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Disease Atlas · 肝胆膵 · 疾患

ヘモクロマトーシス

Hereditary hemochromatosis

別名
HH遺伝性ヘモクロマトーシス
臓器系
肝胆膵
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C-49:代謝性・遺伝性肝疾患内科学 E-09:プリン・鉄・銅代謝および希少代謝疾患内科学 S-36:ヘモクロマトーシスとウィルソン病
鑑別疾患
ウィルソン病α1アンチトリプシン欠乏症
続発疾患
肝硬変肝細胞癌2型糖尿病男性性腺機能低下症ポルフィリン症
症状
倦怠感肝腫大
検査値
トランスフェリン飽和度フェリチン
画像所見
心臓・肝臓のT2*MRI
禁忌薬
水酸化鉄ポリマルトース硫酸鉄

🧠 全体像は「という鉄の門番が働かなくなり、腸管からの鉄吸収が止まらなくなる」病気として覚える。HFE遺伝子変異(代表はC282Y)により産生が低下し、を介した鉄放出が制御を失って、体内総鉄量が正常の2〜6 gから数十gへ膨れ上がる。診療の幹は、①で鉄過剰を疑い、②遺伝子型との除外で確定し、③によって過剰鉄を計画的に除去し、④肝硬変が成立した後は生涯HCCを続ける、という順序建てである。

病態

鉄の吸収・利用・貯蔵は、肝で産生されるが中心となって制御される。・マクロファージの細胞膜にある鉄の出口チャネルに結合し、これを分解・させることで血中への鉄放出を抑える働きを持つ。体内の鉄が十分にあるときはが増え、鉄不足時には減るというが正常な鉄恒常性の要である。

では、この調節系そのものが遺伝子変異によって壊れる。最も頻度が高いのはHFE遺伝子のp.Cys282Tyr(C282Y)で、欧州系集団における古典的遺伝子型である。HFE蛋白はと結合して産生を促す役割を持つため、その機能喪失は産生不足に直結する。が働かないとが分解されずに働き続け、腸管からの鉄吸収と、マクロファージ・肝細胞からの鉄放出が抑制されないまま持続する。

flowchart TD
    A["HFE遺伝子変異(代表はC282Y<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homozygote'>ホモ接合体</span>)"] --> B["肝での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepcidin'>ヘプシジン</span>産生低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferroportin'>フェロポルチン</span>の分解が起こらず鉄放出が持続"]
    C --> D["腸管鉄吸収の制御不能な亢進"]
    C --> E["マクロファージからの鉄放出亢進"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transferrin saturation, TSAT'>トランスフェリン飽和度</span>上昇"]
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free iron'>遊離鉄</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-transferrin-bound iron'>非トランスフェリン結合鉄</span>)の組織沈着"]
    G --> H["肝・膵・心・下垂体・関節・皮膚での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>"]
    H --> I["線維化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenchymal injury'>実質障害</span>(肝硬変、糖尿病、心筋症、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypogonadism'>性腺機能低下</span>)"]

💡 ポイント: は「鉄が多すぎる病気」ではなく「鉄を減らす仕組み()が働かない病気」である。マクロファージにも鉄が入ってくるが飽和しやすく、その結果としてあふれた(肝細胞、)に沈着してROSによるを起こす点が、後述する症(マクロファージ優位の鉄沈着)との違いを理解する鍵になる。

遺伝子型による分類

HFE関連()が大多数を占めるが、非HFE型の遺伝性も存在し、いずれも系のどこかに異常を来す。

病型 特徴
1型( HFE(C282Yが代表) 欧州系集団で最多、成人発症
2型( HJV(2A型)、HAMP(2B型) 小児〜若年での重症鉄過剰、・心筋症が前景に出やすい
3型 TFR2 HFE型に類似した臨床像
4型( SLC40A1 常染色体優性。マクロファージ優位に鉄が蓄積し初期はTSATが正常〜低値のまま高を来す非典型パターンを取り得る

臨床像

  • 女性は月経・妊娠による鉄喪失があるため発症が遅れやすく、症状発現はしばしば閉経後になる。性差だけを理由に除外しない。
  • 典型的な発症年齢は中高年(男性で50歳代が目安)で、疲労感が最も早期からみられる非特異的症状である。
  • +メラニン増加による「ブロンズ色」)と糖尿病(膵実質への鉄沈着によるβ)を併せ持つ古典像はと呼ばれる。
  • 、進行すれば肝硬変とその合併症を来す。
  • 心筋への鉄沈着により心筋症・不整脈を来し得る。
  • 下垂体性の、無月経、)。
  • 手の第2・第3中手指節(MCP)関節を中心とした(「鉄の握手」と称されることがある)。
  • ⚠️ 死因として重要なのは肝硬変からの、肝不全、心疾患である。

診断

TSATとによるスクリーニングを起点に、遺伝子型確認との除外を経て確定診断へ進む。

flowchart TD
    A["疲労・肝機能異常・家族歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arthropathy'>関節症</span>などから鉄過剰を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='TSAT'>空腹時トランスフェリン飽和度</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>を測定"]
    B --> C{"TSATが閾値を超えるか(目安:女性45%超、男性・閉経後女性50%超)"}
    C -->|"いいえ"| D["炎症、MASLD、アルコールなど他の高<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>原因を検討"]
    C -->|"はい"| E["HFE<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>(C282Y/H63D)と輸血歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood dyscrasias'>血液疾患</span>の聴取で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary iron overload'>二次性鉄過剰</span>を除外"]
    E --> F{"C282Y<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homozygote'>ホモ接合体</span>など<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hereditary hemochromatosis'>遺伝性ヘモクロマトーシス</span>に合致するか"}
    F -->|"はい"| G["MRI(R2/R2*法)で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver iron concentration'>肝鉄濃度</span>・線維化を非侵襲的に評価"]
    F -->|"いいえ・非典型"| H["非HFE型(HJV・HAMP・TFR2・SLC40A1)を検討し専門施設で精査"]
    G --> I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>が高値(目安1,000 ng/mL超)または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver enzymes'>肝酵素</span>異常があるか"}
    I -->|"はい"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver biopsy'>肝生検</span>で線維化・肝硬変の有無を評価"]
    I -->|"いいえ"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phlebotomy'>瀉血</span>導入へ、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver biopsy'>肝生検</span>は省略可"]
    J --> K
  • TSAT(=血清鉄÷×100)が第一のスクリーニング指標で、女性45%超・男性/閉経後女性50%超を鉄過剰の目安とする。
  • は鉄貯蔵量を反映するが炎症・肝障害・でも上昇するため、TSAT高値と組み合わせて判断する。
  • 診断が支持されればHFE遺伝子型(C282Yが代表)を確認し、などの可能性を病歴で除外する。
  • MRI(R2/R2*法)による定量は非侵襲的にと線維化を評価でき、多くの症例でを回避できる。
  • は全例には不要で、が高値(目安1,000 ng/mL超)の例や、非HFE型など診断・線維化評価が困難な例に限って行う。

一次性(遺伝性)鉄過剰症と二次性鉄過剰症の比較

項目 一次性(
主な原因 HFE等の系遺伝子変異 等)、過剰な非経口鉄投与、
鉄沈着の主座 (肝細胞、)優位 マクロファージ(脾・)優位、進行すると実質へも波及
TSAT 早期から高値 疾患・時期により様々(では高値になりやすい)
第一選択治療 原因に応じ(輸血依存例では不適)

治療

瀉血療法(第一選択)

治療の基盤はであり、体内の過剰鉄を計画的に除去することで臓器障害の進行を止め、生命予後を改善する。肝硬変が成立する前に開始すれば、正常寿命が期待できる。

flowchart TD
    A["診断確定(禁忌となる重度貧血がないことを確認)"] --> B["導入期:週1回程度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phlebotomy'>瀉血</span>(1回約500 mL)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>とヘモグロビンを毎回モニタリング"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>が約50 μg/Lまで低下したか"}
    D -->|"いいえ"| B
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance phase'>維持期</span>:頻度を延長し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>50〜100 μg/Lを維持"]
    E --> F{"肝硬変が既に成立しているか"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phlebotomy'>瀉血</span>継続に加えHCC<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surveillance'>サーベイランス</span>(画像±AFP、定期的に)を生涯継続"]
    F -->|"いいえ"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phlebotomy'>瀉血</span>継続下に定期フォロー"]
  • 導入期はが約50 μg/Lに達するまで週1回程度の(1回約500 mL)を行い、貧血を来しすぎないようヘモグロビンを毎回確認する。
  • 目標到達後はに移行し、頻度を減らしながら50〜100 μg/Lを目安に再蓄積を防ぐ。
  • 過度ので鉄欠乏や貧血を来さないよう、とヘモグロビンの両方を指標に調整する。
  • 鉄・高用量ビタミンCのは吸収亢進・酸化促進のため避け、生のはビブリオ・の重症感染リスクがあるため避ける。

瀉血が使えない場合

  • に耐えられない重度貧血や輸血依存例(等のが主だが、まれにでも心機能低下などでが困難な場合がある)では、経口)や注射用)を検討する。これらは腸管からの鉄吸収を減らすのではなく、体内に既に取り込まれた鉄と結合して尿中・便中排泄を促す薬剤である。
  • 極端な低鉄食のみでは病態を制御できず、の代替にはならない。

HCCサーベイランスと家族スクリーニング

  • ⭐ 肝硬変が一度成立すると、その後にで鉄を除去してものリスクは残るため、の成否にかかわらず生涯にわたるHCC(画像検査±AFP測定を定期的に)を継続する。
  • にはHFEまたはTSAT・測定によるスクリーニングを行い、・早期の導入により肝硬変への進行を防ぐ。

まとめ

  • はHFE遺伝子変異(代表はC282Y)による産生低下が起点となり、を介した鉄放出が制御を失って全身のに鉄が沈着する疾患である。
  • 臨床像は・糖尿病()、肝硬変、心筋症・不整脈、MCPと多臓器にまたがる。
  • 診断はTSAT・によるスクリーニングから遺伝子型確認・の除外へ進み、MRIでの定量がを多くの例で代替する。
  • 治療の基盤はであり、導入期は約50 μg/Lまで、は50〜100 μg/Lを目安に生涯管理する。不能例では)を検討する。
  • 肝硬変が成立した後はの成否によらずHCCを生涯継続し、近親者へは遺伝子・鉄指標のスクリーニングを行う。
  • 代謝の遺伝性疾患であるとは系 vs ATP7B系という機序の違いで対比され、 vs という治療の違いにもつながる。