症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

辺縁角膜浸潤・フリクテン性角結膜炎

Marginal keratitis and phlyctenulosis

別名
カタル性角膜浸潤フリクテン性角結膜炎辺縁性角膜炎
臓器系
眼科
科目
Immunology
トピック
免疫学 7.3:過敏症 II〜IV
関連疾患
結核酒皶・口囲皮膚炎

🧠 全体像は、細菌そのものによる感染ではなく、眼瞼縁に定着した黄色ブドウ球菌の細胞壁抗原・外毒素に対する過敏反応が周辺角膜に炎症を起こす病態である。角膜潰瘍は別名に「」を持つが、あちらの主題は感染性角膜潰瘍であり、本ノートが扱うのは別機序——輪部近くの実質に免疫複合体が沈着すると、輪部に隆起した結節(フリクテン)を作り角膜側へ這い進むである12。⚠️ 本ノートの価値は感染性角膜潰瘍との区別に尽きる——両者はステロイドの可否が正反対になる。

定義と用語の整理

「輪部の近くに白い濁りがある」「輪部に出来物がある」という所見は、感染性角膜潰瘍と同じ場所に生じるが、機序も対応もまったく異なる。両者を分ける最大の手がかりは、輪部との間にを残すかどうかである。

感染性角膜潰瘍
部位 輪部に沿った周辺部。輪部との間にを残す1 部位を選ばない。中心・傍中心・周辺のいずれにも生じる1
上皮 実質の病変が先行し、上皮欠損は炎症が長引いて初めて生じる1 上皮欠損が明瞭で、には広範囲に及ぶ1
を伴うことは稀3 を伴い、重症ではに至る4
病態 角膜そのものへの感染ではなく免疫反応が本体1 起因菌の検出を目的にを培養する
治療 短期の点眼ステロイドが有効。基盤の眼瞼炎治療が再発を防ぐ 起因菌同定前のステロイドは避けるべきで、角膜潰瘍の項で述べた禁忌に準じる

は同じ過敏反応の系列に属するが、とは臨床像が異なる。 輪部のまたは角膜に隆起した結節(フリクテン)を作り、角膜側の病変は先端が隆起したまま血管を伴って角膜中心側へ這うように進展する2。多くは生後6か月〜16歳の小児に生じる2

病態生理

flowchart TD
    A["眼瞼縁に定着した黄色ブドウ球菌"] --> B["細胞壁抗原・外毒素が<br>眼瞼縁から周辺角膜へ拡散"]
    B --> C{"抗体主体か<br>T細胞主体の反応か"}
    C -->|"抗原抗体複合体が<br>実質へ沈着"| D["補体・好中球が活性化<br>輪部から1〜2mmの実質に浸潤"]
    C -->|"感作T細胞が<br>抗原を認識"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='helper T cell'>ヘルパーT細胞</span>・単球主体の<br>結節が輪部に形成"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='marginal corneal infiltrate'>辺縁角膜浸潤</span><br>輪部との間に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zona pellucida'>透明帯</span>を残す"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phlyctenular keratoconjunctivitis'>フリクテン性角結膜炎</span><br>角膜側へ這い血管を引き連れる"]
    F --> H["基盤の眼瞼炎を<br>治さなければ再発"]
    G --> H

周辺角膜は中心部に比べ免疫グロブリン(IgM)・(C1)の濃度が高くの密度も高いため、輪部から1〜2mmの帯状領域が抗原抗体比の点で免疫複合体を形成しやすい1。ここに黄色ブドウ球菌の抗原が拡散すると免疫複合体が実質へ沈着し・好中球を活性化する——の機序で、これがである1

💡 同じ黄色ブドウ球菌抗原でも、抗体主体の反応かT細胞主体の反応かで臨床像がまったく違う。 の結節は・単球・が主体の浸潤で構成され、IV型に近いを反映する2。歴史的には結核菌タンパクへの過敏反応として記載されてきたが、結核が減少した現在は黄色ブドウ球菌が主因である2

いずれの機序でも、抗原の供給源は慢性の眼瞼炎・である。基盤の眼瞼炎を治さない限り抗原の供給が続き、再発を繰り返す。

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ 感染性角膜潰瘍とはステロイドの可否が正反対である。 には短期の点眼ステロイドが有効だが、感染性角膜潰瘍では起因菌同定前のステロイドが増悪因子になりうる。輪部との・上皮の状態を確認しないまま、周辺部のという見た目だけでどちらかを判断しない。
  • ⚠️ との誤認。 関節リウマチなどの全身性自己免疫疾患に伴うPUKは、より重症で炎を伴うことが多く、点眼ステロイドへの反応も乏しい1。進行すれば穿孔しうる別個の病態で、全身免疫抑制を要する。と取り違えると、前者を過剰治療し後者を放置して穿孔させる二方向の危険がある。
  • ⚠️ 小児で反復するフリクテンは結核の検索を考慮する。 結核曝露が疑われれば、胸部X線・)を検討する2
  • ⚠️ 未治療のまま進行すると瘢痕・、まれにに至る。 とくにフリクテンが角膜中心側へ這い進むと軸性の瘢痕を残しうる2

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["輪部近くの周辺角膜に<br>浸潤・結節を認める"] --> B{"輪部との間に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='zona pellucida'>透明帯</span>があるか"}
    B -->|"なし・上皮欠損が明瞭"| C["感染性角膜潰瘍を疑う"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal scraping'>角膜擦過</span>による<br>塗抹・培養を優先"]
    B -->|"あり・上皮は保たれる"| E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sclera'>強膜</span>炎を伴うか<br>ステロイドへの反応は乏しいか"}
    E -->|"はい"| F["PUKを疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='connective tissue disease (collagen vascular disease)'>膠原病</span>・血管炎を検索"]
    E -->|"いいえ"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='marginal corneal infiltrate'>辺縁角膜浸潤</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='phlyctenular keratoconjunctivitis'>フリクテン性角結膜炎</span>と判断"]
    G --> H["眼瞼縁と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meibomian gland'>マイボーム腺</span>の<br>状態を診察"]
    H --> I{"小児で反復する<br>フリクテンか"}
    I -->|"はい"| J["結核曝露歴を聴取し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tuberculin reaction (Mantoux test)'>ツベルクリン反応</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interferon-gamma release assay'>IGRA</span>・胸部X線を検討"]
    I -->|"いいえ"| K["基盤の眼瞼炎治療とともに<br>短期の点眼ステロイドを検討"]

対応の考え方

そのものへの介入と、基盤の眼瞼炎への介入は分けて考える。基盤を治さなければ再発するという前提がすべての土台になる。

まとめ

  • は、黄色ブドウ球菌の細胞壁抗原・外毒素に対する過敏反応であり、感染そのものではない。角膜潰瘍の別名「」とは主題も機序も異なる。
  • は輪部から1〜2mmの実質に免疫複合体が沈着するIII型の反応、主体の結節が輪部に形成され角膜側へ這い進むIV型に近い反応で、抗原の供給源は共通して慢性の眼瞼炎・にある。
  • 最大の危険は感染性角膜潰瘍とのステロイドの可否の取り違えと、全身性自己免疫疾患に伴う(PUK)との誤認である。PUKは炎を伴い進行性に融解・穿孔しうる別個の病態で、全身免疫抑制を要する。
  • 小児で反復するフリクテンでは結核の検索を考慮する。
  • 対応の中心は基盤の眼瞼炎治療と短期の点眼ステロイドで、多くは2〜3週間で自然軽快するが、眼瞼炎を治さなければ再発する。

出典

  1. 1.Marginal Keratitis(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)辺縁角膜浸潤が黄色ブドウ球菌抗原に対するIII型過敏反応(免疫複合体沈着)であり細菌の直接感染ではないこと、周辺角膜はIgM・補体成分の濃度とLangerhans細胞密度が高く輪部から1〜2mmの帯状領域に免疫複合体が沈着しやすいこと、病変が輪部との間に透明帯を残し実質病変が先行して上皮欠損は炎症が長引いて初めて生じること、感染性角膜潰瘍は中心・傍中心・周辺のいずれにも生じ上皮欠損が明瞭であること、上皮欠損を伴わない例では点眼ステロイドで軽快し伴う例はフルオロキノロン系抗菌薬点眼を併用して慎重にステロイドを使うこと、多くは2〜3週間で自然軽快し瘢痕をほとんど残さないが基盤の眼瞼炎を治療しなければ再発すること、周辺部潰瘍性角膜炎(PUK)は関節リウマチ・多発血管炎性肉芽腫症などの膠原病に伴い辺縁角膜浸潤より重症で強膜炎を伴うことが多くステロイドへの反応も乏しいことを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Phlyctenular Keratoconjunctivitis(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)フリクテン性角結膜炎が輪部に生じる結節性炎症で、ヘルパーT細胞・単球・Langerhans細胞主体の浸潤を反映し遅延型細胞性免疫に近い機序を示すこと、1950年代以前は結核菌タンパクへの過敏反応が主因であったが現在の主因は黄色ブドウ球菌であること、角膜側の病変は先端が隆起したまま血管を伴って角膜側へ這うように進展しうること、多くは生後6か月〜16歳の小児に生じること、結核曝露が疑われる例では胸部X線・ツベルクリン反応・インターフェロンγ遊離試験を検討すること、治療は点眼ステロイドが第一選択でステロイド依存・反復例には点眼シクロスポリンAが代替になること、未治療のまま進行すると瘢痕・視力低下やまれに角膜穿孔に至りうることを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Is It an Ulcer or an Infiltrate?(Review of Optometry・2007)無菌性の周辺部角膜浸潤では前房反応を伴うことが稀で自覚症状も軽微であるのに対し、感染性角膜炎では前房反応を伴うことが特徴的な所見であり疼痛も急速に増悪することを確認した閲覧 2026-08-03
  4. 4.Bacterial Keratitis(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)感染性角膜炎では前房反応(細胞・フレア・フィブリン・前房蓄膿)の有無を記録すべきであり、前房反応や前房蓄膿を伴う例・視軸に及ぶ例はより重症としてより頻回・強力な抗菌薬点眼に切り替えるべきことを確認した閲覧 2026-08-03