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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

結膜炎

Conjunctivitis

別名
ピンクアイ急性結膜炎
臓器系
眼科感染症
科目
Medical MicrobiologyInternal Medicine
トピック
微生物学 5/3:眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断微生物学 2/8:淋菌。モラクセラ属微生物学 2/36:クラミジア・トラコマチスとクラミジアによる呼吸器感染症内科学 R-14:アレルギー
鑑別疾患
角膜炎乾燥性角結膜炎鼻涙管閉塞緑内障
関連疾患
アレルギー性鼻炎
治療薬
エリスロマイシンアジスロマイシンモキシフロキサシンケトチフェン
原因微生物
ヒトアデノウイルス黄色ブドウ球菌Moraxella lacunata淋菌Chlamydia trachomatis D-K緑膿菌
症状
結膜充血流涙羞明掻痒感
下位分類
アレルギー性結膜炎
原因となる疾患
クラミジア性器感染症淋菌感染症

🧠 全体像:「炎」という診断名にたどり着く前に、まず赤い眼が本当に炎かどうかを確かめるのがこの疾患の学習の要である。炎自体は視力を脅かさない良性だが、名前の似た「赤い眼」の中には・前部ぶどう膜炎・角膜潰瘍という視力を脅かす眼科緊急疾患が紛れ込む。そこを除外したうえで、炎の内部を細菌性・ウイルス性・アレルギー性の3方向に振り分ける——この2段階の枠組みが炎診療のすべてである。

病態

(瞼の裏)と眼球表面)を覆う薄い粘膜で、外界に直接曝露される。感染性・アレルギー性いずれの機序でも、血管の拡張・充血と、原因に応じた滲出液の産生である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>への刺激"] --> B{"機序は何か"}
    B -->|"病原体の直接感染"| C["好中球中心の炎症"]
    B -->|"病原体の直接感染"| D["リンパ球・単球中心の炎症"]
    B -->|"アレルゲンへのIgE介在反応"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mast cell degranulation'>肥満細胞脱顆粒</span>"]
    C --> C1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial conjunctivitis'>細菌性結膜炎</span><br>膿性・粘液膿性の分泌物"]
    D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='viral conjunctivitis'>ウイルス性結膜炎</span><br>水様性分泌物・強い伝染性"]
    E --> E1["ヒスタミン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leukotriene'>ロイコトリエン</span>遊離"]
    E1 --> E2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='allergic conjunctivitis'>アレルギー性結膜炎</span><br>水様性分泌物・強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='itch'>掻痒感</span>"]
    C1 --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>血管の拡張・充血"]
    D1 --> F
    E2 --> F

💡 分泌物の性状が最初の分かれ道になる。 の炎症を反映して膿性〜粘液膿性の分泌物を作りを伴わないのに対し、ウイルス性・アレルギー性はいずれも水様性の分泌物を作る1。ウイルス性とアレルギー性の水様性分泌物を分けるのはの有無で、強いがあればアレルギー性を、随伴する上(感冒様症状)や強い伝染性があればウイルス性を疑う。

急性期のの大部分はによるもので、酸に強くにも比較的抵抗性のをもつため、手指・タオル・点眼瓶などを介して院内・家庭内で容易に伝播する1は成人では黄色ブドウ球菌・肺炎球菌・が、小児では・肺炎球菌・Moraxella catarrhalisが主体になるという年齢による起因菌の違いがある1

分類:細菌性・ウイルス性・アレルギー性

項目 細菌性 ウイルス性 アレルギー性
分泌物 膿性〜粘液膿性、朝に開瞼困難になりやすい 水様性・ 水様性
乏しい 乏しい〜軽度 強い(最も特徴的)
左右 片眼から始まり数日で対側へ 片眼から始まり対側へ広がりやすい 通常両眼性
随伴症状 通常なし 感冒様症状・を伴うことがある の併存が多い
主な原因 黄色ブドウ球菌・肺炎球菌・Moraxella lacunata (ウイルス性の65〜90%) 花粉・ハウスダストなどのアレルゲン
伝染性 あり( 強い(接触・ なし

炎全体の約80%を占め、そのうちが65〜90%を占める最多の原因である1。「炎=細菌性で抗菌薬」という思い込みは、実際の頻度の分布と逆になっている。

特殊な臨床像

コンタクトレンズ関連:レンズの使用はの微小外傷と交換の低下を介して感染のリスクを高め、とくに緑膿菌による重症感染のリスクがある。には点眼を選ぶ1

新生児炎(:産道通過時のに由来し、新生児の最大10%に生じうる重症疾患である1。淋菌性は分娩後2〜5日と発症が早く過急性・膿性の経過をたどり、クラミジア性(Chlamydia trachomatis D-K)は5〜14日とやや遅れて軽度〜中等度の粘液膿性で発症するという、発症時期の違いが原因菌の見当をつける手がかりになる。クラミジア炎はさらに肺炎・中耳炎を合併しうるため、点眼のみで完結させず全身治療を要する。淋菌・失明に至りうる眼科緊急疾患であり、出生直後の抗菌薬点眼による予防が行われてきた。や強い炎症所見に乏しく涙・目やにだけが持続する新生児では、先天性閉塞(文献により新生児の約5〜11%と、新生児炎と並んでありふれた頻度)による排出障害も鑑別に挙げる。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ ・強い眼痛・瞳孔異常を伴う「赤い眼」を炎と決めつけない。 炎は本来、視力を脅かさず、瞳孔・角膜は正常に保たれる疾患である。は著明な・中等度固定・に加え、眼痛・頭痛・、光の周りに輪がかかって見えるを来す眼科緊急疾患であり2、前部ぶどう膜炎()はを、角膜潰瘍(角膜潰瘍)は強い疼痛と上皮欠損を来す。いずれも「の強い両眼性の水様性分泌物」という炎らしい所見を欠く点が鑑別の軸になる。

⚠️ 片眼性のな充血・を、抗菌薬が効かない「難治性炎」と誤認しない。 分泌物を伴わず乾燥感・が主体でに反応する経過は)を疑うべきであり、感染性炎とは治療の軸がまったく異なる。

⚠️ 新生児の膿性眼脂を「よくある目やに」で済ませない。 出生後早期に発症する高度の膿性眼脂は淋菌性を疑い、・失明を防ぐため緊急の全身治療を要する1

⚠️ 炎は院内感染源になりうる。 手指・診察器具・点眼瓶を介して容易に伝播するため、患者・医療者双方のと器具消毒を徹底し、発症者には症状消失まで直接接触を避けるよう指導する。

診断の進め方

flowchart TD
    A["赤い眼を訴える"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・強い眼痛・<br>瞳孔異常・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal opacity'>角膜混濁</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>炎ではないと考え<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute glaucoma attack'>急性緑内障発作</span>・ぶどう膜炎・<br>角膜潰瘍を評価し緊急眼科紹介"]
    B -->|"なし"| D{"分泌物の性状は"}
    D -->|"膿性・粘液膿性"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial conjunctivitis'>細菌性結膜炎</span>を疑う"]
    D -->|"水様性で強い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='itch'>掻痒感</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='allergic conjunctivitis'>アレルギー性結膜炎</span>を疑う"]
    D -->|"水様性で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='itch'>掻痒感</span>は乏しい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='viral conjunctivitis'>ウイルス性結膜炎</span>を疑う"]
    E --> H["軽症は経過観察<br>重症・コンタクトレンズ使用者は抗菌薬点眼"]
    F --> I["アレルゲン回避+<br>抗ヒスタミン薬/肥満細胞安定薬点眼"]
    G --> J["対症療法+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contact transmission'>接触感染</span>対策<br>抗菌薬は無効"]

診断の第一段階は「炎ではないかもしれない」という発想で危険な赤い眼を除外することであり、これができて初めて分泌物の性状という炎内部の振り分けに進める。ができる環境では、によるの有無、・フレアの有無を直接確認するとさらに確実である。

治療

治療は病型ごとにまったく異なり、抗菌薬をすべての炎に一律投与することが最大の誤りである。

  • :軽症は無治療でも7〜10日で自然軽快するが、発症6日以内の抗菌薬投与で経過を短縮できる1。第一選択は点眼などの古典的なで、コンタクトレンズ使用者には緑膿菌をカバーするなどの点眼を選ぶ1
  • :抗菌薬は無効であり、対症療法()と対策が治療の中心になる3
  • :アレルゲン回避を基本に、などの抗ヒスタミン薬・肥満細胞安定薬点眼を用いる。局所ステロイド点眼は・易感染性のリスクがあり、春季カタルの増悪期など限られた場面に留める。
  • 局所抗菌薬・ステロイドの無差別な使用は避ける。 は抗菌薬に反応せず、軽症のは自然軽快しやすいため、すべての炎に画一的な処方を行わない3
  • は起因菌に応じた全身治療(淋菌性にはセフトリアキソン全身投与、クラミジア性には全身アジスロマイシンまたは)を要し、点眼のみで完結させない。
  • 50歳以上・19歳以上の免疫不全患者への接種は、帯状疱疹に伴うを含む)の予防として強く推奨される3

まとめ

  • 炎の診療で最初に問うべきは「本当に炎か」であり、・強い眼痛・瞳孔異常があれば・前部ぶどう膜炎・角膜潰瘍という眼科緊急疾患を除外する。
  • 炎内部は分泌物の性状との有無で振り分ける。膿性〜粘液膿性でなしは細菌性、水様性でが強いのはアレルギー性、水様性でが乏しいのはウイルス性を示唆する。
  • ウイルス性が炎全体の約80%(が65〜90%)を占め、細菌性より頻度が高い。
  • 新生児炎は産道感染に由来し、淋菌性は生後2〜5日、クラミジア性は5〜14日と発症時期で鑑別する。淋菌性は・失明の危険がある眼科緊急疾患である。
  • 治療は病型ごとに異なり、細菌性の軽症例は自然軽快、ウイルス性は抗菌薬無効で対症療法、アレルギー性は抗ヒスタミン薬・肥満細胞安定薬が中心になる。局所抗菌薬・ステロイドの無差別な使用は避ける。
  • 片眼性の慢性充血で分泌物に乏しい経過は、炎ではなくを疑う。

出典

  1. 1.Conjunctivitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)結膜炎はプライマリケアで扱う眼疾患の大部分を占め、急性例の約80%がウイルス性(うちアデノウイルスが65〜90%)で、細菌性は小児に多く成人ではS. aureus・S. pneumoniae・H. influenzaeが主要な起因菌であること、アレルギー性結膜炎は人口の15〜40%が経験する非感染性の主因であること、細菌性結膜炎は分泌物が膿性・粘液膿性で掻痒感を伴わないのに対しウイルス性・アレルギー性は水様性分泌物で掻痒感を伴うこと、細菌性結膜炎は無治療でも7〜10日で軽快するが発症6日以内の抗菌薬投与で経過が短縮しうること、コンタクトレンズ使用者には緑膿菌をカバーするフルオロキノロン系を経験的に選ぶべきであること、新生児結膜炎は新生児の最大10%に生じ淋菌・クラミジア・HSV-2などを原因として全身合併症を伴いうる重症疾患であることを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.Conjunctivitis Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2023)結膜炎は視力障害や身体的後遺症を残すことはまれだが欠勤・欠席や受診・検査の費用という経済的負担が大きいこと、局所抗菌薬・ステロイドの無差別な使用は避けるべきでありウイルス性結膜炎は抗菌薬に反応せず軽症の細菌性結膜炎は自然軽快しやすいこと、50歳以上および19歳以上の免疫不全患者には帯状疱疹ワクチン接種が強く推奨されることを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.Primary Angle-Closure Disease Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2020)急性閉塞隅角発作の症状として眼痛・頭痛・悪心嘔吐、光の周りに霧視を伴うハローが挙げられ、徴候として著明な眼圧上昇・角膜浮腫・結膜充血・中等度散瞳瞳孔が定義されていることを確認した。閲覧 2026-08-03