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Disease Atlas · 神経 · 症候群

ライ症候群

Reye syndrome

別名
Reye's syndromereye症候群
臓器系
神経肝胆膵小児
科目
PharmacologyMedical Microbiology
トピック
薬理学 Core32:特殊集団-薬物相互作用:小児微生物学 3/26:オルソミクソウイルス微生物学 3/13:ヘルペスウイルス:水痘・帯状疱疹ウイルス
鑑別疾患
急性肝不全
治療薬
マンニトール
原因薬剤
アセチルサリチル酸
原因微生物
Influenza A virusInfluenza B virusVaricella zoster virus
症状
嘔吐意識障害頭蓋内圧亢進
検査値
AST・ALTアンモニア血糖プロトロンビン時間
原因となる疾患
インフルエンザ水痘・帯状疱疹

🧠 全体像は、ウイルス感染中の小児にアスピリン(製剤)を投与したときに起こりうる、+肝の微小小胞性脂肪変性を特徴とする稀な症候群である。インフルエンザ・水痘など発熱性ウイルス感染のに、嘔吐と意識障害が急速に進行する。ミトコンドリアのがアスピリンによって障害される、というのが病態の中心仮説で、これが「ウイルス感染中の小児にはアスピリンを使わない」という現代の標準治療の直接の根拠になっている。実際、1980年代に各国でこのが広まった後、症例数は劇的に減少した。症候群」(の旧称)とは音が似ているだけで全く別の疾患であり、混同しないことが重要である。

病態

ウイルス感染という誘因の上にアスピリン()曝露が加わることで、肝細胞・脳のミトコンドリアが傷害され、脂肪酸のとアンモニア処理()が同時に破綻する。

flowchart TD
    A["発熱性ウイルス感染<br>(インフルエンザ・水痘が代表)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recovery phase'>回復期</span>にアスピリンを投与"]
    B --> C["細胞内・肝ミトコンドリアの傷害"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty acid beta-oxidation'>脂肪酸β酸化</span>の阻害"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urea cycle'>尿素回路</span>酵素の機能低下"]
    D --> F["肝細胞への微小小胞性脂肪蓄積<br>(黄疸を伴わない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatomegaly'>肝腫大</span>)"]
    E --> G["血中アンモニア上昇"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='astrocyte'>星状膠細胞</span>の浮腫"]
    H --> I["びまん性脳浮腫・頭蓋内圧亢進"]
    I --> J["意識障害の急速な進行"]

💡 病態は正確には未解明だが、「ウイルス感染下でのミトコンドリア傷害」が中心仮説である。 アスピリンが細胞ミトコンドリアを傷害しを阻害するという機序が想定され、肝性脳症は肝によるアンモニア上昇と、それに伴う浮腫・びまん性脳浮腫として説明される1

黄疸を伴わない急性+脳症、というのが臨床的なになる。 微小小胞性脂肪変性は肝細胞をびまん性に腫大させるが、閉塞性の胆汁うっ滞は来さないため、でしばしば目立つ黄疸が乏しいまま脳症が進行するのが特徴である。

疫学とアスピリンとの関連

症例の大多数が、発熱性ウイルス感染中のアスピリン内服に先行される。 StatPearlsのまとめでは、症例の73%がインフルエンザ感染、21%が水痘感染に先行され、診断された小児の80%超が発症前3週間以内にアスピリンを内服していた1。この疫学的関連が、小児・若年者へのアスピリン投与を発熱性ウイルス疾患時に禁忌とする現在の推奨の直接の根拠になっている。

アスピリン回避の呼びかけ後、症例数は劇的に減少した。 英国のでは、症例数はピークの1983/84年の79例から1988/89年には19例へ減少し、同期間に発熱性疾患の小児が入院前にアスピリンを内服していた頻度は17倍低下した2。このの一致は、アスピリン使用とを支持する重要な状況証拠として扱われている。

💡 今日では自体は非常にまれになったが、「なぜ小児にアスピリンを使わないか」を説明できる歴史的根拠として学習上の重要性が残る。 アスピリンの添付文書・処方指針で小児・若年者への投与が原則禁忌とされているのは、このとの関連が理由であり、まれになった病気だからといって注意義務が下がるわけではない。

臨床像

典型的には、インフルエンザ様疾患や水痘のに入ったところで、持続する激しい嘔吐に続いて傾眠・などの意識変容が急速に出現し、無治療では痙攣・昏睡へと進行する。

病期 主な所見
ウイルス感染症状(発熱、上、または水痘の皮疹)
初期 持続する激しい嘔吐、傾眠
、興奮、せん妄様の行動変化
重症期 から昏睡、・除皮質姿勢
最重症期 、瞳孔固定、

⚠️ 年齢が低いほど進行が急速で重症化しやすい。 乳幼児ではの症状が目立たないまま脳症が急速に進行することがあり、嘔吐+意識変容の組み合わせを見たら早期に疑う。

診断

CDCのは、次の3項目すべてを満たすことを要件とする1

  1. 急性非炎症性脳症:意識変容で確認され、可能なら脳脊髄液のが8/mm³以下であること
  2. 肝障害・剖検所見でに矛盾しない、またはAST・ALT・血中アンモニアのいずれかがの3倍以上に上昇していること
  3. 除外:脳・肝の異常について、他に合理的な説明がないこと

⚠️ 診断の本質はである。 特に乳幼児では、と酷似する先天性代謝異常(症、欠損症などの障害)を除外することが必須で、これらは「ライ様症候群」として鑑別に挙がる。アスピリン曝露歴が乏しい非典型例・再発例・乳児例では特に代謝疾患の検索を優先する。

で得られる微小小胞性脂肪変性が病理学的に最も特異的な所見とされるが、のため生検を安全に行えないことも多く、(AST/ALT・血中アンモニア・血糖・)で診断を進めることが多い。

鑑別診断

とは、黄疸の有無・アスピリン曝露歴・先行するウイルス感染の有無で区別する。 両者とも意識障害+肝機能異常を呈するが、は典型的に黄疸を欠き、直近のウイルス感染とアスピリン曝露という背景を持つ点が異なる。

このほか、先天性代謝異常(症、障害)による「ライ様症候群」、脳症も鑑別に挙がる。年齢が(乳児・年長児以外)、反復するエピソード、アスピリン曝露歴がはっきりしない例では、特に代謝疾患の検索を優先する。

治療

原因治療は存在せず、下の支持療法が中心である。 アスピリンを含む製剤は直ちに中止する。

  • 低血糖:ブドウ糖含有輸液で補正する1
  • 頭蓋内圧亢進:頭部挙上、の回避などの一般的なに加え、重症例ではなどのを専門的に用いる。
  • :フェニル酢酸ナトリウム・などのアンモニア除去療法を用いることがある1
  • :出血リスクに応じてビタミンK・を検討する。

最善の治療は予防である。 ウイルス感染症状(特にインフルエンザ様疾患・水痘)を呈する小児・若年者の・鎮痛には、アスピリンではなくなどの代替薬を用いる。

まとめ

  • は、ウイルス感染(インフルエンザ・水痘が代表)中の小児にアスピリンを投与したときに起こりうる、+肝の微小小胞性脂肪変性を特徴とする稀な症候群である。
  • 病態はミトコンドリア傷害を中心仮説とし、の阻害によると、機能低下によるアンモニア上昇→脳浮腫が同時に進行する。
  • 症例の73%がインフルエンザ、21%が水痘感染に先行され、80%超がアスピリン曝露歴を持つ。この疫学的関連が小児へのアスピリン禁忌の根拠であり、後に症例数は劇的に減少した。
  • 診断はCDC基準(急性非炎症性脳症+肝障害+他疾患の除外)によるで、特に乳幼児では症・障害などの先天性代謝異常(ライ様症候群)の除外が欠かせない。
  • 治療は原因治療がなく、アスピリン中止と低血糖・頭蓋内圧亢進・への支持療法が中心である。
  • 症候群」(の旧称)とはであり、混同しない。

出典

  1. 1.Reye Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)ライ症候群のCDC診断基準が①意識変容で確認される急性非炎症性脳症(利用可能なら脳脊髄液白血球8/mm³以下)、②肝生検・剖検所見またはAST・ALT・血中アンモニアいずれかの基準上限3倍以上への上昇で確認される肝障害、③脳・肝異常について他に合理的な説明がないこと、の3項目すべてを満たすことで定義されること、症例の73%がインフルエンザ、21%が水痘感染に先行され、ライ症候群と診断された小児の80%超が発症前3週間以内にアスピリンを内服していたこと、病態はウイルス感染を背景としたミトコンドリア傷害と考えられ、アスピリンが細胞ミトコンドリアの傷害・脂肪酸代謝阻害を来しうること、肝性脳症は肝ミトコンドリア機能不全によるアンモニア上昇とそれに伴う星状膠細胞浮腫・びまん性脳浮腫・頭蓋内圧亢進として説明されることを確認した閲覧 2026-08-11