疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 病態

Fanconi症候群

Fanconi syndrome

別名
ファンコニ症候群De Toni-Fanconi症候群近位尿細管症候群
臓器系
腎・泌尿器
科目
Internal MedicinePediatrics
トピック
内科学 S-22:慢性尿細管間質性疾患小児科 3-26:小児腎尿細管疾患
合併症
腎尿細管性アシドーシスくる病・骨軟化症
治療薬
カルシトリオール
原因薬剤
テノホビルイホスファミドシドフォビルバルプロ酸
症状
筋力低下多尿
検査値
代謝性アシドーシス尿酸β2ミクログロブリン
画像所見
偽骨折
元疾患
遺伝性フルクトース不耐症多発性骨髄腫
原因となる疾患
ウィルソン病急性・慢性尿細管間質性腎炎

🧠 全体像は、個別の物質ではなく再吸収機能そのものが広く障害される病態で、糖・アミノ酸・リン酸・・尿酸・低分子蛋白がまとめて尿中へ漏れ出す。遺伝性のFanconi貧血とは全く別の病態であり、名前が似ているだけで機序も臨床像も共通点がない。臨床的には①小児では遺伝性代謝疾患(が代表)、②成人では薬剤性・が主要な原因という年代による原因の違いを押さえ、③リン喪失によるというを見逃さないことが要になる。

病態:近位尿細管の「まとめて漏れる」障害

正常なは、糸球体で濾過されたブドウ糖・アミノ酸・リン酸・・尿酸のほぼ全量と、低分子蛋白の大部分を能動的に再吸収する。では、このの再吸収機構が個別の輸送体ではなく広範囲に障害され、これらの物質がまとめて尿中に失われる1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal tubule'>近位尿細管</span>の広範な再<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malabsorption'>吸収障害</span><br>(遺伝性または後天性)"] --> B["糖:血糖正常の糖尿"]
    A --> C["アミノ酸:全般的アミノ酸尿"]
    A --> D["リン酸:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypophosphatemia'>低リン血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphaturia'>リン酸尿</span>"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bicarbonate'>重炭酸</span>:2型(近位型)RTA"]
    A --> F["尿酸:低尿酸血症"]
    A --> G["低分子蛋白:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular'>尿細管性</span>蛋白尿"]
    D --> H["慢性化すると<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypophosphatemic rickets and osteomalacia'>低リン血症性くる病・骨軟化症</span>"]
    E --> I["正<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anion gap'>アニオンギャップ</span>性代謝性アシドーシス"]

⚠️ 」と「Fanconi貧血」は名前が同じ人物(Guido Fanconi)に由来するだけの別疾患。 Fanconi貧血はDNA修復遺伝子群の異常による遺伝性で、・発がん素因を特徴とし、腎尿細管とは直接関係しない。(本項)はの機能異常であり、両者を同一疾患と誤解しないこと。

原因:小児は遺伝性、成人は薬剤性・多発性骨髄腫が中心

分類 代表的な原因
遺伝性(小児に多い) (最多)、、Lowe症候群
薬剤性(成人に多い) バルプロ酸、シスプラチン
その他の後天性 中毒()、(軽鎖による)、

⚠️ とは全く別の疾患である。 CTNS遺伝子異常によるリソソーム内蓄積症で、小児の最多原因になる。一方の管腔側だけの輸送異常で、を来さずだけを起こす。名前が似ているために混同されやすいが、蓄積臓器も腎障害の広がりも異なる。

⚠️ 薬剤性では、による可逆性を過信しない。 によるは、ケースで投与前の腎機能低下や/併用が危険因子として同定されているが、後も追跡できた症例の半数程度しか部分寛解以上に至らなかった2によるはおよそ5%に生じ、小児(特にシスプラチン併用時)で最も頻度が高い3。バルプロ酸によるはまれだが、長期投与例で進行性の筋力低下・代謝性アシドーシスを契機に気づかれ、中止により数か月かけて尿所見が改善したとする報告がある4

臨床像

急性期は非特異的で、筋力低下多尿・脱水・(小児)として現れることが多い。慢性化すると、持続するにより、小児では骨変形・)を来す。原疾患の症状(の角膜結晶・の肝・神経症状、・貧血など)が前景に立つこともあり、はその一部分症として発見されることも多い。

診断

血液検査では・正性代謝性アシドーシス代謝性アシドーシス)が特徴で、尿酸は腎性喪失により低値をとる。尿検査では血糖値に見合わない糖尿(正常血糖性糖尿)と全般的アミノ酸尿が診断の核心で、随伴して尿・蛋白尿(など低分子蛋白の増加)を認める1。慢性例の画像では)がの手がかりになる。診断の骨格は「個別の物質ではなく、が再吸収するはずの複数物質がまとめて漏れているか」を確認することであり、単一物質の異常(例えば糖尿だけ)では本症候群と呼ばない。

治療

  1. 原因の同定と是正が最優先があれば中止する(ただししても腎機能・尿細管機能が完全には回復しない例がある2)。にはシステアミン、にはなど、原な治療があれば行う。
  2. 電解質・の補充ナトリウムまたはクエン酸カリウムでアシドーシスを補正し、カリウムを補充する1
  3. リン酸・ビタミンDの補充を合併する場合、経口リン酸製剤と)を併用する(詳細はくる病・を参照)。
  4. モニタリング:電解質・腎機能・を定期的に評価し、原因が薬剤性であれば再投与を避ける。

まとめ

  • の再吸収機能が広範に障害される病態で、糖・アミノ酸・リン酸・・尿酸・低分子蛋白がまとめて尿中に失われる。遺伝性のFanconi貧血とはの別疾患
  • 小児では遺伝性代謝疾患(が最多)、成人では薬剤性(・バルプロ酸)とが主要な原因。とは異なる疾患であることに注意する。
  • 診断の核心は血糖正常の糖尿+全般的アミノ酸尿の組み合わせで、・正性代謝性アシドーシスを伴う。
  • 治療は原因の是正が最優先で、電解質補充・アルカリ療法・リン酸とビタミンD補充を組み合わせる。薬剤性は後も完全には回復しないことがある。

出典

  1. 1.Fanconi Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)Fanconi症候群は近位尿細管の複合的な再吸収障害により糖・リン酸・重炭酸・アミノ酸・尿酸・低分子蛋白の尿中喪失を来す病態であること、遺伝性の原因にシスチノーシス・ガラクトース血症・遺伝性果糖不耐症・チロシン血症・ウィルソン病・Lowe症候群が、後天性の原因に薬剤(テノホビル・イホスファミド・バルプロ酸・シドフォビル・シスプラチンなど)・重金属中毒・多発性骨髄腫(軽鎖障害)が含まれること、血液検査で低リン血症・低カリウム血症・正アニオンギャップ性代謝性アシドーシスを、尿検査で血糖に見合わない糖尿・全般的アミノ酸尿を認めること、治療は原因の同定と是正に加え電解質補充とアルカリ療法(重炭酸ナトリウムまたはクエン酸カリウム)が中心となることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Fanconi Syndrome Accompanied by Renal Function Decline with Tenofovir Disoproxil Fumarate: A Prospective, Case-Control Study of Predictors and Resolution in HIV-Infected Patients(PLOS ONE・2014)HIV感染者を対象としたケースコントロール研究(症例19例・対照37例)で、テノホビル開始前のクレアチニンクリアランス低値(5 mL/分低下ごとにオッズ比1.44)とロピナビル/リトナビルの使用歴(オッズ比16.37)がテノホビル関連Fanconi症候群の危険因子であったこと、追跡できた14例のうち完全寛解(クレアチニンクリアランス90%超への回復)が4例(29%)、部分寛解が3例で、合計およそ半数が部分寛解以上に至ったことを確認した。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Fanconi Syndrome Associated with Valproic Acid: A Case Report(Iranian Red Crescent Medical Journal・2011)バルプロ酸を約1年間投与された患児が進行性の筋力低下・筋萎縮を来し、低リン血症・低カリウム血症・代謝性アシドーシス(静脈血ガスpH 7.14)・糖尿・蛋白尿を呈してFanconi症候群と診断されたこと、バルプロ酸を中止することで尿所見の異常が数か月の経過で消失したことを確認した。閲覧 2026-08-11
  4. 4.Ifosfamide(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)イホスファミドによる腎尿細管障害(Fanconi症候群)はおよそ5%に生じ、小児(特にシスプラチン併用時)で最も頻度が高いことを確認した。閲覧 2026-08-10