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Disease Atlas · 全身 · 中毒

メタノール中毒

Methanol poisoning

別名
メチルアルコール中毒
臓器系
全身眼科神経
科目
Forensic MedicineInternal MedicineTranslational Medicine and Pathophysiology
トピック
法医学 31:一酸化炭素中毒とヒ素・シアン化物・鉛・メタノール中毒内科学 S-62:有害物質中毒―エチレングリコール・メタノール・重金属・毒キノコ病態生理学 2-5:アルコールの代謝
上位概念
毒性アルコール中毒
鑑別疾患
アルコール性ケトアシドーシスイソプロパノール中毒サリチル酸中毒急性アルコール中毒
治療薬
ホメピゾールエタノール炭酸水素ナトリウムロイコボリン葉酸
症状
悪心嘔吐腹痛霧視視力低下中心暗点散瞳視神経萎縮頭痛めまい意識障害昏睡
検査値
アニオンギャップ浸透圧代謝性アシドーシス重炭酸

🧠 全体像:は⭐ 「自体はほぼ無毒で、(ADH)が作るが毒である」という一点から全体が導かれる。だから治療は、①(またはエタノール)でADHを止めて毒物の生産を凍結し、②でと既にできた代謝物を抜く、という2段構えになる。⚠️ そして毒物が「これから作られる」ものである以上、初診時には症状が乏しい潜伏期があり、もが先・が後という時間差を示す。この時間軸を落とすと、最も治しやすい時期の患者を帰してしまう。

曝露源

(、)は・無色・可燃性の液体で、臭いはエタノールと似ている。、、燃料、などに含まれる。⭐ のほぼ全例は経口摂取による(まれに吸入・)1。

・混和酒による集団発生は世界各地で繰り返し起こっており、「酒を飲んだ後に目が見えなくなった患者が複数」という状況ではまずを疑う。

病態(機序)

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methanol'>メタノール</span>摂取<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methanol'>メタノール</span>自体の毒性は低い)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alcohol dehydrogenase (ADH)'>アルコール脱水素酵素</span>(ADH)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='formaldehyde'>ホルムアルデヒド</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='formaldehyde dehydrogenase'>ホルムアルデヒド脱水素酵素</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='formic acid'>ギ酸</span>の蓄積<br>(濃度が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='morbidity'>罹病率</span>・死亡率と直接相関)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytochrome oxidase'>シトクロム酸化酵素</span>の阻害<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative phosphorylation'>酸化的リン酸化</span>の障害"]
    F --> G["網膜・視神経の障害<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual dysfunction'>視機能障害</span>・失明"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='putamen'>被殻</span>など基底核の壊死"]
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high anion gap metabolic acidosis'>高アニオンギャップ代謝性アシドーシス</span>"]
    I --> F
    E --> J["葉酸依存性の経路で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='carbon dioxide, CO₂'>二酸化炭素</span>と水へ"]

💡 毒性の主役はひとつである。 はを阻害してを止めるため、ではと同じ「酸素があるのに使えない」状態を作る2。濃度は・死亡率と直接相関し、アシドーシスも産生に起因する1。アシドーシスが進むとのが増えて細胞内へ入りやすくなるため、アシドーシス自体が毒性を増幅する悪循環がある。

💡 なぜ網膜となのか。 どちらも酸素とATPの需要が高く、代謝の余力が小さい組織である。によるの遮断が、まず余力の無い場所から表面化すると理解すると、とという一見なが1本の線でつながる。

潜伏期——初診時に症状が乏しい

⚠️ 摂取後約12〜24時間の潜伏期がある。 その後にの代謝性アシドーシスとが現れる1。潜伏期の長さは摂取量に依存する。

⚠️ エタノールを併飲していると潜伏期はさらに延びる。 エタノールがADHをしての代謝を遅らせるためで、曝露歴が得られない状況では診断が一段難しくなる2。「昨夜から飲んでいて、今は少し酔っているだけ」に見える患者が、翌日に失明して戻ってくることがありうる。

臨床像

時期 所見
早期(0〜12時間) 軽度のと消化器症状(悪心・嘔吐・腹痛)
潜伏期 症状が乏しい。ここで帰してしまう危険がある
後期(12〜24時間以降) 、、、意識障害から昏睡・痙攣

早期には軽度のと悪心・嘔吐・腹痛がみられ、頭痛・めまい・倦怠感を伴う1。

眼症状

⭐ はを最も強く示唆する所見である。 患者は、、を訴え、古典的には「吹雪の中を見ているような」視野と表現される。

診察では、部分的にしかしない、あるいはのと、に似た境界不明瞭なの充血を認める2。放置すれば不可逆のと永久失明に至る。

⚠️ の乏しい、あるいは消失したは重症曝露を示す所見である。 視力障害の有無は(の適応)そのものを動かすので、意識のある患者では必ず視力とを記録する。

中枢神経の後遺症

⚠️ を中心とした基底核の壊死が・の後期所見として描出されうる2。生存例でも・がとして残ることがあり、「命は助かったが元には戻らない」中毒である。

検査——ギャップの時間軸

⭐ は初期に開き、は遅れて開く。 両者は同時に開くのではなく、時間とともに入れ替わる。

時期 血中に多いもの
初期・エタノール併飲例 未代謝の 開大 まだ正常でありうる
後期 正常化しうる 開大

初期あるいはエタノール併飲例では、がまだへ代謝されていないためだけが開大しうる。後期にがへ変換されるとが上昇し、は正常化しうる2。

⚠️ どちらか一方が正常でもを除外しない。 が正常なら「遅れて来た患者」、が正常なら「早く来た患者」でありうる。曝露時刻を必ず聴取し、浸透圧とをに追う。

確定診断は血中濃度・濃度の測定によるが、多くの施設で結果は当日中に返らない。診断は代謝性アシドーシス、との開大の同定、および濃度による確認の組み合わせで行う2。⚠️ 強い疑いとアシドーシスがあれば結果を待たずにを開始する。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methanol'>メタノール</span>摂取が疑われる"] --> B["血液ガス・電解質・浸透圧・腎機能を採取"]
    B --> C{"疑いが強い、または<br>代謝性アシドーシスがある"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fomepizole'>ホメピゾール</span>を直ちに開始<br>(入手できなければエタノール)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium bicarbonate'>炭酸水素ナトリウム</span>でアシドーシスを補正"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='folinic acid'>ホリナート</span>(または葉酸)を静注"]
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual dysfunction'>視機能障害</span>・重症アシドーシス<br>高濃度・腎障害のいずれか"}
    G -->|"あり"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermittent hemodialysis'>間欠的血液透析</span><br>(透析中も<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antidote'>解毒薬</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='folinic acid'>ホリナート</span>を継続)"]
    G -->|"なし"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antidote'>解毒薬</span>と支持療法を継続し<br>ギャップと視力を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serial'>経時的</span>に追う"]

ADHの遮断

⭐ が第一選択のである1。ADHを直接阻害してその酵素活性を止め、が作られる最初の一段目を断つ。エタノールも同じ酵素を奪い合う代替薬で、よりADHへの親和性が高い(Kmが低い)ため競合に勝つ2。

⚠️ ただし「第一選択」の根拠は比較試験ではない。 診療指針は両者の優劣を示した臨床のデータは無いと明記したうえで、エタノール側の不利——複雑な投与設計、治療濃度の維持の困難、より広範な臨床検査モニタリングの必要、より多い有害事象——を理由にを推している。⚠️ 一方でには取得費用が比較的高いという欠点がある1。💡 したがって入手できない施設でエタノールを使うことは、今も正当な選択である。

💡 これは「解毒」ではなく「凍結」である。 ADHを止めても既にできたは減らないし、自体も体外へ出ていかない。は排泄や透析で毒物を抜くまでの時間を稼ぐ薬であり、だからアシドーシスの補正とが必ずセットになる。

⚠️ いつ解毒薬を始めるか

⭐ 臨床毒性の徴候が無い患者でも、まず代謝を阻害することが最優先である1。💡 潜伏期に入れるこそがこの治療の最大のである——毒はまだ作られていないのだから、ここで止めれば失明も起こらない。

現行の総説はADH阻害薬(またはエタノール)の適応を次のように整理している2。

適応 内容
① 濃度で決まる 血清濃度が 20 mg/dL 超
② 病歴+ギャップ の摂取の直近の病歴があり、かつギャップが10超
③ 強い臨床的疑い+2項目 強くを疑い、かつ 7.3未満/ 20 mmol/L未満/10超/尿中結晶 のうち2項目以上

⚠️ ③の4項目に尿中結晶が並んでいることに注意する。 尿中結晶はの所見なので、この4項目は「どのか分からない段階の判定」として読むのが自然である。⚠️ 単独の中毒で結晶が出ることを当てにしてはならない。

⭐ 濃度が得られない、あるいはギャップの解釈が難しい場面では、閾値を待たない。 総説は、代謝性アシドーシスがあり、症状または摂取の可能性のある病歴をもつ患者すべてにエタノールまたはを開始することが推奨されるとしている2。

エタノールを使う場合の実際

⚠️ エタノールは「の安い代用品」ではなく、の手技である。 総説が挙げる要点は次のとおりである2。

  • 目標血中エタノール濃度は約22 mmol/L(100 mg/dL)。ただしADHをめぐる競合は動的なので、必要量はその時点の濃度に依存する。濃度が分かっているなら、モル濃度での少なくとも1/4を保つ。
  • 5%ブドウ糖液に溶いた10%エタノールを600〜800 mg/kgで負荷し、66〜154 mg/kg/時で維持する。と同時にエタノールを飲んでいて初回の血中エタノールが既に100 mg/dLを超えていれば、負荷は省いてよい。
  • ⚠️ 中はを通常2倍にする。 そうしないとエタノール濃度の低下とともにの代謝が再開し、透析しているのに毒性が悪化する。
  • ⚠️ 中心静脈カテーテルとを備えたの環境で行う。も薬用エタノール静注製剤も無い場合は経口エタノールを希釈して用いうるが、胃炎・嘔吐を起こしうる。
  • ⚠️ エタノールとの併用にの利益は無いとされている。

アシドーシスの補正とギ酸の処理

血液透析

⚠️ は「だから」ではなく、代謝物の負荷と臓器障害の程度で決める。 EXTRIPはを推奨する適応として、に帰せられる昏睡・痙攣・新規の、血液pH 7.15以下の代謝性アシドーシス、十分な支持療法とにもかかわらず持続する代謝性アシドーシス、血清24 mmol/L超、血清濃度が使用下で700 mg/L超・エタノール使用下で600 mg/L超・ADH阻害薬なしで500 mg/L超、あるいはを伴う場合を挙げる3。

様式はが第一選択で、持続的様式も許容される代替である。終了は濃度200 mg/L未満かつ臨床的改善が得られた時点でよい3。総説はこれに加えて、を1 g/kg超摂取した場合も適応に挙げている2。

⚠️ 透析中もADH阻害薬と葉酸/を継続する3。💡 透析は自体も除去するので、漫然と通常量を続ければ過小投与になる(エタノールではを2倍にする2)。

⚠️ 中のは避ける。 の発生や重症化を増しうるためである3。

💡 「濃度が高い」だけでは緊急の透析理由にならない。 重症中毒でなく、濃度が高いだけでADHの遮断が十分に効いているなら、は直ちには必要でないとされている3。💡 ただしその代償は時間である。 ADHが阻害されるとの消失は0次から1次の動態へ移り、半減期は22〜87時間へ延びる2。⭐ 透析は「毒を作らせない」ためではなく「待つ時間を短くする」ために行う。

鑑別

疾患 見分けかた
単独では高アシドーシスもも来さない。⚠️ 併飲は珍しくないので「エタノールが検出された」ことはの否定にならない
同じくADH依存性の。・・が前面に出て、は主役にならない
ADHでまでしか代謝されず有機酸を作らないため、はあってもは開かない
と代謝性アシドーシスの混在。・が手掛かり
糖尿病性・ ケトン体が主体。⚠️ ではが開大しうる(とそのが上昇するため)ので、「が開いている=」と読まない

まとめ

  • 自体はほぼ無毒で、ADHが作るが毒である。はを阻害し、その濃度が・死亡率と直接相関する。
  • 摂取後12〜24時間の潜伏期があり、エタノール併飲でさらに延びる。初診時に症状が乏しいことが最大の落とし穴である。
  • (・・の乏しい・様の)と、後期の壊死が特徴的である。
  • ⚠️ は初期に開き、は遅れて開く。一方が正常でも除外できない。
  • ⭐ は臨床毒性の徴候が出る前に始める。血清20 mg/dL超、の摂取歴+10超、または強い疑い+(pH 7.3未満・20 mmol/L未満・10超・尿中結晶)のうち2項目以上が目安で、判断が難しければ代謝性アシドーシス+症状/曝露歴だけで開始してよい。
  • ⚠️ が第一選択なのは比較試験の結果ではない。両者の優劣を示した臨床のデータは無く、選ばれる理由はエタノールの扱いにくさ(投与設計・濃度維持・モニタリング・有害事象)で、側の欠点は費用である。
  • 治療は(代替はエタノール)でADHを止め、でアシドーシスを補正し(中止時のpH 7.35超を目標)、での代謝を助け、重症例ではで抜く。透析中もとを続け、⚠️ は避ける。
  • ⚠️ 透析の閾値はと共有しない。はpH 7.15以下・24 mmol/L超・新規ので切る。重症でなく濃度が高いだけなら、ADH阻害が効いているかぎり直ちには要らない。

出典

  1. 1.American Academy of Clinical Toxicology practice guidelines on the treatment of methanol poisoning(Journal of Toxicology - Clinical Toxicology(American Academy of Clinical Toxicology)・2002)急性メタノール中毒のほぼ全例が経口摂取によること。メタノール自体の毒性は比較的低く、代謝でホルムアルデヒドを経てギ酸となること。ギ酸の濃度と罹病率・死亡率に直接の相関があり、アシドーシスもギ酸産生に起因すること。ギ酸がシトクロム酸化酵素を阻害し眼毒性の主因であること。摂取後約12〜24時間の潜伏期を経てアシドーシスと視機能障害が現れること。治療は炭酸水素ナトリウムによるアシドーシス補正、ホメピゾールまたはエタノールによる代謝阻害、静注ホリナートによるギ酸代謝の促進、必要に応じた血液透析からなり、ホメピゾールが望ましい解毒薬であること閲覧 2026-09-02
  2. 2.The Perils of Methanol Exposure: Insights into Toxicity and Clinical Management(Toxics・2024)初期あるいはエタノール併飲例では、メタノールがまだギ酸へ代謝されていないため浸透圧ギャップだけが開大しうること。後期にメタノールがギ酸へ変換されるとアニオンギャップが上昇し、浸透圧ギャップは正常化しうること。エタノール併飲は潜伏期を延長させ、曝露歴が得られない場合の診断を難しくすること。眼所見として部分的にしか対光反応しないか無反応の散瞳、および偽乳頭炎に似た境界不明瞭な視神経乳頭の充血がみられること。CT・MRIで被殻の壊死が後期所見として描出されうること。ADH阻害薬としてホメピゾールとエタノールが用いられること。静注ホリナートを1 mg/kgから50 mgの範囲で4時間ごとに投与し、入手できなければ同用量の葉酸で代替しうること。炭酸水素ナトリウムはアシドーシスの完全補正を目標とし、初期には数時間で400〜600 mEqを要しうること。血液透析の適応に、代謝性アシドーシスまたはメタノールの検出を伴うあらゆる程度の視機能障害、重症の代謝性アシドーシス、血中メタノール濃度15.6 mmol/L(50 mg/dL)超が含まれること。ギ酸がシトクロム酸化酵素を阻害して酸化的リン酸化を阻害すること閲覧 2026-09-02
  3. 3.Recommendations for the role of extracorporeal treatments in the management of acute methanol poisoning: a systematic review and consensus statement(Critical Care Medicine(Extracorporeal Treatments in Poisoning [EXTRIP] workgroup)・2015)メタノール中毒で体外循環式治療を推奨する適応が、メタノールに帰せられる昏睡・痙攣・新規の視機能障害、血液pH 7.15以下の代謝性アシドーシス、十分な支持療法と解毒薬にもかかわらず持続する代謝性アシドーシス、血清アニオンギャップ24 mmol/L超、または血清メタノール濃度がホメピゾール使用下で700 mg/L超・エタノール使用下で600 mg/L超・アルコール脱水素酵素阻害薬なしで500 mg/L超、あるいは腎機能障害を伴う場合であること。間欠的血液透析が第一選択の様式であること。メタノール濃度200 mg/L未満かつ臨床的改善が得られた時点で終了できること。体外循環式治療中もアルコール脱水素酵素阻害薬と葉酸/ホリナートを継続すべきこと閲覧 2026-09-02