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Symptoms · Published

涙液分泌低下

Decreased tear production

別名
涙の減少啼泣時の涙の消失無涙
臓器系
眼科全身小児
科目
PediatricsPathophysiology
トピック
小児科 2-20:小児の体液平衡異常、重度脱水と輸液療法病態生理学 1-33:全身性エリテマトーデス・全身性硬化症・シェーグレン症候群小児科 3-11:小児顔面神経麻痺
関連疾患
IgG4関連疾患サルコイドーシスシェーグレン症候群移植片対宿主病乾燥性角結膜炎脱水
スコア
Gorelick score小児臨床的脱水スケール慢性GVHDのNIHコンセンサス基準

🧠 全体像:「涙が出ない」という訴えは、少なくとも3つの別々の文脈で現れる。しても涙が出ないというの低下は小児の急性脱水を評価する所見の1つであり、「目が乾く・ゴロゴロする」というの低下症候群をはじめとする慢性のの徴候であり、への神経支配そのものが断たれる神経支配の障害の病変の高さを教える手掛かりになる。この3つを同じ「涙の減少」として一括りにすると、急性・可逆性の所見と慢性・進行性の疾患を混同する。⚠️ どの文脈であっても、を伴う場合は角膜保護を診断確定前から始めるという一点だけは共通する。

定義と用語の整理

「涙が出ない」という訴えの中には、由来の異なる複数の病態が混ざっている。

用語 意味
の低下( 安静時にから分泌される基礎そのものがに減っている状態。で評価する
の低下 ・刺激時に本来増えるはずの涙が出ない状態。急性で、原因が解除されれば可逆的なことが多い
亢進型の 分泌量そのものは保たれているが、によるの異常でが早く、を訴える状態
の先天的な低形成・欠損、またはへの神経支配そのものの欠如により、生涯にわたり涙が作られない状態

は同じが担うが、評価される文脈がまったく違う。(CDS)やGorelick scoreが評価するのは時に涙が出るか)であり、症候群の分類基準がで評価するのはである。同じ「涙の項目」という言葉を使っていても、測っているものが違う。

💡 亢進型のを「涙が出ない」の仲間に入れない。 分泌量そのものは保たれているため、で分泌量を補う発想ではなく、・眼瞼衛生でを整えることが主体になる。「涙が出ない」という訴えと分泌量の低下は必ずしも一致しない。

病態生理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased tear secretion'>涙液分泌低下</span>の機序"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body fluid volume'>体液量</span>の減少"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland'>涙腺</span>の破壊"]
    A --> D["神経支配の障害"]
    A --> E["薬剤性"]
    A --> F["先天性"]
    B --> B1["脱水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemia'>循環血液量減少</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reflex tear secretion'>反射性分泌</span>が真っ先に落ちる"]
    C --> C1["自己免疫性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphocytic infiltration'>リンパ球浸潤</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sjögren'>シェーグレン</span>症候群"]
    C --> C2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='graft-versus-host disease, GVHD'>移植片対宿主病</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcoidosis'>サルコイドーシス</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='IgG4-related disease, IgG4-RD'>IgG4関連疾患</span>"]
    C --> C3["頭頸部への放射線治療後<br>腺実質の線維化"]
    D --> D1["顔面神経の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='geniculate ganglion'>膝神経節</span>より近位<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater petrosal nerve'>大錐体神経</span>を含む障害"]
    D --> D2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trigeminal nerve impairment'>三叉神経障害</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reflex arcs'>反射弓</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afferent pathways'>求心路</span>が断たれる"]
    E --> E1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Anticholinergics'>抗コリン薬</span>・抗ヒスタミン薬<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tricyclic antidepressant'>三環系抗うつ薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotretinoin'>イソトレチノイン</span>"]
    F --> F1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal gland'>涙腺</span>の先天性低形成<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='alacrima'>無涙症</span>"]

の減少は、の中でもっとも急性かつ可逆的な機序である。 脱水で循環血液量が落ちると、の中でもの分泌は早期に反応して減少し、CDSやGorelick scoreが時の涙の消失を採点項目に含めるのはこのためである。輸液でが戻れば分泌も回復する、可逆性の高い機序である。

の破壊による群は、そのものを不可逆に落とす。代表は症候群で、・唾液腺へのが腺房を破壊する。後のを侵し、を来しうる群として鑑別に挙がる。頭頸部悪性腫瘍への放射線治療後も、が含まれれば同様に腺実質が線維化する(の治療計画ではの温存が検討事項になる)。

神経支配の障害は、そのものは無傷でも「指令」が届かない群である。への副交感神経は顔面神経のを経由するため、の病変がより近位に及ぶとが起こり、遠位の病変では涙は保たれる——この高さの違いが病変の位置診断に使える。一方、を担うの障害では、へのではなくが断たれ、刺激があっても涙が出なくなる。

薬剤性は、などのを持つ薬剤、の分泌そのものを落とす機序で、の質的異常とへの影響を介してを来す。

先天性のは、の低形成・欠損そのものによる生涯性の分泌低下で、)やのような全身性疾患の一部分症として現れることが多い。

緊急・見逃してはいけない疾患

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ を伴うでの角膜潰瘍・穿孔。 涙が出ないうえもできないという二重の防御破綻が起こる。など原因診断が確定する前から、無添加のと夜間ので角膜保護を始める。
  • ⚠️ 小児の高度脱水。 しても涙が出ないという所見はCDS・Gorelick scoreの採点項目の1つだが、単独で脱水の有無・程度を判定してはならない。全身状態・傾眠の有無・・尿量と併せて評価する。
  • ⚠️ 症候群に合併するB細胞リンパ腫 通常のの悪化ではなく、持続性・非対称性の唾液腺腫脹やリンパ節腫大、を伴う場合は精査を急ぐ。
  • ⚠️ による神経麻痺性角膜症。 が落ちているため、角膜がすでに融解し始めていても患者は痛みを訴えないことが多い。症状の乏しさそのものがであり、症状を待たず角膜の外観を定期的に確認する必要がある。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["涙が出ないという訴え・所見"] --> B{"急性か慢性か"}
    B -->|"急性"| C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crying (infant cry, clinical sign)'>啼泣</span>時の消失で<br>他の脱水所見を伴うか"}
    C -->|"あり"| D["小児の脱水評価へ<br>全身状態・皮膚・尿量と併せる"]
    C -->|"なし"| E{"顔面の左右差はあるか"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial nerve palsy'>顔面神経麻痺</span>を評価<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='eye closure'>閉眼</span>不全なら即時角膜保護"]
    E -->|"なし"| G["他の急性疾患を検索"]
    B -->|"慢性"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Anticholinergics'>抗コリン薬</span>など<span class='jp-term jp-term-diagram' title='culprit (suspected) drug'>被疑薬</span>を確認"]
    H --> I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='xerostomia'>口腔乾燥</span>も伴うか"}
    I -->|"あり"| J["自己抗体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Schirmer test'>Schirmer試験</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular staining score'>眼表面染色スコア</span>で評価"]
    I -->|"なし"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='evaporation'>蒸発</span>亢進型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry eye'>ドライアイ</span>・<br>局所眼疾患を検索"]
    J --> L{"分類基準を満たすか"}
    L -->|"満たさない"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='labial minor salivary gland biopsy'>口唇小唾液腺生検</span>を検討"]
    L -->|"満たす"| N["原疾患の診断・治療へ"]

急性か慢性かを最初に分けるのは、対応のがまったく違うからである。急性では脱水とという可逆性・緊急性の高い原因を優先して除外し、慢性では薬剤歴をたうえでの有無を手がかりに症候群を疑うかどうかを決める。自己抗体・で根拠が積み上がらなければ、に進む。

対症療法の考え方

対症療法は原因治療を置き換えない。原因ごとに介入の軸がまったく異なる。

慢性の低下では、無添加のが土台になる。それだけで不十分な場合に、眼科管理下で局所などの抗炎症点眼を追加する段階的な考え方が取られる1。局所点眼は、眼表面の炎症により産生が抑制されていると推定される患者で産生を増加させる適応を持つが、薬を併用中または使用中の患者では効果のが確認されていない2

を伴う場合は、原因が何であれ日中は無添加の、夜間はまたはで角膜を守る。これは原因診断を待たずに始める処置である。

脱水によるの低下では、涙そのものを標的にした治療は存在しない。所見は輸液でを戻せば自然に改善するものであり、涙を増やす介入を探す必要はない。

⚠️ 涙の所見だけで脱水を診断・除外しない。 CDS・Gorelick scoreの外部検証では、いずれもAUCが0.7前後の「fair」レベルにとどまり、年齢層別の解析では統計的有意性を失った3。Gorelick scoreは10項目の異常の数を数える設計であり4、涙の消失1項目だけを取り出して脱水の有無を判断する使い方は原著の設計を超えている。

まとめ

  • 「涙が出ない」は、急性・可逆性の低下(脱水)、慢性の低下()、神経支配の障害という別々の文脈で現れる。亢進型のは分泌量が保たれるため区別する。
  • 機序はの減少・の破壊・神経支配の障害・薬剤性・先天性の5群で整理する。
  • 最優先の見逃しはを伴うでの角膜合併症で、次いで小児の高度脱水、症候群のリンパ腫リスク、による神経麻痺性角膜症と続く。いずれも症状が乏しいまま進行しうる。
  • 鑑別は急性か慢性かを最初に分け、急性では脱水・、慢性では薬剤歴との有無から症候群を疑うかを決める。
  • 対症療法は原因ごとに軸が異なる。脱水では所見自体でなくを治療し、慢性の低下ではを土台に抗炎症点眼を段階的に追加する。CDS・Gorelick scoreの涙の項目は補助的な所見であり、単独で脱水を診断してはならない。

出典

  1. 1.Validity and Reliability of Clinical Signs in the Diagnosis of Dehydration in Children(Pediatrics (American Academy of Pediatrics)・1997)Gorelick scoreが10項目の臨床徴候(全身状態・橈骨脈拍・呼吸様式・皮膚緊張・眼・涙・粘膜・尿量・心拍数・毛細血管再充満時間)の異常の数を数える方式であり、3項目以上の異常で5%以上の脱水を感度87%・特異度82%で予測することを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.External Validation and Comparison of Three Pediatric Clinical Dehydration Scales(PLOS ONE・2014)独立コホートでの外部妥当性検証でCDSとGorelick scoreのAUCがそれぞれ0.72・0.71にとどまり年齢層別の解析では統計的有意性を失ったこと、WHO分類・臨床的直感のAUCは0.61とさらに低かったことを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.TFOS DEWS II Management and Therapy Report(Tear Film & Ocular Surface Society (TFOS)・2017)ドライアイ疾患の段階的管理アルゴリズムにおいて、第1段階が患者教育・眼瞼衛生・人工涙液などの保存的治療であり、局所シクロスポリンや局所コルチコステロイドなどの抗炎症薬・分泌促進薬は保存的治療で不十分な場合の第2段階以降に導入される設計であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.RESTASIS (cyclosporine ophthalmic emulsion) — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration (DailyMed)・2021)シクロスポリン点眼が、眼表面の炎症により涙液産生が抑制されていると推定される乾燥性角結膜炎患者の涙液産生を増加させる適応を持つこと、局所抗炎症薬併用中または涙点プラグ使用中の患者では涙液産生増加が確認されなかったことを確認した。閲覧 2026-08-02