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Symptoms · Published

慢性眼瞼炎・マイボーム腺機能不全

Blepharitis and meibomian gland dysfunction

別名
眼瞼縁炎マイボーム腺機能不全MGD
臓器系
眼科皮膚
科目
Dermatology
トピック
皮膚科 1-08:伝染性膿痂疹・毛包炎・せつ・よう皮膚科 3-19:酒皶・口囲皮膚炎
関連疾患
酒皶・口囲皮膚炎蒸発亢進型ドライアイ

🧠 全体像は、炎症の主座がどこにあるかで(睫毛の根元・毛包、眼瞼皮膚側)との開口部、眼瞼縁側)に解剖学的に分けて考える。前者はブドウ球菌性・脂漏性・に分かれ皮膚の炎症が主体、後者は腺の閉塞と脂質の質的変化が主体で、両者はしばしば併存するが原因も治療も違う。臨床的にもっとも重みがあるのはの結びつき——は世界的にみての最多原因である可能性が高く、の分泌量そのものが保たれていてもを来す。⚠️ 慢性化すれば腺組織自体が脱落し「治す病気ではなく管理する病気」になる。は中止すればするという前提が、対応のすべての土台になる。

定義と用語の整理

「まぶたが赤い・かゆい・ゴロゴロする」という訴えに対しては、まず眼瞼縁のどこに炎症の主座があるかを見分けることがを決める。

部位 主座 代表的な病型
睫毛の根元・毛包、眼瞼皮膚側 ブドウ球菌性、脂漏性、
)の開口部、眼瞼縁側

両者は原因も治療も異なるが、実地ではしばしば併存する1。💡 急性の有痛性腫脹は本ノートの対象外である。 は数週間〜慢性の経過をとる炎症だが、同じ眼瞼腺に生じる急性化膿性感染はとして別に扱う。反復するの背景には本ノートが扱うが隠れていることが多く、再発予防にはその治療が要になる。前部の3型はで見分けられる——ブドウ球菌性は睫毛根部を取り巻く硬いカラレット状の痂皮を特徴とし睫毛脱落・睫毛乱生を残しやすく、脂漏性は炎症が軽く脂性の鱗屑が主体でに随伴し、デモデックス性は睫毛根部に特徴的なのフケを認める1

💡 は、とは別の話である。 の「量」の異常であるのに対し、を作る腺の「機能」の異常であり、分泌量そのものは保たれていてもを来す。脂漏性眼瞼炎・患者の25〜40%はを合併する1

病態生理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meibomian gland'>マイボーム腺</span>開口部の角化・閉塞"] --> B["腺内に脂質が停滞"]
    B --> C["常在菌のリパーゼが<br>トリグリセリドを分解"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free fatty acids'>遊離脂肪酸</span>が生成"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tear fluid (lacrimal fluid)'>涙液</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipid layer'>脂質層</span>が不安定化<br>眼表面に炎症"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tear fluid (lacrimal fluid)'>涙液</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='evaporation'>蒸発</span>が亢進<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='evaporation'>蒸発</span>亢進型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry eye'>ドライアイ</span>"]
    B --> G["慢性化すると<br>腺組織自体が脱落"]
    H["前部:ブドウ球菌性・脂漏性・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Demodex-associated'>デモデックス性</span>の慢性炎症"] --> I["瞼板・毛包周囲の<br>構造が変形"]
    I --> J["睫毛乱生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='distichiasis'>睫毛重生</span>の<br>後天的原因になる"]

の中心的な機序は、腺開口部の角化・閉塞である。開口部が塞がると腺内に脂質が停滞し、常在菌のリパーゼがトリグリセリドをへ分解する2を不安定化させ眼表面に炎症を来し、この連鎖の臨床的な帰結がである。は世界的にみての最多原因である可能性が高い3の「量」の異常であるとは独立した経路であることが、この病態の実務上の要点になる。

⚠️ 慢性化すると腺組織自体が脱落し、ここまで進むと機能の回復は望みにくい。 「治す病気ではなく管理する病気」と説明されるのはこのためで、進行を止める意味でも早期からのに意味がある。

の3型は機序が異なる——ブドウ球菌性は細菌そのものと外毒素への炎症反応、脂漏性はの質的異常、の機械的刺激と随伴細菌がそれぞれ主体になる。いずれの型でも慢性炎症が瞼板・毛包周囲の構造を変形させ、睫毛乱生の後天性の原因になりうる。

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["眼瞼縁の炎症を疑う所見"] --> B{"炎症の主座はどこか"}
    B -->|"睫毛根部"| C{"鱗屑の性状は"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meibomian gland'>マイボーム腺</span>開口部"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='meibomian gland expression test'>マイボーム腺圧出試験</span>で<br>分泌物の性状を確認"]
    C -->|"硬いカラレット状痂皮"| E["ブドウ球菌性を疑う"]
    C -->|"脂性の鱗屑"| F["脂漏性を疑う"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='columnar'>円柱状</span>のフケ"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Demodex-associated'>デモデックス性</span>を疑う"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>・粘稠"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='meibomian gland dysfunction (MGD)'>マイボーム腺機能不全</span><br>と判断"]
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tear film break-up time, TBUT'>涙液層破壊時間</span>を測定"]
    F --> I
    G --> I
    H --> I
    I --> J{"片側性・難治性で<br>眼瞼縁の構造破壊を伴うか"}
    J -->|"はい"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sebaceous carcinoma'>脂腺癌</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal cell carcinoma, BCC'>基底細胞癌</span>を疑い<br>生検の閾値を下げる"]
    J -->|"いいえ"| L["前部・後部の病型に応じた<br>治療を開始"]

対応の考え方

は「治す病気」ではなく「管理する病気」であり、中止すればするという前提がすべての治療の土台になる。

  • が基盤。 1日2〜4回、数分間のとまぶたのマッサージ・清拭を続けることで、閉塞したの分泌を促す1。病型を問わず全例の土台になり、中止すればする。
  • ブドウ球菌性のにはアジスロマイシン点眼などの局所抗菌薬を追加する。
  • 合併の・難治性のにはドキシサイクリンなどテトラサイクリン系の内服を抗炎症目的で用いる。 狙いは抗菌ではなく常在菌のリパーゼ産生を抑えての産生を減らすことにあり2に用いる抗炎症量の発想と同じである。
  • デモデックス性にはティーツリーオイル系の洗浄が難治例で有効である1
  • ⚠️ 局所ステロイド点眼は短期の炎症コントロールに限る。 最小・最短期間で使い1、漫然と継続すると・感染増悪のリスクが上がる。

まとめ

  • は前部(睫毛根部・皮膚側、ブドウ球菌性・脂漏性・)と後部(開口部側、)に解剖学的に分け、しばしば併存するが原因・治療が異なる。
  • の機序は、腺開口部の閉塞→脂質停滞→細菌リパーゼによるの生成→層の不安定化と炎症という連鎖で、帰結が亢進型である。は世界的にみての最多原因である可能性が高く、とは独立した経路である。
  • 慢性化すると腺組織自体が脱落し回復が望みにくくなるため、「治す病気ではなく管理する病気」という枠組みで対応する。
  • 最も見逃してはいけないのはの再発を装うで、片側著明な非対称・治療抵抗性・再発性のでは生検の閾値を下げる。小児の眼型による角膜合併症、に隠れるも見逃してはならない。
  • 対応はを基盤に、前部には局所抗菌薬、後部・合併例には抗炎症目的の低用量テトラサイクリン系内服、デモデックスにはティーツリーオイルを用いる。局所ステロイドは短期に限る。

出典

  1. 1.Blepharitis(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)眼瞼炎が前部(ブドウ球菌性・脂漏性・デモデックス性)と後部(マイボーム腺機能不全)に分類され両者はしばしば併存すること、ブドウ球菌性は睫毛根部を取り巻く硬いカラレット状痂皮・睫毛脱落と乱生を特徴とし脂漏性は脂性の鱗屑が主体、デモデックス性は睫毛根部の円柱状のフケを特徴とすること、脂漏性眼瞼炎・マイボーム腺機能不全患者の25〜40%がドライアイを合併すること、治療の基盤が1日2〜4回・数分間の温罨法とまぶたのマッサージであること、経口テトラサイクリン系はマイボーム腺機能不全に対し抗炎症・脂質調整作用を目的に用いること、難治性デモデックスにティーツリーオイルが有効なこと、短期の局所ステロイドが有効だが最小有効量・最短期間で使うべきこと、片側著明な非対称・治療抵抗性・単発性で再発する霰粒腫では眼瞼の生検で癌腫を除外すべきことを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.The International Workshop on Meibomian Gland Dysfunction: Executive Summary(Tear Film & Ocular Surface Society (TFOS) / Investigative Ophthalmology & Visual Science・2011)マイボーム腺機能不全が世界的にみてドライアイの最多原因である可能性が高く、その重要性が過小評価されているごくありふれた病態であることを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.The International Workshop on Meibomian Gland Dysfunction: Report of the Subcommittee on Anatomy, Physiology, and Pathophysiology of the Meibomian Gland(Tear Film & Ocular Surface Society (TFOS) / Investigative Ophthalmology & Visual Science・2011)マイボーム腺内で常在菌のリパーゼがトリグリセリドを遊離脂肪酸へ分解しうること、加齢に伴う腺組織の脱落が生じることを確認した閲覧 2026-08-03