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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

アルコール性ケトアシドーシス

Alcoholic ketoacidosis

別名
アルコール性ケトーシスAKA
臓器系
内分泌・代謝消化器
科目
Internal MedicineTranslational Medicine and Pathophysiology
トピック
内科学 L-73:内科領域のアルコール関連疾患病態生理学 2-6:急性アルコール中毒病態生理学 2-16:代謝性酸塩基平衡障害:代謝性アシドーシスとアルカローシス
鑑別疾患
イソプロパノール中毒メタノール中毒飢餓性ケトーシス正常血糖ケトアシドーシス糖尿病性ケトアシドーシス・高浸透圧高血糖状態毒性アルコール中毒
関連疾患
アルコール使用障害
治療薬
チアミン
症状
悪心嘔吐腹痛頻呼吸頻脈低血圧
検査値
アニオンギャップ代謝性アシドーシスβヒドロキシ酪酸乳酸血糖カリウムマグネシウム血清リン浸透圧
元疾患
急性アルコール中毒

🧠 全体像:は⭐ 「飲んだから」ではなく「飲んで、そのあと食べられなくなったから」起こる。大量飲酒が嘔吐で終わり、数日間ほとんど食べていない——この経過が病歴の核である。エタノール代謝がを押し上げ、糖新生を止め、ケトン体をの側へ偏らせる。⚠️ その偏りのせいで()が弱陽性にとどまりうる——通常は陽性だが、陰性でも本症を否定できない——うえに、⚠️ 血糖も高くならない(正常〜低値、上がっても軽度)ので、を探す目では見つからない。治療は⭐ と、ブドウ糖を加えたであって、インスリンもも原則使わない。

典型的な経過

⭐ 病歴が診断の大半を占める。 慢性の大量飲酒者が特に多量に飲み、その飲酒が数日前に悪心・激しい嘔吐・腹痛で中断された——この形が古典的である1。「膵炎の疑い」「アルコール性胃炎」という病名で短期入院を繰り返している既往があることも多い。

診察所見は頻呼吸・頻脈・低血圧で、腹部にはびまん性の圧痛を認める(Cooperman(1974年)の7例では全例がの圧痛を示した)1。

⚠️ アシドーシスが高度でも意識は清明である。 これがと最も違う点で、意識変容があれば別の原因を探す1。Wrennの74例では意識変容は15%にみられたが、そのほぼ全例が低血糖・高度のアルコール中毒・感染で説明された1。

⚠️ 圧痛以外の腹部所見は乏しい。 腹部膨満・減弱・腹水・がある場合は、膵炎・重症肝炎・敗血症・肺炎といった別の腹腔内病変が併存していると考える1。⭐ すなわち「腹痛はあるがは無い」が本症らしさであり、あるならなどを本気で探す。

病態——NADH/NAD⁺比が主犯

flowchart TD
    A["大量飲酒+その後の摂食中断・嘔吐"] --> B["エタノールが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alcohol dehydrogenase (ADH)'>アルコール脱水素酵素</span>で酸化<br>NAD⁺ → NADH"]
    B --> C["肝細胞質・ミトコンドリアの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='NADH/NAD+ ratio'>NADH/NAD⁺比</span>が上昇"]
    C --> D["糖新生の障害<br>(乳酸・グリセロール・アミノ酸から作れない)"]
    D --> E["血糖は正常〜低値"]
    C --> F["ピルビン酸が乳酸へ偏る<br>→ 乳酸の上昇"]
    A --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='starvation'>飢餓</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular volume depletion'>細胞外液量減少</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catecholamine'>カテコラミン</span>放出"]
    G --> H["インスリン低下<br>コルチゾール・アドレナリン・グルカゴン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth hormone (GH)'>成長ホルモン</span>の上昇"]
    H --> I["脂肪組織からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free fatty acids'>遊離脂肪酸</span>の大量放出"]
    I --> J["肝での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-oxidation'>β酸化</span> → アセチルCoA"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketogenesis'>ケトン体産生</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetoacetate'>アセト酢酸</span>)"]
    C --> L["高い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NADH/NAD+ ratio'>NADH/NAD⁺比</span>のもとで<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetoacetate'>アセト酢酸</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-hydroxybutyrate (ketone body)'>βヒドロキシ酪酸</span>へ還元"]
    K --> L
    L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high anion gap metabolic acidosis'>高アニオンギャップ代謝性アシドーシス</span><br>⚠️ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='urine ketones'>尿ケトン</span>は弱陽性にとどまりうる"]

💡 という1つのから、この疾患の所見がほとんど全部出てくる。 ①糖新生が止まるので血糖が上がらない、②ピルビン酸が乳酸へ流れるので乳酸が上がる、③が還元されるのでに偏る。①と③が、それぞれ「血糖で見つからない」「で見つからない」という二重の見落としを生む。

と放出のホルモン変化も重要で、はの報告値よりはるかに高く、コルチゾールとが著明に上昇し、血漿インスリンは比較的低値である1。

乳酸の位置づけは資料によって割れている。 2006年の総説は、敗血症・痙攣・・が併存しなければ飲酒を続けている患者に重度のが起こることはまれだとし1、より新しい教科書的資料も、本症ではの上昇の程度が乳酸の上昇よりはるかに大きいのが通例だとして、⭐ 乳酸が4 mmol/Lを超えるならアシドーシスの別の原因を探すという目安を掲げている2。

⚠️ ただしこの4 mmol/Lという目安を「超えたら本症ではない」と読むと、実測と合わない。 単一施設で2021〜2024年を後方視した記述研究は、他の急性病態を併発していない本症41例のうち33例(80%)が乳酸4 mmol/L以上で、乳酸中央値は10.7 mmol/L(7.7〜14.5)だったと報告している。群と非群で値は同程度であり、⭐ 乳酸が高い群ではむしろとが低かった3。💡 これはという同じの別の出口である——比が高いあいだはピルビン酸が乳酸へ流れ、その同じ比がをへ押しやる。どちらの経路にどれだけ配分されるかで、症例ごとに「乳酸優位」と「ケトン優位」の顔つきが変わりうる。⚠️ 後方視・単一施設・41例の記述研究であり、本症以外の対照群は置かれていないので、「4 mmol/L超でも別の原因を探さなくてよい」という意味ではない。同研究では、群の乳酸は入院後6時間のあいだにおよそ1 mmol/L/時の速度で低下し、入院中の死亡は0例だった3。💡 一点の値だけで決めず、輸液に対する乳酸の下がりかたも併せて見る——下がらない乳酸は、本症では説明しきれない併存病態を探す手がかりになる。⭐ と直接比べた研究でも向きは同じである。 入院例を後方視した単一施設の比較(14例・本症7例)では、乳酸は2.61±0.42 mEq/Lに対し本症で12.01±2.80 mEq/L(p=0.0005)と著明に高かった4。⚠️ ただしこの7例はほぼ全例が昏睡で搬送された集団(平均血糖51 mg/dL)であり、本症一般の代表値ではない。

💡 飲酒をやめると生化学が反転する。 エタノール摂取が止まれば肝のは正常へ戻り、循環中の乳酸は減り、代わりにが増える1。⭐ 改善しているのにが強くなるというはここから生じる(後述)。

検査所見

項目 典型的な値
酸塩基 高代謝性アシドーシス(程度に幅がある)
血糖 ⭐ 正常または低値。は陰性
血中アルコール 低値または検出されない(飲酒の中断から数日経っているため)
5.2〜14.2 mmol/Lの高値をとりうる
乳酸 上昇するが、アシドーシスの程度を説明しきれない
・クレアチニン 正常または中等度上昇
通常は陽性だが、⚠️ 陰性でも本症を否定しない

上の表は2006年の総説によるものである1。

⚠️ ただし「正常または低値」を「高ければ本症ではない」と読まない。 より新しい資料は、初回の血糖は正常域にあることが多いものの軽度の上昇はありうるとし、⭐ 通常は250 mg/dLを超えないという上限の形で述べている(は通常陰性)2。救急医向けの叙述的総説も、本症の血糖は低値・正常・軽度上昇のいずれもありうるとまとめている5。💡 本症で押さえるべきは「低い」ことではなく「高血糖にならない」ことである。 実際 ADA/EASD らの2024年合意報告は、血漿血糖 11.1 mmol/L(200 mg/dL)未満でと代謝性アシドーシスを伴うものをと定義し、その原因の一つにアルコール使用による糖新生障害を挙げている6。

⚠️ ニトロプルシド反応の偽陰性

⭐ これが本症の検査上の核である。 (Acetest・Ketostix)はに最も鋭敏で、には劣り、には全く反応しない1。本症ではの上昇によりケトン体がに偏るため、が著明に高くてもは弱陽性にとどまる1。この点は現行の資料でも変わっておらず、は本症の主要なケトン酸であるを大幅に過小評価すると記されている2。

本総説が引用する値として、同程度の値を示すと比べても、本症の/比は高い(19:1対11:1)と記載されている1。⚠️ ただしこの比を実際に測って比べた研究では、有意差までは出ていない。 上記の入院例の比較では、/比は3.11±0.43に対し本症4.31±0.84で有意差が無く(p=0.1265)、有意に違ったのはそのもの(2716.4±493.2対1073.1±258.3 μmol/L、p=0.0179)だった4。💡 向きは「本症のほうが高い」で一致するが、比の絶対値も差の大きさも資料によって開くので、「19:1」という数字を本症の目印として暗記しない。⭐ 押さえるのは比の値ではなく、に偏るせいでが当てにならなくなるという帰結のほうである。

⚠️ 治療中は逆向きの落とし穴がある。 ADA/EASD らの2024年合意報告は、の経過について、検査は初期にはの生成が遅れるぶん重症度を過小評価し、後期にはがへ変換されるぶん過大評価すると述べている6。💡 同じ機序は本症でも働く——エタノール摂取が止まればは正常へ戻り、がへ戻るからである1。すなわち改善しているのには見かけ上強くなる。⭐ 診断にも治療反応の判定にも、静脈血またはのを直接測るのが正しい6。⚠️ などのをもつ薬剤やバルプロ酸が尿試験に偽陽性を与えることも同報告に挙げられている6。

💡 が無いことも珍しくない。 が高くても重度のは一般的ではなく、・・疼痛・敗血症・重症肝疾患の併存によってのになる。FulopとHobermanの症例集積では7例がむしろであった1。⚠️ pHが正常やアルカリ側でも、は進行しうる。

鑑別

疾患 見分けかた
⭐ 著明な高血糖と陽性。が低下しやすい。本症は血糖正常〜低値で意識清明
・ どちらも高かつ開大の重度アシドーシスを来すが、は来さない。は、は・乏尿・腎不全を伴う1
飲酒歴が無く、アシドーシスは軽度にとどまる
・重症肝炎・敗血症 ・発熱・腹部所見があれば併存を疑う。除外ではなく併存の検索である
との混在、・

⚠️ の開大は本症を否定しない。 とその代謝物が上昇して浸透圧ギャップを開大させうるためである1。「ギャップが開いているから」と短絡しない。

⭐ 開大の程度は「らしい」値まで届く。 あるの24年分ので、・ケトン陽性・14 mmol/L以上の3条件をすべて満たし、かつが検出されなかった55例では、の中央値が27(18〜36)で、82%が10超、69%が20超、44%が30超、20%が40超であった(最大の57 mmol/L、最低のpH 6.8)7。💡 本症は安価かつ容易に治療できるので、これをと読み違えると、不要なやへ患者を送ることになる7。⚠️ この55例はが検出された症例を除外して集めたものなので、「がこの範囲ならを除外してよい」という意味ではない。

治療

⭐ 患者にとっての最大のは、量の著明な減少(ショック)・・低血糖・アシドーシスの4つである1。治療はこの4つに対応させて組み立てる。・ブドウ糖とビタミンの補充・電解質の補正・他病態の評価という枠組みは、救急医向けの叙述的総説も同じである5。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alcoholic ketoacidosis'>アルコール性ケトアシドーシス</span>を疑う"] --> B["まず初診時に血糖を測る"]
    B --> C["⚠️ 静注<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thiamine'>チアミン</span>をブドウ糖と同時、<br>または直前に<br>(重症低血糖があるなら血糖の是正が先)"]
    C --> D["ブドウ糖を加えた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saline'>生理食塩液</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotonic fluid'>等張輸液</span>の蘇生<br>(ブドウ糖が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketogenesis'>ケトン産生</span>を止める本体)"]
    D --> E["⚠️ 重症<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypokalemia'>低カリウム血症</span>があれば<br>是正までブドウ糖含有輸液を保留"]
    E --> F["カリウムを補充<br>(初診時低値、または輸液で急落する)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnesium'>マグネシウム</span>・リンを測定し必要に応じ補充"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alcohol withdrawal'>アルコール離脱</span>への備え<br>(静注ベンゾジアゼピン)と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiemetics'>制吐薬</span>"]
    H --> I["併存病態の検索<br>膵炎・肝炎・敗血症・出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head injury (head trauma)'>頭部外傷</span>"]
    I --> J["改善後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alcohol dependence'>アルコール依存</span>の支援へつなぐ"]

⚠️ チアミンをブドウ糖より先に、または同時に

⚠️ ブドウ糖を投与する患者にはを同時、またはブドウ糖投与の直前に投与する。下での糖負荷はの誘因になる8。

💡 本症では「ブドウ糖が治療の本体」であるぶん、この順序が特に危ない。 慢性大量飲酒者はが枯渇していることが多く、そこへ本症の治療としてブドウ糖を大量に入れれば、が動き出した瞬間に残りのが使い尽くされる。⚠️ の典型的三徴(意識変容・・)が初診時にそろうのは約16%にすぎない8ので、「三徴が無いから大丈夫」とは言えない。慢性の大量飲酒者が救急外来を受診したら全例に静注B群ビタミンを投与すべきだと、英国王立内科医会の推奨として述べられている1。現行の資料は本症について、慢性大量飲酒者に静注500 mgを投与するとしている2。

⚠️ ただし「が先」の根拠は強くない。 米国救急医学アカデミー(AAEM)の文献レビュー指針に沿ってこの教えの根拠を評価したレビューは、19編を同定したものの症例報告・症例集積13編、4編、2編で、⭐ 症例報告・症例集積の水準を超える証拠が1編も無く、糖負荷が急性にを発症させうるかを検討した臨床研究は存在しないとしている9。💡 「支持する証拠が無い」のではなく「否定も肯定もできる質の研究が無い」という意味である。同レビューは、を併用しない長期のブドウ糖投与がの危険因子となりうることは症例報告の集積が示唆するとしつつ、⚠️ 低血糖患者へのブドウ糖投与を遅らせることは現時点では推奨できず、正常血糖への復帰の後または同時に速やかにを補充することを推奨する9。

⚠️ したがって「が先」を低血糖の患者にまで機械的に当てはめない。 本症の資料も、重症低血糖があるときは先に血糖を是正し、その後に通常量の静注500 mgを投与すると明記している2。💡 順序の目的はの誘発を避けることであって、低血糖の治療を遅らせることではない。 低血糖そのものが分単位で不可逆な脳障害を作るので、両者が競合する場面では血糖が優先される。⭐ 競合していない大多数の場面では、をブドウ糖と同時、または直前に投与する8。

ブドウ糖と生理食塩液

⭐ ブドウ糖はそのものを止める。 Millerの研究では、5%ブドウ糖は単独よりも速やかにアシドーシスを補正し、/比を正常化した。⚠️ 単独で治療した患者では乳酸は下がったがは上昇し、12〜24時間後のがむしろ有意に悪化した(塩素負荷によるの関与も考えられる)1。

ただしを使わないわけではない。Halperinらは急速な等張の輸液に必要に応じてカリウムを追加し、低血糖予防のブドウ糖を推奨した1。

⭐ 現行の記述は「先にブドウ糖、次に」という順番ではなく、両者を1本にした輸液である。 治療はによる蘇生から始め、輸液の通常の選択はブドウ糖を加えたとされる2。💡 ブドウ糖の役割が明示されている——の悪循環を断ち、内因性インスリンの分泌を高め、グリコーゲンを蓄えてを下げる2。すなわち⭐ ブドウ糖は「低血糖予防の添え物」ではなく、を止める治療の本体である。必要に応じてカリウムを補う1。

⚠️ インスリンと重炭酸は使わない

Halperinらはインスリンもも推奨しなかった1。

💡 理屈で覚える。 本症のはではなくと高が原因なので、ブドウ糖を入れれば内因性インスリンが出て産生は止まる。血糖が正常〜低値の患者にインスリンを打てば低血糖を作るだけである。も、原因のが止まればアシドーシスは速やかに解消するため、通常は不要になる。

電解質

カリウムは初診時に低値のことも、輸液開始後に急落することもある。とリンも治療中に監視し、必要なら補充する。⚠️ ブドウ糖治療では著明なリンの低下がみられるため、補充を支持する証拠は乏しいものの、0.33 mmol/L未満の重度では補充を考慮する1。

⚠️ 重症のがあるときは、カリウムが正常化するまでブドウ糖含有輸液を保留してよい2。💡 理由は治療の本体そのものにある。 ブドウ糖は内因性インスリンを出させることで効くが、そのインスリンがカリウムを細胞内へ移動させるので、既に枯渇している患者ではを招きうる水準までを下げる。⭐ 「ブドウ糖が治療の本体」と「重症ではブドウ糖を待つ」は同じ機序の表と裏である。

アルコール離脱と対症療法

切迫するによる痙攣のリスクに応じて静注ベンゾジアゼピンを投与し、悪心には・などのを用いる2。💡 この2つは「ついでの対症療法」ではない。 本症を作ったのは嘔吐による摂食の中断であり、離脱はその上に重なってさらに経口摂取を妨げる——どちらも病歴の核をなす要素をそのまま治療している。

転帰

治療すれば速やかにかつ完全に消退し、を残さない。本総説が引用する値として、アシドーシス消失までの平均時間は本症で5〜7時間、で14〜18時間と記載されている1。

⚠️ 一方で、無治療なら良性・自然軽快とは限らない。 慢性者の突然死のうち原因不明例では著明な高値がみられ、Kadisらの30例の検討では他の死因が判明した例の10倍であったと本総説は引用している1。⭐ 「の患者が急性疾患で受診したら鑑別に入れる」——それがこの疾患を学ぶ最大の理由である。回復後は依存症支援サービスへつなぐことが推奨されている1。

まとめ

  • 大量飲酒→嘔吐→摂食中断という経過が病歴の核。腹痛と嘔吐がで、は無い。
  • ⚠️ アシドーシスが高度でも意識は清明。意識変容があれば低血糖・感染・など別の原因を探す。
  • エタノール代謝によるの上昇が、糖新生の停止・乳酸への偏り・への偏りをまとめて説明する。血糖は正常〜低値が典型だが軽度上昇もありうる(通常250 mg/dLを超えない)。押さえるのは「低い」ことではなく「高血糖にならない」こと。
  • 乳酸の扱いは資料で割れている。教科書的資料は「の上昇のほうがはるかに大きく、乳酸4 mmol/L超なら別の原因を探す」とするが、⚠️ 他の急性病態を併発していない本症41例の後方視研究では80%が乳酸4 mmol/L以上(中央値10.7)だった。との直接比較でも本症の乳酸のほうが著明に高い。4 mmol/L超を本症の否定に使わない。
  • ⚠️ はに反応しないため、は通常陽性でも弱陽性にとどまりうる。陰性でも本症を否定しない。 治療中は逆に見かけ上強くなる。診断も経過観察も血中の直接測定で行う。
  • ⚠️ はとその代謝物で開大しうるので、開大していても・と決めつけない(逆に、両中毒はを来さない)。本症55例の検討では中央値27・20%が40超と、らしい値まで届いていた。
  • 治療は⭐ をブドウ糖と同時か直前に→ブドウ糖を加えた→カリウム補充。単独ではがむしろ上昇し12〜24時間後のが悪化した。⚠️ 重症低血糖があるなら血糖の是正が先、重症があるならブドウ糖含有輸液を保留する。なお「が先」の根拠は症例報告水準にとどまり、低血糖へのブドウ糖投与を遅らせる理由にはならない。
  • ⚠️ インスリンとは原則使わない。はでなくと高が原因である。
  • 治療すれば5〜7時間で消退するが、無治療の代謝異常は慢性者の突然死と関連しうる。

出典

  1. 1.Alcoholic ketoacidosis(Emergency Medicine Journal・2006)典型例が、慢性の大量飲酒者が特に多量に飲んだあと、数日前に悪心・激しい嘔吐・腹痛で摂取を中断した経過を持つこと。臨床徴候が頻呼吸・頻脈・低血圧で、Cooperman(1974年、7例)の症例集積では全例がびまん性の心窩部圧痛を示したこと。糖尿病性ケトアシドーシスと対照的に、アシドーシスとケトン血症が高度でも患者は通常清明であり、意識変容があれば他の原因によること。検査所見は血中アルコールが検出されないか低値、血糖が正常または低値、尿糖陰性、程度の幅がある高アニオンギャップ代謝性アシドーシスで、これは乳酸とβヒドロキシ酪酸・アセト酢酸の血漿中蓄積によること。ニトロプルシド反応(Acetest・Ketostix)はアセト酢酸に最も鋭敏でアセトンには劣り、βヒドロキシ酪酸には全く反応しないため、βヒドロキシ酪酸が著明に高くてもこの方法ではケトン血症が検出されないことがあること。血漿遊離脂肪酸が糖尿病性ケトアシドーシスの報告値よりはるかに高く、コルチゾールと成長ホルモンが著明に上昇し血漿インスリンが比較的低値であること。FulopとHoberman(24例)およびWrenn(74例)の研究で、βヒドロキシ酪酸が5.2〜14.2 mmol/Lと高値でも重度のアシデミアは一般的でなく、細胞外液量減少・アルコール離脱・疼痛・敗血症・重症肝疾患の併存により混合性酸塩基平衡障害となり、Fulopらの症例集積では7例がアルカレミアであったこと。Wrennの研究で悪心・嘔吐・腹痛が最も多い訴えで、圧痛以外の腹部所見は乏しく、意識変容は15%にみられたがほぼ全例が低血糖・高度のアルコール中毒・感染で説明されたこと。アセトンとその代謝物がアルコール性ケトアシドーシスで上昇し浸透圧ギャップを開大させること。エタノール代謝がNADH/NAD比を上げて肝の糖新生を障害し、高いNADH/NAD比のもとでアセト酢酸が優先的にβヒドロキシ酪酸へ還元されること。高いNADH/NAD比がピルビン酸代謝を乳酸へ向けて乳酸アシドーシスを生じるが、敗血症・痙攣・チアミン欠乏・肝機能障害の併存が無ければ重度の乳酸アシドーシスはまれであること。エタノール摂取が止まると肝のNADH/NAD比が正常へ戻り、循環乳酸が減ってアセト酢酸が増えること。鑑別としてメタノール・エチレングリコール中毒が重要で、いずれも高アニオンギャップと浸透圧ギャップの開大を伴う重度の代謝性アシドーシスを来すがケトーシスは来さないこと。患者にとっての最大の脅威が細胞外液量の著明な減少(ショック)・低カリウム血症・低血糖・アシドーシスであること。治療は5%ブドウ糖による輸液(生理食塩液は逆説的にアシドーシスを悪化させうる)、静注チアミン、カリウム補充、必要に応じたマグネシウム・リン酸の補充からなること。Halperinらは急速な等張生理食塩液輸液に必要に応じてカリウムを追加し、低血糖予防のブドウ糖を推奨したがインスリンと重炭酸は推奨しなかったこと。Millerは5%ブドウ糖が生理食塩液単独よりも速やかにアシドーシスを補正しβヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比を正常化することを示し、生理食塩液単独では乳酸は下がるがβヒドロキシ酪酸は上昇し12〜24時間後のアシデミアが有意に悪化したこと。ブドウ糖治療で著明なリン低下がみられ、0.33 mmol/L未満の重度低リン血症では補充を考慮すべきこと。慢性の大量飲酒者が救急外来を受診したら全例に静注B群ビタミンを投与すべきとされること。⚠️ 本総説が他文献から引用している値として、アルコール性ケトアシドーシスのβヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比が同程度のβヒドロキシ酪酸値を示す糖尿病性ケトアシドーシスより高いこと(19:1対11:1)、アシドーシス消失までの平均時間がアルコール性ケトアシドーシスで5〜7時間・糖尿病性ケトアシドーシスで14〜18時間であること、慢性アルコール依存者の突然死のうち原因不明例で著明なβヒドロキシ酪酸高値がみられること(Kadisらの30例では他の死因が判明した例の10倍)が記載されていること閲覧 2026-09-02
  2. 2.Alcoholic Ketoacidosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)初回の血糖は正常域にあることが多く、通常は軽度上昇にとどまって250 mg/dLを超えないこと。尿糖は通常陰性であること。血清βヒドロキシ酪酸の上昇の程度が乳酸の上昇よりはるかに大きく、乳酸が4 mmol/Lを超えるならアシドーシスの別の原因を検索すべきこと。血液ガスのpHは低値または正常で、嘔吐による代謝性アルカローシスや代償の呼吸性アルカローシスを伴う混合性障害もありうること。治療は等張輸液の蘇生から始め、⭐ 輸液は通常ブドウ糖を加えた生理食塩液を選ぶこと。ブドウ糖はケトン産生の悪循環を断ち内因性インスリン分泌を高め、グリコーゲンを蓄えて対抗調節ホルモンを下げるために必要であること。慢性大量飲酒者には静注チアミン500 mgを投与すること。⚠️ 重症低血糖があるときは先に血糖を是正し、その後に通常量である静注チアミン500 mgを投与すること。⚠️ 重症低カリウム血症があるときは、カリウムが正常化するまでブドウ糖含有輸液を保留してよいこと。低マグネシウム血症・低リン血症も測定して低ければ補充すること。切迫するアルコール離脱の痙攣リスクに応じて静注ベンゾジアゼピンを、悪心にはオンダンセトロン・メトクロプラミドなどの制吐薬を用いうること。ニトロプルシド反応はアセト酢酸を検出する検査であり、本症の主要なケトン酸であるβヒドロキシ酪酸を大幅に過小評価するため、有意なケトーシスがあっても弱陽性にとどまりうること。⚠️ NCBI Bookshelf 上のこのページには「This publication is provided for historical reference only and the information may be out of date.」の警告が付く(2026-09-05 に live ページを取得して確認。Last Update は September 15, 2025)。同じ StatPearls でも Wernicke Encephalopathy(NBK470344、Last Update 2026-01-10)と Acute Myocarditis(NBK441847、同 2025-04-25)にはこの警告文字列が0回であり、StatPearls 全体の Bookshelf 撤退ではなく章単位の措置である。statpearls.com 側の現況は Cloudflare により403で取得できず未確認のため、id・url は据え置いた閲覧 2026-09-05
  3. 3.Clinical features of alcoholic ketoacidosis with and without lactic acidosis: A retrospective descriptive study(The American Journal of Emergency Medicine・2025)単一の三次施設で2021年1月から2024年1月までを後方視した記述研究で、20歳以上・高アニオンギャップ代謝性アシドーシス・血清または尿のケトン上昇・アルコール使用障害を満たし、他の急性病態を併発していない(isolated)アルコール性ケトアシドーシス41例を、乳酸4 mmol/L以上の乳酸アシドーシス群とそれ以外に分けて比較したこと。⚠️ 41例のうち33例(80%)が乳酸アシドーシスを伴っており、両群でチアミン値は同程度であったこと。乳酸アシドーシス群では総ケトン体とβヒドロキシ酪酸がむしろ低値であったこと。乳酸アシドーシス群の乳酸中央値は10.7 mmol/L(四分位範囲7.7〜14.5)で、入院後6時間はおよそ1 mmol/L/時の速度で低下したこと。入院中の死亡は0例であったこと。著者らは結論として、単独のアルコール性ケトアシドーシスは高乳酸血症を合併しやすく、ケトン体が低い症例ほど乳酸が高い傾向があったと述べ、この所見の確認にはさらなる研究が必要としていること。⚠️ 出版社サイトが取得できず、以上はいずれも抄録に記載された数値である閲覧 2026-09-05
  4. 4.Pathology of Ketoacidosis in Emergency of Diabetic Ketoacidosis and Alcoholic Ketoacidosis: A Retrospective Study(Journal of Diabetes Research・2024)全文(Europe PMC の PMC10789514)を取得して確認した。単一施設(川崎医科大学総合医療センター)で2015年4月から2021年3月までに救急搬送・入院したケトアシドーシス49例から、高浸透圧高血糖状態およびその合併例23例・悪性腫瘍またはステロイド使用例2例・糖尿病を合併したアルコール性ケトアシドーシス2例・大量飲酒者の糖尿病性ケトアシドーシス1例を除外し、糖尿病性ケトアシドーシス14例とアルコール性ケトアシドーシス7例を比較した後方視研究である。⚠️ 原文が「Almost all patients in this study were brought to the emergency room with coma and hospitalized.」と述べており、昏睡例に強く偏った集団である。乳酸は糖尿病性ケトアシドーシス 2.61±0.42 mEq/L に対しアルコール性ケトアシドーシス 12.01±2.80 mEq/L(p=0.0005)と著明に高かった。βヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比は 3.11±0.43 対 4.31±0.84 で有意差なし(p=0.1265)、アセト酢酸は 2716.4±493.2 対 1073.1±258.3 μmol/L と糖尿病性ケトアシドーシス側が有意に高く(p=0.0179)、総ケトン体(p=0.1144)とβヒドロキシ酪酸(p=0.1605)には有意差が無かった。pH は 7.00±0.04 対 7.20±0.03(p=0.0133)、血漿血糖は 896.9±96.7 対 51.0±20.3 mg/dL(p<0.0005)、BMI は 23.1±1.1 対 18.0±0.7 kg/m2(p=0.0106)であった。原文は考察の前提として「individuals with AKA do not usually have an actual loss of consciousness despite the severity of acidosis and marked ketonemia」とし、意識障害が生じるときは低血糖や重症感染など他の要因によると述べている閲覧 2026-09-05
  5. 5.Alcoholic Ketoacidosis: Etiologies, Evaluation, and Management(The Journal of Emergency Medicine・2021)救急医向けの叙述的総説(J Emerg Med 61巻6号658-665頁、Long・Lentz・Gottlieb)。⚠️ 全文は取得できなかった——Elsevierのページは本文を返さず、Unpaywallも oa_status closed・リポジトリ版なしであった。したがって確認できたのは抄録本文だけである。抄録が述べているのは、病態がグリコーゲン貯蔵の乏しさとNADHの上昇に由来しβヒドロキシ酪酸高値を伴う代謝性アシドーシスを生じること、受診時の特徴が飲酒歴(急性または慢性)・経口摂取不良・消化器症状・検査上のケトアシドーシスであること、患者は概して脱水しており「serum glucose can be low, normal, or mildly elevated」であること、検査では高アニオンギャップ代謝性アシドーシスとケトーシスに電解質異常を伴うのが通常であること、管理が「fluid resuscitation, glucose and vitamin supplementation, electrolyte repletion, and evaluation for other conditions」からなることである。⚠️ 血糖250 mg/dLという上限値・静注チアミン500 mgという用量・重症低カリウム血症でのブドウ糖含有輸液の保留は抄録に無く、本総説では裏づけを確認できていない閲覧 2026-09-05
  6. 6.Hyperglycaemic crises in adults with diabetes: a consensus report(ADA / EASD / JBDS / AACE / DTS・2024)尿ケトン(ニトロプルシド反応)はアセト酢酸を検出しβヒドロキシ酪酸を検出しないため、糖尿病性ケトアシドーシスの経過の初期は重症度を過小評価し、回復期にはβヒドロキシ酪酸がアセト酢酸へ酸化される過程で過大評価しうること(⚠️ 原文はいずれも糖尿病性ケトアシドーシスの経過について述べており、アルコール性ケトアシドーシスを名指ししてはいない)。診断と治療反応のモニタリングには静脈血または毛細血管血のβヒドロキシ酪酸直接測定を推奨すること。糖尿病性ケトアシドーシスの約10%が正常血糖で発症し、正常血糖ケトアシドーシスを血漿血糖11.1 mmol/L(200 mg/dL)未満でケトーシスと代謝性アシドーシスを伴うものと定義していること。その原因に外因性インスリン投与、摂取不足、妊娠、およびアルコール使用・肝不全・SGLT2阻害薬による糖新生障害が含まれること閲覧 2026-09-02
  7. 7.Elevated osmol gaps in patients with alcoholic ketoacidosis(Clinical Toxicology・2024)単一の中毒情報センターの24年分を後方視した研究で、①アルコール使用障害の記載、②尿・血清ケトンまたは血中βヒドロキシ酪酸高値、③アニオンギャップ14 mmol/L以上、の3条件をすべて満たす症例をアルコール性ケトアシドーシスと定義したこと(毒性アルコールが検出された例、血液透析またはホメピゾールの複数回投与を受けた例、浸透圧ギャップの記載が無い例、代謝性アシドーシスを来す他の診断がある例は除外)。1,493例を選別して55例が該当し、64%が男性・年齢中央値52歳であったこと。⚠️ この55例の浸透圧ギャップの中央値が27(四分位範囲18〜36)で、45例(82%)が10超、38例(69%)が20超、24例(44%)が30超、11例(20%)が40超であったこと。最大のアニオンギャップは57 mmol/L、最低のpHは6.8であったこと。アルコール性ケトアシドーシスの浸透圧ギャップは毒性アルコール中毒に結び付けられる値にしばしば達し、そのために毒性アルコール中毒と誤診されうると述べていること。⚠️ 出版社サイトが取得できず、以上はいずれも抄録に記載された数値である閲覧 2026-09-05
  8. 8.Wernicke Encephalopathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)ブドウ糖を投与する患者にはチアミンを同時またはブドウ糖投与の直前に投与すべきであること。チアミン欠乏下での糖負荷がWernicke脳症の誘因になること。典型的三徴が意識変容・失調性歩行・眼筋麻痺であり、初診時に三徴がそろうのは約16%にとどまること閲覧 2026-09-02
  9. 9.Glucose before Thiamine for Wernicke Encephalopathy: A Literature Review(The Journal of Emergency Medicine・2012)チアミン欠乏が疑われる患者ではブドウ糖より先にチアミンを投与すべきという教科書的な教えについて、MEDLINE等の検索から19編を同定し米国救急医学アカデミー(AAEM)の文献レビュー指針に沿って質を評価したレビューであること。⚠️ 19編の内訳は症例報告・症例集積13編、動物実験4編、専門家意見2編で、症例報告・症例集積の水準を超える証拠は1編も無く、糖負荷が急性にWernicke脳症を発症させうるかを検討した真の臨床研究は存在しないこと。チアミンを併用しない長期のブドウ糖投与がWernicke脳症の危険因子となりうることは症例報告の集積が示唆する一方、⚠️ 低血糖患者へのブドウ糖投与を遅らせることは現時点では推奨できず、正常血糖への復帰の後または同時に速やかにチアミンを補充することが推奨されると結論していること。⚠️ 出版社サイトが取得できず、以上はいずれも抄録に記載された内容である閲覧 2026-09-05