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Symptoms · Published

流涙

Lacrimation

別名
流涙症涙目epiphora
臓器系
眼科神経
科目
AnatomyNeurology
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼神経内科 G1-02:顔面神経障害の症候神経内科 G1-40:一次性頭痛症候群
関連疾患
アレルギー性結膜炎結膜炎鼻涙管閉塞片頭痛・一次性頭痛症候群
起因薬
セネジャーミン

🧠 全体像:患者の「涙が出る」という訴えは、涙が作られすぎている(産生過剰)のか、作られた涙がうまく排出されない(排出障害)のかという、機序がまったく違う2つの状態を区別しない。この2つを分けずに「涙目だから点眼を増やす」と考えると的外れになる——実際、でもっとも多い原因はによる反射性の産生過剰であり1そのものが足りないの裏返しとして起こるな現象である。産生系(とその神経支配)と排出系(からまでの)という2本の解剖学的骨格に沿って原因を整理すると、訴えの中身を素早く分解できる。

定義と用語の整理

「涙が出る」「涙目」という訴えの中には、由来の異なる複数の現象が混ざっている。

用語 意味 産生か排出か
角膜・への刺激(異物、乾燥による上皮障害など)が三叉神経を介しての分泌を反射的に増やす 産生過剰
を介するとは別の経路による、感情に伴う分泌増加 産生過剰
安静時にから一定量分泌されるそのもの。これが低下した状態が
狭義の(排出障害) のどこかが閉塞・機能不全に陥り、産生量が正常でも涙があふれる 排出障害

もっとも重要なのは、の最多原因であるというである。 ある検討では患者320眼のうち52.19%がによるで、大半がで改善している1。涙が出ているからといってが余っているとは限らず、むしろが足りずに刺激され続けている状態を疑う必要がある。

病態生理

産生系と排出系という2つの解剖学的経路のどちらが破綻しているかで整理する。

産生系:への副交感神経支配

の分泌は、橋のから(顔面神経に伴走する自律神経・感覚成分)を経てとなり、でシナプスした後、を介してに至る神経学 G1-02。この経路があるからこそ、角膜・の三叉神経終末が刺激されるとを介しての分泌が増える。

  • :異物、睫毛乱生による機械的刺激、、化学刺激、などがを刺激する。ではそのものが乏しいにもかかわらず、上皮の微小損傷が刺激源として働き続けるため、かえって反射性の分泌が増える。
  • の活性化が同じ副交感神経を反射的にし、をはじめとするでは同側の・鼻閉/を伴う神経学 G1-40
  • (いわゆる「」)に、本来唾液腺へ向かうはずの再生軸索が誤ってへの経路にし、食事の刺激で涙があふれる現象が起こりうる。

排出系:の解剖と涙のポンプ機構

からを経てへ排出される解剖学 7.4のたびに・弛緩させることで陰圧が生じ、へ吸い込む「涙のポンプ機構」が働く。したがってが麻痺すると、そのものは開通していてもポンプ機構が働かず涙があふれる。

排出障害はどこで詰まるかで名前が変わる——が眼球から離れて涙を汲み上げられない)、閉塞(新生児ではの膜様閉鎖が最多2、成人では原発性の狭窄や続発性の炎症・腫瘍・外傷による閉塞)のいずれも、最終的には「のどこかで流れが妨げられる」という同じ結果に至る。

原因の群分け

代表 補足
①産生過剰 (最多)、異物・睫毛乱生による機械的刺激、、化学刺激・ 眼表面の刺激が三叉神経する
①産生過剰(特殊) など)、 ・再生軸索のという神経性の機序
②排出障害 (外傷・炎症・薬剤性)3閉塞(原発性・続発性)4によるポンプ機構不全 のどの高さで閉塞・機能不全が起こるかで呼び名が変わる
③その他 新生児の先天性閉塞2 乳児では見た目が似ていても対応のがまったく異なる

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ から蜂窩織炎への進展。 眼瞼腫脹・発赤・疼痛・部の圧痕からの排膿を認めたら、による治療をただちに開始する4。眼静脈には弁がなくと直接交通するため、治療が遅れればに進展しうる。
  • ⚠️ 乳児の の三徴に(角膜径拡大)を伴えば、単なる先天性閉塞と決めつけずを疑う。を放置すれば不可逆的な視力障害に至るため、鑑別を誤ってはならない。
  • ⚠️ 血性・片側性のによるの疑い。 からの血性分泌物は腫瘍を強く示唆する所見であり4、通水検査の異常だけで「よくある閉塞」と片付けてはならない。
  • ⚠️ 持続する機械的刺激による角膜潰瘍 睫毛乱生や重度のによるを放置すると、を経て角膜潰瘍・穿孔に進みうる。
  • ⚠️ との鑑別。 片側の眼痛・頭痛にを伴う場合、も鑑別に挙がる。瞳孔異常・眼球を伴えば緊急評価を優先する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["涙があふれるという訴え"] --> B{"片側性か両側性か"}
    B -->|"両側性"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry eye'>ドライアイ</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='allergic conjunctivitis'>アレルギー性結膜炎</span>など<br>全身・両眼性の原因を検討"]
    B -->|"片側性"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescein staining'>フルオレセイン染色</span>で<br>眼表面刺激所見はあるか"}
    D -->|"あり"| E["異物・睫毛乱生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal epithelial damage'>角膜上皮障害</span>など<br>産生過剰側の原因を検索"]
    D -->|"なし"| F{"眼瞼・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal punctum'>涙点</span>の位置は正常か"}
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eversion'>外反</span>・位置異常あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='efflux pumps'>排出ポンプ</span>機構の不全を疑う"]
    F -->|"正常"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal irrigation test'>涙道通水検査</span>で開<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facultative'>通性</span>を確認"]
    H -->|"開通・逆流なし"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional epiphora'>機能性流涙</span>を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dacryoscintigraphy'>涙道シンチグラフィ</span>を検討"]
    H -->|"逆流・抵抗あり"| J{"発赤・腫脹・疼痛はあるか"}
    J -->|"あり"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute dacryocystitis'>急性涙嚢炎</span>を疑い<br>緊急治療へ"]
    J -->|"なし・血性分泌あり"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal sac tumor'>涙嚢腫瘍</span>を疑い<br>画像検査へ"]
    J -->|"なし・血性分泌なし"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasolacrimal duct'>鼻涙管</span>閉塞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='canalicular obstruction'>涙小管閉塞</span>として<br>発症年齢・既往から原因を絞る"]

同側の激しい頭痛(15〜180分の痛の反復)を伴う片側性では、を探す前になど)を鑑別に挙げる。だけを見てすると、頭痛そのものへの急性期治療の開始が遅れる。

対応の考え方

そのものを止める処置と、原因治療のどちらに委ねるかは産生過剰か排出障害かで分かれる。

  • 産生過剰側は原因治療が基本になる。 が原因ならの対症療法に準じてから始め、異物・睫毛乱生は除去・処置を行い、なら頭痛自体の急性期・予防治療(の治療)に委ねる。だけを標的にした介入を探す必要はない。
  • が開通しているのに涙があふれるで生理的な条件のまま診断を確認し、への注射で分泌そのものを抑える選択肢がある。
  • の閉塞は部位に応じた処置が必要になる。は軽度〜中等度なら・挿管、高度なら)を要し3閉塞には内視鏡的またはを行う。外的DCRの成功率は95%を超える4
  • 新生児の先天性閉塞は1年以内に約90%が自然軽快するため、まずマッサージによるで経過観察し、遷延する例や感染兆候を伴う例でに進む2
  • による治療を急ぎ、膿瘍形成があればを行い、鎮静後に処置を検討する4

まとめ

  • 「涙が出る」という訴えは、まず産生過剰(からの分泌が多すぎる)か排出障害(が詰まっている)かを区別することがすべての出発点であり、もっとも多い原因はによるである。
  • 病態生理は、への副交感神経支配()を介する・情動性経路・という産生系と、からに至るの解剖と涙のポンプ機構という排出系の2本立てで理解する。
  • 原因は①産生過剰(、機械的刺激、)②排出障害(閉塞、ポンプ機構不全)③新生児・先天性領域(先天性閉塞、)に整理する。
  • 最も見逃してはいけないのはからの蜂窩織炎進展で、乳児の、血性・片側性によるの疑い、角膜潰瘍・穿孔、との鑑別が続く。
  • 鑑別は片側/両側→眼表面刺激所見→位置→の順に絞り、同側の激しい頭痛を伴う場合はを疑う。
  • 対応は原因ごとに軸が異なり、産生過剰は原因治療、は分泌抑制、閉塞は部位に応じた処置、先天性閉塞はまずは抗菌薬治療を急ぐ。

出典

  1. 1.Nasolacrimal Duct Obstruction, Congenital(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)先天性鼻涙管閉塞が新生児の約5〜11%に生じ、鼻涙管下端のHasner弁部位における膜様閉鎖が最多の原因であること、1年以内に約90%が自然軽快し生後6〜12か月時点でのプロービングが選択肢の一つであること、プロービングの成功率が70〜97%(多くは90%程度)であることを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Canalicular Obstruction(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)涙小管閉塞の原因が先天性(点状閉鎖・涙小管狭窄)、外傷性(涙小管裂傷・化学熱傷)、炎症性・感染性(眼瞼炎・涙小管炎・瘢痕性眼類天疱瘡・Stevens-Johnson症候群)、薬剤性(ドセタキセルなど抗癌剤や眼科用点眼薬)、医原性(涙点プラグ・点状焼灼・放射線治療)に分類されること、評価に涙道通水検査・プロービング・涙液消失試験を用いること、軽度〜中等度はステント留置・挿管、高度閉塞は結膜涙嚢鼻腔吻合術(Jones管)を要することを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Secondary Acquired Nasolacrimal Duct Obstruction(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)後天性鼻涙管閉塞の続発性原因が感染性・炎症性(肉芽腫性疾患、サルコイドーシス、多発血管炎性肉芽腫症)、腫瘍性、外傷性、機械的閉塞(涙石など)に分類されること、血性の涙点分泌物が腫瘍を強く示唆する所見であること、急性涙嚢炎の臨床像(眼瞼腫脹・発赤・疼痛・圧痕からの分泌物)に対する広域抗菌薬による初期治療、外的涙嚢鼻腔吻合術の成功率が95%を超えることを確認した閲覧 2026-08-03
  4. 4.Etiology of Epiphora(Korean Journal of Ophthalmology・2021)流涙を主訴に受診した180人320眼の後方視的検討で、原因の内訳がドライアイによる反射性流涙52.19%・涙道異常21.25%・多因子性18.75%・機能性流涙4.38%・眼表面疾患2.19%・眼瞼異常1.25%であり、反射性流涙の大半が人工涙液で改善したことを確認した閲覧 2026-08-03