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Disease Atlas · 血液 · 症候群

移植関連血栓性微小血管症

Transplantation-associated thrombotic microangiopathy

別名
TA-TMA移植関連TMA造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症
臓器系
血液腎・泌尿器全身
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 H-34:同種造血幹細胞移植内科学 S-44:血栓性微小血管症(TTP・HUS)
上位概念
血栓性微小血管症
鑑別疾患
移植片対宿主病肝類洞閉塞症候群血栓性血小板減少性紫斑病播種性血管内凝固溶血性尿毒症症候群
合併症
急性腎障害
関連疾患
生着症候群毛細血管漏出症候群
治療薬
ナルソプリマブエクリズマブ
原因薬剤
タクロリムスシクロスポリンAシロリムス
症状
乏尿蒼白点状出血
検査値
可溶性C5b-9破砕赤血球LDH血小板減少ハプトグロビンクレアチニンADAMTS13活性直接抗グロブリン試験
適応薬
ナルソプリマブ

🧠 全体像:()は、・・・感染といった複数のが微小血管内皮に積み重なり、を伴って全身のに血栓が形成される病態である。TTPのようにADAMTS13という単一の分子で説明できず、「血小板減少と溶血」だけを待っていると診断が遅れる。腎を中心とする臓器障害・高血圧・蛋白尿という臓器側の変化のほうが先に出ることを知っているかどうかが分かれ目になる。

位置づけ——二次性TMAの一つだが、治療は原因除去だけでは足りない

は、微小血管のによって・血小板消費・が生じる症候群の総称で、はそのうちに続発するに分類される。同じ二次性でも、がの中止で改善しうるのに対し、は複数の因子が同時に働いているため、原因を一つ外しただけでは止まらないことが多い。

は、による、予防に用いる(・)や()、GVHDそのもの、感染、さらに内皮機能や補体制御に関わるといった複数の侵襲が重なって発症すると考えられている。その結果として微小血管に炎症性・・アポトーシスの環境ができ、血栓が形成される1。

💡 「」という括りで捉える。 ・・と は、いずれも移植後早期のを共通の土台とする。SOS と は併発しうるので、片方を診断したら他方も探す。

診断——2023年の国際統一基準

長らくが施設ごとに乱立し、報告される発症率が0.8〜36%と大きくばらついていた。2023年に EBMT・ASTCT・APBMT・CIBMTR の合同パネルが基準を統一した1。

# 項目 内容
1 貧血 後も輸血非依存に至らない、ヘモグロビンの1 g/dL以上の低下、または新たな輸血依存
2 血小板減少 に至らない、予想以上の輸血量を要する、に不応、または後にから50%以上の低下
3 を超える
4 末梢血に出現
5 高血圧 新規または増悪
6 を超える
7 蛋白尿 のが1 mg/mg以上

⭐ 7項目のうち4項目以上が、14日以内に2回認められれば診断する。 腎・消化管ので確定させることもできるが、生検は診断に必須ではない1。

💡 高血圧・蛋白尿・という「血算に出ない3項目」が基準に入っている点が要になる。実際、小児・若年成人の前向きコホートでは、上昇・の蛋白尿・高血圧が最も早期に現れる指標であった2。血小板減少とがそろうのを待つと手遅れになる。

⚠️ 末梢血のが出ないがある。 は7項目の1つにすぎず、これを必須条件のように扱うと診断を落とす。

高リスク層の層別化

同じでも予後は一様ではない。統一基準は、次のいずれかがあればの危険が高い高リスクとして層別化するよう求めている1。

  • の高値
  • がの2倍以上
  • が1 mg/mg以上
  • grade II〜IVのの合併
  • 細菌またはウイルス感染の合併

この層別化の原型は2014年の前向き研究にある。を受けた小児・若年成人100例を連続的に評価したところ39例(39%)が当時の基準を満たし、群の移植後1年率は43.6%(非群7.8%)であった。さらに診断時点で蛋白尿と血中上昇の両方がある例の1年生存は20%未満であったのに対し、どちらも認めなかった例は全例が生存した2。

鑑別

flowchart TD
    A["移植後の血小板減少・貧血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactate dehydrogenase'>LDH</span>上昇"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ADAMTS13 activity'>ADAMTS13活性</span>は10%未満か"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombotic thrombocytopenic purpura'>TTP</span>を考える<br>(移植後にはまれ)"]
    B -->|"いいえ(活性は保たれる)"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct antiglobulin test, DAT'>直接抗グロブリン試験</span>は"}
    D -->|"陽性"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoimmune hemolysis'>自己免疫性溶血</span>・<br>ドナー由来<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alloantibody'>同種抗体</span>を考える"]
    D -->|"陰性"| F{"高血圧・蛋白尿・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal impairment'>腎機能障害</span>はあるか"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transplant-associated thrombotic microangiopathy'>TA-TMA</span>を積極的に疑い<br>統一基準の7項目を評価する"]
    F -->|"なし"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation'>DIC</span>・敗血症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug-induced thrombocytopenia'>薬剤性血小板減少</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='graft failure'>生着不全</span>を検討する"]
鑑別 決め手
TTP が10%未満。では活性は保たれる
HUS の(血性下痢の先行)。移植後の状況とは文脈が異なる
DIC 凝固因子の消費(・延長、、著増)。ではは概ね保たれる
GVHD 消化管は下痢・消化管出血で腸管と紛らわしく、両者は併存もする。ステロイド不応の消化管症状ではを疑う
SOS/VOD ・体重増加・が前景。同じとして併発しうる

⚠️ 溶血がすべて免疫性ではない。 移植後の溶血ではがまず引かれるが、の溶血は機械的であり同試験は陰性である。陽性なら主要・副次に伴うや薬剤性を考える。

治療

統一基準を作った合同パネルは、治療については検討の対象から外している(への登録を勧めるにとどまる)1。実地では次の柱が組み合わされる。

  1. 支持療法と誘因の是正——血圧の厳格な管理、腎機能に応じた輸液・、感染の治療、の制御。
  2. ・の減量または変更——制御との綱引きになるため、単純な中止が常に正しいわけではない。
  3. 補体阻害——高リスク例に対する介入の中心。

⭐ 補体阻害が予後を変えうる。 高値と1 mg/mg以上を要件とした高リスクの小児・若年成人21例(評価例は全例がを伴った)に、強化した負荷・導入・維持の三相からなるを最長24週投与した前向きでは、診断6か月後の生存が71%、移植後1年生存が62%で、生存15例のうち11例(73%)が臓器機能を完全に回復した3。

💡 はC5を阻害して()を止める。 一方、の起点にあるを阻害する(Yartemlea)が、米国で2歳以上の小児および成人のを適応として承認されている(2025年12月23日付の承認書。ではなく通常承認で、承認書の全文に accelerated approval は現れない)4。体重50 kg以上で370 mg、50 kg未満で4 mg/kgを30分かけて週1回し、反応が不十分なら週2回へ増やす。の成人28例で60.7%(17/28)・100日生存73.4%、の評価可能19例で68.4%・100日生存73.7%であった5。

⚠️ が使えるかどうかは国で分かれる。 EUでは、が2026年6月25日にYartemleaの販売承認の拒否を勧告(意見の状態はNegative)し、2026年7月15日付の更新でOmeros Ireland Limitedが再審査を請求した段階にある6。拒否の理由は安全性ではなく有効性の立証不足で、①主要試験がも対照も持たず併用薬の影響と区別できない、②試験実施中の変更・有効性の測定法・に懸念がある、③文献上の他の治療も同様の成績を示す、④との生存比較では効果を確認できない、⑤小児は用量を裏づけるデータが乏しく、成人で有益性が示されていない以上は外挿できない、と整理されている6。⭐ のをそのまま「効く証拠」と読まない——上の60.7%・68.4%という数字は、まさにこの点を理由にの一方から不十分と判断された数字である。

⚠️ 補体阻害は感染の危険を上げる。 の試験では36%に敗血症・肺炎・菌血症・ウイルス感染・真菌感染などの重篤な感染が生じている5。もともとにある移植患者に補体阻害を重ねるので、感染監視と予防を並行させる。

⚠️ はの標準治療ではない。 ADAMTS13の重度欠乏を機序としないため、と同じ発想でに頼らない。

予後

半数を超える患者がへ進行し、移植後1年の死亡率は通常50%を超える1。診断時期の中央値は移植後22〜100日で、多くは移植後100日以前に起こる。腎障害は長期に残りうるため、生存例でも後の腎機能・血圧・蛋白尿を追跡する。

まとめ

  • は・・・感染などが微小血管内皮に重なって起こるで、が病態の中心にある。
  • ⭐ 2023年の国際統一基準では、貧血・血小板減少・高値・・高血圧・高値・1 mg/mg以上の7項目のうち4項目以上が14日以内に2回で診断する。生検は必須ではない。
  • ⭐ 早期に現れるのは上昇・蛋白尿・高血圧であり、と血小板減少がそろうのを待たない。
  • 高リスク(高値、がの2倍以上、1 mg/mg以上、、grade II〜IVの、感染)に層別化して介入を急ぐ。
  • は保たれ、は陰性——ここがおよび免疫性溶血との分かれ目になる。
  • 治療は支持療法・誘因の是正に補体阻害(、阻害薬)を組み合わせる。は標準治療ではない。
  • ⚠️ の上の位置づけは国で割れている。 米国は2025年12月にを適応として通常承認したが、は2026年6月に販売承認の拒否を勧告し(による有効性の立証不足が理由)、同年7月から再審査の段階にある。
  • 半数超がへ進み、1年死亡率は50%を超える。

出典

  1. 1.Harmonizing Definitions for Diagnostic Criteria and Prognostic Assessment of Transplantation-Associated Thrombotic Microangiopathy: A Report on Behalf of the European Society for Blood and Marrow Transplantation, American Society for Transplantation and Cellular Therapy, Asia-Pacific Blood and Marrow Transplantation Group, and Center for International Blood and Marrow Transplant Research(Transplantation and Cellular Therapy(EBMT・ASTCT・APBMT・CIBMTR合同パネル)・2023)貧血・血小板減少・LDHが基準上限超・破砕赤血球・高血圧・可溶性C5b-9が基準上限超・随時尿の尿蛋白クレアチニン比1 mg/mg以上の7項目のうち4項目以上が14日以内に2回認められればTA-TMAと診断し、腎または消化管の生検は診断に必須ではないこと、可溶性C5b-9高値・LDHが基準上限の2倍以上・尿蛋白クレアチニン比1 mg/mg以上・多臓器機能障害・grade II〜IVの急性GVHD合併・細菌またはウイルス感染の合併のいずれかがあれば非再発死亡の危険が高い高リスクTA-TMAへ層別化すること、報告されている発症率が0.8〜36%と幅広く、診断時期の中央値が移植後22〜100日で通常は100日以前に起こること、半数超が多臓器機能障害へ進行し移植後1年の死亡率が通常50%を超えることを確認した。本パネルは治療を検討の対象から外している。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Diagnostic and risk criteria for HSCT-associated thrombotic microangiopathy: a study in children and young adults(Blood(American Society of Hematology)・2014)小児・若年成人の造血幹細胞移植連続100例を前向きに評価し、39例(39%)が既報のTMA基準を満たしたこと、TMA群の移植後1年非再発死亡率が43.6%と非TMA群の7.8%より有意に高かったこと、LDH上昇・尿定性での蛋白尿・高血圧が最も早期の指標であったこと、TMA診断時に蛋白尿(30 mg/dL超)と血中の可溶性C5b-9上昇の両方を認めた例の1年生存が20%未満であった一方で、蛋白尿がなく可溶性C5b-9も正常であったTMA例は全例が生存したこと、重症TMAは本コホートの18%に生じたことを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.A prospective multi-institutional study of eculizumab to treat high-risk stem cell transplantation-associated TMA(Blood(American Society of Hematology)・2024)可溶性C5b-9高値と随時尿の尿蛋白クレアチニン比1 mg/mg以上を組み入れ要件とした高リスクTA-TMAの小児・若年成人21例(評価例は全例が多臓器機能障害を伴った)に対し、強化した負荷投与・導入・維持の三相からなるエクリズマブを最長24週投与した前向き多施設研究で、主要評価項目である高リスクTA-TMA診断から6か月後の生存が71%、移植後1年生存が62%であり、生存15例のうち11例(73%)が臓器機能を完全に回復したことを確認した。閲覧 2026-09-03
  4. 4.BLA 761152 Approval Letter — Yartemlea (narsoplimab-wuug) injection(U.S. Food and Drug Administration(Center for Drug Evaluation and Research)・2025)BLA 761152 の承認書の電子署名が2025年12月23日付であり、本文が「It is approved, effective on the date of this letter」として通常承認であることを述べていること(全文に accelerated approval は0件)、承認された適応が逐語で adult and pediatric patients two years of age and older with hematopoietic stem cell transplant-associated thrombotic microangiopathy (TA-TMA) であることを確認した。閲覧 2026-09-14
  5. 5.YARTEMLEA (narsoplimab-wuug) injection, for intravenous use(DailyMed(U.S. National Library of Medicine)/Omeros Corporation・2025)米国の添付文書で、ナルソプリマブが2歳以上の小児および成人の造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症の治療を適応として承認されており、MASP-2を阻害して補体レクチン経路の活性化を遮断すること、体重50 kg以上では370 mgを、50 kg未満では4 mg/kgを30分かけて週1回点滴静注し、反応が不十分なら週2回へ増やすこと、単群非盲検試験の成人28例で奏効率60.7%(17/28)・100日生存73.4%、拡大アクセスプログラムの評価可能19例で奏効率68.4%・100日生存73.7%であったこと、試験対象の36%に敗血症・肺炎・菌血症・ウイルス感染・真菌感染など重篤な感染が生じたことを確認した(添付文書の改訂は2025年12月)。閲覧 2026-09-03
  6. 6.Yartemlea (narsoplimab) — refusal of the marketing authorisation (EMEA/H/C/005247)(European Medicines Agency・2026)欧州医薬品庁がYartemlea(ナルソプリマブ。EMEA/H/C/005247、申請者Omeros Ireland Limited)について販売承認の拒否を勧告し、意見の採択日が2026年6月25日・意見の状態がNegativeであること、2026年7月15日付の更新で申請者が再審査を請求したため状態が「Opinion under re-examination」であること、拒否の主な理由が、主要な試験がプラセボ対照も実薬対照も持たず併用薬の影響と区別できないこと・試験実施中の変更や有効性の測定法や用量選択への懸念・文献上の他の治療も同様の成績を示すこと・外部対照との生存比較では効果を確認できないこと・小児では用量を裏づけるデータが不足し成人で有益性が示されていない以上は外挿できないこと、であることを確認した。申請の裏づけとして提示されたのは成人28例の主要試験と、拡大アクセスプログラムの成人27例・小児16例である。閲覧 2026-09-14