疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 血液 · 腫瘍

移植後リンパ増殖性疾患

Post-transplant lymphoproliferative disorder

別名
PTLD
臓器系
血液腫瘍免疫・膠原病
科目
PathologyInternal MedicinePediatricsSurgery
トピック
病理学 B/14:ウイルス・微生物による発がん(腫瘍形成)内科学 S-53:EBV・CMV感染症内科学 I-06:伝染性単核球症候群小児科 3-51:EBV感染症と合併症小児科 2-43:小児の移植医療内科学 N-04:腎移植と腎代替療法内科学 H-34:同種造血幹細胞移植外科学 G-11:移植の基本概念・脳死・適応・免疫抑制内科学 S-45:自家・同種造血幹細胞移植内科学 S-34:肝補助療法と肝移植
鑑別疾患
バーキットリンパ腫びまん性大細胞型B細胞リンパ腫ホジキンリンパ腫
治療薬
リツキシマブシクロホスファミドドキソルビシンビンクリスチンプレドニゾロン
原因微生物
EBV
症状
発熱寝汗体重減少リンパ節腫脹
検査値
乳酸脱水素酵素
スコア
国際予後指標
原因となる疾患
移植片対宿主病

🧠 全体像は、固形臓器移植・後に生じる悪性腫瘍の中でもっとも頻度が高い一群である。学習の幹は「移植後免疫抑制でEBV特異的の監視が緩む→潜伏感染B細胞の増殖が野放しになりからまで連続したスペクトラムを形成する→EBV血清学的不一致という最大の危険因子でリスクを見積もり、WHO分類の4群のどこに位置するかで挙動が変わる→診断は必ず生検で確定し、治療は免疫抑制の減量を起点にリツキシマブ、反応不十分なら化学免疫療法へと状に強度を上げる」という一本の流れである。

概要

PTLDは固形臓器移植または後、免疫抑制下に生じるリンパ球(大部分はB細胞)の異常群の総称であり、単一の疾患名ではなくからまでを含む病理学的スペクトラムを指す。B/14 ウイルス・微生物による発がんで扱う「乗っ取り型」発癌の代表例であるEBVが中心的な病因で、免疫抑制がなければ排除されるはずの潜伏感染B細胞が増殖する点が、他の移植後悪性腫瘍と一線を画す。

危険因子・疫学

危険因子 内容
EBV血清学的不一致 ドナー陽性・陰性の組み合わせが最大の危険因子。未感染のまま移植を受けやすい小児でリスクが高い
免疫抑制の強度 ATGや抗CD3抗体など強力な細胞性量が関与する
移植臓器 腸管・肺・心臓は肝・腎より高リスクで、多臓器移植が最もリスクが高い
感染症 CMV
特有の因子 HLA不一致、とその治療強化

固形臓器移植の維持免疫抑制は一般に系薬・副腎皮質ステロイドの組み合わせで、この強度と期間がPTLDリスクを規定する。

病態

flowchart TD
    A["EBV潜伏感染B細胞"] --> B["移植後免疫抑制でEBV特異的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic T cell'>細胞傷害性T細胞</span>が減弱"]
    B --> C["潜伏感染B細胞の増殖を抑える<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune surveillance'>免疫監視</span>が破綻"]
    C --> D["LMP-1がCD40シグナルを模倣しNF-κB/JAK-STAT経路を活性化"]
    D --> E["BCL2上昇による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Evading apoptosis'>アポトーシス回避</span><br>EBNA-2による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclin D'>サイクリンD</span>誘導"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyclonal'>多クローン性</span>増殖から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clonal proliferation'>クローン性増殖</span>へ進展"]
    F --> G["PTLD"]

💡 免疫正常者ではが感染B細胞を速やかに制御するが、PTLDでは移植後免疫抑制によりこの制御が働かない点が、同じ潜伏感染B細胞を土台にするとの本質的な違いである。

発症時期 移植後1年以内が典型 移植後数年以降
EBV陽性率 高い 低下し、EBV陰性例が増える
病変部位 移植臓器を含む節外病変が多い リンパ節病変が比較的多い
免疫抑制減量への反応 良好なことが多い 反応しにくく予後不良

⚠️ EBV陰性PTLDのは未確定で、長期の免疫抑制や検出感度の限界など複数の仮説があるにとどまる。

WHO分類

WHO造血器腫瘍分類第5版(2022年)は、PTLDを移植歴という免疫不全背景を明示する多要素の断+EBV陽性/陰性+臨床背景)へ整理したが、実地で使う4つの病理学的区分自体は従来から引き継がれる。

分類 特徴
非破壊性病変 を保つ反応性増殖(形質細胞過形成、様、様)。ほぼ全例EBV陽性
PTLD が破壊され、・形質細胞など多彩な細胞が混在。多くはクローン性のB細胞再構成を示す
PTLD 非免疫抑制患者の・形質細胞腫瘍のを満たすで最多。型が過半数を占め、Burkitt型、形質細胞腫様、T/NK細胞型もある
古典的 頻度は5%未満ともっとも少ないが、ほぼ全例がEBV陽性

⚠️ PTLDのB細胞型はと組織学的に区別できないことが多く、移植歴の確認が診断の前提になる。同様にT/NK細胞型はと、古典的型はとの鑑別を要する。

臨床像

非特異的な発熱体重減少など、疑わなければ見逃す症候で発症することが多く、「疑うこと」自体が診断の第一歩になる。リンパ節腫脹に加え、de novoのと異なり節外病変の頻度が高く、移植臓器そのもの、消化管、中枢神経、肝、肺に病変を生じやすい。

⚠️ 移植臓器の機能障害はと紛らわしい。腎移植後のCr上昇や後のをみたら、拒絶だけでなくPTLDも鑑別に挙げて評価する。

診断

組織生検が必須で、画像所見や末梢血検査だけで確定診断としない。生検組織ではEBER(EBV潜伏感染細胞に高発現する非翻訳RNA)のin situ(EBER-ISH)でEBV陽性/陰性を確認し、免疫染色とで病型を確定する。

末梢血EBV DNA量の定量モニタリングは高リスク患者の追跡や治療反応評価に有用だが、測定検体や施設間のアッセイ差もあり、単独の値だけでPTLDの有無を診断できない点が限界である。上昇傾向は生検を急ぐ根拠にはなっても、それ自体を診断とはしない。病期評価にはが標準的でCT単独より病変検出感度に優れ、中枢神経病変を疑う症候があれば造影MRIと髄液細胞診を追加する。

予防・先制治療

EBV高リスク患者(ドナー陽性・陰性)は移植後に定期的な末梢血EBV DNA量モニタリングを行い、上昇時には免疫抑制の減量を先行させる先制的戦略が中心になる。領域では減量だけで制御できない場合に先制的リツキシマブ投与へ進む考え方があるが、固形臓器移植では研究にとどまり位置づけは確立していない。

⚠️ 抗ウイルス薬によるPTLDの有効性はで示されておらず、ルーチンには推奨されない。

治療

flowchart TD
    A["生検でPTLDを確定診断"] --> B["まず免疫抑制を減量"]
    B --> C{"反応は十分か"}
    C -->|"十分(非破壊性病変・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleomorphism'>多形性</span>PTLDで反応しやすい)"| D["経過観察を継続"]
    C -->|"不十分"| E["リツキシマブを導入"]
    E --> F{"導入後の反応は"}
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complete response, CR'>完全奏効</span>"| G["リツキシマブ単独で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='consolidation (therapy)'>地固め</span>"]
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='partial response, PR'>部分奏効</span>・無効"| H["化学免疫療法(R-CHOPなど)へ移行"]
    H --> I["難治例はEBV特異的T細胞療法・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='local therapy'>局所療法</span>を検討"]

治療は段階的に強度を上げることが要である。第一歩はの拒絶リスクとのバランスをとりながらの免疫抑制減量で、非破壊性病変・PTLDでは単独でも寛解しうる。反応不十分な例には抗CD20抗体リツキシマブを導入し、なら追加投与で・無効なら併用のR-CHOPなど化学免疫療法へ進む、層別化された逐次治療が標準的である。には外科的切除・放射線治療も選択肢になる。

免疫抑制減量・リツキシマブ・化学免疫療法のいずれにも抵抗するには、ドナーEBV特異的細胞傷害性Tリンパ球を用いた療法(タベレクルユーセルなど)が選択肢になる。は2022年に既治療のEBV陽性PTLDに対しこの細胞療法を承認しており、承認の可否・条件は国・地域で異なる。

⚠️ 後のPTLDは、化学療法が・遷延性好中球減少を招きやすいため、リツキシマブ単独投与を優先することが多い。

予後

予後は病型(非破壊性病変・PTLDが良好、PTLDやT/NK細胞型は不良になりやすい)、EBV陽性/陰性、か、(年齢・病期・LDH・全身状態・)などで層別化される。ただしはもともと非免疫抑制患者の向けの指標で、免疫抑制下のPTLD患者では予測精度が劣る可能性があり、単独の点数だけで治療強度を決めない。リツキシマブを組み込んだ逐次治療の普及で、生存成績は以前より改善している。

まとめ

  • PTLDは移植後免疫抑制でEBV特異的の監視が緩み、潜伏感染B細胞が増殖するで、移植後に生じる悪性腫瘍の中で頻度が高い。
  • 最大の危険因子はEBV血清学的不一致で、小児移植や腸管・肺・、強力な免疫抑制、CMVでリスクが上がる。
  • WHO分類は非破壊性病変・PTLD・PTLD(型が最多)・古典的型の4群からなり、診断は生検・EBER-ISH・で確定する。
  • 末梢血EBV DNA量は監視・経過観察に有用だが単独では診断できず、抗ウイルス薬によるの有効性は確立していない。
  • 治療は免疫抑制減量を起点に、リツキシマブ、反応不十分なら化学免疫療法へと状に強度を上げる層別化された逐次治療が中心で、難治例ではEBV特異的T細胞療法も選択肢になる。