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Disease Atlas · 肝胆膵 · 疾患

ウィルソン病

Wilson disease

臓器系
肝胆膵神経
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C-49:代謝性・遺伝性肝疾患内科学 E-09:プリン・鉄・銅代謝および希少代謝疾患内科学 S-36:ヘモクロマトーシスとウィルソン病
鑑別疾患
パーキンソン病ヘモクロマトーシスα1-アンチトリプシン欠損症
続発疾患
肝硬変急性肝不全Fanconi症候群
関連疾患
先天代謝異常症銅欠乏
治療薬
ペニシラミン
症状
振戦不安嚥下障害
検査値
血清銅・セルロプラスミン

🧠 全体像は「ATP7Bの変異により胆汁への排泄ができなくなり、が肝→全身へあふれ出す」である。診療の幹は、①肝・神経・精神・眼・血液腎骨という多彩な臓器所見のどこから発症してもおかしくないと疑い、②単独やカイザー・フライシャー(Kayser-Fleischer:KF)輪単独では確定も除外もできず複数検査を統合する的な考え方で診断し、③症候性には(D-または)、無症候・維持にはという病期に応じた薬剤選択を行い、④や内科治療に反応しないではの効果を待たず緊急に評価へ進む、という順序建てである。生涯治療からの離脱はない。

病態

は食事から吸収され門脈経由で肝細胞に取り込まれた後、大部分がに組み込まれて血中へ分泌され、余剰分は胆汁中へ排泄されて体外に出る。ではの吸収・肝への取り込み自体は正常であり、障害されるのはの**輸送ATPase(ATP7B)**の機能である。ATP7Bは本来、へ組み込む反応と、過剰なを胆汁中へ排出する反応の両方を担っている。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autosomal recessive'>常染色体潜性</span> ATP7B <span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>(2アレル)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='in the hepatocyte'>肝細胞内</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>輸送ATPaseが機能不全"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ceruloplasmin'>セルロプラスミン</span>への組込み障害"]
    B --> D["胆汁中への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>排泄障害"]
    C --> E["血中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ceruloplasmin'>セルロプラスミン</span>低下"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='in the hepatocyte'>肝細胞内</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>が進行性に蓄積"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>・肝細胞傷害"]
    G --> H["脂肪変性・肝炎・線維化・肝硬変"]
    F --> I["肝から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>が血中へあふれ出す(遊離<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>増加)"]
    I --> J["大脳基底核・角膜・腎尿細管・赤血球など全身臓器へ沈着"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuropsychiatric symptoms'>神経精神症状</span>・KF輪・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular injury'>尿細管障害</span>・溶血"]

💡 を運ぶタンパクであると同時に、ATP7Bの機能低下そのものによって合成・分泌も減る。つまり低値は「が足りないから起きる」のではなく「を組み込む経路自体が壊れているから起きる」現象であり、この点を取り違えないことが検査解釈の出発点になる。

肝に蓄積しきれなくなったは血中へ遊離し、大脳基底核、)、腎尿細管、赤血球膜などへ沈着して各臓器を直接傷害する。6歳未満での発症はまれで、多くは学童期〜成人早期に肝症状またはとして顕在化するが、生涯のどの年代でも初発しうる。

臨床像

臨床像は無症候の異常から、あるいは肝所見を欠くまで極めて幅が広く、「肝臓の病気」とだけ捉えると神経・精神症状主体の例を見逃す。

系統 主な所見
無症候性上昇、、肝硬変、(しばしばCoombs陰性溶血を伴う劇症型)
神経 振戦、・嚥下障害、様の変化、
精神 性格変化、抑うつ、不安、、学業・の低下、睡眠障害
カイザー・フライシャー(KF)輪(への沈着)
血液・腎・骨 Coombs試験陰性の溶血性貧血、様の・骨折・関連する
その他 無月経などの内分泌異常、心筋症・不整脈
  • 肝症状が先行する例は比較的若年で発症しやすく、が前景に立つ例はやや遅れて(10代後半〜成人)発症する傾向があるが、明確な年齢での線引きはできない。
  • 急性の肝不全様の発症では、著明なの割にが相対的に低値となり、Coombs陰性溶血を伴う点が他のと鑑別する手がかりになる。
  • 未診断のまま経過するとが非可逆的な(大脳基底核の萎縮・)に至りうるため、原因不明の若年発症の肝障害や運動障害・精神症状では鑑別に挙げ続ける。

診断

⚠️ 単一の検査だけで確定も除外もできない。血清低値、24時間尿中高値、によるKF輪の確認、での定量、ATP7Bの遺伝学的検査を組み合わせ、のような統合的なスコアリングで診断確度を判断する。

flowchart TD
    A["原因不明の肝障害 または 若年発症の運動障害・精神症状"] --> B["血清<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ceruloplasmin'>セルロプラスミン</span>を測定"]
    B --> C["24時間尿中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>排泄を測定"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp examination'>細隙灯検査</span>でKF輪の有無を確認"]
    D --> E{"所見が典型的か(低<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ceruloplasmin'>セルロプラスミン</span>+高尿中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>+KF輪など)"}
    E -->|"典型的"| F["臨床診断として治療開始を検討"]
    E -->|"非典型・境界域"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver biopsy'>肝生検</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>定量、ATP7B遺伝学的検査を追加"]
    G --> H["各所見を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leipzig score'>ライプツィヒスコア</span>的に統合"]
    F --> I["診断確定"]
    H --> I
    I --> J["家族内スクリーニング(同胞・血族)を実施"]
  • 血清低値が典型だが、炎症・妊娠・エストロゲン投与ではし、逆に他の重症肝疾患・ネフローゼ・でも低下しうるため、単独では特異的でない。
  • 血清総に結合したが主体のため、低下に伴っても低値になってよい。「が高くないから否定的」という解釈は誤りであり、遊離(非結合)の相対的増加という病態を見落とす。
  • 24時間尿中排泄増加は診断を支持する重要な所見で、症候性例での超過が診断の助けになる。
  • KF輪は神経症状を伴う例では高頻度に陽性だが、肝症状のみの例や小児例では陰性のこともあり、なければ除外できるわけではない。
  • 診断が非典型・境界域の場合は、による肝定量、ATP7Bの遺伝子解析を追加し、これらをのような統合的な枠組みで判断する。
  • 診断確定後は同胞・血族の家族内スクリーニング()を必ず行う。

治療

治療は生涯にわたるであり、病期(症候性か無症候・か)と重症度(か否か)で薬剤選択と緊急性が変わる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Wilson disease'>ウィルソン病</span>の診断確定"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute liver failure, ALF'>急性肝不全</span> または 内科治療に反応しない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decompensated cirrhosis'>非代償性肝硬変</span>か"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chelation therapy'>キレート療法</span>の効果を待たず緊急に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver transplantation'>肝移植</span>評価へ"]
    B -->|"いいえ"| D{"症候性の肝・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological disorder'>神経疾患</span>か"}
    D -->|"はい"| E["D-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-penicillamine'>ペニシラミン</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trientine'>トリエンチン</span>で除<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>を開始"]
    D -->|"無症候・発症前・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance phase'>維持期</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zinc'>亜鉛</span>または低用量<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chelating agent'>キレート薬</span>で維持"]
    E --> G["神経症状の一過性悪化に注意し専門施設で漸増"]
    G --> H["生涯継続し尿中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='copper'>銅</span>・肝機能・血算・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological findings'>神経所見</span>を定期監視"]
    F --> H
    C --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bridge (bridging therapy)'>ブリッジ</span>として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic plasma exchange, TPE'>血漿交換</span>などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracorporeal therapy'>体外循環療法</span>を考慮"]
場面 治療の要点
症候性の肝疾患・ D-またはによるを開始する。いずれも尿中への排泄を促す。神経症状は導入初期に一過性に悪化しうるため、専門施設で低用量から漸増する
無症候・ (酢酸など)を用いる。腸管でを誘導しての吸収そのものを抑える機序であり、とはが異なる
、または内科治療に反応しない の反応を待たず緊急に評価を行う。としてなどのを考慮することがある
  • の多い食品(レバー、、ナッツ、ココアなど)は治療初期に控えるが、食事制限だけで治療の代替にはならない。
  • 治療は原則生涯継続する。中断は病態のにつながりうるため、自己判断での中止は避ける。
  • 効果と過治療の両方を、24時間尿中、非結合、血算(溶血・骨髄抑制)、肝機能、腎機能、などで定期的に監視する。
  • 妊娠中も治療は継続する(薬剤選択・用量は専門施設で個別に調整する)。

まとめ

  • ATP7Bにより、への組込みと胆汁排泄の両方が障害され、肝から全身臓器へがあふれ出す疾患である。
  • 臨床像は肝・神経・精神・眼・血液腎骨と極めて多彩で、肝症状を欠くのみの例もある。
  • 診断は単一検査では確定できず、低値・24時間尿中高値・KF輪・肝定量・遺伝学的検査を的に統合する。血清総は低値でもを否定しない。
  • 治療は症候性ではD-または、無症候・ではと病期に応じて選択し、生涯継続する。
  • や内科治療に反応しないでは、の効果を待たず緊急に評価へ進む。
  • 診断確定後は同胞・血族への家族内スクリーニングを忘れない。