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Drug Atlas · B3 Other / その他

フェニル酢酸ナトリウム

sodium phenylacetate

分類
Nitrogen-scavenging agents / 窒素除去薬
科目
PediatricsMedical Biochemistry
トピック
2-10: When Should We Consider Metabolic Disorders?7/3: Elimination of ammonia — S II
承認適応
尿素サイクル異常症
副作用
嘔吐悪心痙攣
監視検査値
アンモニア動脈血ガス
影響検査値
カリウム血糖
相互作用
バルプロ酸プロベネシド
対象疾患
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症

🧠 全体像:は⭐ の「活性体そのもの」である。(経口)はでこれに変わるにすぎず、実際に窒素を捨てているのは常にフェニル酢酸のほうである。⚠️ 両者は別の薬剤で、剤形も病期も違う——本剤の本体はとの配合静注製剤(AMMONUL。⚠️ は販売中止で、現在は同一組成のが流通)で、の急性に使う1。⭐ 効率の要はグルタミンと抱合する点にある——は1モルあたり尿素と同じ2モルの窒素を運び出し、になる(1モル)の倍を捨てる1。

薬効群の中での位置づけ

はをで迂回排泄させる薬効群で、本剤はその中で唯一の「急性期・静注・活性体」という位置を占める。

薬剤 剤形と病期 抱合するアミノ酸 排泄される代謝物 1モルあたりの窒素
静注・急性期(との配合=AMMONUL) グルタミン 21
経口・慢性期(で本剤に変わる) (変換後)グルタミン 2
静注・経口 グリシン 11

⚠️ 地域差が大きい薬である。 欧州のガイドラインは「入手できる場合には静注液を用いることができる」と条件付きで書く2。⭐ 日本学会の2025年ガイドラインには、全文を通じて「フェニル酢酸」の語が1回も現れない——わが国で急性期の静注として挙がるのは安息香酸Na注のみで、それも保険適用外のため自費で購入し院内調製すると明記されている3。海外の記述をそのまま日本の診療へ持ち込まない。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium phenylacetate'>フェニル酢酸ナトリウム</span>(静注)"] --> B["肝・腎でグルタミンと抱合"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phenylacetylglutamine'>フェニルアセチルグルタミン</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration'>糸球体濾過</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular secretion'>尿細管分泌</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal excretion (renal elimination)'>腎排泄</span>"]
    D --> E["グルタミン1分子に載った窒素2つを体外へ<br>(1モルあたりの窒素含量は尿素と同一)"]
    F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium phenylbutyrate'>フェニル酪酸ナトリウム</span>(経口)"] -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-oxidation'>β酸化</span>"| A

⭐ 「アンモニアを分解する薬」ではない。 尿素サイクルが回らない以上アンモニアそのものは処理できないので、上流でアンモニアを取り込んだグルタミンごと捨てる。の1モルあたりの窒素含量は尿素と同一(いずれも2モル)である1。💡 配合製剤なのは、グルタミンとグリシンという別々のアミノ酸プールを同時に使えば片方が枯れても窒素排泄が続くからである。

薬物動態

⭐ 2剤の消え方が違うことが、用法の規定を決めている。 動態はどちらもで、の生成・排泄はより速く、安息香酸は投与14〜26時間後に未満になるのに対し、フェニル酢酸の血中濃度はより高く、より長く持続する1。この遷延が、後述の「負荷投与を反復しない」という規定の根拠である。

適応

米国のは1つだけで、の小児・成人における急性と随伴脳症に対するである(AMMONUL。は販売中止で、同一組成のが流通)。補充・カロリー補充・・等を併せて考慮する1。

⭐ 有効性はとの比較で示されている(316例・1,045エピソードで80%が最終エピソードを生存、のみの歴史的1年14%を大きく上回る)。⚠️ ではない1。⭐ 死亡は初回エピソードに集中する——死亡64例中53例(83%)が初回発作での死亡で、新生児では104例中34例(33%)が初回で死亡している1。初回を乗り切れるかがすべてを分ける。

用法・用量

⚠️ 希釈との規定が用量と同じくらい重要である。 10%ブドウ糖注射液で25 mL/kg以上に希釈し、中心静脈カテーテルから投与する。末梢からは熱傷を起こしうる1。

体重
20 kg以下 250 mg/kg 250 mg/kg1
20 kg超 5.5 g/m² 5.5 g/m²1

投与法は負荷を90〜120分で行い、同量を24時間かけてする1。

⭐ 併用するの用量だけは体重区分では変わらず、酵素欠損の型で決まる——添付文書はどちらの区分でもCPS・OTC欠損に200 mg/kg、ASS・ASL欠損に600 mg/kgを割り当てている1。⚠️ で記す資料もあるので、の用量は本剤の用量表から切り離して確認する。

⚠️ 負荷投与を反復してはならない。 試験でフェニル酢酸のが遷延することが示されているためである1。「まだ下がらないからもう一度負荷」は禁じられている。

⭐ 透析との関係は「代わり」ではなく「併用」である。 投与開始4〜8時間以内に血漿アンモニアが150 µmol/L未満へ低下しないか40%を超えて低下しない患者にはが推奨される1。本剤がによるアンモニア産生を抑え、透析がアンモニアとその抱合体を除去する、という役割分担である。

⚠️ 経口の類薬は輸注の前に中止する——添付文書は経口のをAMMONUL輸注前に中止すべきとし、使用中は一般にBUPHENYLを中止すると述べている1。同じ活性体を二重に入れることになるためである。

禁忌・注意

  • 禁忌は「None」と添付文書に明記されている1。
  • ⚠️ による。 時の流速が高く、とくに乳児で危険である1。
  • ⚠️ 低下。 であるとの排泄で尿中カリウム喪失が亢進する1。「排泄の巻き添え」なので投与を続ける限り持続する。
  • ⚠️ 高い(未希釈で1 mLあたり30.5 mg)。・高度・浮腫を伴うでは慎重に用いる1。
  • ⚠️ フェニル酢酸の神経毒性。 進行患者への高用量静注で傾眠・倦怠感・が報告され、では新生仔で神経細胞と中枢神経髄鞘の減少・脳発育障害が生じている1。⭐ そのものの症状と区別しにくいので、アンモニアが下がっているのに神経症状が続くときは本剤を疑う。
  • ⚠️ と代謝性アシドーシス。 フェニル酢酸と安息香酸がと構造的に似るため、に類似した副作用が出る。血液pHとpCO2をモニタリングする1。
  • 相互作用:バルプロ酸は(CPS1の補因子)の合成を阻害して原病を悪化させ本剤の効果を減弱させ、副腎皮質ステロイドはを介して血漿アンモニアを上げる。と抗菌薬は・のに影響しうる1。

副作用

316例の安全性データで何らかの有害事象が52%に生じた。⭐ 頻度6%以上は嘔吐(9%)・高血糖(7%)・低カリウム血症(7%)・痙攣(6%)・(6%)で、脳浮腫とが各5%と続く1。

⚠️ 輸注に伴う悪心・嘔吐は強く、の併用が添付文書上認められている1。⭐ 意識障害のある患者の嘔吐は誤嚥を招くので「よくある副作用」として流さない。💡 痙攣・・脳浮腫は薬の副作用と原病の症状が重なる領域で、添付文書自身これらがOTC・CPS欠損症に多かったと述べている1。

まとめ

  • はの活性体で、(経口)はでこれに変わるである。⚠️ 両者は別の薬剤。 グルタミンと抱合し1モルあたり2モルの窒素を捨てる(は1モル)。
  • ⭐ 本体はとの配合静注製剤(AMMONUL、は販売中止)で、の急性と随伴脳症に用いる。
  • 用量は20 kg以下で250 mg/kg、20 kg超で5.5 g/m²。負荷を90〜120分、同量を24時間で維持。 10%ブドウ糖で希釈しから投与する。⚠️ 負荷投与は反復せず、経口のは輸注前に中止する。
  • ⚠️ 4〜8時間で血漿アンモニアが150 µmol/L未満にならない、または40%を超えて下がらないならへ(代替ではなく併用)。禁忌はないが、による・・・フェニル酢酸の神経毒性・と代謝性アシドーシスに注意する。
  • ⚠️ 日本のガイドラインには本剤が登場しない。 わが国の急性期の静注は安息香酸Na(保険適用外・院内調製)であり、海外の記述をそのまま持ち込まない。

出典

  1. 1.AMMONUL (sodium phenylacetate and sodium benzoate) injection, for intravenous use — Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration・2020)FDAの添付文書PDFを取得しテキスト抽出して全文を確認した(ラベル面の改訂表示は「Revised 12/2020」。販売元 Bausch Health US, LLC、製造 Cangene BioPharma, LLC、初回米国承認1987年、NDC 0187-0010-50)。⚠️ DailyMedはこの実行環境から名前解決できず参照できなかったため、版の年はこのPDFのラベル面の表示による。AMMONULが尿素サイクル酵素欠損症の小児および成人における急性高アンモニア血症と随伴脳症に対する補助療法として適応を持ち急性期には併せてアルギニン補充・カロリー補充・食事性蛋白制限・血液透析等を考慮すべきとされること、1 mLあたりフェニル酢酸ナトリウム100 mgと安息香酸ナトリウム100 mgを含み投与前に10%ブドウ糖注射液で25 mL/kg以上に希釈し中心静脈カテーテルから投与しなければならず末梢からの投与は熱傷を起こしうること、用量が体重20 kg以下ではフェニル酢酸ナトリウム250 mg/kg・安息香酸ナトリウム250 mg/kg、20 kg超では各5.5 g/m²であり負荷を90〜120分で投与し同量を24時間かけて維持投与すること、併用するアルギニン塩酸塩の用量がCPS欠損・OTC欠損で200 mg/kg・ASS欠損とASL欠損で600 mg/kgと酵素欠損の型で変わること、薬物動態試験でフェニル酢酸の血漿中濃度が遷延するため負荷投与を反復してはならないこと、輸注に伴う悪心・嘔吐の制御のため制吐薬を投与してよいこと、フェニル酪酸ナトリウムのような経口の類薬はAMMONUL輸注の前に中止すべきでありAMMONUL使用中は一般にBUPHENYLを中止すること、禁忌が「None」と明記されていること、警告が血清カリウム低下(非再吸収性陰イオンであるフェニルアセチルグルタミンと馬尿酸の排泄により尿中カリウム喪失が亢進する)・体液貯留(未希釈の製剤1 mLあたりナトリウム30.5 mgを含有)・血管外漏出による皮膚壊死・フェニル酢酸の神経毒性・過換気と代謝性アシドーシス(サリチル酸中毒に類似)の5項目であること、頻度6%以上の副作用が嘔吐・高血糖・低カリウム血症・痙攣・精神機能障害であること、316例の安全性データで何らかの有害事象が52%に生じ嘔吐9%・高血糖7%・低カリウム血症7%・痙攣6%・精神機能障害6%・脳浮腫5%・高アンモニア血症5%であったこと、フェニル酢酸の神経毒性が進行固形癌患者へ250〜300 mg/kg/日を14日間4週間隔で静注した際に主として傾眠・倦怠感・ふらつきとして報告されたこと、動物実験でラット新生仔への190〜474 mg/kgの皮下投与が神経細胞の減少と中枢神経髄鞘の減少・脳発育障害をもたらしたこと、機序としてフェニル酢酸が肝と腎でグルタミンと抱合してフェニルアセチルグルタミンとなり糸球体濾過と尿細管分泌により腎排泄されること・フェニルアセチルグルタミンの1モルあたりの窒素含量が尿素と同一(いずれも2モルの窒素を含む)でありフェニル酢酸1モルあたり2モルの窒素が除去されるのに対し安息香酸はグリシンと抱合して馬尿酸となり1モルあたり1モルの窒素しか除去しないこと、薬物動態が非線形で馬尿酸の生成・排泄がフェニルアセチルグルタミンより速く3.75 g/m²投与時のフェニル酢酸のTmaxが2時間・安息香酸のTmaxが1.5時間で安息香酸は14〜26時間後に検出限界未満となる一方フェニル酢酸の血中濃度はより高くより長く持続すること、進行固形癌患者では投与されたフェニル酢酸の99%がフェニルアセチルグルタミンとして排泄されたこと、相互作用としてペニシリン系抗菌薬がフェニルアセチルグルタミン・馬尿酸と尿細管分泌を競合しうること・プロベネシドがこれらの腎排泄に影響しうること・バルプロ酸がN-アセチルグルタミン酸合成阻害を介して尿素サイクル異常症を悪化させ本剤の効果を減弱させうること・副腎皮質ステロイドが蛋白異化を介して血漿アンモニアを上昇させうること、1981〜2003年に治療された316例(1,045回の入院エピソード)の解析で80%(316例中252例)が最終エピソードを生存し死亡した64例のうち53例(83%)が初回の高アンモニア血症エピソードで死亡したこと・新生児104例のうち34例(33%)が初回エピソードで死亡したこと・食事療法のみの歴史的な1年生存率14%および透析での急性高アンモニア血症生存率43%と比べて生存が改善したこと、投与開始4〜8時間以内に血漿アンモニアが150 µmol/L未満へ低下しないか40%を超えて低下しない患者には血液透析が推奨されることを確認した。⚠️ あわせてDrugs@FDA API(api.fda.gov)を叩き、**先発のNDA020645(AMMONUL、Bausch)のmarketing_statusが「Discontinued」**であり、同一組成の後発(ANDA205880・ANDA207096・ANDA208521・ANDA217526、NDA215025)が「Prescription」として流通していることを確認した。**ラベル自体は版として最新であり、本出典の妥当性は変わらない**閲覧 2026-09-02
  2. 2.Suggested guidelines for the diagnosis and management of urea cycle disorders(Orphanet Journal of Rare Diseases・2012)Europe PMC経由でPMC3488504の全文XMLを取得して確認した。急性期の治療表の脚注に「入手できる場合には、安息香酸ナトリウムとフェニル酢酸ナトリウムの等モル静注液を用いることができる。250 mg/kgを90〜120分で静注ボーラス投与し、次いで250 mg/kgを24時間かけて持続静注する」と条件付きで記載されていること——すなわち本剤の配合注射薬は全地域で当然に利用できる前提では書かれていないこと、高アンモニア血症の危機を誘発する要因として感染・発熱・嘔吐・消化管出血・絶食や体重減少による摂取低下・産褥期の異化・化学療法や高用量副腎皮質ステロイド・激しい運動・全身麻酔下の手術・通常でない蛋白負荷(バーベキューや静脈栄養)・薬剤(主にバルプロ酸とアスパラギナーゼ)が挙げられていることを確認した閲覧 2026-09-02
  3. 3.新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025(尿素サイクル異常症)(日本先天代謝異常学会・2025)PDF全文を取得しテキスト抽出して確認した。⚠️ 本ガイドラインの全文に「フェニル酢酸」の語は1回も現れず、急性期の静注窒素除去薬として挙げられているのは安息香酸Na注のみであること(100〜250 mg/kg/日、さらに血中アンモニアを下げたい場合は500 mg/kg/日まで増量可能)、安息香酸Naは保険適用外のため自費で購入して院内調製する必要があると明記されていること、これらで不十分な場合にフェニル酪酸Na(ブフェニール®)とL-シトルリンを内服投与すること、L-アルギニン塩酸塩注100〜250 mg/kg/日の点滴投与を最初に行うことを確認した閲覧 2026-09-02