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Drug Atlas · B3 Other / その他

安息香酸ナトリウム

sodium benzoate

分類
Nitrogen-scavenging agents / 窒素除去薬
科目
Pediatrics
トピック
2-10: When Should We Consider Metabolic Disorders?
承認適応
尿素サイクル異常症
副作用
嘔吐痙攣
監視検査値
アンモニア動脈血ガス
影響検査値
カリウム血糖
相互作用
バルプロ酸
対象疾患
HHH症候群(高オルニチン血症・高アンモニア血症・ホモシトルリン尿症症候群)アルギニン血症イソ吉草酸血症オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症シトルリン血症I型非ケトン性高グリシン血症

🧠 全体像:は、体内で処理しきれない物質をグリシンと抱合させてに変え、腎から速やかに捨てるという一つの生化学反応から、2つの異なる臨床用途が生まれる薬である。の急性では、グリシンに乗せた窒素そのものを体外へ迂回排泄させる目的で使い、通常はグルタミンから2分子の窒素を捨てると配合する(配合注射薬AMMONUL)。一方、(NKH)では、排泄したいのは窒素の運び手ではなくグリシンという物質そのものであり、単独のとして使う。同じ抱合反応でも「何を減らしたくて使っているか」が疾患によって入れ替わる点が、この薬の学習上の核心である。

薬効群の中での位置づけ

は、尿素サイクルが処理しきれないをによって迂回排泄させる少数派の薬効群である。

薬剤 抱合するアミノ酸 1分子あたりの数 主な用途
グリシン→ 1分子 急性期(と配合)、NKHでのグリシン低下(単独)
グルタミン→ 2分子 急性期(と配合)

⭐ より効率が低い(グリシンが持つ窒素は1分子、グルタミンは2分子)1。の急性期には、単独ではなくとの配合注射薬(AMMONUL)として用いる1。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium benzoate'>安息香酸ナトリウム</span>"] --> B["肝・腎で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='benzoyl-CoA'>ベンゾイルCoA</span>へ活性化"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycine N-acyltransferase (GLYAT)'>グリシンN-アシル基転移酵素</span>(GLYAT)が<br>グリシンと抱合"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hippuric acid'>馬尿酸</span>として腎で速やかに排泄"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urea cycle disorder'>尿素サイクル異常症</span>:<br>グリシンに含まれる窒素1分子を体外へ捨てる"]
    D --> F["NKH:グリシンという物質そのものを消費し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma glycine'>血漿グリシン</span>濃度を下げる"]

💡 同じ抱合反応でも、疾患によって「何を減らしたいか」が違う。 では窒素(アンモニアの行き場)を捨てたいのであり、グリシンはただの運搬役にすぎない1。NKHではグリシンという物質そのものが毒性の本体であり、抱合されて消費されること自体が治療効果になる2。⚠️ この2つを混同しない。 NKHでの使用は、のような「窒素排泄の迂回路」としての位置づけではない。

薬物動態

項目 特徴
代謝 肝・腎で(GLYAT)によりグリシンと抱合されを生成する3
静注時の動態 ()でが増大する。負荷投与後のTmaxは約1.5時間で、3.75〜4 g/m²投与時は投与14〜26時間後に血中未満となり、より速く消失する1
排泄 として腎(+)から速やかに排泄される

適応

⚠️ 適応ごとに位置づけが異なる。と(NKH)を混同しない。

状況 位置づけ 併用
の急性・随伴脳症 米国で承認された。・補充・透析等と併用1 との配合注射薬(AMMONUL)
の慢性期維持療法 診療ガイドライン上の4 単独または他の
グリシン低下を目的とした確立した治療。では(・)を併用2 単独(NKHに承認された適応薬ではない)

用法・用量

⚠️ 適応・急性期か慢性期かで用量が大きく異なる。

状況 用量
・急性期(AMMONUL、体重20 kg以下) 250 mg/kgを負荷(90〜120分)+同量を維持(24時間)1
・急性期(AMMONUL、体重20 kg超) あたり5.5 g/m²を負荷・維持とも1
・急性期、施行時(Häberle診療ガイドライン、体重あたり) 350 mg/kg/日へ増量。AMMONUL添付文書に透析時の増量規定は無い4
・慢性期(経口) 250 mg/kg/日以下、最大12 g/日。1日4回、食事とともに十分な水分で内服4
NKH・ 200〜550 mg/kg/日
NKH・重症型 550〜750 mg/kg/日(成人は最大16.5 g/m²/日)、目標濃度に達するまで50 mg/kg/日ずつ増量2

禁忌・注意

  • 禁忌:特になし(AMMONULの添付文書上、は設定されていない)1
  • ⚠️ バルプロ酸との併用は避ける。理由は疾患ごとに異なる。 ではバルプロ酸が(の補因子)の合成を阻害しを悪化させ本剤の効果を減弱させうる1。NKHではバルプロ酸が血中・髄液グリシン濃度を上昇させ発作頻度を増やしうるため禁忌である2。(避ける)は共通だが、機序は別物である。
  • に注意する。AMMONUL製剤はナトリウム30.5 mg/mL(未希釈時)を含有し1、慢性期のでは1 gあたり約7 mmolのナトリウムを含有する4。・高度腎不全・浮腫を伴う病態では慎重投与とし、有害事象が出れば投与を中止して評価する1
  • 静注製剤はから投与する。へのはを起こしうる1
  • ・代謝性アシドーシス(に類似した機序)を起こしうるため、血液ガス・pHをモニタリングする1
  • 抗菌薬・は/のを競合し、排泄に影響しうる1

副作用

頻度 内容
急性期・高頻度(で6%以上) 嘔吐、高血糖、、痙攣、1
慢性 血清ナトリウム上昇、後の、高用量での代謝性アシドーシス、(適切な内服方法で軽減)4
その他 悪心、注射部位反応、発熱、発疹。臨床的に明らかな肝障害との関連は報告されていない3

まとめ

  • はグリシンと抱合してを作り腎から排泄させる薬で、この1つの反応が2つの異なる目的に使われる。
  • の急性では窒素の迂回排泄が目的で、との配合注射薬(AMMONUL)として使う。効率は(グルタミンあたり2分子)より低い(グリシンあたり1分子)。
  • (NKH)ではグリシンという物質そのものの低下が目的で、単独のとして使う(NKHはではない)。
  • バルプロ酸は両疾患とも避けるが、機序は異なる(は合成阻害、NKHは血中・髄液グリシン上昇)。
  • はないが、・時の・/代謝性アシドーシスへの注意が要る。

出典

  1. 1.AMMONUL (sodium phenylacetate and sodium benzoate) injection, for intravenous use — Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration・2020)FDA添付文書PDFを全文取得した(Revised 12/2020)。AMMONULが尿素サイクル酵素欠損症患者の急性高アンモニア血症と随伴脳症に対する補助療法として適応を持つこと、用量が「Patients 0 to 20 kg」では体重あたり(負荷・維持とも安息香酸ナトリウム250 mg/kg、フェニル酢酸ナトリウム250 mg/kg)、「Patients > 20 kg」では体表面積あたり(各5.5 g/m²)で——すなわちちょうど20 kgは体重あたりの側に入る——酵素欠損の種類(CPS/OTC欠損か、ASS/ASL欠損か)によりアルギニン塩酸塩の用量のみ変わること、負荷投与を90〜120分・維持投与を24時間で行い中心静脈から投与し末梢静脈からの投与は熱傷(皮膚壊死)を起こしうること、フェニル酢酸の血漿中濃度が遷延するため負荷投与を反復しないこと、禁忌が「None」と明記されていること、警告として血清カリウム低下・体液貯留(本剤はナトリウム30.5 mg/mL含有)・血管外漏出による皮膚壊死・フェニル酢酸の神経毒性(傾眠・倦怠感等)・過換気と代謝性アシドーシス(サリチル酸中毒に類似)が挙げられていること、頻度6%以上の副作用が嘔吐・高血糖・低カリウム血症・痙攣・精神機能障害であること、薬物相互作用としてペニシリン系抗菌薬・プロベネシドが馬尿酸/フェニルアセチルグルタミンの腎排泄に影響しうること、バルプロ酸がN-アセチルグルタミン酸(カルバミルリン酸合成酵素の補因子)合成阻害を介して尿素サイクル異常症を悪化させ本剤の効果を減弱させうること、副腎皮質ステロイドが蛋白異化を介し血漿アンモニアを上昇させうること、機序として安息香酸ナトリウムがグリシンと抱合し馬尿酸として尿中排泄されることでグルタミン・グリシンを介した窒素の体外排出(nitrogen scavenging)を行うこと、静注時の薬物動態が非線形でありAUCが用量依存的に増大すること、静注負荷投与後の安息香酸のTmaxが約1.5時間で3.75〜4 g/m²投与時には投与14〜26時間後に血中検出限界未満となり、フェニル酢酸より速やかに消失すること、馬尿酸の生成・排泄速度がフェニルアセチルグルタミンより速いことを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Nonketotic Hyperglycinemia(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2019)NCBI Bookshelfで全文を確認した。非ケトン性高グリシン血症(NKH)では自然経過そのものを変える治療は無いが、安息香酸ナトリウムによる血漿グリシン低下が覚醒度改善とてんかん管理の補助になること、軽症型では安息香酸ナトリウムとNMDA受容体拮抗薬(デキストロメトルファン・ケタミン等)を併用すること、用量が軽症型200〜550 mg/kg/日・重症型550〜750 mg/kg/日(成人最大16.5 g/m²/日)であり目標血漿グリシン濃度に達しなければ50 mg/kg/日ずつ増量すること、バルプロ酸が血中・髄液グリシン濃度を上昇させ発作頻度を増やしうるためNKHでは禁忌であることを確認した。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Phenylbutyrate, Sodium Benzoate — LiverTox: Clinical and Research Information on Drug-Induced Liver Injury(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NCBI Bookshelf)・2016)NCBI Bookshelfで全文を確認した(Last Update 2016年10月10日)。安息香酸ナトリウムが肝・腎に発現するグリシンN-アシル基転移酵素(GLYAT)によりグリシンと抱合され馬尿酸として速やかに腎排泄されること、一般的な副作用が悪心・嘔吐・注射部位反応・発熱・発疹であること、安息香酸ナトリウムは黄疸を伴う臨床的に明らかな肝障害との関連が報告されていないこと(尤度スコアE:使用経験が限定的で肝毒性の原因として可能性は低い)を確認した。閲覧 2026-09-02
  4. 4.Suggested guidelines for the diagnosis and management of urea cycle disorders(Orphanet Journal of Rare Diseases・2012)PMC全文(PMC3488504)を取得した。尿素サイクル異常症の慢性期経口安息香酸ナトリウムの維持量が250 mg/kg/日以下・最大12 g/日であり、1日4回食事とともに十分な水分で内服すること、急性期は負荷250 mg/kgを90〜120分で投与後に同量を維持投与すること、血液透析施行時は350 mg/kg/日への増量が推奨されること、副作用として血清ナトリウム負荷(1 gあたり約7 mmolのナトリウムを含有)、反復投与後の低カリウム血症、高用量投与時の代謝性アシドーシス、粘膜刺激(適切な内服方法で軽減可能)が挙げられていることを確認した。閲覧 2026-09-02