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Disease Atlas · 全身 · 疾患

ポルフィリン症

Porphyria

臓器系
全身
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 S-18:ポルフィリン症
鑑別疾患
ギラン・バレー症候群鉛中毒色素性乾皮症
続発疾患
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
関連疾患
先天代謝異常症
治療薬
ヒドロキシクロロキン
原因薬剤
チオペンタールフェノバルビタールプリミドンフェニトインカルバマゼピンリファンピシン
症状
紅斑灼熱痛水疱発作腹痛便秘
検査値
クレアチニントランスフェリン飽和度フェリチン
原因となる疾患
ヘモクロマトーシス
適応薬
ヒドロキシクロロキン
禁忌薬
エタムシレートカルバマゼピンダナゾールチオペンタールピブメシリナムフェノバルビタールプリミドン

🧠 全体像は、経路を構成する8つの酵素のうち特定の1つが遺伝的に欠損し、その手前の物()が蓄積して起こるである。学習の軸は単純で、「どの酵素が止まっているか」で病型が決まり、「止まっている場所が肝臓で使われる経路か骨髄(赤芽球)で使われる経路か」で症候が変わる。肝臓側の初期段階(〜プロトポルフィリノーゲン酸化酵素)が止まると激しい腹痛・自律神経症状・からなる急性発作を来す急性肝性になり、経路のより下流やが蓄積するとが前景に立つ。診療の幹は、①発作中の・δ-で急性肝性をスクリーニングし、②なら尿・血漿・便ので病型を確定し、③急性発作は誘因除去+静注、反復発作はgivosiran、皮膚型(特に、PCT)はまたは低用量で治療する、という順序である。

病態

ヘム合成経路と酵素欠損による病型分岐

ヘムはミトコンドリアと細胞質を行き来する8段階の経路で合成される。出発点はグリシンとで、最終産物はヘムである。であるALA合成酵素(ALAS)は体内のヘム量によるを受け、CYP450・アルコール・絶食・エストロゲン変動などによって発現が誘導される。この経路のどこか1つの酵素の活性が遺伝的に約50%以下に低下すると、その手前の物が蓄積し、蓄積する部位・物質の性質によって特有の病型が生じる。

flowchart TD
    A["グリシン + <span class='jp-term jp-term-diagram' title='succinyl-CoA'>スクシニルCoA</span>"] --> B["δ-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aminolevulinic acid (ALA)'>アミノレブリン酸</span>"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ALA dehydratase (porphobilinogen synthase)'>ALA脱水酵素</span>(ALAD)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PBG'>ポルフォビリノーゲン</span>"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='HMBS'>ヒドロキシメチルビラン合成酵素</span>"| D["ヒドロキシメチルビラン"]
    D -->|"ウロポルフィリノーゲンIII合成酵素(UROS)"| E["ウロポルフィリノーゲンIII"]
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='UROD'>ウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素</span>"| F["コプロポルフィリノーゲンIII"]
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CPOX'>コプロポルフィリノーゲン酸化酵素</span>"| G["プロトポルフィリノーゲンIX"]
    G -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PPOX'>プロトポルフィリノーゲン酸化酵素</span>"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protoporphyrin IX'>プロトポルフィリンIX</span>"]
    H -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='FECH'>フェロケラターゼ</span>+ Fe2+"| I["ヘム"]

💡 ポイント: 最初のステップを触媒するALASは「欠損」ではなく「誘導による」が病態の主役である。CYP450を誘導する薬剤・アルコール・絶食はALAS1(肝型)の発現を高め、下流の酵素欠損によりせき止められている経路にさらに基質を押し込むことで急性発作を誘発する。つまり急性発作の引き金は「上流のALASが働きすぎる」ことであり、絶食時のブドウ糖投与や誘因薬剤の中止が治療の理にかなっている理由もここにある。

酵素欠損と病型の対応

すべてを網羅する必要はなく、代表的な対応関係を軸として覚える。

段階 欠損酵素 生じる病型 分類
ALA→PBG (ALAD) ALAD欠損症 急性肝性(きわめてまれ)
PBG→ヒドロキシメチルビラン 急性肝性(最も頻度が高い)
→ウロポルフィリノーゲンIII ウロポルフィリノーゲンIII合成酵素(UROS) (CEP、Günther病) 赤芽球性・皮膚型(重症・水疱性)
→コプロポルフィリノーゲンIII ※多くは後天性、まれに接合体欠損で肝赤芽球性 皮膚型(全中最多)
→プロトポルフィリノーゲンIX 急性肝性+状を伴うことがある
(VP) 急性肝性+状(南アフリカ系でのが有名)
→ヘム 赤芽球性・非水疱性

⚠️ 例外として、赤芽球型ALA合成酵素(ALAS2)は「欠損」ではなくによりX連鎖性プロトを来す。ALAS2の機能低下は別疾患(X連鎖性)であり、ではない点を混同しない。

臨床像

病型は大きく「急性肝性群」と「皮膚型(型)」の2軸で整理する。両者の症候は重ならないことが多いが、HCPとVPは急性発作と状の両方を来しうる。

代表疾患 症候の中心
急性肝性 AIP、HCP、VP、ALAD欠損症 急性の腹痛・自律神経症状・発作、は原則なし(HCP・VPは状を伴うことがある)
水疱性皮膚型 PCT、CEP、肝赤芽球性 日光露出部の皮膚脆弱性、、瘢痕・色素沈着、
非水疱性 EPP、X連鎖性プロト 日光曝露直後からの・紅斑(水疱を伴わない即時型

急性発作の5要素

急性肝性の発作は、以下の5つの要素で捉えると典型像を思い出しやすい。

  1. 腹痛 — ほぼ必発で、しばしば激烈だがに乏しく、身体所見と症状の強さが解離する。
  2. 自律神経症状 — 頻脈、高血圧、悪心・嘔吐、便秘。
  3. — 不安、不眠、、せん妄など多彩な精神症状。
  4. 末梢神経障害 — 運動優位の軸索型で、進行するとに至りされうる。
  5. 低Na血症 — SIADH様の機序(下記)でを来し、痙攣の一因にもなる。

⚠️ との鑑別で重要な落とし穴: AIPの急性発作は運動優位の末梢神経障害と自律神経症状の点でに酷似しうるが、AIPでは激しい腹痛・精神症状・低Na血症を伴いやすく、髄液蛋白は通常正常である。原因不明の急性腹痛+末梢神経障害を「らしい」で片づけず、PBG・ALAを測る発想を持つ。

💡 低Na血症の機序: AIPの急性発作では、分泌亢進(SIADH様の機序)や、悪心・経口摂取不良に伴うが組み合わさってを来すことがある。SIADHが「不要なが続く」病態であるのに対し、AIPの低Na血症は急性発作という別の一次病態から二次的に生じる点が異なる。

誘因

急性発作は複数の誘因が重なって顕在化することが多い。

診断

急性発作を疑ったら、まず発作中の検体でPBGとALAをクレアチニン補正して測定する。これが陰性またはわずかな上昇にとどまれば急性肝性は否定的である。

flowchart TD
    A["原因不明の急な激しい腹痛+自律神経症状(頻脈・高血圧)±精神症状・末梢神経障害・低Na血症"] --> B["発作中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spot urine (sample)'>随時尿</span>PBG・ALAをクレアチニン補正して測定"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='markedly elevated'>著明高値</span>か"}
    C -->|"はい"| D["急性肝性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='porphyria'>ポルフィリン症</span>と診断"]
    D --> E["尿・血漿・便<span class='jp-term jp-term-diagram' title='porphyrin fractionation'>ポルフィリン分画</span>でAIP/HCP/VP/ALAD欠損症を鑑別"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>で確定診断・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='first-degree relative'>第一度近親者</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carrier screening'>保因者スクリーニング</span>"]
    C -->|"いいえ・軽度上昇のみ"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute porphyria'>急性ポルフィリン症</span>は否定的、他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute abdomen'>急性腹症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medication poisoning'>薬物中毒</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lead poisoning'>鉛中毒</span>などを再評価"]
  • PBG・ALA(クレアチニン補正)が第一段階のスクリーニングであり、であれば急性肝性の存在自体はほぼ確定する。
  • 病型(AIP/HCP/VP/ALAD欠損症)の鑑別には、尿・血漿・便のパターンを組み合わせる。血漿蛍光スペクトロメトリーはVPの迅速なスクリーニングに有用である。
  • 最終的な確定診断とにはHMBSCPOXPPOXALADなど)を用いる。
  • 皮膚型が疑われる場合は血漿・尿・便を病型に応じて測定する。PCTでは併せて、HCV、HIV感染、アルコール摂取歴、歴を評価する。

治療

急性肝性ポルフィリン症の発作

誘因薬剤・アルコールを中止し、入院のうえ疼痛、悪心、血圧、低Na血症、痙攣、呼吸筋力を継続的に監視する。

flowchart TD
    A["急性発作を疑う・確定"] --> B["誘因薬剤・アルコールを中止し入院、疼痛・血圧・Na・呼吸筋力を監視"]
    B --> C{"軽症か"}
    C -->|"軽症"| D["炭水化物負荷(経口または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous glucose'>静注ブドウ糖</span>)+鎮痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiemesis'>制吐</span>で経過観察"]
    C -->|"中等症以上・神経症状あり"| E["できるだけ早期に静注<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemin'>ヘミン</span> 3〜4 mg/kg/日を4日間以上投与"]
    D --> F{"24時間程度で改善しないか悪化"}
    F -->|"はい"| E
    F -->|"いいえ"| G["軽快後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Follow-up Routines'>フォローアップ</span>"]
    E --> G
    G --> H{"年に複数回など反復発作か"}
    H -->|"はい"| I["givosiran(ALAS1を標的とするsiRNA、月1回皮下注)の導入を専門施設で検討し、肝・腎機能と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='homocysteine'>ホモシステイン</span>を定期的に監視"]
    H -->|"いいえ"| J["誘因薬剤の回避と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ictal'>発作時</span>対応について患者教育を継続"]
  • 中等症以上または神経症状を伴う発作では、できるだけ早期に静注(目安3〜4 mg/kg/日を4日間以上)を投与する。はALASの発現を負に制御し、蓄積した前駆体の産生を直接抑える。
  • 炭水化物負荷(経口または)は同様にALAS発現を抑制する補助的手段であり、軽症例や投与までの中に用いるものであって、重症発作におけるの代替にはならない。
  • ・低Na血症の補正を並行し、薬剤を新規に追加する際はにおける安全性を必ず確認する。
  • 反復発作(目安として年4回以上など頻回の急性発作)には、肝でALAS1のmRNAを標的として分解する低分子干渉RNA(siRNA)製剤givosiranを専門施設で導入する。月1回の皮下注射で、ALA・PBGの産生自体を持続的に抑制し発作頻度を減らす。肝機能・、および注射部位反応、上昇(血栓塞栓症リスクとの関連が指摘される)を定期的に監視する。

皮膚型(特にPCT)

  • 誘因(アルコール、エストロゲン、鉄過剰、HCV・HIV感染など)をまず評価・是正する。
  • 第一選択はであり、体内鉄を減らすことで肝の活性阻害を軽減し寛解を得る。
  • が適さない例(貧血が強い、困難など)では低用量を用いる。量の通常投与では肝細胞からが急激に動員され肝障害・を来しうるため、PCTでは通常より少ない低用量・低頻度で投与する点が特徴である。
  • 日光防護を徹底し、基礎にあるHCV・HIV感染や鉄過剰の治療を並行する。

💡 PCTとの関連: PCTの多くは後天性・性だが、鉄過剰(HFE関連を含む)はUROD活性を阻害し発症の誘因となる。したがってPCTと診断した患者では、による鉄過剰スクリーニングを行い、の合併を確認することがの適応の裏づけ)にも直結する。

まとめ

  • 経路の8酵素のうち1つが欠損することで病型が決まり、肝臓側の上流(ALAD〜PPOX)が障害されると急性肝性、下流・が障害されると皮膚型となる。
  • 急性発作は腹痛・自律神経症状・・末梢神経障害・低Na血症の5要素からなり、CYP450・アルコール・絶食・エストロゲン変動が誘因となる。とのに注意する。
  • 診断は発作中のPBG・ALA(クレアチニン補正)を第一段階とし、ならで病型を確定する。
  • 急性発作は誘因除去と静注で治療し、反復発作にはgivosiranを専門施設で検討する。
  • PCTなど皮膚型はまたは低用量で治療し、鉄過剰の評価(の除外・合併確認)を並行する。