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Drug Atlas · B23 Antiulcer drugs / 抗潰瘍薬

炭酸水素ナトリウム

sodium bicarbonate

分類
Antiulcer drugs / 抗潰瘍薬
商品名(日本)
メイロン
科目
PharmacologyTranslational Medicine and Pathophysiology
トピック
B23: Drugs influencing gastric acid secretion, protective drugs of gastric mucosa2-10: Organ changes in chronic renal failure
承認適応
慢性腎臓病サリチル酸中毒尿細管性アシドーシスFanconi症候群
副作用
浮腫テタニー
監視検査値
カリウム
影響検査値
重炭酸
対象疾患
アルシン(ヒ化水素)ガス中毒イソ吉草酸血症メタノール中毒毒性アルコール中毒

🧠 全体像:はB23(・)に分類されているが、実地での主戦場はではない。「経口でにアシドーシスを補正する薬」と「静注で急性の異常を叩く薬」という、まったく速度感の異なる2つの顔を持つ。前者はの代謝性アシドーシス補正、後者は重度アシドーシス・・での・でのという緊急対応である。⚠️ 一方で、心停止・()・へのルーチン投与は、現行のガイドラインでは推奨されていない。「酸が多いから中和すればよい」という単純化が通用しない薬という理解が、使いどころと使ってはいけない場面の両方を決める。

薬効群の中での位置づけ

顔 経路・タイミング 目的 対象
(B23、歴史的用途) 経口・頓用 分泌された胃酸を中和 ・(現在は・など他のやに置き換わっている)
慢性アシドーシス補正 経口・連日 を上げ、より重いアシドーシスを避ける ・・
急性アシドーシス・中毒の是正 静注・緊急 重度アシドーシス、高K血症、TCA中毒の是正、 重症患者・中毒患者

⭐ B23に載っているからといって「胃薬」だと覚えると、この薬の主要な使いどころを取りこぼす。 現在のとしての役割は限定的で、の酸塩基管理と急性期の中毒治療というまったく別の2文脈で頻用される。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium bicarbonate'>炭酸水素ナトリウム</span>(HCO3-)を投与"] --> B["血中HCO3-濃度が上昇し<br>H+と結合してpHが上昇"]
    B --> C["経口・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repeated/chronic dosing'>慢性投与</span>"]
    B --> D["静注・急性投与"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic kidney disease'>CKD</span>での代謝性アシドーシスを補正<br>骨からのCa・リン動員や<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protein catabolism'>蛋白異化</span>を抑制"]
    D --> F["重度アシドーシスのpH是正"]
    D --> G["細胞外へのK+シフトを促し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hyperkalemia'>高カリウム血症</span>を一時的に改善"]
    D --> H["Na負荷と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alkalemia'>アルカレミア</span>により<br>TCA中毒の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='QRS prolongation'>QRS延長</span>を是正"]
    D --> I["尿pHを上昇させ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='weakly acidic drug'>弱酸性薬物</span>の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ionized form'>イオン型</span>を増やし<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular reabsorption'>尿細管再吸収</span>を妨げる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salicylate poisoning'>サリチル酸中毒</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urine alkalinization'>尿アルカリ化</span>)"]

💡 静注のHCO3⁻は、のpHを直接上げる一方で、CO2がHCO3⁻より速やかに細胞膜を通過するため、細胞内・中枢神経系ではむしろ一過性にアシドーシスが悪化しうる()。 これがでの補正で脳浮腫やな中枢神経系アシドーシスが懸念される理由であり1、時に炭酸ガスの十分な排除が必要とされる根拠でもある2。「酸を中和すれば必ず良くなる」わけではない、というのがこの薬を理解する核心である。

⭐ TCA中毒での是正は、アシドーシス補正そのものが目的ではない。 血中の増加との両方が、遮断を受けた心筋の伝導を改善しうるとされ、投与の指標はpHではなくQRS幅である3。

薬物動態

項目 値・特徴
経口(慢性アシドーシス補正)/注射(急性期)
経口製剤の吸収 消化管でほぼ完全に吸収されHCO3⁻として血中に入る
排泄 過剰分は腎から排泄される(腎機能が保たれていることが前提)

適応

領域 使いどころ
腎臓・慢性期 の代謝性アシドーシス補正。2009年のでは進行速度の低下とへの進行減少が示されたが4、その後のプラセボ対照試験を集めた解析ではこの利益は確認されていない5
腎臓・尿細管疾患 ・での
救急・中毒 によるの是正3、でのによる、の(重度アシドーシス合併時など)
救急・心停止 重度の代謝性アシドーシス・・TCA中毒が既知/疑われる場合に限り考慮。ルーチン投与は推奨されない6
消化器(歴史的適応) ・の対症療法

用法・用量

  • アシドーシス補正:必要投与量(mEq) = Base Deficit(mEq/L) × 0.2 × 体重(kg)で算出し、静注で投与する2。での経口補正について、2012年版ガイドラインは血清HCO3⁻22 mmol/L未満を治療の目安としていたが、2024年改訂版はこの段階づけられた推奨を取り下げ、重大な臨床的影響を来しうる血清HCO3⁻18 mmol/L未満を目安に薬物治療を考慮するpractice pointへ変更している5。
    • ⭐ 格下げの根拠は2012年以降に積み上がったプラセボ対照試験である。 3か月以上追跡した15試験(2,445例、追跡12か月)の系統的レビューのうちプラセボ対照試験に限って統合すると、経口が腎不全リスクを下げる効果は確認されなかった(0.81、95%信頼区間0.54〜1.22)。最大のプラセボ対照試験であるBiCARB( G3〜G4・60歳以上・22 mmol/L未満)も0.97(0.64〜1.49)で、身体機能をとする腎以外の転帰にも利益は示されず、費用は増え生活の質はむしろ低下した5。
    • 💡 それでも作業部会は、を上げること自体は明らかに有効で、より重いアシドーシスを避ける治療としては適切だとしている。一方で正常域までの補正が腎不全リスクを下げることは示されていないため、治療開始の閾値を18 mmol/Lよりさらに低く取ることも考えうるとも述べており、正確な閾値の決定にはが要るという立場である5。
  • の排泄促進・等・:通常成人1回12〜60 mEq(1〜5 g)を静注する2。
  • TCA中毒の:1〜2 mEq/kgを静注する3。
  • でpH 7.0未満のとき(適応がある場合のみ):8.4%100 mmolを水400 mLに溶いたとして2時間ごとに投与し、pH 7.0超を目指す1。

禁忌・注意

  • 禁忌・慎重投与:ナトリウム摂取制限を要する患者(、浮腫、等)、・肺機能障害のある患者2
  • ⚠️ Na負荷による・に注意する。 心不全・浮腫傾向のある患者では悪化しうる2
  • ⚠️ 心停止時のルーチン投与は推奨されない(Class 3: No benefit)。既知または疑われる重度アシドーシス・・TCA中毒に限り考慮する6
    • ⚠️ この推奨は2020年版AHAガイドラインのものである。 AHAの成人ガイドラインは2025年10月に改訂されているが7、本稿では改訂版の本文を取得できておらず、に関する記述が変わったかどうかは確認できていない
  • ⚠️ ()でのルーチン投与も推奨されない。 輸液とインスリンで酸塩基異常は通常改善し、投与を考慮するのはpH7.0未満の重度アシドーシスに限られる。・脳浮腫・な中枢神経系アシドーシスなどの害が報告されている1
  • ⚠️ に伴う低灌流性では、血行動態の改善やの減量を目的としたを行わないことが提案されている(Surviving Sepsis Campaign 2026年版:条件付き推奨、確実性は低い)。根本治療である循環不全・の是正が優先される。一方、重度の代謝性アシドーシス(pH 7.2以下)かつ(AKIN 2または3)を合併する成人には、逆に投与することが提案されている(条件付き推奨、確実性はきわめて低い)8。この2つの推奨は2021年版にも同じ向きで置かれており、2021年版はどちらも弱い推奨・エビデンスの質は低いとしていた9
    • 💡 「pH 7.15以上では使わない」という数値は、2021年版・2026年版の推奨文のものではない。 2021年版は推奨の対象を「低灌流性を伴うの成人」とだけ書いており、pH 7.15が出てくるのは根拠の節でそれ以前の版の推奨を振り返る一文(A weak recommendation was made against the use of bicarbonate therapy … in patients with hypoperfusion-induced lactic acidemia with pH ≥ 7.15)である9。版をまたいで数値の帰属が動きやすい箇所なので、pHの閾値を引くときはどの版の推奨文かを確かめる
  • ⚠️ 急速なアシドーシス補正はを誘発しうる。 アシドーシスではが増える方向に傾いており、急に補正するとが低下しが顕在化しうる2

副作用

頻度 内容
高頻度(時) アルカローシス、、2
注意 、口唇感、、浮腫、2
重篤・まれ 心不全の増悪、な中枢神経系アシドーシス(急性期の急速補正時)1

まとめ

  • B23(・)に分類されるが、実地の中心はではなくの慢性アシドーシス補正と急性期の緊急是正の2つの顔。
  • では2009年のが進行抑制を示したが4、その後のプラセボ対照試験ではこの利益が確認されず、2024年の改訂は段階づけられた推奨(2012年版は血清HCO3⁻22 mmol/L未満で2B)を取り下げ、18 mmol/L未満を目安とするpractice pointにとどめている5。
  • 急性期の静注適応は重度アシドーシス、、TCA中毒の是正、の。
  • ⚠️ 心停止・・へのルーチン投与は推奨されない。細胞外pHは上がっても、CO2の速いにより細胞内・中枢神経系のアシドーシスがむしろ悪化しうるな機序がある。ただしでは、pH 7.2以下かつ(AKIN 2または3)を合併する成人に限って投与が条件付きで提案されている8。
  • ⚠️ Na負荷による・、急速補正によるに注意する。

出典

  1. 1.Hyperglycaemic crises in adults with diabetes: a consensus report(ADA / EASD / JBDS / AACE / DTS・2024)糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)への重炭酸ナトリウムのルーチン投与は推奨されず輸液とインスリン投与で酸塩基異常は通常改善すること、投与を考慮するのはpH7.0未満の重度アシドーシスに限られること、低カリウム血症・組織への酸素供給低下・脳浮腫・逆説的な中枢神経系アシドーシスなどの有害な影響が報告されていることを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.メイロン静注7% 添付文書(大塚製薬工場/PMDA医療用医薬品情報・2023)効能・効果が「薬物中毒(pHの上昇により尿中排泄の促進される薬物に限る)における排泄促進」「アシドーシスの補正」「動揺病、メニエール症候群等における悪心・嘔吐及びめまい」「急性蕁麻疹」の4つであること、アシドーシス補正時の用量は必要投与量(mEq)=Base Deficit(mEq/L)×0.2×体重(kg)で算出すること、薬物中毒・動揺病等・急性蕁麻疹には通常成人1回12〜60mEq(1〜5g)を静注すること、過量投与でアルカローシス・高ナトリウム血症・低カリウム血症・テタニー・口唇しびれ感・知覚異常が起こりうること、心肺蘇生時には炭酸ガスを十分に排除する必要がある旨の記載があることを確認した。閲覧 2026-08-19
  3. 3.A Literature Review of the Use of Sodium Bicarbonate for the Treatment of QRS Widening(Journal of Medical Toxicology・2015)三環系抗うつ薬などナトリウムチャネル遮断薬中毒によるQRS延長に対し重炭酸ナトリウムが半世紀以上antidoteとして用いられてきたこと、その機序として血中ナトリウム負荷とアルカレミアの両方が関与しうるとされること、投与の適応はアシドーシスの補正そのものではなくQRS延長という心電図所見であること、初回投与量の目安が1〜2 mEq/kgのボーラス投与であることを確認した。閲覧 2026-08-19
  4. 4.Bicarbonate Supplementation Slows Progression of CKD and Improves Nutritional Status(Journal of the American Society of Nephrology・2009)CKD患者134例(CrCl 15〜30 mL/min/1.73m²、血清重炭酸16〜20 mmol/L)を経口重炭酸ナトリウム補充群と通常治療群に無作為割付けし2年間追跡したところ、CrCl低下速度が補充群1.88・対照群5.93 mL/min/1.73m²/年(P<0.0001)、末期腎不全への進行が補充群6.5%・対照群33%といずれも補充群で有意に少なく栄養指標も改善したことを確認した。閲覧 2026-08-19
  5. 5.KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease(KDIGO・2024)2012年版KDIGOガイドラインが血清HCO3⁻22 mmol/L未満を代謝性アシドーシス治療の目安とする段階づけられた推奨を置いていたのに対し、2024年改訂版はこの推奨を取り下げ、重大な臨床的影響を来しうる血清HCO3⁻18 mmol/L未満を目安に薬物治療を考慮するpractice point(推奨より弱い位置づけ)へ変更したことを確認した。閲覧 2026-08-19
  6. 6.Part 3: Adult Basic and Advanced Life Support: 2020 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care(Circulation(American Heart Association)・2020)心停止患者への重炭酸ナトリウムのルーチン投与は推奨されない(分類はClass 3=No benefit、エビデンスレベルB-R)こと、既知または疑われる重度の代謝性アシドーシス、高カリウム血症、三環系抗うつ薬中毒などの特定の状況では投与を考慮しうることを確認した。閲覧 2026-08-19
  7. 7.Part 9: Adult Advanced Life Support | American Heart Association CPR & First Aid(American Heart Association・2025)本稿では書誌のみを確認した。Crossref で DOI 10.1161/CIR.0000000000001376 を解決し、AHA の成人二次救命処置ガイドラインが2025年10月21日付で改訂されていること(Circulation 152巻、Europe PMC の PMID 41122884 では S538-S577)を確認した。⚠️ 本文は ahajournals・cpr.heart.org とも今回はいずれも403で取得できず(Unpaywall も oa_status が closed でリポジトリ版なし)、抄録に重炭酸ナトリウムへの言及は無い。したがって重炭酸ナトリウムに関する推奨が2020年版から変わったかどうかは、本稿では確認できていない。⚠️ 同一文書がコーパス内で aha-acls-tachycardia-2025・aha-acls-bradycardia-2025 という別 id でも登録されている閲覧 2026-09-08
  8. 8.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)DOI本体(Springer)はbot判定で取得できず、発行元SCCMが公開している推奨一覧のページで重炭酸ナトリウムに関する2つの推奨を逐語で確認した。「For adults with septic shock and hypoperfusion-induced lactic acidemia, we 「suggest against」 using sodium bicarbonate therapy to improve hemodynamics or to reduce vasopressor requirements.」(条件付き推奨・確実性は低い)と、「For adults with septic shock, severe metabolic acidemia (pH ≤ 7.2), and acute kidney injury (AKIN score 2 or 3), we 「suggest」 using sodium bicarbonate therapy.」(条件付き推奨・確実性はきわめて低い)。いずれも対象の記述にpHの下限は置かれていない。閲覧 2026-09-07
  9. 9.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021(Intensive Care Medicine・2021)Europe PMC(PMC8486643)で全文を取得し、Bicarbonate therapyの節を逐語で確認した。推奨71は「For adults with septic shock and hypoperfusion-induced lactic acidemia, we suggest against using sodium bicarbonate therapy to improve haemodynamics or to reduce vasopressor requirements」(弱い推奨・低い質)で、対象にpHの限定は付いていない。推奨72は「For adults with septic shock, severe metabolic acidemia (pH ≤ 7.2) and AKI (AKIN score 2 or 3), we suggest using sodium bicarbonate therapy」(弱い推奨・低い質)。pH 7.15という数値が現れるのは同節のRationaleで、従前の版の推奨を紹介する「A weak recommendation was made against the use of bicarbonate therapy … in patients with hypoperfusion-induced lactic acidemia with pH ≥ 7.15」という過去形の一文である。閲覧 2026-09-07