peptide antibody'>抗CCP抗体</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antineutrophil cytoplasmic antibody'>ANCA</span>・<br>感染症のスクリーニング"]
    C -->|"背景疾患あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic vasculitis'>全身性血管炎</span>に伴う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral ulcerative keratitis (PUK)'>周辺部潰瘍性角膜炎</span>として対応"]
    C -->|"すべて陰性"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mooren ulcer'>Mooren潰瘍</span>として治療を開始"]
    E --> F["局所:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>点眼・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciclosporin'>シクロスポリンA</span> 1%点眼"]
    F -->|"両眼性・進行性"| G["全身:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prednisolone'>プレドニゾロン</span>1〜1.5 mg/kg/日+<br>メトトレキサート等の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunosuppressant'>免疫抑制薬</span>"]
    G -->|"難治"| H["生物学的製剤<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='infliximab'>インフリキシマブ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adalimumab'>アダリムマブ</span>・リツキシマブ"]
    F -->|"穿孔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impending perforation'>切迫穿孔</span>"| I["外科:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival resection'>結膜切除</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amniotic membrane transplantation'>羊膜移植</span>・<br>層状/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penetrating keratoplasty'>全層角膜移植</span>"]
    G --> I
    H --> I

経過と再発

中国の139例173眼のうち37例38眼が再発した。初回再発のは6か月で10.4%、12か月で17.1%、24か月で22.5%、36か月で27.2%、48か月で28.6%で、再発眼の30眼は初回と同じ部位、27眼は治療後12か月以内の再発であった2。男性であること(P=0.043)と手術治療を受けたこと(P=0.035)が再発リスクの上昇と有意に関連した2。同報告では97.7%の眼が保存され、81.5%が0.05を超える視力を保った2。

💡 再発の大半は最初の1〜2年に、同じ場所で起こる。 治癒したように見えても、少なくとも1年は同じ部位を意識して追う。

まとめ

  • は「を伴わない」というであり、診断とはを潰す作業そのものである。
  • 所見の核は輪部から円周方向・中央方向へに進む潰瘍と、に張り出す。は侵されないことがに伴う型との分かれ目になる。
  • 病型は片眼性で中高年の反応良好な型と、若年発症・両眼性で治療抵抗性の重症型に大きく分かれる。
  • 機序は抗原CO-Ag(好中球と)に対する自己免疫で、・C型肝炎・外傷が誘因として挙げられるがいずれも決定的ではない。
  • 治療は局所ステロイド・点眼から始め、両眼性・進行例では全身免疫抑制、難治例では生物学的製剤へ上げる。は抗原到達経路を断つ機序に基づく手術である。
  • 再発のは48か月で28.6%、多くは12か月以内に同じ部位で起こり、男性と手術治療が危険因子である。

出典

  1. 1.Mooren's ulcer: a multifactorial autoimmune peripheral ulcerative keratitis and current treatment protocols(Frontiers in Medicine・2025)Mooren潰瘍が診断可能な全身疾患を欠く状態で生じるものと定義され膠原病・感染症・悪性腫瘍など周辺部角膜潰瘍を来す病態をすべて除外して診断されること、北半球ではまれで南半球・インド亜大陸・中国・中央アフリカに多いこと、平均発症年齢が約48歳で男性優位の程度が地域で異なること(中国1.35対1、ナイジェリア1対0.28、インド農村部で90%が男性)、WoodとKaufmanの分類が1型(片眼性・症状が軽い・35歳超・治療反応良好)と2型(両眼性・症状が重い・35歳未満・治療抵抗性)に分けること、Watsonの分類が片眼型(60歳超・急速発症・強い疼痛・鎮痛薬が効きにくい)、両眼進行型(14〜40歳・両眼性・自然穿孔をきたしうる)、両眼緩徐型(中年・不快感は軽度・自然治癒することがある)に分けること、潰瘍が急峻に張り出す中央側および進行縁と薄く血管に富む潰瘍底をもち輪部から2〜3 mmの範囲で円周方向と中央方向へ進み実質の3分の1から3分の2の厚さを侵すこと、強膜は侵されないこと、鉤虫・フィラリアなど寄生虫感染が角膜実質抗原CO-Agとの分子相同性を介して関連づけられる一方で患者の50%超に感染が認められないこと、C型肝炎との関連は報告が一致せず論争的であること、外傷・感染・手術の先行が10.7%(Chenら)または41.7%と報告されること、CO-Agがヒト好中球カルグラニュリンCと配列相同性をもち抗CO-Ag自己抗体の血清高値が報告されていること、潰瘍部にT細胞・B細胞・マクロファージ・好中球・NK細胞・肥満細胞が高密度に浸潤しICAM-1/LFA-1やB7/CD28/CTLA-4が発現すること、治療が段階的で局所デキサメタゾン1.5 mg/mLを1日6回・局所シクロスポリンA 1%を1日2〜4回6〜12か月用い、両眼性・進行例では全身プレドニゾロン1〜1.5 mg/kg/日、メトトレキサート週7.5〜12.5 mg、シクロホスファミド、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムスを用い、難治例にインフリキシマブ・アダリムマブ・リツキシマブを用いること、外科的治療として結膜切除が輪部結膜を除去して抗原への到達と免疫細胞浸潤を断つこと・角膜切除・羊膜移植・層状角膜移植(6時方向未満なら半月状や凸レンズ状、6時方向超で中央非併発なら輪状、中央併発なら全層状の層状角膜移植)・全層角膜移植・最終手段としてBoston型人工角膜があること、C型肝炎関連例にインターフェロンα-2b週100 µgとリバビリン1日1000 mgが用いられたこと、1型は薬物・手術に反応良好で2型は従来治療に抵抗性であることを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Risk Factors, Clinical Features, and Treatment Outcomes of Recurrent Mooren Ulcers in China(Cornea・2017)中国の139例173眼のMooren潰瘍のうち37例38眼が再発したこと、男女比が1.62対1であったこと、41例が両眼性・98例が片眼性であったこと、再発眼のうち30眼が初回と同じ部位に再発し27眼が治療後12か月以内に再発したこと、初回再発の累積リスクが6か月10.4%・12か月17.1%・24か月22.5%・36か月27.2%・48か月28.6%であったこと、男性であること(P=0.043)と手術治療を受けたこと(P=0.035)が再発リスクの上昇と有意に関連したこと、97.7%の眼が保存され81.5%が0.05を超える視力を保ったことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-03