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Symptoms · Published

強膜炎

Scleritis

別名
鞏膜炎壊死性強膜炎後部強膜炎
臓器系
眼科免疫・膠原病
科目
Internal MedicineAnatomy
トピック
内科学 L-68:関節リウマチ内科学 R-03:関節リウマチの臨床像内科学 R-15:関節炎の鑑別診断解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
関連疾患
ANCA関連血管炎炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)関節リウマチ再発性多発軟骨炎

🧠 全体像炎の診療でまず問われるのは「ではないか」という切り分けだが、この対比に気を取られて炎自体の危険度を見落としてはならない。炎は視力を脅かすだけでなく、しばしば全身性血管炎の初発症状でもある——炎=重いではなく、独立した病態として全身検索まで組み立てる必要がある症状である。(大半を占める)と(まれで診断が難しい)に分かれ、なかでもは疼痛が最強で予後も最悪、感染性炎はステロイドでかえって悪化するという別枠の危険もある。

定義と用語の整理

は角膜とともに眼球の(緻で眼球の形そのものを保つ層)をなし、上の間にある血管に富む)とは別の層である。血流に乏しく緻密なため、いったん炎症が及ぶと組織の修復が遅れやすく、や血管炎による虚血が壊死性の経過をたどりやすい。で良性の経過をたどるのに対し、炎は・失明のリスクを伴う——名前が似ているだけで危険度も対応もまったく別物である。

項目
(血流に富む そのもの(、血流に乏しい)
疼痛 軽度の不快感 夜間や眼球運動で増悪する深部痛。壊死性型で最強
血管がする 血管はしない
視力・全身性疾患 保たれる、全身性疾患の合併はまれ 低下しうる、およそ半数に全身性自己免疫疾患を伴う

💡 するかどうかは、拡張しているのが上血管か深部血管かを反映する。色の充血に対し、炎は深部血管を含む紫調の充血を呈し、進行してが菲薄化すると青みがかってが透見されるようになる。

炎は病型でさらに分かれ、病型ごとに疼痛の強さと危険度が大きく異なる。

病型 特徴
・びまん性 最多。全体が広く発赤・腫脹する
・結節性 限局した圧痛を伴う結節を形成する
・壊死性 疼痛が最も強く、の菲薄化・穿孔リスクが最も高い。の合併も最も多く予後も最悪1
(炎症を伴わない壊死性型) 関節リウマチの長期経過で生じうる。無症候〜軽いのままが融解しが透見される、痛みに乏しい“物言わぬ”危険な病型1
まれ(全体の約2%)。前眼部の所見に乏しいことがあり診断が難しい1

⚠️ は「痛くないから軽症」ではない。 炎症所見・痛に乏しいままが融解し穿孔に至りうるため、疼痛の強さだけを重症度の代理指標にしない。

病態生理

炎の病態は、と血管炎によるへの虚血という一本の軸で理解できる。血流に乏しいは一度この虚血に陥るとが追いつかず、壊死性の経過をたどりやすい。

💡 炎による深部痛は眼痛のうち炎症性の深部痛の代表例であり、に分布する知覚神経終末が炎症メディエーターで直接刺激されることで生じる。眼球運動で増悪するのは、炎症を起こしたそのものがの動きで牽引・伸展されるためである。

💡 上は血流が豊富なため炎症を起こしても良性の経過をたどるが、は血流に乏しいためいったん炎症が及ぶと修復が遅れ壊死性の経過に傾きやすい——この血流の違いが両者の危険度の差の裏返しになっている。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ との誤認が診療全体の入口のリスクである。 深部痛、夜間に覚醒するほどの疼痛、眼球運動での増悪、での非のいずれかがあればという前提を疑い直す。経過観察を続けている間に穿孔・失明へ進みうる。

⚠️ 炎は全身性血管炎の初発症状でありうる。 ANCA関連血管炎の初発症状としてが現れることは全体の約6%とまれだが、炎で発症し数日後に関節痛、その後致死的なへ進んだ症例が報告されている2。とくにの合併が最も多い病型であるため1炎と診断した時点で尿検査・・胸部画像・ANCAを含めた腎機能・肺病変の全身検索を急ぐ。

⚠️ は前眼部が静かなことがある。 眼痛やがあるのに前眼部の充血・炎症所見に乏しく、非定型のなどとされやすい3を伴う例では、肥厚と)やMRIでそのものの肥厚・造影増強を確認する1

⚠️ 感染性炎をステロイドで悪化させない。 帯状疱疹・緑膿菌・術後炎は・ステロイドがかえって病原体の増殖を助ける。炎と診断した時点で、と決めつける前に病歴(・外傷歴・帯状疱疹の既往)と所見で感染性を除外する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["赤い眼で受診"] --> B{"夜間覚醒・眼球運動での増悪を<br>伴う深部痛があるか"}
    B -->|"なし"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='episcleritis'>上強膜炎</span>など他の<br>赤い眼を優先して評価"]
    B -->|"あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phenylephrine eye drops'>フェニレフリン点眼</span>で<br>血管の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blanching'>退色</span>を確認"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blanching'>退色</span>する"| C
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blanching'>退色</span>しない"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp examination'>細隙灯検査</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sclera'>強膜</span>の<br>菲薄化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avascular'>無血管</span>領域を確認"]
    E --> F{"前眼部の所見に乏しいまま<br>眼痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>があるか"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior scleritis'>後部強膜炎</span>を疑い<br>超音波Bスキャンで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T sign'>T字徴候</span>を確認・MRIを追加"]
    F -->|"なし(前部の所見が明らか)"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior scleritis'>前部強膜炎</span>の病型を<br>びまん性・結節性・壊死性で評価"]
    G --> I["腎機能・肺病変とANCAを含む<br>全身検索へ進む"]
    H --> I

は非眼科医でも一部実施できるが、の菲薄化・領域の評価との判読には眼科での評価が前提になる。炎という診断が確定した時点で、鑑別は「どの病型か」から「どのを背景に持つか」へと軸足を移す。

急性の強い眼痛・急激なを伴う例では、炎の鑑別を進める前になど、よりの高い病態を優先して除外する。炎は多くの場合それらより経過が緩徐であり、この順序を逆にしない。

対応の考え方

  • は、局所ステロイド点眼+経口NSAIDs(など)を第一選択とし、無効なら経口ステロイド、さらにメトトレキサートなどの・リツキシマブなどの生物学的製剤へと段階的に強化する1
  • は局所治療のみで経過を見る段階を経ず、経口NSAIDsから経口ステロイドへと即座に積極的な全身治療を開始する1
  • の合併が最も多く予後も最悪の病型であるため、局所治療で様子を見る猶予は乏しい。原疾患の全身治療(・生物学的製剤を含む)と並行した迅速な全身評価を要する1
  • 局所ステロイド点眼単独で漫然と引っ張らない。効果が乏しいまま局所治療だけを続けることは、の評価を遅らせるだけでなく、壊死性の経過を見逃す危険につながる。
  • 感染性炎が疑われる、あるいは除外できていない段階では、炎の治療体系(ステロイド・)をそのまま適用しない。病原体に応じた治療へ切り替える。
  • 全身性自己免疫疾患を背景に持つ例では、炎の局所治療だけでなく原疾患のコントロールが本体である。原疾患の治療がすれば炎も鎮静化しうる一方、局所治療のみを繰り返すことは原疾患の評価・治療開始を遅らせる。
  • 背景が疑われる例では、眼科単独で完結させず内科・腎臓内科などとの連携のもとで経過を追う。

まとめ

  • 炎はの一部、血流に乏しい)の炎症で、上(血流に富む)の炎症であるとは別の病態であり、危険度も対応も異なる。
  • (びまん性・結節性・壊死性)が大半で、はまれだが前眼部が静かなまま進むことがある。は疼痛最強・予後最悪、は痛みに乏しいままが融解する危険な病型である。
  • およそ半数に関節リウマチ・ANCA関連血管炎・などの全身性自己免疫疾患を伴う。
  • 炎は全身性血管炎の初発症状でありうる。とくに壊死性型では腎機能・肺病変の評価とANCAを含む全身検索を急ぐ。
  • やMRIでの肥厚・造影増強が診断の決め手になる。
  • 感染性炎はステロイド・でかえって悪化するため、と決めつける前に病歴と所見で除外する。
  • 対応はで局所ステロイド+経口NSAIDsから段階的に強化するが、壊死性型・は最初から全身治療を要し、原疾患のコントロールが対応の本体である。

出典

  1. 1.Scleritis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)強膜炎は前部型(約98%、びまん性・結節性・壊死性)と後部型(約2%)に分かれ、壊死性型は疼痛が最も強く全身疾患の合併も最も多く予後も最も悪いこと、後部強膜炎は強膜肥厚(2mm超)と球後の液体貯留がB-scan超音波でT字徴候として描出されることを確認した。治療は非感染性前部強膜炎で局所ステロイド点眼+経口NSAIDsを第一選択とし無効なら経口ステロイド、さらにメトトレキサートなどの免疫抑制薬、研究段階のインフリキシマブ・リツキシマブへ段階的に強化する一方、後部強膜炎は経口NSAIDsから経口ステロイドへと局所治療の段階を経ずに「即座に積極的な治療」を要すること、強膜軟化症は無症候〜視力低下で強膜の高度な菲薄化により脈絡膜が透見される病型であることを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.P20 Scleritis as initial presenting feature in ANCA-associated vasculitis(Rheumatology Advances in Practice・2021)ANCA関連血管炎の初発症状として眼症状(強膜炎を含む)が現れることは全体の約6%とまれだが、強膜炎で発症し数日後に関節痛、その後に致死的な肺出血へ進んだ症例を挙げ、強膜炎を診た時点でANCA血清検査を含む全身検索を促すべきことを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.Posterior Scleritis in a Pediatric Patient: Importance of Pain Recognition and Early Ultrasound Diagnosis(Cureus・2024)後部強膜炎は前眼部所見に乏しいまま非定型の視神経炎などと誤診されやすいこと、B-scan超音波で強膜肥厚と球後にたまる液体が描くT徴候が診断確定に有用でMRIも強膜肥厚・造影増強や球後の炎症性変化の評価に役立つことを確認した。閲覧 2026-08-03