疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 血液 · 疾患

血栓性血小板減少性紫斑病

Thrombotic thrombocytopenic purpura

別名
TTPMoschcowitz症候群
臓器系
血液全身
科目
Internal MedicinePathophysiology
トピック
内科学 H-17:血栓性血小板減少性紫斑病と溶血性尿毒症症候群内科学 S-44:血栓性微小血管症(TTP・HUS)病態生理学 I-17:凝固系の低下と亢進が併存する病態(TTP・HIT・DIC)
上位概念
血栓性微小血管症
鑑別疾患
ヘパリン起因性血小板減少症遺伝性・後天性溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症・G6PD欠乏症・自己免疫性溶血性貧血・発作性夜間ヘモグロビン尿症)巨赤芽球性貧血妊娠高血圧腎症・子癇・HELLP症候群播種性血管内凝固免疫性血小板減少症溶血性尿毒症症候群
治療薬
リツキシマブプレドニゾロンカプラシズマブ遺伝子組換えADAMTS13製剤
原因薬剤
クロピドグレル
症状
悪心意識障害倦怠感錯乱出血出血傾向頭痛発熱腹痛嘔吐痙攣
検査値
クレアチニンフィブリノゲンビリルビン血小板数血小板減少網赤血球ADAMTS13活性
スコア
PLASMICスコア
適応薬
カプラシズマブ遺伝子組換えADAMTS13製剤

🧠 全体像は、ADAMTS13の重度欠乏によって超(vWF)が切断されずに残り、全身の細動脈・毛細血管でを形成するである。数時間の治療の遅れが致命的になり得るため、古典的5徴の完成やADAMTS13検査結果を待たず、臨床的に強く疑った時点で検体採取後ただちにを開始することが診療の核心である。

病態

TTPのの重度低下である。正常では血管内皮から分泌された超vWFをADAMTS13が速やかに切断し、過剰なを防いでいる。ADAMTS13が働かないと、切断されない超vWFが血小板を過剰に絡めとり、細動脈・に血小板に富むを形成する。このに赤血球が衝突してされるとを伴う性貧血(MAHA)が生じ、血小板はに消費されて血小板減少となる。血栓による虚血は脳・心臓・腎臓など複数臓器に及び得る。

flowchart TD
    A["自己抗体によるADAMTS13阻害(免疫性TTP)<br>またはADAMTS13遺伝子変異(先天性TTP)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ADAMTS13 activity'>ADAMTS13活性</span>の重度低下"]
    B --> C["超<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high molecular weight'>高分子量</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand factor (vWF)'>von Willebrand因子</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligomer / multimer'>多量体</span>が切断されず残存"]
    C --> D["細動脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Endocapillary'>毛細血管内</span>で血小板が過剰に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adhesion'>粘着</span>・凝集"]
    D --> E["血小板に富む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microthrombi'>微小血栓</span>の形成"]
    E --> F["赤血球が血栓に衝突して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fragmentation'>破砕</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='schistocyte'>裂片赤血球</span>・MAHA"]
    E --> G["血小板の消費:血小板減少"]
    E --> H["脳・心臓・腎臓などの微小血管虚血・臓器障害"]

TTPには2つの病型がある。

  • 免疫性TTP(iTTP):ADAMTS13に対する自己抗体(多くはIgG)による後天性の重度欠乏で、成人TTPの大多数を占める。
  • 先天性TTP(cTTP、:ADAMTS13遺伝子の両アレルによる先天性の重度欠乏で、まれである。妊娠や感染などの誘因で初めて症候化することがある。

💡 かつては発熱・神経症状・腎障害・MAHA・血小板減少の「古典的5徴」がTTPののように扱われてきたが、5徴すべてが揃う症例は少数派である。現在は原因不明のMAHA+血小板減少だけでTTPを積極的に疑うという考え方に転換しており、5徴の完成を待つことは治療開始の遅れに直結するため避けるべきとされる。

⚠️ TTPは他のTMA・凝固異常と機序が異なり、も異なる。

  • によるが中心で、ADAMTS13は正常に近い。血性下痢後、特に小児で腎障害主体に発症する。
  • TMA(、aHUS)の制御異常によるで、ADAMTS13は正常。感染・妊娠・移植などが誘因になり得る。
  • DICを介した全身性の凝固活性化と線溶異常が中心で、PT・aPTTの著明な延長やを伴う。TTPでは通常これらのはほぼ正常である。

臨床像

典型例は感、(紫斑、粘膜出血)に加え、頭痛・・痙攣・意識障害などの神経症状で急性発症する。発熱、腹痛、悪心・嘔吐を伴うこともある。腎障害はHUSほど前景には立たないが軽度〜中等度に生じ得る。身体所見や病歴だけからTTPかどうかを断定することはできず、を伴う溶血所見と血小板減少を確認したうえで、他のTMA・凝固異常を鑑別する必要がある。

TTP・HUS/aHUS・DIC・ITPの鑑別

項目 TTP STEC-HUS TMA(aHUS) DIC ITP
中心機序 の重度低下 による の制御異常 を介した全身性凝固活性化 血小板に対する自己抗体
著明低下(多くは<10%) 正常〜軽度低下 正常 正常 正常
溶血・ あり(MAHA) あり(MAHA) あり(MAHA) 変動する なし
PT・aPTT・フィブリノゲン ほぼ正常 ほぼ正常 ほぼ正常 延長・低下(異常が目立つ) 正常
目立つ臓器 神経・心臓を含む全身 腎臓 腎臓を中心に全身 全身(出血と血栓が併存) のみ(なし)
誘因・背景 自己抗体、まれに遺伝性 血性下痢(小児に多い) 感染、妊娠、移植など 敗血症、外傷、産科合併症、悪性腫瘍 感染後、自己免疫疾患、薬剤
治療 +免疫抑制+ 支持療法(含む) 等) 原疾患治療+支持療法 副腎皮質ステロイド、必要時リツキシマブ

診断

TTPは臨床的に強く疑った時点で治療を開始し、確定診断を待たないことが原則である。

  • の評価、溶血所見()、活性のあるがん・移植歴の有無、MCV、INR、腎機能(クレアチニン)を用いるが有用で、高得点(6〜7点)はADAMTS13重度欠乏の高いを示す。
  • ・インヒビター検体:治療開始前に必ず採取する。10%未満(<10 IU/dL)はTTPを強く支持する所見であり、正常に近ければ他のTMAを再考する。
  • 結果を待たない:ADAMTS13検査の結果判明には数日を要することが多く(迅速検査でも数時間〜数日)、が高ければ結果を待たずに治療を開始する。
  • ・便検査:PT・aPTT・フィブリノゲンがほぼ正常であることを確認しDICを除外し、下痢を伴う症例では便培養・でSTEC-HUSを検索する。
flowchart TD
    A["MAHA+原因不明の血小板減少を認める"] --> B["治療前に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ADAMTS13 activity'>ADAMTS13活性</span>・インヒビター検体を採取"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PLASMIC score'>PLASMICスコア</span>等で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pretest probability'>事前確率</span>を評価"]
    C --> D{"TTPを臨床的に強く疑うか"}
    D -->|"はい(PLASMIC高値など)"| E["結果を待たずに緊急<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic plasma exchange, TPE'>血漿交換</span>+副腎皮質ステロイドを開始"]
    E --> F["ADAMTS13結果が判明"]
    F -->|"<10%:TTPを支持"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='caplacizumab'>カプラシズマブ</span>継続・早期リツキシマブを追加"]
    F -->|"正常に近い"| H["HUS/aHUS・DICなど他のTMAを再考"]
    D -->|"低い"| H

治療

急性期治療

  • 治療前検体採取・インヒビター検体は治療開始前に確保するが、採取のために治療を遅らせない。
  • :TTP診療の中心。自己抗体・ADAMTS13の異常な超vWFを除去すると同時に、正常なADAMTS13を補充する。が高ければADAMTS13結果を待たずに直ちに開始する。TPEが直ちに実施できない場合は、中にを検討しつつ、実施可能な施設への移送を急ぐ。
  • 副腎皮質ステロイド:TPEと同時に開始し、を抑制する。
  • :vWFのA1ドメインに結合し、超vWFと血小板の結合を阻害する抗体薬。免疫性TTPにおいてTPE・免疫と併用し、急性期の血小板減少・形成を速やかに抑える。ADAMTS13検査結果が判明したら、陽性(重度欠乏を支持)ならを継続し、陰性であれば中止して他の診断を再考する。
  • リツキシマブ:免疫性TTPのB細胞を標的とする。重症例・難治例・再発例では早期から併用が検討される。
  • ⚠️ は原則として避ける:血小板を補充すると形成を悪化させ、虚血性臓器障害を増悪させ得る。生命を脅かす出血やがどうしても必要な場合に限り、血液内科と相談のうえで慎重に検討する。

先天性TTP(cTTP)の管理

  • 急性発作にはまたはでADAMTS13を補充する。
  • ・予防では、遺伝子組換えADAMTS13製剤が利用可能な地域ではこれが第一選択となり、定期補充により急性発作を予防する。利用できない地域では定期的なで代替する。

寛解後のモニタリング

  • 後もを定期的に測定する。活性の低下傾向は・再発の先行指標となり得るため、免疫性TTPでは寛解後も一定期間のADAMTS13モニタリングを継続する。
  • 活性の再低下や自己抗体の再出現を認めた場合は、症状出現前の先制的なリツキシマブ投与が再発予防として検討される。

まとめ

  • TTPはADAMTS13の重度欠乏により超vWFが切断されず、とMAHAを来すである。
  • 古典的5徴の完成は待たず、原因不明のMAHA+血小板減少だけで疑い、ADAMTS13検体採取後ただちに治療を開始する。
  • 免疫性TTP(自己抗体)が成人の大多数を占め、先天性TTP()はまれ。
  • を評価し、10%未満がTTPを強く支持するが、結果を待って治療を遅らせてはならない。
  • 治療の中心は緊急+副腎皮質ステロイドで、・リツキシマブを併用する。は原則避ける。
  • STEC-HUS(・腎障害主体)、TMA(が中心)、DIC(異常が目立つ)とは機序・治療がいずれも異なり、迅速な鑑別が臓器予後を左右する。
  • 寛解後もをモニタリングし、低下時の先制的リツキシマブが再発予防として検討される。