疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 感染症 · 疾患

咽頭結膜熱

Pharyngoconjunctival fever

別名
プール熱PCF
臓器系
感染症眼科耳鼻咽喉科
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 3/11:アデノウイルス微生物学 5/19:空気感染性ウイルス感染の病原体(一覧)微生物学 5/3:眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断
上位概念
結膜炎
鑑別疾患
急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍流行性角結膜炎
原因微生物
ヒトアデノウイルス
症状
発熱咽頭痛結膜充血流涙リンパ節腫脹

🧠 全体像:は、が咽頭とに同時に着地した病型である。学習上の要点は3つに絞れる。①発熱・咽頭炎・結膜炎という三徴が同時に揃うので、眼だけを見ても喉だけを見ても診断に届かない。②プール水を介した集団感染という流行の形を持ち、通称の「」はここから来る。③日本ではの第二種に位置づけられ、の期間が日数で定められている。角膜を侵して視力を脅かすとは、原因ウイルスの種が違い、残すも違う。ウイルス学は、結膜炎一般の枠組みは結膜炎に譲る。

三徴

小児では3・4・7型により、発熱・咽頭炎・を伴うとして生じる1。

徴候 中身
発熱 高熱が数日続くことが多い
・咽頭炎 ・扁桃の腫大。滲出物を伴うこともある
結膜炎 を伴うと。片眼から始まり対側へ及ぶ
リンパ節腫脹 耳前・頸部。圧痛を伴う

⭐ 三徴が「揃わない」ことは珍しくない。 結膜炎を欠く例、咽頭炎が前面に出る例があり、三徴が揃わないからといって否定できない。逆に、発熱と咽頭炎に結膜炎が乗ったら本症をまず考える——この組み合わせを作るありふれた病原体は他に多くない。

⚠️ による咽頭炎と取り違えない。 は結膜炎を伴わないのが原則で、結膜炎の存在はウイルス性を示唆する所見である。ここを取り違えると不要な抗菌薬が出る。

プールでの集団感染

はエンベロープを持たず環境中で安定なため(の項)、が不十分なプール水が感染源になりうる。

2019年に中国浙江省の遊泳施設で起きたでは、アマチュア遊泳者716人のうち97人(13.55%)が発症し、うち24人(24.74%)が小児病棟に入院した。プール水の濃縮検体と患者検体の双方から7型が分離され、患者・水検体・院内で発症した1名の間で hexon・fiber・penton 遺伝子が100%相同であった2。

💡 この報告が示しているのは「水から人へ」だけではない。 同じ事例で小児病棟のにが起きている2。プール由来の疾患という印象が強い一方で、いったん医療機関に入ればと同じく対策の対象になる。

  • 伝播経路は・接触・水。タオルや手指の共有が家庭内・施設内の広がりを支える
  • 便中への排出は症状消退後も続きうるため、回復後もしばらく手洗いを徹底する

流行性角結膜炎との分かれ目

項目
主な型 3・4・7型1(種B・E) 8・19・37型など1(種D)
発熱・咽頭炎 あり(定義に含まれる) 乏しい
角膜病変 通常なし を残す
主な流行の場 プール・学校・家庭 眼科外来・病棟・施設
上 第二種3 第三種3

診断と治療

  • 臨床診断が基本。発熱・咽頭炎・結膜炎の同時存在と、プールや集団生活での曝露歴を確認する
  • ・のが外来で使える。集団発生の型別にはを用いる
  • を疑う要素があればで除外する
  • 治療は対症療法のみ。とが中心で、抗菌薬は無効である。感染症に承認された抗ウイルス薬は存在しない
  • 目の症状には・。⚠️ 局所ステロイドは期間を延ばすため、本症では通常不要である1

学校保健安全法上の扱い

日本ではが扱いを定めており、は第二種の感染症に掲げられる3。

⭐ の期間の基準は「主要症状が消退した後二日を経過するまで」。 ただし、病状により学校医その他のが感染のおそれがないと認めたときはこの限りでない3。

⚠️ 「後2日」ではなく「主要症状が消退した後2日」である。 発熱・咽頭炎・結膜炎がいずれも本症の主要症状なので、熱が下がっても結膜炎が続いていれば期間は終わらない。日数だけを覚えて起点を取り違えると、登校再開の判断が早まる。

⭐ は第三種で、「感染のおそれがないとが認めるまで」と判断で決まる3。同じでも、日数で決まる本症と、判断で決まるという対比になっている。

まとめ

  • は3・4・7型による、発熱・咽頭炎・結膜炎(を伴う)の病型である。
  • 三徴が揃わない例もあるが、発熱と咽頭炎に結膜炎が乗ったらまず本症を考える。結膜炎の存在はを遠ざける所見でもある。
  • が不十分なプール水が感染源になる。浙江省の事例では71697人(13.55%)が発症し、プール水と患者から同一の7型が分離された。同じ事例で病棟内のも起きている。
  • 治療は対症療法のみ。抗菌薬は無効で、承認された抗ウイルス薬も無い。局所ステロイドはを延ばすため通常用いない。
  • では第二種で、は「主要症状が消退した後二日を経過するまで」。起点はではなく主要症状の消退である。
  • 角膜を侵してを数か月残す(種D、第三種)とは、原因の種・・法令上の扱いのすべてが異なる。

出典

  1. 1.Viral Conjunctivitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)流行性角結膜炎がアデノウイルスによる眼感染のうち最も重症の病型であり古典的に血清型8・19・37と関連づけられること、角膜上皮と前部実質でのウイルス増殖が点状表層角膜症と上皮下浸潤をもたらし視覚症状の原因になること、ウイルス性結膜炎の大半が10〜14日間強い伝染性を持つこと、局所ステロイドは症状の改善を助ける一方でウイルス排出期間を延長させうるため上皮下浸潤による視力低下または高度の結膜充血がある例に限って用いること、乳児のアデノウイルス結膜炎への2.5%ポビドンヨード単回投与が重篤な有害事象なく症状の重症度と回復までの期間を減らしたこと、1%および2%シクロスポリンA点眼が上皮下浸潤による視覚症状に有効と示されていること、咽頭結膜熱が小児においてヒトアデノウイルス3・4・7型により発熱・咽頭炎・耳前リンパ節腫脹を伴う急性濾胞性結膜炎として生じることを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Outbreak of acute respiratory disease caused by human adenovirus type 7 and human coronavirus-229E in Zhejiang Province, China(Journal of Medical Virology・2023)2019年に中国浙江省の遊泳施設で咽頭結膜熱のアウトブレイクが発生し、アマチュア遊泳者716人のうち97人(13.55%)が発症、そのうち24人(24.74%)が小児病棟に入院したこと、プール水の濃縮検体1件と97人の患者のうち20人からヒトアデノウイルス7型が分離されたこと、患者20例・水検体1件・看護師1名のhexon・fiber・penton遺伝子が100%相同であったこと、このアウトブレイクが小児病棟での院内伝播(看護師1名の発熱とアデノウイルス陽性)につながったこと、アデノウイルスに汚染されたプール水が咽頭結膜熱アウトブレイクの感染源として最も可能性が高いと結論づけられたことを確認した。なお本論文が同時に報告しているヒトコロナウイルス229Eによる急性呼吸器疾患のアウトブレイクは別事象であり、その感染源は院内伝播とされている。閲覧 2026-09-03
  3. 3.学校保健安全法施行規則(昭和三十三年文部省令第十八号)(デジタル庁 e-Gov法令検索(令和五年五月八日施行の現行版)・2023)第十八条第一項第三号が流行性角結膜炎および急性出血性結膜炎を第三種の感染症に掲げること、同項第二号が咽頭結膜熱を第二種の感染症に掲げること、第十九条第三号が結核・髄膜炎菌性髄膜炎および第三種の感染症について出席停止の期間の基準を「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」と定めること、第十九条第二号トが咽頭結膜熱について「主要症状が消退した後二日を経過するまで」と定め、同号本文のただし書きが病状により学校医その他の医師が感染のおそれがないと認めたときはこの限りでないとすることを確認した。閲覧 2026-09-03