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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

正常血糖ケトアシドーシス

Euglycemic diabetic ketoacidosis

別名
正常血糖DKAeuDKAEDKA
臓器系
内分泌・代謝
科目
Translational Medicine and PathophysiologyPharmacology
トピック
病態生理学 2-16:代謝性酸塩基平衡障害:代謝性アシドーシスとアルカローシス薬理学 B19:経口糖尿病薬
上位概念
糖尿病性ケトアシドーシス・高血糖高浸透圧症候群
鑑別疾患
アルコール性ケトアシドーシス飢餓性ケトーシス
治療薬
レギュラーインスリン
原因薬剤
エンパグリフロジンカナグリフロジンダパグリフロジン
症状
悪心嘔吐倦怠感頻呼吸腹痛
検査値
βヒドロキシ酪酸アニオンギャップ代謝性アシドーシス血糖重炭酸

🧠 全体像:を理解する一点は⭐ 「血糖が正常だから見逃される、そのこと自体が病態の一部である」ということである。通常のは高血糖が警報になるが、この病態では血糖250 mg/dL未満のまま重度の代謝性アシドーシスとが進む1。⚠️ 最大の原因は阻害薬である。 で血糖を正常域に保ちながら、同時にグルカゴン分泌を刺激しケトン体の腎処理を抑える——血糖を下げる仕組みそのものがを進めるという二重の機序を持つ1。⭐ 治療の急所は「血糖が正常でもブドウ糖と(原則として)インスリンの両方を入れる」ことである。

定義

は、血漿血糖11.1 mmol/L(200 mg/dL)未満(StatPearlsでは250 mg/dL未満とやや幅を持たせて定義)で、の(と代謝性アシドーシス)を満たすものと定義される2。StatPearlsはさらに具体的な閾値として 7.3未満・18 mEq/L未満を挙げている1。⭐ 症例全体の約10%を占める2。

なぜ血糖が上がらないのにケトアシドーシスが進むのか

flowchart TD
    A["糖質欠乏<br>(絶食・妊娠・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-carbohydrate diet'>低炭水化物食</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium-glucose cotransporter 2'>SGLT2</span>阻害薬)"] --> B["インスリンの全般的な低下"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counterregulatory hormones'>拮抗調節ホルモン</span><br>(グルカゴン・エピネフリン・コルチゾール)の上昇"]
    B --> D["グルカゴン/インスリン比の上昇"]
    C --> D
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipolysis'>脂肪分解</span>の亢進 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='free fatty acids'>遊離脂肪酸</span>増加"]
    E --> F["肝での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketogenesis'>ケトン産生</span>亢進"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketoacidosis'>ケトアシドーシス</span>"]
    H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium-glucose cotransporter 2'>SGLT2</span>阻害薬"] --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary glucose excretion'>尿糖排泄</span>で血糖を正常域に保つ"]
    H --> J["膵からのグルカゴン分泌を直接刺激"]
    H --> K["腎でのケトン体除去を抑制"]
    I --> L["高血糖という警報が立たない"]
    J --> F
    K --> F
    L --> G

⭐ 本質は「糖質欠乏によるインスリンの相対的低下+の上昇」で、これはと同じ土台の上にある。 違うのは、この土台の上に高血糖という警報が立たない誘因が乗ることである1。

⚠️ 阻害薬は二重に効く。 腎でのブドウ糖再吸収を阻害してを増やし血糖を正常域に保つと同時に、膵からのグルカゴン分泌を直接刺激し、ケトン体の腎での除去を抑制する1。血糖を下げるそのものが、を進める側に回る。

誘因

⭐ 近年は阻害薬の使用がの大半を占めるに至った2。ある症例集積では、阻害薬治療中にを呈した患者の71%で血糖値が13.9 mmol/L(250 mg/dL)以下だった2。

誘因 機序・備考
阻害薬 上記の二重機序。1型糖尿病では推奨されないが実際に使用されている例で問題になる
妊娠・摂取不足 相対的インスリン抵抗性との上昇(と共通の機序)
注射・アルコール使用・肝不全 糖新生障害を介してインスリンの相対的不足を作る2
極端な・長時間の絶食・脱水・過度の飲酒 阻害薬使用者ではとくに危険因子になる2
周術期絶食・手術・膵炎・インスリンポンプ使用 いずれも糖質供給の途絶とストレスホルモン上昇が重なる1

⚠️ 後は特にリスクが高い。 1型糖尿病患者がを受けた場合、術後20%超でを来す1。阻害薬関連ののは2型糖尿病患者で1000あたり0.16〜0.76件、リスクは最大7倍に増すとの報告がある1。

見逃されやすい理由

⚠️ インスリン使用患者自身が症状をと認識しない。 血糖が高くないため「調子が悪いだけ」と考え、インスリン量を維持または減量してしまい、がさらに進行する1。医療者側も「高血糖がないからではない」という消去法に陥りやすく、これが最大の落とし穴になる。

診断——血糖でなくケトンとアニオンギャップで疑う

⭐ 血糖ではなく、静脈血またはのを直接測定する2。の診断閾値は3.0 mmol/L以上である2(StatPearlsでは典型的に3 mmol/L超と表現1)。

検査項目は電解質・血糖・ケトン・・血液ガス・腎機能におよぶ1。⚠️ が開いていて血糖が正常であることは、を積極的に疑う所見であって、除外根拠にはならない。

治療

⭐ 血糖が正常でも、輸液にブドウ糖を早期から加える。 血糖が250 mg/dL未満であるため低血糖を避け、の消退を早める目的で5〜10%ブドウ糖液をと同時にまたは早期に加える21。

  1. を最初の1〜2時間に1〜1.5 L/時で開始する1。
  2. 持続インスリン注入を輸液に続けて開始する。が3.3 mEq/L超であることを確認したうえで、0.05〜0.1 U/kg/時で始める1。
  3. 阻害薬は診断が判明次第中止し、急性期からの回復まで保留する21。

⚠️ との治療の分かれ目はここにある。 ではブドウ糖投与だけで内因性インスリンが働き治療が完結しうるが、はDKAそのものなので、ブドウ糖を入れつつも原則としてインスリンを併用する——血糖が正常だからといってインスリンを省略しない。

⚠️ 阻害薬の再開には慎重を要する。 1型糖尿病患者への阻害薬使用はそもそも推奨されず、2型糖尿病患者でも消退後の安全性データが乏しいためな再開・新規開始は推奨されない2。

鑑別

疾患 見分け方
の関与がなく、通常はより軽度のアシドーシスにとどまる。治療はブドウ糖のみで完結しうる
通常の ⭐ 高血糖が前面に立つ。 は同じ病態の血糖非上昇型という位置づけ
大量飲酒後の摂食中断という病歴。阻害薬歴の有無で切り分ける

まとめ

  • ⭐ は血糖200〜250 mg/dL未満でのを満たす病態で、全体の約10%を占める。
  • ⚠️ 最大の原因は阻害薬。 で血糖を正常に保ちながら、グルカゴン分泌刺激とケトン体の腎処理抑制で二重にを進める。
  • 誘因は糖質欠乏を作るものすべて——妊娠、、周術期絶食、アルコール、肝不全、そして阻害薬。後の1型糖尿病患者は術後20%超でを来す。
  • ⚠️ 見逃されやすい理由は「血糖が高くない」ことそのもの。 インスリン使用患者は症状をと認識せずインスリンを減らしてしまう。
  • ⭐ 診断は血糖でなくとで疑う。 診断閾値は3.0 mmol/L以上。
  • ⭐ 治療は血糖が正常でもブドウ糖とインスリンの両方を入れる。 輸液に早期からブドウ糖を加え、カリウム3.3 mEq/L超を確認してインスリンを開始する。阻害薬は診断確定時に中止し、再開は慎重に判断する。

出典

  1. 1.Euglycemic Diabetic Ketoacidosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)NCBI Bookshelfで全文を確認した(2023年1月29日最終改訂、Plewa MC・Bryant M・King-Thiele R)。正常血糖ケトアシドーシスが血糖250 mg/dL未満の正常血糖と、重度の代謝性アシドーシス(動脈血pH 7.3未満、血清重炭酸18 mEq/L未満)とケトン血症の組み合わせで特徴づけられること、機序が糖質欠乏によるインスリンの全般的な低下と拮抗調節ホルモン(グルカゴン・エピネフリン・コルチゾール)の過剰でグルカゴン/インスリン比の上昇が脂肪分解・遊離脂肪酸増加・ケトアシドーシスを招くこと、SGLT2阻害薬が腎でのブドウ糖再吸収を阻害して尿糖排泄により血糖を正常域に保つと同時に膵からのグルカゴン分泌を直接刺激しケトン体の腎removalを抑制することで血糖正常のままケトーシスが進む二重の機序を持つこと、危険因子が絶食・妊娠・手術・ケトン食・アルコール使用障害・膵炎・インスリンポンプ使用・SGLT2阻害薬であること、1型糖尿病患者が減量手術を受けた場合に術後20%超でDKAを来すこと、SGLT2阻害薬関連の正常血糖DKAの発生率が2型糖尿病患者で1000患者年あたり0.16〜0.76件でありDKAリスクが最大7倍に増すとの報告があること、インスリン使用患者は血糖が高くないためDKAの症状と認識せずインスリン量を維持または減量してしまい診断が遅れケトアシドーシスが進行しうること、診断が血清pH・血中または尿中ケトン検査に加え電解質・血糖・ケトン・血液ガス・腎機能で行われ血清βヒドロキシ酪酸が典型的に3 mmol/L超となること、治療がまず等張輸液を最初の1〜2時間に1〜1.5 L/時で行い血糖が250 mg/dL未満であるため低血糖を避けケトーシスの消退を早めるため輸液に5%ブドウ糖液を早期から加えるべきこと、持続インスリン注入が輸液に続き血清カリウム3.3 mEq/L超であることを条件に0.05〜0.1 U/kg/時で開始すること、SGLT2阻害薬は診断が判明次第中止し急性期からの回復まで保留すべきことを確認した閲覧 2026-09-06
  2. 2.Hyperglycaemic crises in adults with diabetes: a consensus report(ADA / EASD / JBDS / AACE / DTS・2024)PMC11343900として公開されている全文を確認した。正常血糖ケトアシドーシスを血漿血糖11.1 mmol/L(200 mg/dL)未満でDKAの診断基準(ケトーシス・代謝性アシドーシス)を満たすものと定義し、DKA症例の約10%を占めること、近年はSGLT2阻害薬の使用が正常血糖DKAの大半を占めるに至ったこと、ある症例集積ではSGLT2阻害薬治療中にDKAを呈した患者の71%で血糖値が13.9 mmol/L(250 mg/dL)以下であったこと、他の原因として外因性インスリン注射・摂取不足・妊娠・アルコール使用や肝不全やSGLT2阻害薬による糖新生障害があること、2型糖尿病でSGLT2阻害薬を使用する患者ではさらに極端な低炭水化物食・長時間の絶食・脱水・過度の飲酒・自己免疫の存在が危険因子となること、診断は血糖ではなく静脈血または毛細血管血のβヒドロキシ酪酸直接測定によるべきでDKAの診断閾値がβヒドロキシ酪酸3.0 mmol/L以上であること、正常血糖DKAでは輸液に5〜10%ブドウ糖液を生理食塩液と同時にまたは早期に加えるべきこと、SGLT2阻害薬は入院時に中止すべきであり1型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬使用は推奨されず2型糖尿病患者でもDKA消退後の安全性データが乏しいため日常的な再開・新規開始は推奨されないことを確認した閲覧 2026-09-06