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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

強膜軟化症

Scleromalacia perforans

別名
炎症を伴わない壊死性前部強膜炎穿孔性強膜軟化症
臓器系
眼科免疫・膠原病
科目
Internal MedicineMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
内科学 L-68:関節リウマチ内科学 R-03:関節リウマチの臨床像解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
鑑別疾患
Mooren潰瘍
関連疾患
翼状片
治療薬
プレドニゾロンメチルプレドニゾロンメトトレキサートミコフェノール酸モフェチルアザチオプリンシクロホスファミドインフリキシマブリツキシマブ
症状
強膜炎視力低下
検査値
抗CCP抗体C反応性蛋白(CRP)
原因となる疾患
ANCA関連血管炎関節リウマチ

🧠 全体像:強膜炎という病態は「夜間に目を覚ますほどの」で受診の契機をつかむ。はその契機が存在しない唯一の型である——炎症を伴わない、すなわち赤くもならず痛みもないままが融け、下のぶどう膜が青く透けてくる。長期の関節リウマチを背景に、痛みという警報を持たない穿孔性疾患として進む。診療の核心は「痛みの強さを重症度のにしない」という一点に尽きる。

強膜炎のどこに位置するか

WatsonとHayrehの分類は眼球の赤道で強膜炎を前部・後部に分ける。(強膜炎全体の約98%)はさらにびまん性・結節性・壊死性に分かれ、壊死性型だけが「炎症を伴う型」と「炎症を伴わない型=」に二分される12。

型 疼痛 充血 危険
前部・びまん性 広範な発赤 最多。全身検索は要る
前部・結節性 限局した圧痛 深紅の結節 中等度
前部・壊死性(炎症を伴う) 最強 白色領域と強い充血 穿孔・合併が最多・予後最悪
(炎症を伴わない壊死性) 無痛〜ごく軽度 わずか 無症候のまま菲薄化・穿孔

⚠️ 同じ「壊死性」でも、炎症を伴う型と伴わない型では見た目が正反対である。 前者は最も痛く最も赤い。後者は痛くも赤くもない。両者を「」とひとまとめに記憶すると、を見たときに「壊死性ではない」と読み違える。

病態——痛みが出ない理由

関節リウマチに伴うでは、血管へのが(C1q)を介して補体を活性化し、C3a・C5aが好中球とマクロファージを動員する。これらが放出するMMP-1・MMP-2・MMP-3・MMP-9がのコラーゲンを分解する3。

はこの流れのうち、の表現型を欠いたまま進むである。長期の関節リウマチ、とくに高齢女性に生じ、血管のによる虚血が背景にある3。として理解される1。

💡 血管が閉塞してになった組織には、炎症細胞も痛みのメディエーターも運ばれてこない。「痛くない」ことは炎症が軽いことではなく、炎症が届かないほど血流が絶たれていることの裏返しである。ここを取り違えると、最も虚血が進んだ眼を最も軽症と判定してしまう。

所見

  • 無症候〜軽度のにとどまる。眼痛で受診しない。
  • の充血はごくわずかなのに、進行性のにより暗色の領域が急速に拡大する1。
  • 菲薄化したを通して下層のぶどう膜()が青灰色に透見される32。
  • 進行すればに至る。

⚠️ 「痛くないから軽症」は成り立たない。 高度なはとをもたらしうるため、無痛であってもこのリスクを前提に治療を組む1。

背景疾患と全身の意味

関節リウマチはとの最多の基礎疾患である。強膜炎全体の8〜15%が関節リウマチを基礎に持ち、関節リウマチ患者の約2%が経過中に強膜炎を発症する。に伴う強膜炎のうち関節リウマチが39%を占める3。関節リウマチ自体の詳細はその項に譲る。

⚠️ 関節リウマチにおけるとは、の指標であり死亡率の上昇と結びつけられてきた3。眼の所見は眼だけの問題ではなく、全身の血管炎が動いている合図として読む。とが陽性の患者でを伴いやすい3。

関節リウマチ以外では、関連血管炎に伴う強膜炎が特発性よりを呈しやすい1。

⚠️ もを来しうる1。免疫抑制を始める前に、感染性——とくに結核と梅毒——を除外する。全身検索として・・・・・・胸部X線・・・血算に加え、梅毒と結核の検査を組む1。

治療

⚠️ 局所ステロイド点眼と経口で様子を見る段階が無い。 非壊死性の強膜炎には段階的な強化(局所→経口→→)が勧められるが、は診断した時点から積極的な治療を要する1。局所治療は全身治療の代わりにならない。

段階 内容
急性期の制御 経口約1mg/kg/日。緊急例では静注のパルス。4〜6週以上かけてする13
メトトレキサート・・を早期から併用する。ステロイド単独では中にする3
強化 が歴史的に用いられてきたが、生物学的製剤(阻害薬、抵抗例や阻害薬無効例にはリツキシマブ)が同等の有効性とより良い安全性を示しうる3
連携 では同日中の眼科・リウマチ科の連携との検索を行う3

⚠️ はの懸念から長く禁忌とされてきた。 有効性が示されているのは非壊死性のに限られる(40 mg/mL・2〜8 mgで97%に有効)1。壊死性・には用いない。

⚠️ 手術そのものが壊死性強膜炎の原因になりうる

⚠️ 手術そのものがの原因になる。 (SINS)は創に隣接して生じ、原因となる術式はとが最多である1。が脆く創が治りにくい眼にを持ち込まない。

外科的介入は、内科的治療を最大限行ってもが進む例に限られる。この場合はを伴うを検討し、移植材料には提供・角膜・・・などが用いられる。目的は眼球の構造的安定化であって炎症の制御ではなく、多くの例で内科的治療が別に必要である1。

穿孔のリスクを抱える患者では、睡眠中および日中の眼の保護具を考慮する1。喫煙は治療反応の遅れ・両眼性の炎症・・再発リスクと関連するため、禁煙を勧める1。

まとめ

  • は「炎症を伴わない」で、強膜炎のうち唯一、疼痛という受診の契機を持たない型である。
  • 長期の関節リウマチ、とくに高齢女性に生じ、血管のによる虚血が背景にある。として理解される。
  • 充血はわずかなのにの菲薄化が進み、下層のぶどう膜が青灰色に透見される。無症候のまま穿孔しうる。
  • ⚠️ 痛みの強さを重症度のにしない。無痛であっても穿孔リスクを前提に治療する。
  • 関節リウマチの・はの指標で、死亡率の上昇と結びつけられてきた。眼所見を全身評価の起点にする。
  • ⚠️ 免疫抑制の前に感染性——とくに結核・梅毒——を除外する。もを来しうる。
  • 局所治療で様子を見る段階が無い。経口約1mg/kg/日で始め、メトトレキサートなどのを早期から併用し、必要ならや生物学的製剤へ進む。
  • ⚠️ は打たない。はを招くため避け、外科は穿孔切迫時の構造的補強に限る。

出典

  1. 1.Update on Therapy for Non-Infectious Scleritis(Clinical Ophthalmology・2026)WatsonとHayrehの分類が眼球の赤道で前部・後部を分け、前部強膜炎をびまん性・結節性・壊死性に細分し、壊死性強膜炎をさらに「炎症を伴う」と「炎症を伴わない(強膜軟化症)」に分けること、壊死性型が最も破壊的で通常は強い疼痛と進行性の強膜壊死を示すのに対し強膜軟化症は典型的に無痛であること、強膜軟化症がIII型過敏反応で全身性炎症性疾患に伴って生じ強膜壊死をもたらすこと、図の説明として強膜の充血がわずかであるにもかかわらず進行性の強膜菲薄化により暗色の強膜変色領域が急速に拡大すると記されていること、壊死性前部強膜炎の高度な強膜菲薄化が視力低下や眼球穿孔をもたらしうるため無痛であっても重大なリスクを考慮すべきこと、ANCA関連強膜炎が特発性強膜炎より強膜軟化症を呈しやすいこと、結核性強膜炎が強膜軟化症を来しうること、結膜下ステロイド注射が強膜壊死の懸念から非壊死性強膜炎に限って推奨されること、壊死性強膜炎は他の型に勧められる段階的な治療と対照的に診断時点から積極的な治療を要すること、経口プレドニゾンを1mg/kg/日で開始し4〜6週以上かけて漸減すること、強膜穿孔のリスクがある強膜軟化症・壊死性強膜炎の患者では睡眠中および日中の眼の保護を考慮すること、内科的治療を最大限行っても強膜菲薄化が進む例では眼瞼縫合を伴う強膜パッチグラフトを検討し移植材料に提供強膜・角膜・大腿筋膜・骨膜・耳介軟骨などがあること、手術の目的は眼球の構造的安定化であり多くの例で炎症制御のための内科的治療が別に必要であること、手術既往が手術誘発性壊死性強膜炎(SINS)を疑わせ最も多い術式が翼状片切除と白内障手術であること、喫煙が治療反応の遅れ・両眼性炎症・視力低下・再発リスクと関連することを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Scleritis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)強膜炎が前部型(約98%)と後部型(約2%)に分かれ前部型がびまん性・結節性・壊死性に細分されること、壊死性型は疼痛が最も強く全身疾患の合併も最も多く予後も最も悪いこと、強膜軟化症が無症候から視力低下にとどまるまま強膜の高度な菲薄化により脈絡膜が透見される病型であること、非感染性前部強膜炎の治療が局所ステロイド点眼と経口NSAIDsから始まり無効なら経口ステロイド、さらにメトトレキサートなどの免疫抑制薬、インフリキシマブ・リツキシマブへ段階的に強化されることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.An Overview of Rheumatoid Arthritis-Associated Dry Eye Disease, Scleritis, and Peripheral Ulcerative Keratitis(Journal of Clinical Medicine・2026)関節リウマチが壊死性強膜炎と周辺部潰瘍性角膜炎という2つの視力を脅かす合併症の最多の基礎疾患であること、強膜炎全体の8〜15%が関節リウマチを基礎に持ち関節リウマチ患者の約2%が経過中に強膜炎を発症すること、免疫介在性疾患に伴う強膜炎のうち関節リウマチが39%と最多であること、関節リウマチに伴う壊死性強膜炎では強膜血管への免疫複合体沈着が古典経路(C1q)を介して補体を活性化しC3a・C5aが好中球とマクロファージを動員し、これらがMMP-1・MMP-2・MMP-3・MMP-9を放出して実質コラーゲンを分解すること、強膜軟化症が長期の関節リウマチとくに高齢女性に生じる壊死性強膜炎の一型で強膜血管の閉塞性動脈内膜炎の結果として起こること、無痛・無症候のまま強膜が菲薄化し下層のぶどう膜が青みを帯びて透見され穿孔のリスクを伴うこと、リウマトイド因子と抗CCP抗体が陽性の患者で眼病変を伴いやすいこと、関節リウマチの壊死性強膜炎・周辺部潰瘍性角膜炎が全身性血管炎による死亡率上昇と歴史的に関連づけられてきたこと、治療が中等症以上で経口プレドニゾン約1mg/kg/日から始まり緊急例には静注メチルプレドニゾロンのパルスを用いること、ステロイド単独では再燃するためメトトレキサート・アザチオプリン・ミコフェノール酸モフェチルなどの疾患修飾性抗リウマチ薬を早期に併用すること、壊死性強膜炎には同日中の眼科・リウマチ科の連携と全身性血管炎の検索が必要であること、シクロホスファミドが歴史的に用いられてきた一方で生物学的製剤(TNF-α阻害薬、抵抗例やTNF阻害薬無効例にはリツキシマブ)が同等の有効性とより良い安全性を示しうることを確認した。閲覧 2026-09-03