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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

横紋筋融解症

Rhabdomyolysis

臓器系
運動器腎・泌尿器全身
科目
PathologyPathophysiologyInternal MedicineUrologyNeurologyPharmacologyPediatricsTraumatology
トピック
病理学 C/65:急性尿細管壊死(ATN)病態生理学 2-8:急性腎不全の原因と全身的影響病態生理学 2-19:カリウム(K+)平衡の異常内科学 S-50:筋力低下の内科的原因と鑑別診断内科学 S-21:急性尿細管間質性疾患内科学 S-64:電撃傷の内科的管理泌尿器科学 N-11:血尿神経内科 G1-34:ミオパチー薬理学 B9:脂質代謝に作用する薬・体重管理薬小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価外傷学 36:下肢コンパートメント症候群の診断と治療
合併症
急性腎障害コンパートメント症候群播種性血管内凝固
原因薬剤
アトルバスタチンコカインコルヒチンアルコールフェノフィブラートプロポフォールロスバスタチンシンバスタチン
原因微生物
Influenza A virusLegionella pneumophilaStaphylococcus aureus
症状
筋痛筋力低下
検査値
クレアチニンカリウムカルシウム尿酸ヘモグロビン尿クレアチンキナーゼAST・ALT代謝性アシドーシス
元疾患
コンパートメント症候群ジストニアセロトニン症候群悪性高熱症悪性症候群抗コリン薬中毒糖原病
原因となる疾患
インフルエンザレジオネラ症甲状腺機能低下症糖尿病性ケトアシドーシス・高血糖高浸透圧症候群熱中症・低体温症敗血症

🧠 全体像は「骨格筋が壊れる→細胞内容物(・CK・K⁺・リン・尿酸)が血中へ漏れ出す→が腎を傷める」という一本の流れで理解する。原因は・圧迫)(過剰な筋活動・・薬物・感染・遺伝性に二分してから並べると整理しやすい。臨床像は「筋痛・脱力・」の三徴がそろう例のほうがむしろ少数で、CKのと、ヘム陽性なのに尿沈渣に赤血球が乏しいという所見が診断の鍵になる。治療の中心は早期からの大量輸液であり、かつて標準とされたは現行ガイドラインではルーチンに推奨されない。

概要

は、骨格筋線維の急速な壊死により、筋痛筋力低下とともに(CK)・カリウム・リン・尿酸・などの細胞内容物が血中へ放出される病態である。CK上昇にはないが、上限の5倍以上(目安CK 1,000 IU/L超)が広く用いられる診断閾値で、非では5,000 IU/L超、では10,000 IU/L超に達することも珍しくない。最大の懸念はへの進展で、脱水・敗血症の合併やCKの例(目安15,000 IU/L超)でリスクが高まる。

病因

原因は筋線維が物理的に破壊されると、筋の代謝需要が供給を上回る、あるいは筋線維が直接障害されるに大別してから覚えると鑑別の抜けが減る。

分類 代表例
外傷・圧挫 (災害・長時間の圧迫)、、熱傷、、長時間の不動(意識障害・手術体位)
過剰な筋活動 激しい運動、、精神運動興奮
・代謝性 ・高血糖症候群
薬物・毒物 スタチン(など。とくに・CYP3A4阻害薬併用時)、アルコール・覚醒剤、の大量長期投与()、毒ヘビ咬傷
感染 インフルエンザなどのウイルス性筋炎、感染症、黄色ブドウ球菌など重症感染による敗血症
遺伝性 など)、(CPT II欠損症)、

病態

筋細胞膜の直接損傷、またはATP産生低下による・Ca²⁺-ATPaseの機能不全は、いずれも細胞内Ca²⁺濃度の持続的上昇というに収束する。上昇したCa²⁺はプロテアーゼ・を活性化して・細胞膜を分解し、筋細胞は壊死して・CK・電解質を血中へ放出する。

flowchart TD
    A["筋の直接損傷 または ATP産生低下"] --> B["Na+/K+-ATPase・Ca2+-ATPaseの機能不全"]
    B --> C["筋細胞内Ca2+濃度の持続的上昇"]
    C --> D["プロテアーゼ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phospholipase'>ホスホリパーゼ</span>の活性化"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibrils'>筋原線維</span>・細胞膜の分解=筋壊死"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoglobin, Mb'>ミオグロビン</span>・CK・K+・リン・尿酸の血中放出"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoglobin, Mb'>ミオグロビン</span>血症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoglobinuria'>ミオグロビン尿</span>"]

放出されたは腎で濾過され、次の3つの機序が重なってクレアチニン上昇を伴うを引き起こす。

  1. 血管内容量減少と:壊死筋へのに加え、を介したを下げる。
  2. 尿細管内での形成による閉塞:低灌流・酸性尿下ではが尿細管内で凝集し円柱を形成、を閉塞する。
  3. 由来のによる直接尿細管毒性のヘム基から遊離した鉄がを生じ、を酸化的に傷害する。酸性尿で増強される。

⭐ 3つの機序は独立ではなく相互に増幅し合う。が円柱形成を助長し、がさらに灌流を落とす悪循環が早期輸液の根拠である。

臨床像

筋痛・筋力低下・の三徴がそろうのは全体の1割に満たない少数派である。 多くは無症候性、あるいは原因となった基礎疾患(けいれん、外傷、意識障害など)の症状に隠れて見逃されやすい。と誤認されやすいが、尿沈渣に赤血球を認めない点が手掛かりになる。

腫脹した筋区画が血流を圧迫すると、二次性のを来しうる。逆方向の因果と対をなす悪循環である。重症例では循環不全、不整脈、DICなど多臓器の病像を呈する。

診断

CKは最も鋭敏な指標であり、単回値ではなくを追う。 発症後12時間以内に上昇を始め、1〜3日でピークに達し、以後は1日あたり半分程度のペースで低下する。低下が乏しければ持続的な筋障害を疑う。

でヘム陽性なのに尿沈渣で赤血球がほとんど見えないという所見は、を疑う診断上の鍵である。試験紙はヘムのを検出するため赤血球・を区別できず、この解離所見があって初めてを疑う。

電解質異常は時間軸で反転する。

時期 電解質異常 機序
急性期(早期) カリウム血症、、低カルシウム血症 壊死筋からのK⁺・リン放出/Ca²⁺が傷害筋へ流入・沈着し、PTHへの骨反応性も低下する
(最大で約3分の1の症例) 傷害筋に沈着していたが動員され血中へ再放出される

⚠️ 急性期の低Ca血症を安易に補正すると、の重篤な高Ca血症を悪化させる。 低Ca血症は無症候なら補正せず、症候性(、けいれん、不整脈)または重症・難治性の高K血症の緊急治療に必要な場合に限り補正する。

尿酸血症、代謝性アシドーシス、DICも合併しうる。

flowchart TD
    A["筋痛・脱力・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dark urine'>褐色尿</span>またはリスク因子への曝露"] --> B["CKを測定し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='evolution'>経時変化</span>を追う"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urine dipstick'>尿試験紙</span>ヘム陽性+尿沈渣RBC少数を確認"]
    C --> D["電解質・腎機能・尿酸・凝固を評価"]
    D --> E{"AKI・高K血症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compartment syndrome'>コンパートメント症候群</span>の合併があるか"}
    E -->|"あり"| F["緊急治療(輸液・K是正・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kidney replacement therapy, KRT'>腎代替療法</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fasciotomy'>筋膜切開</span>)"]
    E -->|"なし"| G["原因検索と輸液・モニタリングを継続"]

治療

早期からの大量輸液が治療の中心である。 を早期から十分量投与し、尿量(一般に1〜3 mL/kg/時程度)を目標に反応を見ながら調整する。原因の除去(原因薬の中止、なら減圧)と並行して行う。

⚠️ を目的としたナトリウムの投与との使用は、現行のガイドラインではルーチンに推奨されない。 いずれもアシドーシス改善やによる尿細管洗浄を狙ってに使われてきたが、腎不全・透析導入の頻度を改善する明確なエビデンスに乏しい。2021年の診療ガイドラインも、積極的な輸液を条件付きで推奨する一方、両薬の使用には条件付きで反対している。

高K血症は心電図変化があればカルシウム製剤で膜を安定化し、インスリン・グルコースやで細胞内へ移動させ、難治性ならを行う。低Ca血症は前述のとおり無症候なら補正しない。区画腫脹でを合併すればを行う。

予後

腎機能は多くの場合、原因除去と早期輸液により回復する。高齢、脱水・敗血症の合併、著明なCK高値、診断・治療の遅れは導入のリスクを高める。の高Ca血症は見逃されやすい遅発性合併症であり、の電解質モニタリングを怠らない。

まとめ

  • は骨格筋の急速な壊死により・CK・電解質が血中へ放出される病態で、CKは上限の5倍以上(目安1,000 IU/L超)を診断の目安とする。
  • 原因は・熱傷・・長時間不動)と非(過剰な筋活動、・代謝性、薬物・毒物、感染、遺伝性)に二分して整理する。
  • は血管内容量減少・、尿細管内閉塞、由来の直接尿細管毒性という3機序が重なって生じる。
  • 三徴がそろうのは少数で、ヘム陽性・尿沈渣RBC少数という解離所見が診断の鍵になる。
  • 電解質は急性期の高K血症・・低Ca血症から、の高Ca血症へ反転するため、低Ca血症は症候性でない限り補正しない。
  • 治療の中心は早期の大量輸液であり、はルーチンには推奨されない。早期治療により腎機能は回復しうる。