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Disease Atlas · 血液 · 症候群

播種性血管内凝固

Disseminated intravascular coagulation

別名
播種性血管内凝固症候群DIC
臓器系
血液全身
科目
Internal MedicineIntensive Therapy and AnesthesiologyTranslational Medicine and PathophysiologyPathology
トピック
内科学 H-14:播種性血管内凝固麻酔科学 B-09:致死的凝固異常とDIC病態生理学 I-17:血栓と出血が併存する凝固異常病理学 A/29:播種性血管内凝固症候群
鑑別疾患
ヘパリン起因性血小板減少症移植関連血栓性微小血管症急性肝不全血栓性血小板減少性紫斑病血栓性微小血管症抗リン脂質抗体症候群免疫性血小板減少症溶血性尿毒症症候群
関連疾患
Waterhouse-Friderichsen症候群急性リンパ性白血病電撃性紫斑病
治療薬
ヘパリントラネキサム酸遺伝子組換えトロンボモジュリンアンチトロンビン濃縮製剤
症状
点状出血皮膚壊死
検査値
Dダイマーフィブリノゲン血小板数プロトロンビン時間血小板減少アンチトロンビン
スコア
JSTH2017年版DIC診断基準
組織像
播種性血管内凝固症候群の腎病変(フィブリン染色)
元疾患
Trousseau症候群セロトニン症候群悪性症候群横紋筋融解症急性前骨髄球性白血病急性妊娠脂肪肝新生児水痘腎症候性出血熱髄腔内バクロフェン離脱症候群溶血性輸血反応脾摘後重症感染症
原因となる疾患
ペスト急性骨髄性白血病細菌性髄膜炎子宮内胎児死亡・過期妊娠子宮破裂常位胎盤早期剥離髄膜炎菌感染症前置胎盤多胎妊娠妊娠高血圧腎症・子癇・HELLP症候群熱中症・低体温症敗血症分娩後出血羊水塞栓症
適応薬
アンチトロンビン濃縮製剤遺伝子組換えトロンボモジュリン
禁忌薬
プロトロンビン複合体製剤ε-アミノカプロン酸

🧠 全体像:は、基礎疾患によって全身の凝固が制御不能となり、による臓器障害と、血小板・凝固因子消費および線溶異常による出血を同時に起こす後天性症候群である。最重要治療は、敗血症・産科異常・悪性腫瘍などの原因を直ちに制御することである。

定義

は、全身性凝固活性化、の線溶、によってを生じる、後天性で生命を脅かす血管内病態である。

無症候性に近いから、出血または臓器障害を伴うへ動的に進行する。出血型と血栓型は固定された別疾患ではなく、同一患者でも原因とによって比重が変わる。

原因

分類 代表例
感染 細菌・真菌・ウイルスなどによる敗血症
産科 、、、重症関連、
悪性腫瘍 、進行、とくに産生癌
、熱傷、大手術、、
血管・免疫 、、重症、

感染関連はグラム陰性菌に限られず、あらゆる重症感染で起こり得る。

病態

flowchart TD
    A["敗血症・産科異常・癌・外傷"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue factor'>組織因子</span>発現・炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮障害</span>"]
    B --> C["過剰な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombin generation'>トロンビン産生</span>"]
    C --> D["全身性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrin formation'>フィブリン形成</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microthrombi'>微小血栓</span>"]
    D --> E["腎・肺・肝・脳などの虚血・臓器障害"]
    C --> F["血小板・凝固因子の消費"]
    B --> G["線溶の抑制または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperactivation'>過剰活性化</span>"]
    F --> H["穿刺部・創部・粘膜からの出血"]
    G --> D
    G --> H
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮傷害</span>とショックが凝固をさらに促進"]
    H --> I
    I --> B

敗血症ではとによる臓器障害が前景に立ちやすい。一方、、一部の産科疾患、外傷では過剰な線溶を伴う大量出血が目立ちやすい。

臨床像

出血

  • 、創部、ドレーンからの持続的な。
  • 点状出血、紫斑、粘膜出血。
  • 消化管、肺、頭蓋内、。

血栓・臓器障害

  • 腎障害、意識障害、呼吸不全、肝障害。
  • 、、紫斑壊死。
  • 静脈・動脈血栓。
  • ショック、。

診断

に単独の確定検査はない。を起こし得る基礎疾患の存在、出血・血栓・臓器障害、血小板・PT・フィブリノゲン・のを統合する。

検査 典型的変化 注意点
血小板 低下または進行性減少 初期には内でも急減が重要
延長 初期・慢性では正常のことがある
延長または正常 正常でもを否定しない
フィブリノゲン 低下 で正常・高値でも否定できない
・ 上昇 非特異的だが凝固・線溶活性化を反映
ほど目立たないことがある

2025年ISTH顕性DICスコア

項目 0点 1点 2点 3点
血小板(×10⁹/L) 100以上 50以上100未満 50未満 —
の3倍以下 — 3倍超7倍以下 7倍超
延長 3秒未満 3秒以上6秒未満 6秒以上 —
フィブリノゲン 100 mg/dL以上 100 mg/dL未満 — —

合計5点以上はに合致する。2001年版からの変更はの閾値(の3倍超で2点、7倍超で3点)を明示したことだけで、・延長・フィブリノゲンの配点は変わっていない。は測定法・単位が施設間で異なるため、自施設のとの比を用いる。1回の点数だけでなく反復測定を重視し、では敗血症、外傷、産科、癌など原因別の評価基準を併用する。1

診断基準の使い分け(JAAM・ISTH・JSTH2017)

のは目的によって使い分ける。JAAM基準は・血小板・比(測定値/対照値)・を組み合わせ、敗血症や外傷などの急性期に、より早期・高感度に異常を捉えることを狙った基準で、4点以上を陽性とする2。ISTHスコア(前掲)は、進行した「」を確定するための基準で、JAAM基準で陽性となる症例の多くはISTH基準の陽性へ進行する前段階に位置づけられる。日本血栓止血学会(JSTH)2017年版基準は、基礎疾患によって同じの意味が変わることを配点そのものに織り込み、基本型・型・感染症型の3型で採点と閾値を変える3。いずれも一長一短があり、単一の基準に依存せず、な変化と基礎疾患の文脈を合わせて判断する。

JSTH2017年版の型 想定する基礎疾患 採点から外す項目 とする合計点
型 白血病・化学療法後など、そもそも血小板が低い病態 血小板 4点以上
感染症型 敗血症など、でフィブリノゲンが下がりにくい病態 フィブリノゲン 5点以上
基本型 上記以外 なし 6点以上

💡 型ごとに閾値が違うのは基準が緩い/厳しいからではなく、外した項目のぶんだけ満点が下がるためである。「4点以上」だけを覚えて基本型の患者に当てはめると、を過剰に診断する。

  • JSTH2017年版は、上記の一般(血小板・・フィブリノゲン・比)に加え、活性70%以下で1点、TAT・可溶性フィブリン・フラグメントF1+2のいずれかがの2倍以上で1点というを採点に組み込み、早期のを捉えようとしている点でISTHスコアと性格が異なる。24時間以内に血小板が30%以上減少していれば1点を加算する(血小板50×10³/μL以下では加算しない。血小板の最大は3点)。3
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation'>DIC</span>を起こし得る基礎疾患"] --> B["出血・血栓・臓器障害を評価"]
    B --> C["血小板・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prothrombin time'>PT</span>・フィブリノゲン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-dimer'>Dダイマー</span>"]
    C --> D["スコアと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='evolution'>経時変化</span>を確認"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation'>DIC</span>を支持"]
    E --> F["原因治療を直ちに開始"]
    E --> G["出血優位・血栓優位・混合型を評価"]

鑑別診断

病態 鑑別の手掛かり
TTP・HUS と血小板減少が中心で、通常・は大きく延長しない
HIT 、血小板の50%以上低下、血栓優位
・肝硬変による 凝固因子産生低下。背景疾患、感染、出血、の推移を統合(下記)
大量輸血・ 出血、輸液、製剤投与との時間関係
より線溶が前景に立つ

肝不全による凝固障害との鑑別

の鑑別でもっとも頻繁に問題になるのが肝不全によるである。急性・慢性のいずれでも、延長・・血小板減少・/上昇という「らしい」が一通り揃うため、の組合せだけでは切り分けられない。

  • では凝固因子の合成が急速に落ち、血小板減少は産生低下でも起こる。
  • 肝硬変では門脈圧亢進に伴う(脾での血小板隔離)が血小板減少の主因として加わり、も伴いやすい。
  • どちらもとが同時に低下する「再均衡した」であり、延長の大きさが出血リスクの大きさを意味しない。

⚠️ この重なりは日本のでは配点そのものに書き込まれている。 JSTH2017年版はを防ぐため、肝不全があれば合計から3点を減点すると定めており、その「肝不全」には(正常肝または正常と推定される肝に生じ、初発症状から8週以内に活性40%以下または 1.5以上となるもの)と(分類BまたはC=7点以上の肝硬変)の両方が含まれる。3 つまり「か肝疾患か」は二者択一ではなく、肝疾患を背景にが重なりうるという前提で採点する枠組みになっている。

⚠️ 「第VIII因子が保たれていれば肝疾患、下がっていれば」という古典的な教え方は、実証データに乏しい。 第VIII因子は肝細胞以外(血管内皮)でも産生されるため肝不全では保たれるはずだ、という機序上の予想が根拠だが、・肝疾患・その両方をもつ123例の後ろ向きカルテレビューでは、第VIII因子値は3群間で有意差を示さず、ISTHスコアもむしろ肝疾患群のほうが高かった(・・第VIII因子・・を加えて初めて 0.76まで改善した)。4 単一ので決めようとせず、基礎疾患の有無とので判断する。

治療

原因治療

血液製剤

を正常化する目的だけで予防的に投与せず、活動性出血または高リスク手技と組み合わせて判断する。

製剤 主な適応の考え方
血小板 活動性出血または高リスク手技に血小板減少を伴う場合
出血・と凝固因子消費を伴う場合
フィブリノゲン製剤・ 出血を伴う重度
赤血球 、出血量、症状、Hbを統合して判断

抗凝固・抗線溶

治療量ヘパリンをすべてのへ一律に投与しない。大血管血栓、、紫斑壊死、慢性など血栓優位で出血リスクが許容される場合に検討する。非出血性重症患者では禁忌がなければ通常の予防を考える。関連(を含む)では、ヘパリンなど他の抗凝固薬はむしろ弱く非推奨とされる点が、後述する敗血症関連での位置づけと異なる5。

⚠️ の適応は、の病型を取り違えると逆向きに働く。 などのは、線溶がを溶かして臓器を守っている型(凝固優位型。敗血症関連が代表)ではと臓器障害を悪化させ得るため通常は避け、型(、・などの産科、外傷、前立腺癌など)の真のによる生命危機出血に、管理下で限って検討する。とくにに対し投与中のは推奨されない5。「出血しているから」ではなく、「なぜ出血しているか」で決める。

敗血症関連では、これらとは別に、とによる自体を標的としたが、2024年のJSTH(日本血栓止血学会)診療ガイドラインでいずれもGrade 1B(強い推奨)とされている。関連ではは弱い推奨(Grade 2B)にとどまり、基礎疾患ごとに推奨の強さが異なる点に注意する6。

⚠️ この2剤の位置づけは、日本と国際的なエビデンスで一致していない。 遺伝子組換えヒト可溶性(ART-123)は日本で承認・使用されているが、国際的なSCARLETはを達成していない——26か国159施設で敗血症性(他に原因のない 1.40超に加え、血小板30〜150×10⁹/Lまたは24時間で30%超の減少)に循環不全および/または呼吸不全を伴う成人800例をしたで、28日は26.8%(106/395)対29.4%(119/405)、P=0.32、2.55%(95%CI −3.68〜8.77%)と有意差がなく、重篤な大出血は5.8%対4.0%だった。7 国内ガイドラインのGrade 1Bは日本の診療文脈での評価であって、「国際的に死亡率改善が証明された薬」と読み替えない。

まとめ

  • はと出血が併存する動的な後天性症候群である。
  • 単一検査ではなく、基礎疾患、臨床像、の推移、スコアを統合する。
  • フィブリノゲン正常や正常だけで早期を除外しない。
  • は複数あり、どの基準の話かを明示せずに配点や閾値を並べない。JSTH2017年版は型4点以上・感染症型5点以上・基本型6点以上と型ごとに閾値が違い、これは外した項目のぶん満点が下がるためである。
  • 肝不全によるはとが広く重なる。JSTH2017年版はと肝硬変( B・C)の両方を「肝不全」として3点減点する。第VIII因子で切り分ける古典的な教え方は実証データに乏しい。
  • 治療の中心は原因制御であり、・・は病型と適応を選ぶ。は型の生命危機出血に限り、凝固優位型では臓器障害を悪化させ得る。
  • とは日本のガイドラインで敗血症関連にGrade 1Bだが、の国際的SCARLETは28日死亡を改善しなかった。国内推奨と国際的エビデンスを混同しない。

出典

  1. 1.Updated definition and scoring of disseminated intravascular coagulation in 2025: communication from the ISTH SSC Subcommittee on Disseminated Intravascular Coagulation(International Society on Thrombosis and Haemostasis (ISTH) SSC・2025)全文(出版社の全文ページの Wayback 保存版、2025-06-02)の Table 1 で、顕性DICスコアが血小板数・Dダイマー・PT延長・フィブリノゲンの4項目からなり合計5点以上とすることを確認した。2001年版からの変更は、Dダイマーの閾値(正常上限の3倍超で2点、7倍超で3点)を明示したことだけで、血小板数・PT延長・フィブリノゲンは据え置かれている(本文 "The other clinical laboratory tests of platelet count, fibrinogen, and prothrombin remain the same.")。あわせて、DICを無症候でありうる早期相から進行相へ進む病態と再定義し、早期相は基礎疾患ごとの基準で捉える枠組みを示した閲覧 2026-08-02
  2. 2.A multicenter, prospective validation of disseminated intravascular coagulation diagnostic criteria for critically ill patients: comparing current criteria(Japanese Association for Acute Medicine (JAAM) DIC Study Group / Critical Care Medicine・2006)JAAM基準がSIRS・血小板・プロトロンビン時間比(測定値/対照値)・FDPを組み合わせ、敗血症・外傷などの急性期をより早期・高感度に捉える目的で4点以上を陽性とする基準であることを確認した閲覧 2026-08-02
  3. 3.The approval of revised diagnostic criteria for DIC from the Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis(日本血栓止血学会(JSTH)・2017)JSTH2017年版基準が基礎疾患別(造血障害型・感染症型・基本型)に3分類され、型ごとにカットオフ(それぞれ4点以上・5点以上・6点以上)が異なること、造血障害型では血小板の配点を、感染症型ではフィブリノゲンの配点を除くこと、アンチトロンビン活性70%以下に1点、TAT/可溶性フィブリン/F1+2のいずれかが正常上限の2倍以上で1点を加えること、および「肝不全」があれば誤診防止のため3点を減点し、その肝不全の定義が急性肝不全(発症8週以内のPT活性40%以下またはINR 1.5以上)と慢性肝不全(Child-Pugh分類BまたはC、すなわち7点以上の肝硬変)の両方を含むことを確認した閲覧 2026-08-02
  4. 4.Factor VIII Levels and ISTH Disseminated Intravascular Coagulation Scores Do Not Distinguish Disseminated Intravascular Coagulation from the Coagulopathy of Liver Disease(Acta Haematologica・2025)抄録で、DIC・肝疾患・その両方をもつ123例の後ろ向きカルテレビューにおいて第VIII因子値が群間で有意に異ならず、ISTH顕性DICスコアは肝疾患(DIC合併の有無を問わず)よりDICのほうがむしろ低かったこと、平均血小板容積・第V因子・第VIII因子・INR・aPTTをISTHスコアに追加すると肝疾患におけるDICの識別能がAUC 0.76まで改善したことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得(有料)。後ろ向きのカルテレビューである。閲覧 2026-09-05
  5. 5.Clinical practice guidelines for management of disseminated intravascular coagulation in Japan 2024. Part 2: hematologic malignancy(日本血栓止血学会(JSTH)・2025)造血器腫瘍関連DIC(APL含む)ではヘパリンなど抗凝固薬が弱く非推奨(Grade 2C)とされること、ATRA投与中のトラネキサム酸が推奨されないことを確認した閲覧 2026-08-11
  6. 6.Clinical practice guidelines for management of disseminated intravascular coagulation in Japan 2024. Part 1: sepsis(日本血栓止血学会(JSTH)・2025)敗血症関連DICでアンチトロンビン濃縮製剤・遺伝子組換えトロンボモジュリンがいずれもGrade 1Bで推奨されることを確認した。造血器腫瘍関連DICの推奨はPart 2の側に記載がある閲覧 2026-08-02
  7. 7.Effect of a Recombinant Human Soluble Thrombomodulin on Mortality in Patients With Sepsis-Associated Coagulopathy: The SCARLET Randomized Clinical Trial(JAMA・2019)抄録で、26か国159施設で行われた第III相二重盲検プラセボ対照試験SCARLETが、敗血症性凝固障害(他に原因のないINR 1.40超かつ血小板30〜150×10⁹/Lまたは24時間で30%超の減少)に循環不全および/または呼吸不全を伴う成人800例を解析し、主要評価項目の28日全死亡がトロンボモジュリン群26.8%(106/395)対プラセボ群29.4%(119/405)、P=0.32、絶対リスク差2.55%(95%CI −3.68〜8.77%)で有意差がなかったこと、重篤な大出血が5.8%対4.0%だったことを確認した。閲覧 2026-09-05