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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

イソ吉草酸血症

Isovaleric acidemia

別名
IVAイソ吉草酸尿症イソバレリルCoA脱水素酵素欠損症
臓器系
内分泌・代謝小児
科目
Pediatrics
トピック
小児科 2-10:先天代謝異常を疑う状況と初期評価小児科 3-64:先天代謝異常症
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
メチルマロン酸血症複合アシルCoA脱水素酵素欠損症
治療薬
L-カルニチンカルグルミン酸安息香酸ナトリウム炭酸水素ナトリウム
症状
嘔吐筋緊張低下発作意識障害
検査値
アシルカルニチン分析アンモニアアニオンギャップ血糖低血糖

🧠 全体像:(IVA)は、代謝の一段階を担うイソバレリルCoA脱水素酵素(IVDH)の障害で、上流のイソバレリルCoAとそのイソ吉草酸が蓄積するである。⭐ 診断の最大の手がかりは「足の蒸れたような・汗臭い」と形容される急性期の特徴的な体臭で、実際に本症はで発見された最初の代謝異常症として知られる。臨床像はに重篤な代謝クライシスで発症するから、(NBS)で見つかりほぼ無症状のまで幅があり、⚠️ 「NBSで陽性=発症する」ではない点が病型ごとの対応を分ける。

病態

の経路で、イソバレリルCoAをメチルクロトニルCoAへ酸化する反応をイソバレリルCoA脱水素酵素(IVDH、IVD遺伝子がコード)が担う。この酵素が働かないと、上流のイソバレリルCoAが蓄積し、グリシン抱合を受けてイソバレリルグリシンに、あるいは加水分解されてイソ吉草酸(体臭の)やに変換されて排泄される1。で、責任遺伝子IVDは15番染色体(15q14–15)に座位する1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leucine'>ロイシン</span>"] --> B["イソバレリルCoA"]
    B -->|"イソバレリルCoA脱水素酵素(IVDH)"| C["メチルクロトニルCoA → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='TCA cycle'>TCA回路</span>"]
    B -.->|"この反応が止まる"| D["イソバレリルCoAが蓄積"]
    D --> E["イソバレリルグリシン(尿中)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='3-hydroxyisovaleric acid'>3-ヒドロキシイソ吉草酸</span>(尿中)<br>イソ吉草酸(体臭・血中C5上昇)"]
    D --> F["細胞内アセチルCoA減少<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='N-acetylglutamate synthase'>N-アセチルグルタミン酸合成酵素</span>活性阻害"]
    F --> G["二次性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperammonemia'>高アンモニア血症</span>"]

💡 は「尿素サイクルの病気」ではなく副次的な現象である。イソバレリルCoAの蓄積が細胞内アセチルCoAを減少させ、尿素サイクルの活性化に必須のの働きを阻害することで生じる1。この機序は他の(・)にも共通する。

臨床病型

⭐ 同じ遺伝子異常でも、バリアントの重症度によって臨床像が大きく異なる。

病型 特徴
NBSで発見される無症状例 生涯発症しない可能性を含む暫定的な分類1
(重症型) 出生後通常2週間以内 重篤な急性。適切な治療がなければ・死亡のリスクが高い1
慢性間欠型 乳児期以降、感染・絶食を契機に反復 発達遅滞・体重増加不良を契機に診断されることもある1
(軽度・無症状型) NBSで発見 欧米で高頻度のc.941C>T(p.A314V)バリアントと関連。日本人患者ではこのバリアントの報告がない1

⚠️ 「だから治療不要」と即断しない。 ガイドラインはの治療必要性は低いとしつつ、過剰治療のリスクも指摘しており、病型の見極めには経過観察と生化学的モニタリングを要する1。

臨床像

急性発症(古典型)

出生時は無症状だが、通常生後2週間以内に嘔吐・・意識障害・けいれん・低体温で発症し、開大性代謝性アシドーシス・・・低血糖・を呈する1。出生後早期の発症例が有症状例の約4分の3を占めるとされるが、生後1年以内に感染やタンパク過剰摂取を契機に発症する例もある1。

⭐ 急性期の特徴的な体臭(「足の蒸れたような」「汗臭い」)は、であるイソ吉草酸が尿中へはあまり排泄されず汗などの分泌物に強く出ることによる1。として・無呼吸・・けいれんに加え、血小板減少に伴うにも注意する1。骨髄抑制(・好中球減少・血小板減少)もしばしば認められ、や不整脈の報告もある1。

⚠️ NBSで診断された患者は一般人口よりIQがやや低い傾向(平均IQ 91±10)にあり、に重度の急性発症を経験した例ではさらに低下しうる。一方でNBS診断例・臨床診断例のいずれでもが正常範囲にとどまる報告もあり、転帰は一様ではない1。しばしば高タンパク食品を嫌う食癖がみられる1。

慢性間欠型

発症時期が遅く、感染症や絶食といった代謝ストレスを契機に嘔吐・倦怠感・代謝性アシドーシスが出現する。継続的な食事管理と代謝モニタリングを要し、経過中に急性発症型の症状を呈することもある1。

診断

生化学的診断

検査 典型的な所見
血中() (C5)上昇。NBSの目安はC5>0.7 μmol/L(施設差あり)1
イソバレリルグリシン・の著明な排泄増加。イソバレリルグリシンは急性期・いずれでも検出される1
頭部画像 でを中心とする大脳基底核の異常像を認めることがある(他のにも共通)1

⚠️ C5は非特異的である。 以外に2-メチルブチリル・ピバロイルも含まれるため、2-メチル酪酸尿症・(MADD、2型)・含有薬剤(抗菌薬、シベレスタットナトリウムなど)の使用歴を必ず除外する。イソバレリルグリシン・の排泄増加を確認できれば本症と鑑別できる1。確定診断はIVD遺伝子のの同定、またはによる12。

flowchart TD
    A["NBSでC5上昇、または急性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolic decompensation'>代謝失調</span>+特徴的体臭"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pivoxil group'>ピボキシル基</span>含有薬剤・シベレスタットの使用歴を確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary organic acid analysis'>尿中有機酸分析</span>:イソバレリルグリシン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='3-hydroxyisovaleric acid'>3-ヒドロキシイソ吉草酸</span>"]
    C -->|"陽性"| D["IVD<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic analysis'>遺伝子解析</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enzyme activity assay'>酵素活性測定</span>で確定"]
    C -->|"他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metabolite'>代謝産物</span>優位"| E["2-メチル酪酸尿症・MADDなど他疾患を再検討"]

メチルマロン酸血症との書き分け

同じとして並べて学ぶが、⚠️ 蓄積するとNBSの指標が異なる。は代謝経路でC5()が指標になるのに対し、は・の経路でC3()が指標になる。パターン(イソバレリルグリシン・ vs ・)で明確に区別できる1。

治療

診断確定後(未発症・軽症例)の慢性期管理

治療の目的は発症を予防し正常な発育・発達を得ることにある1。

  • 内服:100〜200 mg/kg/日(分3、推奨度B)。血清濃度を50 μmol/L以上に保つことに加え、ミトコンドリア内のイソバレリルCoA蓄積を阻害し遊離CoAを供給することでの予防にもなる12。
  • グリシン内服:150〜250 mg/kg/日(推奨度C)。イソ吉草酸がグリシン抱合を受けてイソバレリルグリシンとなり排泄が促されるが、⚠️ 重症度・とグリシンの有効性の関係、至適投与量については一定の見解が得られていない1。
  • :軽度の制限(1.5〜2.0 g/kg/日、推奨度C)。除去フォーミュラを母乳・一般粉乳に併用する1。⚠️ ただしイソ吉草酸を生成するのは主に体タンパク由来のアミノ酸であり、自体の効果に否定的な見解もある1。
  • sick day対応:感染症や食欲低下時は早めに受診させ、必要ならでを抑制する(推奨度B)1。

急性発作時

他のと同様、代謝クライシスとして治療する。

  1. タンパク摂取の中止(推奨度B)。改善が見られれば治療開始から24〜48時間以内に再開する1。
  2. の抑制:80 kcal/kg/日以上のエネルギーを確保する。年齢別のブドウ糖必要量(0〜12か月 8〜10 mg/kg/分など)を目安に、10%以上のブドウ糖濃度が必要ならを確保する。治療開始後の血糖目標は120〜200 mg/dL(6.6〜11 mmol/L)1。⚠️ ブドウ糖投与のみでを抑えきれない場合は(0.5 g/kg/日、最高2.0 g/kg/日)を併用する1。
  3. 静注(推奨度B):100〜250 mg/kgを後、100〜200 mg/kg/日1。
  4. グリシン投与(推奨度C):150〜250 mg/kg/日を考慮する1。
  5. への対応(新生児 >250 μg/dL[150 μmol/L]、乳児期以降 >170 μg/dL[100 μmol/L]、推奨度C):100 mg/kg初回投与後6時間毎に25〜62 mg/kgを経口・する。または100〜250 mg/kgを2時間で静注し、200〜250 mg/kg/日とする(最大投与量5.5 g/m²または12 g/日)1。3時間ごとにアンモニア値を再検する1。
  6. 代謝性アシドーシスの補正(推奨度C):pH<7.2であればをhalf correctで緩徐に投与する(目標pH>7.2、PCO₂>20 mmHg、HCO₃⁻>10 mEq/L)1。
  7. (推奨度B):2〜3時間の治療でアシドーシスが改善しない、またはの低下が50 μg/dL未満にとどまる場合は緊急で施行する。持続(CHD)または(CHDF)が第一選択で、は効率が劣るため搬送困難な場合などやむを得ない状況以外は推奨されず、は無効である1。

⚠️ はグリシン抱合が未熟なため重篤化しやすく、の早期導入を検討する1。

GeneReviewsも同様に、制限食(乳児では無治療用ミルクを併用)・補充(50〜100 mg/kg/日)・グリシン補充(150 mg/kg/日)を慢性期の柱とし、急性期は摂取の中止、・、(初期投与250 mg/kg/日から)、重症アシドーシスへの緩衝剤投与を挙げている2。

予後

による・早期治療は、遅延診断例に比べて転帰を改善する2。長期合併症としては発達遅滞・知的障害・てんかん・振戦やなどのがありうるが、程度は病型(とくにの急性発症の重症度)に左右される12。

まとめ

  • は、代謝で働くイソバレリルCoA脱水素酵素の障害によりイソバレリルCoAが蓄積するの。急性期の「足の蒸れたような・汗臭い」体臭が最大の手がかりで、は細胞内アセチルCoA減少を介した二次性の現象である。
  • 病型は・(重症型)・慢性間欠型・に分かれ、は出生後2週間以内に代謝クライシスで発症する。は欧米に多いc.941C>T(p.A314V)バリアントと関連し日本人には稀。
  • 診断は血中(C5上昇)と(イソバレリルグリシン・)による。C5は非特異的なので含有薬剤の使用歴を必ず確認する。
  • 慢性期は・グリシン内服と軽度。急性期はタンパク中止・・静注に加え、にまたはを用いる。は推奨されずは無効で、改善が乏しければ持続/へ進める。
  • による早期治療で転帰は改善するが、に重度の急性発症を経験するとが低下しうる。

出典

  1. 1.新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2025(イソ吉草酸血症)(日本先天代謝異常学会・2025)PDF全文を自分で取得して確認した。イソ吉草酸血症が常染色体潜性遺伝でイソバレリルCoA脱水素酵素の障害によりイソバレリルCoAが蓄積する疾患であること、急性期に「足の蒸れたような」「汗臭い」と形容される特徴的な体臭を呈すること(原因物質はイソ吉草酸で、尿中への排泄は少なく汗などの分泌物のにおいが強いこと)、臨床病型が発症前型・古典型(重症型)・慢性間欠型・軽症型(欧米に多いc.941C>T[p.A314V]バリアントと関連し日本ではこのバリアントの報告がないこと)に分かれること、古典型では出生後通常2週間以内に嘔吐・哺乳不良・意識障害・けいれん・低体温で発症し代謝性アシドーシス・ケトーシス・高アンモニア血症・低血糖を呈すること、二次性高アンモニア血症の機序がイソバレリルCoA蓄積によるアセチルCoA減少を介したN-アセチルグルタミン酸合成酵素活性阻害であること、診断根拠が血中アシルカルニチン分析(C5上昇、NBSカットオフ値C5>0.7μmol/L)と尿中有機酸分析(イソバレリルグリシン・3-ヒドロキシイソ吉草酸の排泄増加)であること、慢性期管理としてL-カルニチン内服100〜200 mg/kg/日(分3、推奨度B)とグリシン内服150〜250 mg/kg/日(推奨度C、有効性・至適投与量に一定の見解なし)、軽度の自然蛋白制限(1.5〜2.0 g/kg/日、推奨度C)を行うこと、急性発作時はタンパク摂取を中止し80 kcal/kg/日以上のエネルギーを確保すること、L-カルニチンを静注100〜250 mg/kgボーラス後100〜200 mg/kg/日で維持すること、高アンモニア血症(新生児>250 μg/dL[150 μmol/L]、乳児期以降>170 μg/dL[100 μmol/L])にはカルグルミン酸100 mg/kg初回投与後6時間毎25〜62 mg/kgまたは安息香酸ナトリウム100〜250 mg/kgを2時間で静注し維持量200〜250 mg/kg/日とすること、2〜3時間の治療でアシドーシスが改善しないかアンモニアの低下が50 μg/dL未満にとどまる場合は持続血液透析・持続血液濾過透析を第一選択とし腹膜透析は効率が劣るため推奨せず交換輸血は無効であること、新生児期はグリシン抱合が未熟なため重篤化しやすく血液浄化療法の早期導入を検討すること、新生児マススクリーニングで検出された患者の初回検体のC5濃度およびC5/C2・C5/C3比が重症度予測に有用であることを逐語で確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Classic Isovaleric Acidemia(GeneReviews(University of Washington, Seattle)(Mütze U, Reischl-Hajiabadi A, Kölker S)・2024)古典型イソ吉草酸血症が絶食・感染・タンパク過剰摂取を契機とする急性代謝失調(嘔吐・哺乳不良・嗜眠・筋緊張低下・けいれん)と「汗足様体臭」を特徴とすること、長期合併症として発達遅滞・知的障害・てんかん・振戦や測定障害などの錐体外路症状がありうること、診断根拠が新生児マススクリーニングでのC5アシルカルニチン上昇と尿中有機酸のイソバレリルグリシン・3-ヒドロキシイソ吉草酸であり、IVD遺伝子の両アレル病的バリアントで確定すること、常染色体潜性遺伝で同胞の再発率が25%であること、治療がロイシン制限食(乳児では無ロイシン治療用ミルクを併用)・カルニチン補充(50〜100 mg/kg/日)・グリシン補充(150 mg/kg/日)であること、急性期対応が自然蛋白摂取の中止・静注ブドウ糖と生理食塩水の開始・高アンモニア血症への窒素除去薬(安息香酸ナトリウム初期投与250 mg/kg/日から)投与・重症の代謝性アシドーシスへの緩衝剤投与であること、新生児マススクリーニングによる早期診断が遅延診断例に比べて転帰を改善することを確認した。閲覧 2026-09-06