微生物学

微生物学 · 3/26

オルソミクソウイルス

Orthomyxoviruses

応用トピック
インフルエンザ上気道感染症とインフルエンザウイルス性肺炎
微生物
Influenza A virusInfluenza B virusInfluenza C virus
疾患
インフルエンザライ症候群

🧠 は「小さな変化=毎年の流行、大きな変化=数十年に一度の大流行」という2段構えの変異戦略で読む。 ゲノムが8分節に分かれているため、点変異が少しずつ蓄積するでは季節性の流行にとどまるが、2つの異なる株が同じ細胞にして分節を丸ごと交換するが起こると、免疫のない新型株が誕生しに至る。後者はインフルエンザA型のみで起こる——B型・C型にはこの「分節交換」という荒業がない。

構造・分類

項目 内容
ゲノム (自前のポリメラーゼを保有)、8分節
増殖部位 核内——ウイルスの中で細胞質以外で増殖する例外(もう一つの例外はレトロウイルス)
エンベロープあり、
分類 7属を含む科。ヒトの主要病原体はInfluenza A virus・Influenza B virus・Influenza C virus

💡 8分節ゲノムこそがを可能にする物理的基盤。 されたゲノムだからこそ、2株が同じ細胞にした際に分節単位でシャッフルされる——これがインフルエンザだけが持つの仕組みである。

伝播・病原性

  • 飛沫感染が主体
  • 唾液・血液・便などの体液を介しても伝播しうる

・増殖のステップ:

  1. エンベロープ上の糖蛋白が、肺・咽頭上皮細胞膜上のに結合する(HAはで赤血球を凝集させる性質を持つ)
  2. HAには複数の抗原型があり(ヒト感染ではH1・H2・H3が主)、この型がを決定する。抗HA抗体は同一株のを防御する
  3. ウイルスはエンドサイトーシスされるが、には適切なpH環境が必要——これを調整するのが()
  4. 核内で複製した後、最初にHAが結合したのと同じを介して細胞表面に結合する
  5. が細胞膜上のを切断し、新しいを遊離させる
flowchart TD
  A["HAが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sialic acid'>シアル酸</span>に結合<br>(肺・咽頭上皮細胞)"] --> B["エンドサイトーシス"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='M2 protein'>M2蛋白</span>がpH調整→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uncoating'>脱殻</span>"]
  C --> D["核内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='viral replication'>ウイルス複製</span>"]
  D --> E["新規<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virion'>ビリオン</span>が細胞表面に結合<br>(HA-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sialic acid'>シアル酸</span>)"]
  E --> F["NAが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sialic acid'>シアル酸</span>を切断→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virion'>ビリオン</span>遊離"]

抗原ドリフト vs 抗原シフト

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='influenza virus'>インフルエンザウイルス</span>の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='genome mutation'>ゲノム変異</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigenic drift'>抗原ドリフト</span><br>(antigenic drift)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigenic shift'>抗原シフト</span><br>(antigenic shift)"]
  B --> D["HA・NAの点変異<br>(A型・B型)"]
  C --> E["2株の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coinfection'>共感染</span>による<br>分節の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reassortment'>遺伝子再集合</span><br>(A型のみ)"]
  D --> F["季節性流行<br>(epidemic)"]
  E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pandemic'>世界的大流行</span><br>(pandemic)<br>頻度は稀だが重症化しやすい"]
項目
機序 HA・NA遺伝子の点変異 2株のによる分節の
対象 インフルエンザA型・B型 インフルエンザA型のみ
結果 季節性・
頻度・重症度 頻繁・比較的軽度 稀だがより重篤

⭐ 「はA型のみ」は頻出ポイント。 B型・C型はを起こすを持たないため、の原因にはならない。

臨床像

  • インフルエンザ(Influenza A・B・C):上気道〜
    • 咳嗽、頭痛、高熱、筋肉痛、倦怠感、悪寒
    • 小児ではGI症状(下痢・嘔吐)を伴うことがある
    • 合併症:肺炎、気管支炎

⚠️ (Guillain-Barré syndrome)との関連。 インフルエンザ感染後に上行性の(足先から上行)を来しうる。髄液所見は蛋白上昇・細胞数正常というが特徴的。

診断

  • 臨床診断、またはHAによるウイルス型の同定

治療・予防

薬剤 機序 特記事項
(Amantadine)・ を阻害し・複製を阻止 A型にのみ有効——B型はを持たないため無効
(Oseltamivir、商品名タミフル) NA阻害薬——新規の遊離を阻止 発症後48時間以内の投与で効果が最大となる——重症例・入院患者では48時間を超えても投与が推奨される1

⚠️ インフルエンザ感染後の小児にアスピリンは禁忌。 アスピリン投与により(、肝不全、脳症、発熱、発疹、嘔吐を特徴とする)を誘発しうる。

  • 予防:
    • 3価ワクチン:A型2株+B型1株
    • 4価ワクチン:A型2株+B型2株
    • 不活化(死菌)ワクチン:
    • :経鼻噴霧

⚠️ 4価から3価への回帰が進んでいる。 B型インフルエンザのYamagata系統は2020年3月以降、世界ので自然感染株が検出されておらず、は2023年9月以降ワクチンからB/Yamagata抗原を除外するよう推奨している。現行の3価ワクチンはA型2株(H1N1・H3N2)+B型1株(Victoria系統のみ)で構成され、以前の4価(Victoria+Yamagata)とは中身が異なる2。

まとめ

  • Orthomyxovirus科は・8分節ゲノムを持ち、核内で複製する数少ないウイルス(もう一つの例外はレトロウイルス)。主要病原体はインフルエンザA・B・C。
  • HAがに結合して感染を開始し、によるpH調整で、核後にNAがを切断してを遊離させる。
  • 8分節ゲノムにより、点変異による(季節性流行、A・B型)と、による分節=(、A型のみ)という2種類の変異様式を持つ——がA型限定である点が最重要。
  • 感染後に()を合併しうる。
  • 治療はA型限定の/(M2阻害)、A・B型に有効な(NA阻害、発症48時間以内で効果最大)。小児にはのリスクからアスピリンが禁忌。予防は現行では3価(A型2株+B/Victoria系統1株)が主流の不活化または。

出典

  1. 1.Oseltamivir(StatPearls / NCBI Bookshelf・2024)オセルタミビルは症状発現後48時間以内の投与で最大の効果が得られるとされ、入院患者・重症例では発症後48時間を超えて4〜5日後まで投与しても有効性を示すエビデンスがある閲覧 2026-08-26
  2. 2.Frequently Asked Questions: Transitioning to Trivalent Seasonal Influenza Vaccines(World Health Organization・2025)2020年3月以降B/Yamagata系統の自然感染株が世界のサーベイランスで検出されておらず、WHOは2023年9月以降これをワクチンから除外するよう推奨、三価ワクチンはA型2株(H1N1・H3N2)+B/Victoria系統1株で構成される閲覧 2026-08-26