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Disease Atlas · 全身 · 疾患

ミトコンドリア病

Mitochondrial disease

別名
Mitochondrial disordersMitochondrial cytopathyミトコンドリア脳筋症
臓器系
全身神経運動器
科目
NeurologyBiochemistryPediatricsGeneticsENT
トピック
神経内科 G1-34:ミオパチー生化学 3/4:酸化的リン酸化によるATP合成;終末酸化の酸化還元反応;電子伝達系の酵素複合体小児科 3-64:先天代謝異常症小児科 3-61:単一遺伝子疾患の遺伝形式遺伝学 1.1:ヒト遺伝学入門遺伝学 4.2:遺伝における性の役割遺伝学 4.3:家系分析入門神経内科 G2-27:若年成人の脳血管障害耳鼻咽喉科 19:騒音性・感染性・中毒性内耳障害
上位概念
先天代謝異常症
鑑別疾患
デュシェンヌ・ベッカー型筋ジストロフィー重症筋無力症糖原病脳梗塞
合併症
心筋症糖尿病感音難聴てんかん
症状
眼筋麻痺眼瞼下垂筋力低下発作難聴動悸嘔吐ミオクローヌス
検査値
乳酸

🧠 全体像を貫く一本軸は)の障害によるATP産生不全である。この軸の上に2つの層が重なる。①の二重性を構成するタンパクはmtDNA(・閾値効果)と核DNA(遺伝)の両方にコードされるため、「でなければではない」という思い込みは誤り。②侵される臓器の必然性:脳・骨格筋・心筋・網膜・内耳・という、常時ATPを大量消費する臓器から症状が出る。この2層を押さえたうえで、MELAS・MERRF・などの症候群名は「同じ病態がどの臓器・どの遺伝子で強く出たか」の呼び名にすぎないと理解すると整理しやすい。

病態:酸化的リン酸化障害という共通軸

(複合体I〜IV)と(複合体V)からなる系は、細胞のATP産生の大部分を担う。この系のどこかが障害されると、ATP産生が低下するだけでなく、の停滞から(ROS)が漏出し、周囲の・脂質・タンパクをさらに傷害する悪循環が生じる。ピルビン酸はに処理できずに乳酸へ逃げるため、乳酸/ピルビン酸比の上昇が代謝的なになる。

遺伝形式:mtDNAと核DNAの二重性

複合体を構成する約90種類のタンパクのうち、mtDNAがコードするのは13個のポリペプチドのみで、残りは核DNAにコードされミトコンドリア内へ輸送される。したがって同じ「の障害」でも、遺伝形式はの所在で正反対になる。

mtDNA性 核DNA性
遺伝形式 (父からは伝わらない) 常染色体優性/劣性、X連鎖など遺伝
と表現型 細胞あたり数千コピー。(全コピーが同一)と・野生型が混在)があり、の割合が閾値(典型的に80%前後)を超えて初めて発症する 通常は全細胞が同一遺伝子型(両遺伝子)
組織間・同胞間差 有糸分裂時のランダムな分配()で率が臓器・世代ごとにばらつき、同じ変異でも表現型が家系内で大きく異なる 通常は遺伝形式どおりので説明できる
代表例 MELAS(m.3243A>G)、MERRF(m.8344A>G)、LHON、NARP )、多くのLeigh症候群

⚠️ 」は誤り。 POLGのように核DNAの遺伝子異常がmtDNAの複製・修復を担う場合、疾患そのものは(またはAD)として遺伝する。で父系伝達が見えても、核DNA性のは否定できない。

なぜ高エネルギー臓器が侵されるか

ATP依存度が高く、を代替する経路(など)に乏しい臓器ほど閾値効果に敏感に反応する。脳(特に大脳基底核・脳幹)、骨格筋、心筋(伝導系を含む)、網膜、がその代表で、症候群ごとにどの臓器が強く侵されるかで臨床像が決まる。⭐ 一見に見える神経症状・難聴・糖尿病・心筋症・が1人の患者に同居しているときは、個々の疾患として説明しようとする前にする。

代表的な症候群

症候群 主な原因 中核像
MELAS m.3243A>G(tRNA-Leu、mtDNA) ミトコンドリア脳筋症++脳卒中様発作。若年での片頭痛・嘔吐を伴う脳卒中様発作はに一致しない点が鑑別点
MERRF m.8344A>G(tRNA-Lys、mtDNA) てんかん+での
mtDNA・核DNA双方(複合体・PDH関連遺伝子)多数 乳児〜小児期発症の亜急性壊死性脳症。両側基底核・、発達退行、障害
CPEO/ mtDNAの単一大欠失(多くは 進行性の両側性麻痺。は20歳未満発症+を伴う重症型
Leber遺伝性(LHON) ND1/ND4/ND6などmtDNA点変異 若年男性に多い亜急性無痛性の両側
MIDD m.3243A>G(MELASと同一変異の別表現型) の糖尿病+感音難聴
NARP m.8993T>G/C(サブユニット、mtDNA) 末梢神経障害+。変異量が多いとLeigh様表現型になる
mtDNAの単一大欠失 乳児期の。生存例は後年CPEO/Kearns-Sayre様病像へ移行しうる

臨床の手がかりと診断の流れ

運動不耐(少しの運動で乳酸が過剰に上昇し疲労・筋痛を来す)、原因不明の脳卒中様発作、そして上記のように臓器間で一見関連のない所見の組み合わせが3大手がかりである。血中・髄液の乳酸/ピルビン酸比の上昇は支持所見になるが、正常値でも除外はできない。

flowchart TD
    A["多臓器にまたがる説明のつかない症状の組み合わせ<br>運動不耐・脳卒中様発作"] --> B["乳酸/ピルビン酸比、CK、心・眼・聴覚評価"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain MRI'>脳MRI</span>(基底核・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brainstem lesion'>脳幹病変</span>の有無)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle biopsy'>筋生検</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ragged red fiber'>赤色ぼろ線維</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='COX-negative fiber'>COX陰性線維</span>"]
    D --> E["mtDNA・核DNAの遺伝子解析で確定診断"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='causative gene'>原因遺伝子</span>に応じ遺伝<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counseling'>カウンセリング</span>へ"]

💡 での(ゴモリ・で赤く縁取られる異常ミトコンドリアの)とCOX(チトクロムC酸化酵素)陰性線維は古典的な組織学的手がかりだが、乳児期や軽症例では陰性のこともある。確定診断は遺伝子解析であり、が陰性でも遺伝学的に矛盾しなければを否定しない。

治療

を治す根本治療はなく、対症療法と増悪因子の回避が中心になる。急性期のMELAS脳卒中様発作にはL-の静注・が用いられ、日本では(1回1〜4gを1日3回)が発作の再発抑制に保険適用されている。ビタミン・(リボフラビン、Q10など)を組み合わせる施設が多いが、エビデンスは限定的である。

⚠️ 避けるべき薬剤を病型に応じてする。 バルプロ酸は肝障害・を誘発しうるため、特にが疑われる患者では原則禁忌である。などのはmtDNAの12SリボソームRNA変異(m.1555A>Gなど)保有者で難聴を誘発・増悪させやすい。は複合体Iを阻害しを助長するため避け、スタチンQ10合成を阻害しうるため筋症状のある患者では慎重投与とする。

遺伝カウンセリング

mtDNA性の変異は母親からのみ伝わり、罹患男性から子への伝達はない。率は卵細胞形成時のでランダムに変動するため、同じ母の同胞でも発症の有無・重症度が大きく異なりうる。核DNA性の疾患ではAD/AR/X連鎖の通常の遺伝形式に従うため、の解釈を誤らないようの所在を先に確認する。

⭐ 出生前・では率が連続的に分布するため「罹患/非罹患」を単純に二分できないことが多く、専門施設での遺伝が前提になる。ドナーの細胞質を用いてmtDNAを置き換える(いわゆる「3人の生物学的親をもつ子」)が海外の一部施設で報告されているが、実施の可否は国・施設ごとので大きく異なる。

まとめ

  • の共通軸は障害によるATP産生不全であり、mtDNA性(・閾値効果)と核DNA性(遺伝)の両方が原因になりうる。
  • 脳・骨格筋・心筋・網膜・内耳・という高エネルギー臓器が侵されやすく、一見な多臓器所見の組み合わせが臨床の手がかりになる。
  • MELAS・MERRF・・CPEO/・LHON・MIDD・NARP・など、侵される臓器と原因変異の組み合わせで症候群名が決まる。
  • は支持所見にとどまり、確定診断は遺伝子解析による。
  • 治療は対症的で、バルプロ酸・アミノグリコシド・など増悪させる薬剤を避け、MELASの脳卒中様発作にはL-を用いる。mtDNAは父系遺伝しないため、遺伝ではの所在を先に確認する。