疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 免疫・膠原病 · 疾患

移植片対宿主病

Graft-versus-host disease

別名
GVHD
臓器系
免疫・膠原病血液全身
科目
PathologyInternal MedicineImmunologyPediatrics
トピック
病理学 A/37:移植拒絶反応(移植片拒絶)内科学 H-34:同種造血幹細胞移植内科学 S-45:自家・同種造血幹細胞移植免疫学 9.2:移植免疫学免疫学 9.4:HLAタイピング小児科 2-43:小児の移植医療小児科 2-01:小児がん治療の早期・晩期合併症
鑑別疾患
シェーグレン症候群
合併症
カンジダ症侵襲性アスペルギルス症敗血症骨粗鬆症閉塞性細気管支炎
続発疾患
移植後リンパ増殖性疾患
関連疾患
免疫関連有害事象扁平苔癬
治療薬
タクロリムスシクロスポリンAメトトレキサートミコフェノール酸モフェチルシクロホスファミドATG(抗胸腺細胞グロブリン)プレドニゾロンメチルプレドニゾロンイブルチニブルキソリチニブベルモスジルアキサチリマブ
症状
皮疹下痢黄疸腹痛悪心口腔乾燥涙液分泌低下
検査値
ビリルビン
スコア
MAGIC基準
適応薬
アキサチリマブベルモスジルルキソリチニブ
禁忌薬
モガムリズマブ

🧠 全体像は、免疫担当細胞を含むが、それを排除できない宿主の中で、組織適合抗原の違いを「異物」と認識して攻撃してしまう反応である——拒絶が「宿主がを攻撃する」のに対し、GVHDは向きが逆転した「が宿主を攻撃する」病態だと押さえると理解しやすい。主に後に起こり、標的臓器とで急性・慢性に分かれるが、GVHDを完全に抑え込むとまで失われるという表裏一体の関係が、予防・治療の難しさの核心にある。

概要:成立する3条件

GVHDはBillinghamの基準と呼ばれる3条件がそろって初めて成立する。

  1. が免疫担当細胞を含む
  2. 宿主がを排除できない(免疫不全・免疫抑制状態)
  3. 宿主とが組織適合抗原で異なる

最も典型的な場はだが、この3条件は他の状況でも成立しうる。固形臓器移植(とくにリンパ組織を多く含む腸管・肝)でもドナー由来リンパ球が原因となることがある。

⚠️ は、免疫不全患者や間輸血で成立しやすく、骨髄破壊を伴い致死率がきわめて高い。予防の要は治療ではなく放射線照射したを用いることで、ドナーTリンパ球のを奪い成立条件1を無効化する。

病態

(化学療法・放射線照射)によるが出発点になる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conditioning'>前処置</span>による腸管粘膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織傷害</span>"] --> B["DAMPs/PAMPs放出<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>(IL-1・IL-6・TNF-α)"]
    B --> C["宿主<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigen-presenting cell (APC)'>抗原提示細胞</span>の活性化"]
    C --> D["ドナーT細胞の活性化・増殖"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic T cell'>細胞傷害性T細胞</span>・NK細胞・サイトカインによる標的臓器傷害"]

💡 GVHDの引き金はそのものではなく、によるである。ドナーT細胞はHLA不一致だけでなく、HLAが完全一致していてものある(自己蛋白の多型に由来するペプチド)を認識して活性化しうるため、HLA一致同胞間移植でもGVHDは起こる。

危険因子

危険因子 内容
HLA不一致 不一致の程度に比例してリスク上昇
ドナー 非血縁ドナー>血縁ドナー
ドナー・の性差 女性ドナー→男性で慢性GVHDリスク増加(妊娠歴による感作)
年齢 の高齢
幹細胞源 は骨髄よりT細胞数が多く慢性GVHDが多い傾向
強度 が大きくリスクが高い

分類:現行は臨床像による分類

かつては移植後100日を境に急性・慢性を区分していたが、現行のでは発症日ではなく臨床像で分類する。

病型 定義
古典的 100日以内にの臨床像のみ
100日以降にの臨床像のみ(持続・・新規発症のいずれか)
古典的慢性GVHD の所見を伴わず慢性GVHDの所見のみ
慢性GVHDの所見にの所見(皮膚・肝・消化管)が併存

臨床像

急性GVHD:3標的臓器

臓器 主な所見
皮膚 手掌・足底・耳介から始まりやすい。重症例は
消化管 大量の水様性〜血性の下痢腹痛悪心
胆汁うっ滞性の直接ビリルビン上昇による黄疸

重症度はで臓器ごとにstage 0〜4を判定し、それを組み合わせて全体grade 0〜IVを決める。

grade 目安
I 皮膚stage 1〜2のみ、肝・消化管病変なし
II 皮膚stage 3、または肝・消化管stage 1のいずれか
III 肝・消化管stage 2〜3
IV いずれかの臓器がstage 4

慢性GVHD:自己免疫疾患様の多彩な病像

臓器 所見
皮膚 様の丘疹、強皮症様の皮膚硬化
口腔 、苔癬様変化、潰瘍
(不可逆的な
消化管 ・webによる嚥下障害
筋膜・関節 筋膜炎による
外陰・膣 狭窄・

では臓器ごとに重症度を0(なし)〜3(重症)でスコア化し、全身重症度を判定する。肺はを反映し特別扱いされ、肺score 1だけで全身「中等症」、score 2以上で「重症」となる。

診断

GVHDは臨床診断が中心で、典型的な標的臓器・時期・臨床像がそろえば生検なしに治療を開始してよい。生検の主な役割はを左右する重症度判定ではなく、感染症・との鑑別である。皮膚生検ではアポトーシスを起こした、消化管生検ではのアポトーシスが特徴的な所見となる。

予防

戦略 内容
またはに、メトトレキサートまたはを併用する標準的な組み合わせ
抗ヒト免疫グロブリン ATG(でドナーT細胞をあらかじめ減らす。非血縁ドナー移植などで併用
を移植後day+3・+4に投与し、増殖中の反応性T細胞を選択的に除去する。のGVHD予防として標準となり、HLA適合移植でも用いられるようになっている
からT細胞を物理的・的に除去する方法。GVHDは減るが・再発リスクが上がりうる

⚠️ 放射線照射を防ぐための対策であり、後の通常のGVHD予防薬の代わりにはならない。両者は別の対策として区別する。

治療

一次治療は中等症以上の・症候性の慢性GVHDのいずれも)である。

ステロイドに反応しない場合の選択肢は臓器・病型で異なる。

⭐ 承認薬は複数存在するが、何レジメン抵抗後に使えるかが薬剤ごとに異なる点が実地で重要になる。

移植片対腫瘍効果とのトレードオフ

GVHDを起こすドナーT細胞は、宿主の正常組織だけでなく残存腫瘍細胞も攻撃する。このはGVHDと表裏一体で、GVHDを免疫抑制で完全に抑え込むと腫瘍再発が増えるというが生じる。再発時にはでドナーT細胞を追加投与し、GVL効果をに引き出すことがある。

感染症リスクと合併症

GVHDそのもの、および治療に必要な追加の免疫抑制は、カンジダ症などの感染症や敗血症のリスクを高める。慢性GVHDに対する長期ステロイド使用はの原因にもなる。

さらに、GVHD治療で免疫抑制を強めるほどEBV制御が難しくなり、のリスクも上昇する。

鑑別

慢性GVHDの症候群に類似するため、歴があるかを必ず確認する。皮膚のと病理形態を共有し、鑑別に生検が有用なことがある。

まとめ

  • GVHDはが免疫担当細胞を含み、宿主が排除できず、組織適合抗原が異なるという3条件(Billinghamの基準)で成立する。
  • で最も典型的だが、(放射線照射で予防)や固形臓器移植でも起こる。
  • によるが引き金となり、HLA・の差を認識したドナーT細胞が標的臓器を攻撃する。
  • 発症100日という日数ではなく臨床像で急性・慢性・を分類するのが現行の考え方である。
  • は皮膚・消化管・肝の3臓器を、慢性GVHDは自己免疫疾患様の多臓器病変(を含む)を来す。
  • 一次治療は全身性ステロイドで、抵抗例にはなど承認薬を病型・治療歴に応じて選ぶ。
  • GVHDの抑制はの減弱と表裏一体であり、再発時のはこのを逆手に取る治療である。