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Microbe Atlas · ウイルス

Influenza A virus

A型インフルエンザウイルス

分類
オルソミクソウイルス / Orthomyxoviruses
性状
エンベロープあり Enveloped(−)ssRNA
科目
Medical MicrobiologyPulmonology and Thoracic Surgery
トピック
3/26: Orthomyxoviruses5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention呼吸器内科 26:ウイルス性肺炎
原因となる疾患
インフルエンザギラン・バレー症候群ライ症候群横紋筋融解症急性喉頭炎・慢性喉頭炎急性脳症胸膜炎市中肺炎心筋炎
作用する薬剤
オセルタミビルザナミビルバロキサビルペラミビル

🧠 全体像:A型をB型・C型から分かつ最大の違いは「を持ち、でを起こせる」という一点に尽きる。カモをはじめとするがとしてほぼ全種類のHA・NA亜型を保持し、ヒト型・鳥型両方の受容体を持つブタがとして働くことで、免疫のない新型株が生まれる。B型・C型にはこのが存在しないため、()を起こすのはA型だけである。

構造とゲノム

項目 内容
科・ゲノム Orthomyxoviridae科。(−)を8分節に分けて持つ
増殖部位 核内——ウイルスの中で細胞質以外で増殖する数少ない例外(ほかにレトロウイルスなど)
エンベロープあり、。表面にとの2種類の糖蛋白質を持ち、それぞれHA・NAと略す
亜型 HAは18種、NAは11種が知られ、組み合わせ(H1N1、H3N2など)で亜型を表記する。自然界では主に野生の水鳥から130を超える組み合わせが同定されている。ヒトでに流行するのはA(H1N1)とA(H3N2)1

⭐ 8分節ゲノムこそがを可能にする物理的基盤。 されているからこそ、2つの異なる亜型のウイルスが同じ細胞にした際に分節単位でシャッフルされ、新しいHA・NAの組み合わせを持つ株が一気に生まれる——これがの実体である。

病原性の仕組み

flowchart TD
    A["HAが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sialic acid'>シアル酸</span>に結合<br>(肺・咽頭上皮細胞)"] --> B["エンドサイトーシス"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='M2 protein'>M2蛋白</span>がpH調整→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uncoating'>脱殻</span>"]
    C --> D["核内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='viral replication'>ウイルス複製</span>"]
    D --> E["新規<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virion'>ビリオン</span>が細胞表面に結合<br>(HA-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sialic acid'>シアル酸</span>)"]
    E --> F["NAが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sialic acid'>シアル酸</span>を切断→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virion'>ビリオン</span>遊離"]
  1. エンベロープ上のHAが、肺・咽頭上皮細胞膜上のに結合する。HAの型がを決め、抗HA抗体は同一株のを防ぐになる
  2. ウイルスはエンドサイトーシスされ、()が内を酸性化してを起こす
  3. 核内でゲノムが複製・転写される(他の多くのウイルスと異なり核が必須)
  4. 新規が細胞表面のに結合したまま留まろうとするのを、NAがを切断して遊離させる

抗原ドリフトと抗原シフトの区別

項目
機序 HA・NA遺伝子の点変異の蓄積 2株のによる分節ごとの
対象 A型・B型 A型のみ
結果 季節性の流行
頻度・重症度 頻繁・比較的軽度 稀だが免疫のない新型株のため重篤化しやすい

💡 「小さな変化=毎年の流行、大きな変化=数十年に一度の大流行」と覚える。 は既存の免疫が部分的に効くため季節性流行にとどまるが、は全く新しい抗原の組み合わせを生むため集団にが存在せず爆発的に広がる。ワクチンが毎年組成を更新するのは、このを追いかけるため——その年に優勢と予測される流行株に合わせて毎年を選定し直す。

⚠️ B型・C型がを起こさない理由は「混ぜる相手がいない」から。 には別の亜型を保有する動物宿主とのが要る。B型はヒトにほぼ限定され、C型もを持たないため、そもそもの材料となる多様な亜型プールが存在しない。

感染経路と疫学

  • 飛沫感染が主体。閉鎖空間での曝露、便・体液を介した伝播もありうる
  • は(カモなど)——腸管に無症候性に定着し、全HA・NA亜型を保有するプールとなる
  • ブタは「」:にヒト型・鳥型両方の受容体を持つため、鳥とヒトがしやすく、ここでが起こって新型株が生まれる
  • の鳥インフルエンザ(H5N1など)や豚由来株が、ブタを介して、あるいは直接ヒトへ伝播することがある

起こす疾患

病型 特徴
季節性インフルエンザ 突然の発熱・悪寒、、、強い頭痛・筋痛・倦怠感。詳細はインフルエンザを参照
インフルエンザ により生じた新型株による世界的流行。既存免疫が効かないため・重症度が季節性流行より高い
の損傷後にStreptococcus pneumoniae・Staphylococcus aureusが続発。を参照
神経・心臓合併症 (、髄液は)、心筋炎、

⚠️ 小児・若年者へのアスピリン投与は禁忌。 インフルエンザ罹患中にアスピリンを用いると(・肝不全・脳症を来す)を誘発しうる。

診断

  • 主に臨床診断、確定にはなどのやでHA亜型を含め同定する
  • ⚠️ の感度は低い。 や培養と比べた感度は約10〜70%にとどまり(特異度は約90〜99%)、陰性でもインフルエンザを除外できない2
  • ⭐ 外来ではよりも()を用いる(推奨10)。入院患者にはを用いない——より感度の高い分子検査が使えない場合に限って用い、陰性ならなどで確認する(推奨15)2
  • 重症・入院例では検査結果を待たず経験的に治療を開始する3

治療と予防

薬剤 標的 特記事項
(NA阻害薬・経口) A型・B型に有効。入院患者の第一選択で、も可
(NA阻害薬・吸入) 外来の合併症のない例に5日間
(NA阻害薬・) 外来の合併症のない例に単回静注
() ウイルスmRNA合成 A型・B型に有効。単回経口で完結。米国での承認は発症2日以内・5歳以上。⚠️ 米国では妊娠中・授乳中の治療に推奨されない3
(M2阻害薬) () A型にのみ有効——B型・C型はの標的となるを持たない。⚠️ 耐性のため現在は治療にも予防投与にも推奨されない

⭐ 開始のタイミングは「48時間以内」で覚えて終わりにしない。 臨床的利益が最大になるのは発症48時間以内だが、入院例では発症から48時間を過ぎていてもを可能な限り早く開始する3。米国感染症学会の2018年ガイドラインは、入院例と重症・進行性の外来例には発症からの期間を問わず、合併症の高リスクの外来例、2歳未満と65歳以上、妊婦および産後2週以内の女性にも、可能な限り早く抗ウイルス薬を開始するよう推奨している2。

⚠️ 入院患者に・・をに用いない——入院例で臨床的有益性を示すデータが不足しているためである。は1剤で開始し、2剤を併用しない32。

💡 が使えなくなった経緯は、耐性が一つの変異で広がった実例として覚えておく価値がある。 アダマンタン系耐性はの変異で生じ、2003年以降世界的に増加した。カルガリーの調査では流行するA(H3N2)株の耐性頻度が2007年1〜4月の37.5〜49.2%から同年5月には100%へ上がり、耐性株はすべてM2の31番セリン→置換(S31N)を持っていた4。現在は・を治療も予防投与も推奨していない3。

  • 予防の柱は年次ワクチン接種:(筋注)または(経鼻噴霧)があり、を追って毎年組成が更新される
  • ⚠️ 「4価」はもう現行の構成ではない。 B/Yamagata系統の自然感染株が2020年3月以降で検出されておらず、は2023年9月以降これをから除外するよう推奨し、各国にA(H1N1)・A(H3N2)・B/Victoria系統の3価への移行を促している5。米国の季節性ワクチンはこの3価で構成される1
  • ・咳エチケット・時の

まとめ

  • Orthomyxoviridae科、(−)鎖ssRNA・8分節ゲノム。核内で複製する数少ないウイルス。
  • HAがに結合して感染、NAがを切断してを遊離させる。がに必要で、の標的になるのはA型のM2だけである。
  • (点変異、A・B型)は季節性流行、(、A型のみ)はを起こす。
  • がでほぼ全亜型を保有し、ブタがとして新型株を生む——B型・C型はを持たないためを起こさない。
  • 治療はA・B型に有効な(・・)と。入院例はを、発症48時間を過ぎていても開始する。 A型のみに効くは耐性のため推奨されない。小児にはアスピリン禁忌()。
  • 予防は毎年更新されるワクチンが柱で、はB/Yamagata系統を除いた3価への移行を推奨している。

出典

  1. 1.Types of Influenza Viruses(Centers for Disease Control and Prevention・2025)2025年9月26日付の本文で確認した。A型のHA亜型が18種、NA亜型が11種であり、自然界で130を超える亜型の組み合わせが(主に野生の水鳥から)同定されていること。ヒトで日常的に流行しているA型の亜型がA(H1N1)とA(H3N2)であること。B型は亜型ではなくB/YamagataとB/Victoriaの2系統に分けられ、B/Yamagataは2020年3月以降検出されていないこと。米国の季節性ワクチンがA(H1N1)1株・A(H3N2)1株・B/Victoria系統1株の3株で構成されること。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America: 2018 Update on Diagnosis, Treatment, Chemoprophylaxis, and Institutional Outbreak Management of Seasonal Influenza(Infectious Diseases Society of America (IDSA)・2018)PMC6653685の全文で確認した。推奨10が外来では迅速抗原検査よりも迅速分子検査(核酸増幅検査)を用いるべきとし(A-II)、推奨15が入院患者には迅速抗原検査を用いず、より感度の高い分子検査が使えない場合に限って用いたうえで陰性ならRT-PCRなどで確認すべきとすること(A-II)。本文が迅速抗原検査の感度をRT-PCRや培養と比べて約10〜70%(特異度約90〜99%)と述べ、偽陰性が生じやすいこと。推奨18が、入院例(発症からの期間を問わない)、重症・進行性の外来例、合併症の高リスク例、2歳未満と65歳以上、妊婦および産後2週以内の女性については可能な限り早く抗ウイルス薬を開始すべきとし、推奨19が高リスクでない患者では発症2日以内の外来例などで投与を検討できるとすること。推奨20がノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル・ザナミビル・ペラミビル)1剤で開始し2剤併用しないとすること(A-1)、推奨22が健常な外来例の合併症のないインフルエンザをオセルタミビルまたはザナミビル5日間、ペラミビル単回で治療するとすること(A-1)。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Influenza Antiviral Medications: Summary for Clinicians(Centers for Disease Control and Prevention・2026)2026年3月10日付の本文で確認した。米国で承認されている抗インフルエンザ薬は6剤で、そのうち使用が推奨されるのは4剤(ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビル・ザナミビル・ペラミビルと、cap依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビル)であり、残る2剤のアマンタジンとリマンタジンは流行中のA型に高度の耐性があるため治療も予防投与も推奨されないこと。バロキサビルは妊娠中・授乳中の治療に推奨されないこと(有効性・安全性のデータおよび母乳中への移行のデータが無い)。入院患者には経腸を含む経口オセルタミビルを可能な限り早く開始し、発症48時間を過ぎていても投与すること。ザナミビル・バロキサビル・ペラミビルは入院患者に定型的には推奨しないこと。臨床的利益は発症48時間以内の開始で最大になること。バロキサビルの適応が発症2日以内・5歳以上で、妊娠中・授乳中および重度免疫抑制者への単剤使用はCDCが推奨しないこと。閲覧 2026-09-27
  4. 4.Adamantane resistance in seasonal human influenza A viruses from Calgary, Alberta (January 2007 to August 2008)(Canadian Journal of Infectious Diseases and Medical Microbiology・2010)抄録で確認した。アダマンタン系(アマンタジン・リマンタジン)耐性はM2蛋白の26・27・30・31・34番アミノ酸の変異で生じ、2003年以降世界的に有意に増加したこと、カルガリーの調査では流行するA(H3N2)株の耐性頻度が2007年1〜4月の37.5〜49.2%から同年5月に100%へ上昇し、耐性株はすべてM2の31番セリン→アスパラギン置換(S31N)を有していたことを確認した。閲覧 2026-09-27
  5. 5.Frequently Asked Questions: Transitioning to Trivalent Seasonal Influenza Vaccines(World Health Organization・2025)WHOのPDF本文で確認した。2020年3月以降B/Yamagata系統の自然感染株が世界のサーベイランスで検出されておらず、WHOは2023年9月以降これをワクチン株から除外するよう推奨していること、三価ワクチンがA型2株(H1N1・H3N2)とB/Victoria系統1株で構成されること。閲覧 2026-09-27