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Symptoms · Published

上強膜炎

Episcleritis

別名
上鞏膜炎結節性上強膜炎単純性上強膜炎
臓器系
眼科免疫・膠原病
科目
Internal MedicineAnatomy
トピック
内科学 G-03:炎症性腸疾患内科学 R-03:関節リウマチの臨床像内科学 R-15:関節炎の鑑別診断解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
関連疾患
クローン病炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)潰瘍性大腸炎

🧠 全体像の診療で最初に、そして最後まで問われるのは「これは本当にか、それとも炎か」という一点である。で視力を脅かさない良性の経過をたどるが、炎は深部痛・のリスクを伴い、しばしば全身性血管炎の指標になる——名前が似ているだけで、危険度も対応もまったく別物と考えたほうがよい。この対比を軸に、炎・・角膜炎・前部ぶどう膜炎という他の「赤い眼」との切り分けまで押さえる。

定義と用語の整理

は、の間にある血管に富むである。眼球の壁そのものをなすの主体で角膜とともに眼球の形を保つ緻)とは別の層であり、「=軽い炎」ではない——名前の類似が生む最大の誤解はここにある。患者は単に「白目が赤い・ゴロゴロする」としか訴えず、この2つの構造の違いを自分では区別できない。

臨床的には(びまん性またはに発赤する)とに分けられ、大半は特発性である1

は、疼痛の強さ・視力・充血の性状・への反応で切り分ける。

項目
疼痛 軽度の不快感・、圧痛はごく軽い 夜間や眼球運動で増悪する疼痛・圧痛(壊死性型は特に強く、予後も最も悪い)
視力 保たれる 低下しうる
充血の性状 表層血管の色の発赤、またはびまん性 深部血管を含む紫調の充血。が菲薄化すると青みがかって透見される
への反応 血管がし充血が軽快する 血管はしない1
経過・危険度 数日〜数週で自然軽快する良性の経過 )に至りうる、視力を脅かす経過
全身性疾患との関連 6〜7割が特発性で、残りは全身性疾患・感染症を背景に持つ1 およそ半数が関節リウマチ・全身性血管炎などの自己免疫疾患を背景に持つ2

💡 (2.5%)は10〜15分で判定するベッドサイドの古典的な鑑別法として現行でも用いられるが、あくまで補助的な所見であり、確定にはによる前眼部の直接評価が要る1

はまた、他の「赤い眼」——炎、、角膜炎、前部ぶどう膜炎——とも紛れる。疼痛の性状、視力、瞳孔、分泌物、充血の分布で絞り込む。

疾患 疼痛 視力 瞳孔 分泌物 充血の分布
軽度、が主体 保たれる 正常 漿液性〜膿性で朝に開瞼困難になることも びまん性、瞼まで及ぶ
激しい眼痛・頭痛、悪心・嘔吐を伴う 急激に低下 中等度消失・固定 なし
角膜炎 中等度〜強い疼痛・ が視軸にかかれば低下 正常 〜漿液性 で上皮欠損
前部ぶどう膜炎 疼痛・ しばしば低下 傾向、で不整になりうる なし (輪部優位)
上表を参照 は保たれる、炎は低下しうる 正常 なし 上表を参照

病態生理

の血管網は局所の炎症で拡張・充血する。多くは特発性で、局所の免疫反応が想定されるが機序は完全には解明されていない。

  • 自己免疫性・性疾患関節リウマチのように全身性の炎症性疾患があると、上の血管も炎症の場になりうる。ではは腸管の炎症活動性と並行して増悪・軽快する点が特徴的で3、同じ腸管外病変でも腸管活動性とは独立して経過する前部ぶどう膜炎とは対照的である。
  • 代謝性痛風ではが眼組織にも沈着し、結節性または反復性のを誘発しうる4
  • 感染性・その他:帯状疱疹などまれな原因もあるが、頻度としては特発性が大きく上回る。

そのものは上より深部にあり血流に乏しい緻密な線維性結合組織である。いったん炎症が及ぶと組織の修復が遅れやすく、や血管炎による虚血が壊死性の経過をたどりやすい——これが炎で穿孔リスクが生じる理由であり、血流豊富な上が炎症を起こしても良性の経過をたどることの裏返しでもある。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 炎との誤認が最大のリスクである。 として経過観察を続けている間に炎(・全身性血管炎のでありうる)を見逃すと、対応が根本的に遅れる。深部痛、夜間に覚醒するほどの疼痛、眼球運動での増悪、のいずれかがあれば、という前提そのものを疑い直す。

⚠️ 他の「赤い眼」緊急疾患の除外が先決である。 はいずれも視力を脅かし、とは対応がまったく異なる。急性の強い眼痛・を伴う例をと決めつけない。

⚠️ 両側性・再発性、あるいは随伴する全身症状は全身検索の閾値を下げる。 片側性・単発例まで一律に血液検査を広げる必要はないが、両側性、再発を繰り返す例、あるいは関節痛・皮疹など随伴する全身症状がある例では、関節リウマチや血管炎、痛風などを念頭に、関節所見や尿酸値、などターゲットを絞った検索に進む。

⚠️ では、とぶどう膜炎で「腸管活動性との関係」が逆になる。 は腸管の炎症活動性と並行して増悪・軽快するのに対し3、前部ぶどう膜炎は腸管活動性とは独立して経過しうる。の悪化は腸炎そのもののコントロールを見直す契機になるが、ぶどう膜炎の悪化を同じ理屈で「腸炎コントロール不良の」と読み違えてはならない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["赤い眼で受診"] --> B{"激しい疼痛・急激な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nausea and vomiting'>悪心嘔吐</span>を伴うか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute glaucoma attack'>急性緑内障発作</span>を疑い<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>測定・緊急眼科紹介"]
    B -->|"なし"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='itch'>掻痒感</span>を伴う漿液性〜膿性の<br>分泌物が主体か"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>炎を疑う"]
    D -->|"なし"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescein staining'>フルオレセイン染色</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal epithelial defect'>角膜上皮欠損</span>を確認"]
    F --> G{"上皮欠損があるか"}
    G -->|"あり"| H["角膜炎を疑う"]
    G -->|"なし"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp examination'>細隙灯検査</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber cells'>前房内細胞</span>・<br>フレアを確認"]
    I --> J{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>内炎症があるか"}
    J -->|"あり"| K["前部ぶどう膜炎を疑う"]
    J -->|"なし"| L["充血の分布を確認し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='phenylephrine eye drops'>フェニレフリン点眼</span>を試みる"]
    L --> M{"血管が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blanching'>退色</span>し<br>深部痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>がないか"}
    M -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blanching'>退色</span>し軽症"| N["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='episcleritis'>上強膜炎</span>と判断"]
    M -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blanching'>退色</span>せず深部痛・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>を伴う"| O["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sclera'>強膜</span>炎を疑い緊急眼科紹介"]

を伴う漿液性〜膿性の分泌物という所見はを積極的に示唆する所見であり、は非眼科医でも実施できるが、・フレアの評価やの菲薄化の確認にはを要し、この段階からは眼科での評価が前提になる。という判断は、視力を脅かす他の病態を能動的に除外したうえで初めて成り立つ「」に近い位置づけである。

対応の考え方

  • の大部分は自然軽快する良性疾患である(はおよそ2〜21日)。診断がついたら、まずその旨を説明し不安を取り除くことが対応の中心になる1
  • 第一選択は冷却したの頻回点眼である1
  • 症状が持続する場合は、局所ステロイド点眼(しながらをフォローする)または経口NSAIDsを次の選択肢とする。経口NSAIDsは局所ステロイドを避けたい場合の代替・併用という位置づけであり、消化管保護薬の併用もあわせて検討する1
  • 局所ステロイドは自然軽快する疾患へのである以上、や易感染性のリスクを踏まえ漫然と長期処方しない。
  • 両側性・再発性、あるいは状など随伴する全身症状がある例では、上記の判断基準に沿って全身検索へ進む。
  • に伴うでは、局所治療よりも腸炎そのもののコントロールが軽快に直結するとされる3。局所治療だけを繰り返して腸炎の活動性評価を後回しにせず、原疾患治療への橋渡しとして扱う。
  • 炎が疑われる時点で、の対症療法という枠組みからは外れる。緊急眼科紹介のうえ、局所ステロイド+経口NSAIDsを軸に、無効なら経口ステロイド、さらに・生物学的製剤へと段階的に強化する全身治療が必要になる2

まとめ

  • で視力を脅かさない良性疾患だが、炎は深部痛・のリスクを伴い全身性血管炎の指標になりうる。での血管の有無が古典的な鑑別点である。
  • は名前が似ているが別の組織層であり、は「軽い炎」ではない。
  • 赤い眼の鑑別では炎・・角膜炎・前部ぶどう膜炎との切り分けが要り、疼痛の性状・視力・瞳孔・分泌物・充血の分布で絞り込む。
  • ではが腸管の炎症活動性と並行するのに対し、ぶどう膜炎は独立して経過しうるという対比が腸管外病変の理解の鍵になる。
  • 両側性・再発性、あるいは状などを伴う例では、関節リウマチ・血管炎・痛風などを念頭に全身検索へ進む閾値を下げる。
  • 対応は冷却したの頻回点眼が第一選択で、症状が続けば局所ステロイド点眼または経口NSAIDsを次の選択肢とする。例では原疾患のコントロールがの軽快に直結する。

出典

  1. 1.Episcleritis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)上強膜炎は単純型(びまん性・区域性、約7割)と結節型(約3割)に分かれ、6〜7割が特発性で残りは関節リウマチ・炎症性腸疾患・SLE・強直性脊椎炎・血管炎などの全身性疾患や感染症が背景にあること(結節型と単純型で全身性疾患の合併率に有意差は本資料では明示されていない)、フェニレフリン2.5%を1滴点眼し10〜15分後に判定すると上強膜血管は退色するが強膜血管は退色しないこと、対症療法は冷却した人工涙液の頻回点眼を第一とし、症状が続く場合は局所ステロイド点眼(漸減しつつ眼圧をフォローする)または経口NSAIDs(局所ステロイドの代替・併用という位置づけ)を選択肢とすること、自然軽快までの経過は2〜21日と自己限定的だが約3割で再発することを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Scleritis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)強膜炎は前部型(約98%、びまん性・結節性・壊死性)と後部型(約2%)に分かれ、夜間や眼球運動で増悪する疼痛・羞明・流涙を特徴とし壊死性型は疼痛が最も強く予後も最も悪いこと、フェニレフリン2.5%点眼でも血管が退色しない点で上強膜炎と区別されること、およそ半数に関節リウマチや全身性血管炎などの自己免疫疾患を伴うこと、非感染性前部強膜炎の治療は局所ステロイド点眼+経口NSAIDs(インドメタシンなど)を第一選択とし、無効なら経口ステロイド、さらに免疫抑制薬(メトトレキサートなど)、生物学的製剤(インフリキシマブ・リツキシマブ)へ段階的に強化することを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.A Review of Ophthalmic Complications in Inflammatory Bowel Diseases(Journal of Clinical Medicine・2022)炎症性腸疾患における上強膜炎は腸管の炎症活動性と並行して増悪・軽快し腸炎のコントロールで改善する一方、前部ぶどう膜炎は腸管の活動性とは独立して経過しうること、強膜炎は上強膜炎よりまれで腸管活動性の指標とはみなされないことを確認した閲覧 2026-08-03
  4. 4.Review of the ophthalmic manifestations of gout and uric acid crystal deposition(Clinical & Experimental Ophthalmology・2017)痛風では尿酸結晶の眼組織沈着により結節性または反復性の上強膜炎が生じうることを確認した閲覧 2026-08-03