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Disease Atlas · 血液 · 腫瘍

急性前骨髄球性白血病

Acute promyelocytic leukemia

別名
APLM3前骨髄球性白血病
臓器系
血液腫瘍
科目
Internal MedicinePathologyPharmacologyHistopathology
トピック
内科学 H-28:急性骨髄性白血病病理学 C/9:急性骨髄性白血病/リンパ形質細胞性リンパ腫薬理学 B35:抗がん薬V(低分子シグナル伝達阻害薬・レチノイド)組織病理 H2-003:急性骨髄性白血病(MPO染色)
上位概念
急性骨髄性白血病
合併症
播種性血管内凝固
治療薬
トレチノインデキサメタゾンヒドロキシ尿素
症状
出血傾向点状出血発熱
検査値
フィブリノゲン血小板数Dダイマー白血球数
スコア
FAB分類

🧠 全体像は、の一亜型でありながら、診断・治療の作法がAML全体からほぼ独立している疾患である。核心は2つ。第一に、PML::RARAという単一の融合遺伝子でほぼ説明できる腫瘍であり、遺伝学的確定を待たずにを開始する——でも数少ない「疑ったら即治療」の病態である。第二に、腫瘍細胞の顆粒がを強く活性化し、を高頻度に合併して早期死亡(多くは出血死)の主因になるは腫瘍細胞を「殺す」のではなく成熟した好中球へ「分化させる」ため、治療開始直後に大量の細胞が一斉に分化・活性化するという特有の合併症を警戒し続ける必要がある。

病態:PML::RARA融合遺伝子による分化ブロック

APLはt(15;17)(q24;q21)転座によりPML遺伝子とRARAα)遺伝子が融合したPML::RARAを特徴とする。この異常蛋白は(HDACなど)を生理的濃度のでは解離できないほど強く引き寄せ続け、群の転写を持続的に抑制する。結果としての分化段階で成熟が停止し、異常なが骨髄・末梢血で異常増殖する。

flowchart TD
    A["t(15;17)転座"] --> B["PML::RARA融合遺伝子が生じる"]
    B --> C["異常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fusion protein'>融合蛋白</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corepressor complex'>コリプレッサー複合体</span>を強く保持"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinoic acid'>レチノイン酸</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='target gene'>標的遺伝子</span>群の転写が持続的に抑制"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='promyelocyte'>前骨髄球</span>が成熟段階で分化停止"]
    E --> F["異常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='promyelocyte'>前骨髄球</span>が骨髄・末梢血で異常増殖"]
    F --> G["顆粒球顆粒から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue factor'>組織因子</span>様物質・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='annexin'>アネキシン</span>IIなどが放出"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulation-fibrinolytic system'>凝固線溶系</span>が強く活性化"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='DIC'>播種性血管内凝固</span>を高頻度に合併"]

⚠️ DICはAPLの合併症ではなく、APLという疾患そのものの一部として扱う。 異常の顆粒に含まれる様物質・IIなどが凝固と線溶の両方を強く活性化するため、診断時点で既に重篤なを呈することが多く、の管理はAPL治療の初動から並行して行う。

臨床像

他のAMLと同様に貧血・易感染性を来すが、APLで際立つのはである。点状出血・紫斑・に加え、など重篤な出血をDICの結果として来しうる。では、細胞質にを多数含む異常な過顆粒性が束状にする「faggot細胞」)がみられ、これが緊急対応の引き金になるである。

診断

異型+DICを示唆する所見(上昇、PT延長)があれば、PML::RARAの遺伝学的確認を待たずにを開始する1。この「疑ったら即治療」の原則がAPL診療全体を貫く。

flowchart TD
    A["異型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='promyelocyte'>前骨髄球</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic diathesis'>出血傾向</span>・DIC所見を疑う"] --> B["フィブリノゲン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-dimer'>Dダイマー</span>・PT・血小板を緊急測定"]
    B --> C["遺伝学的確認を待たず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-trans retinoic acid'>ATRA</span>開始"]
    C --> D["血小板・フィブリノゲンを積極的に補充"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='karyotype'>染色体核型</span>・FISH・分子検査でPML::RARAを確認"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='white blood cell count'>白血球数</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet count'>血小板数</span>からSanz risk scoreを算出"]
    F --> G["リスク群に応じた治療強度を決定"]

診断確定後は、のM3型(過顆粒性、多数の)としての形態的特徴と、PML::RARA融合の分子生物学的証明(FISH・RT-PCR)で確定する。Sanz risk scoreは診断時のだけで算出でき、治療強度の振り分けに直結する1

リスク群 定義
低リスク 1万/μL以下、かつ4万/μL以上
1万/μL以下、かつ4万/μL未満
高リスク 1万/μLを超える

治療

低〜中間リスク:ATRA+亜ヒ酸(ATO)

化学療法を用いない併用療法が、低〜APLの第一選択である1・フィブリノゲン値を頻回に測定し、を積極的に補充してDICを支持しながら治療を進める。など)はDICが落ち着くまで原則として避ける。

高リスク:化学療法の追加と白血球数の管理

1万/μLを超える高リスク例では、+ATOに化学療法を追加する。誘導化学療法のはイダルビシンとで成績に差が無いとされ、/ATO開始が著明に増加した場合は(2 g/日)の追加を考慮しうる(推奨IV–C。臨床的有益性は明確でない)1

分化症候群:中止せずステロイドで管理する

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-trans retinoic acid'>ATRA</span>/ATO投与開始"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='promyelocyte'>前骨髄球</span>が急速に分化・活性化"]
    B --> C["サイトカイン放出・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased vascular permeability'>血管透過性亢進</span>"]
    C --> D["発熱・体重増加・呼吸困難・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary infiltrate'>肺浸潤</span>・<br>胸水/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial effusion (hydropericardium)'>心嚢水</span>・低血圧・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute kidney injury, AKI'>急性腎障害</span>"]
    D --> E{"3項目以上か、臨床的増悪を伴うか"}
    E -->|"中等症(3項目以上)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-trans retinoic acid'>ATRA</span>/ATOを継続しつつ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>10mgを1日2回静注で開始"]
    E -->|"重症(臨床的増悪あり)"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-trans retinoic acid'>ATRA</span>/ATOを一時中断し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>で管理"]
    G --> H["症状軽快後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-trans retinoic acid'>ATRA</span>/ATOを再開"]

⚠️ は治療開始直後の致死的合併症である。 発熱・体重増加(>5 kg)・呼吸困難・・胸水/・低血圧・のうち2項目以上でと診断し、2〜3項目を中等症、4項目以上を重症とすると判定し、疑った時点で速やかに10mgを1日2回静注で開始する。中等症では通常・ATOを継続するが、重症例では一時的に中断し、軽快後に再開する1

DIC管理におけるAPLの特殊性

APLに伴うDICの管理は、敗血症関連DICとは推奨が異なる。造血器腫瘍関連DIC(APLを含む)ではヘパリンなど抗凝固薬は弱く非推奨とされ、投与中のも推奨されない——を安定化させ病態を悪化させうるためである2

寛解後の維持療法

⚠️ 維持療法の要否は導入・に何を使ったかで決まる。 低〜+ATO(化学療法なし)で治療した場合は維持療法を行わない(ELN 2019 推奨2.10、Ib–A)。維持療法を検討するのは、従来の化学療法で治療し、そのレジメンで維持療法の有益性が示されている場合に限られる1

予後と早期死亡

APLは+ATO)により最も治癒率の高いAML亜型となった一方、診断確定前後の早期死亡が最大の課題として残る。米国のAML症例のうち約10〜15%をAPLが占めるが、での早期死亡率が5%未満に抑えられているのに対し、実臨床の集団データでは1か月死亡率が全体で12%、60歳超では21%に達し、出血・敗血症・が主要な死因である3。この「試験と実臨床の乖離」は、APLへの迅速な開始と支持療法の遅れが、地域や施設によって生じうることを示している。

まとめ

  • APLはt(15;17)によるPML::RARA融合遺伝子での分化が停止するAMLの一亜型で、顆粒球顆粒がを強く活性化しDICを高頻度に合併する。
  • 異型+DIC所見を認めたら、PML::RARAの遺伝学的確認を待たずにを開始するのが最大の原則である。
  • Sanz risk score()でリスクを層別化し、低〜、高リスクはこれに化学療法(イダルビシン優先)を追加する。
  • は発熱・体重増加・呼吸困難・などを呈する致死的合併症で、疑ったらを開始し、中等症では治療を継続、重症では一時中断してから再開する。
  • APLに伴うDICでは、敗血症関連DICと異なりヘパリンや(投与中の)は推奨されない。
  • 化学療法未使用のにより最も治癒率の高いAML亜型となったが、実臨床では早期死亡率(1か月死亡率12%、高齢者で21%)がより高く、出血・敗血症への迅速な支持療法が課題として残る。

出典

  1. 1.Management of acute promyelocytic leukemia: updated recommendations from an expert panel of the European LeukemiaNet(European LeukemiaNet / Blood(Sanz MA, et al.)・2019)Sanz risk score(白血球数1万/μL以下かつ血小板4万/μL以上を低リスク、白血球数1万/μL以下かつ血小板4万/μL未満を中間リスク、白血球数1万/μLを超える場合を高リスクと定義)、低〜中間リスクではATRA+亜ヒ酸(ATO)併用が化学療法併用より優先される第一選択であること、高リスクでは化学療法(イダルビシンがダウノルビシンより優先される)をATRA+ATOに追加すること、白血球数の著しい高値では導入化学療法開始前にヒドロキシ尿素による細胞減量が推奨されること、分化症候群の診断基準(発熱・体重増加>2.5kg・呼吸困難・肺浸潤・胸水・心嚢水・低血圧・急性腎障害のうち3項目以上で中等症、臨床的増悪を伴えば重症)とデキサメタゾン10mgを1日2回静注で開始する管理、重症例ではATRA・ATOを一時中断し軽快後に再開すること、地固め後の長期維持療法(ATRA±低用量化学療法)を推奨すること、PML::RARAの分子生物学的確認を待たずに臨床・形態学的所見だけでATRAを開始すべきことを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Clinical practice guidelines for management of disseminated intravascular coagulation in Japan 2024. Part 2: hematologic malignancy(日本血栓止血学会(JSTH)・2025)造血器腫瘍関連DIC(APL含む)ではヘパリンなど抗凝固薬が弱く非推奨(Grade 2C)とされること、ATRA投与中のトラネキサム酸が推奨されないことを確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.Early mortality and overall survival in acute promyelocytic leukemia: do real-world data match results of the clinical trials?(Leukemia & Lymphoma(Dhakal P, Lyden E, Rajasurya V, et al.)・2021)APLが米国のAML症例の約10〜15%を占める稀な亜型であること、臨床試験では発症後4〜6週の早期死亡率が5%未満に抑えられている一方、実臨床の集団データでは1か月死亡率が全体で12%(18歳以下・19〜40歳で6%、41〜60歳で10%、60歳超で21%)と年齢とともに上昇し、出血・敗血症・多臓器不全などが早期死亡の主要因であることを確認した閲覧 2026-08-11